前記事に続き、第10回日本セルフメディケーション学会のシンポジウム『諸外国から学ぶセルフメディケーション支援』の様子を紹介したいと思います。
『オーストラリアから学ぶセルフメディケーションに係る薬剤師の役割』
坂巻 弘之氏(名城大学薬学部 教授)
坂巻氏は、主な研究分野は医療経済などなのですが、「厚労省の研究で豪州の制度にセルフメディケーションに興味を持った」とお話をされ、TOPICS 2012.03.22 で紹介した厚生労働科学研究 「諸外国におけるセルフメディケーション・OTC販売に関与する専門家の役割及びトレーニングの状況調査に関する研究」で執筆されていることを思い出しました。
確認したところ、やはり今回の講演もこれに沿ったものでした。(下記検索画面で、セルフメディケーションまたは201034082Aというキーワードを入れ、検索をかけて下さい)
厚生労働科学研究成果データベース検索トップ
http://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIST00.do
上記も参考にしながら、関連サイトへのリンクともあわせて、講演の内容をメモとしてまとめてみました。
- 豪州ではMedicare(公的保険制度)と質の高い医療保険制度を求める人に対しては民間保険制度という選択肢もある
- Medicareでは、かかりつけ医による診療は全額給付、かかりつけ医より紹介を受けた専門医による診療は15%が自己負担。また病院外来での診療については診療費の25%が自己負担。また、公立病院の入院治療については全額給付
- 医薬品についてはPBS(Pharmaceutical Bnefits Scheme)という制度がある(上記によれば、薬剤の自己負担額は、処方薬ごとに31.3豪ドル(約2,510円。けっこうするんだ)で、価格がこれより低い場合は全額負担)
- 薬局開設は、人頭割によって行われ、許可はPharmacy Board と NHS によって許可が行われる(つまり開局制限あり)
- テクニシャンはトレーニングスクールにおいて教育を受けたのち、PSA(豪州薬剤師会)とGuild(薬局経営者協会)の認定が必要
- 国の医薬品政策は、医薬品の品質・安全性・有効性とともにアクセスのあり方についての基準をまとめた National Medicines Policy(医薬品方針)のもとで決定されている。(医薬品を使わないことも選択肢としてあるらしい)
- 医薬品はPoisons Standard で Schedules (スケジュール)という形で分類が行われている(Schedules3=要薬剤師薬には、広告制限なども設けられている)
- スケジュールの見直し(日本でいうスイッチ)は、様々な公衆衛生上の必要性を基に、企業からの書類提出によってなされることが一般的で、薬剤師会からスケジュールの見直しを求めることはない(現在あるものをきちんと供給することに専念)
- 薬局におけるOTC医薬品の売り上げは全体の8%であるが、収益は全体のうちの25%程度と多く、薬局経営においてはOTC医薬品は重要となっている。一方で最近は価格競争の問題も出てきている
Pharmaceutical Benefits Scheme (PBS)
http://www.pbs.gov.au/pbs/home
National Medicines Policy(豪州保健省)
http://www.health.gov.au/internet/main/
publishing.nsf/Content/National+Medicines+Policy-2
Medicines and TGA classifications(豪州TGA)
http://www.tga.gov.au/industry/regulation-basics-medicines-classifications.htm
Poisons Standard 2012(TGA)
http://www.comlaw.gov.au/Details/F2012L01200
Australia’s unique medication scheduling system
(The Pharmacy Guild of Australia 2009.3)
http://www.guild.org.au/iwov-resources/documents/The_Guild/PDFs/
News%20and%20Events/Publications/Fact%20Sheets/scheduling_system.pdf
Drugs and poisons scheduling
(Aust Prescr 1997;20:12-3、Last modified: 28th of September 2010)
http://www.australianprescriber.com/magazine/20/1/12/3
- 薬局業務はthe 5th Community Pharmacy Agreement の合意の下、The Standard and guidelines for pharmacists performing clinical interventions という業務ガイドラインに沿って行われている
Community Pharmacy Agreement
(豪州薬局経営者協会 The Pharmacy Guild of Australia)
http://www.guild.org.au/The_Guild/tab-TheGuild/
Community_Pharmacy_Agreements/Community+Pharmacy+Agreement.page
Fifth Community Pharmacy Agreement (2010-2015)
(The Pharmacy Guild of Australia)
http://www.guild.org.au/iwov-resources/documents/
The_Guild/PDFs/Other/Fifth%20Community%20Pharmacy%20Agreement.pdf
Pharmacy and Government Arrangements – Fifth Community Pharmacy Agreement
(豪州保健省 2012.07.25 Update)
http://www.health.gov.au/internet/main/
publishing.nsf/Content/fifth-community-pharmacy-agreement
Pharmacists performing clinical interventions
(豪州薬剤師会 PSA)
http://www.psa.org.au/supporting-practice/
professional-practice-standards/clinical-interventions
The Standard and guidelines for pharmacists performing clinical interventions
(PSA 2011.3)
http://www.psa.org.au/download/practice-guidelines/
pharmacists-performing-clinical-interventions-guideline.pdf
- 一方、薬剤師の職能拡大として、OTC医薬品を軽医療に薬剤師が積極的に関わるという軽医療マネジメントが進められているという
- 医師との業務と区別するため、診断とは呼ばず、アセスメント・カウセリングという言葉を用いる
- セルフメディケーションについても、範囲を幅広くとらえ、指導やフォローまでの一連のプロセスも明確化した?
- コミュニーケション能力や意思決定力が求められるので、ケースメソッドなどを導入した教育プログラムの充実が求められる。(フローチャート通りにはならない)
- Community Pharmacy(たぶんこれだと思う→Google Books)や case studies in practice pharmacist only and pharmacy medicines(通称レッドブック)など、症状から臨床的な判断を学ぶものやケーススタディが含まれたものが教材として有用である
The Potential Economic Impact of Expanded Access to Self-medication in Australia
(ASMI 2009.9)
http://www.asmi.com.au/documents/ASMI%20Minor%20Ailments%20Report%20Final.pdf
(OTC医薬品団体がまとめたレポート)
The nature, extent and impact of triage provided by community pharmacies in Victoria
(The Pharmacy Guild of Australia / 豪州保健省)
http://www.guild.org.au/sites/The_Guild/tab-Pharmacy_Services_and_Programs/Research_and_Development/Fourth%20Agreement/IIG-008.page
http://www.guild.org.au/iwov-resources/documents/The_Guild/PDFs/CPA%20and%20Programs/4CPA%20General/IIG-008/IIG008%20Full%20Final%20Report%20Triage%20Project.pdf
(2009年にビクトリアの24薬局で行われた、トリアージのパイロットスタディらしい)
The Roadmap
The Strategic Direction for Community Pharmacy
(The Pharmacy Guild of Australia 2010.5)(以前から気になっていたもの)
http://www.guild.org.au/iwov-resources/documents/The_Guild/PDFs/News%20and%20Events/Publications/The%20Roadmap/Roadmap.pdf
http://www.guild.org.au/The_Guild/tab-Pharmacy_Services_and_Programs/The_Roadmap/The+Roadmap.page?
Guild がまとめたレポートで、今後の地域薬局の方向性について
- Prescribed Medicines Services andPrograms
– linked to the function of the dispensary. - Pharmacy Medicines and Health Products– Services and Programs
- linked to the professional services area of the pharmacy. - In-Pharmacy Health Services and Programs
– utilises a private consultation area within the pharmacy. - Outreach Health Services and Programs
– delivered outside the physical pharmacy location.
という4つの項目が、‘Community Pharmacy Matrix’として患者とかかわるとしている
Minor Ailments Scheme はIn-Pharmacy Health Services and Programs の一つとして今後の目標が掲げられている。
Minor Ailments Scheme
http://www.guild.org.au/iwov-resources/documents/The_Guild/PDFs/News%20and%20Events/Publications/The%20Roadmap/Roadmap%20-%20Minor%20Ailments.pdf
講演を聞いてみて(資料を確認して)の感想
- 坂巻氏も指摘していたのですが、日本でもセルフメディケーションにおける役割や制度をきちんと示すことが必要。
- またこういったことを示すには、実証研究やパイロットスタディにおいて、薬剤師会(個人的にはチェーンドラッグストア協会も)と大学とコラボしてすすめることが重要
- 一方、生活者(消費者)との対面の時間を確保することは重要であり、この時間をどう割くかは真剣に考えなければならない。(薬歴も含めた調剤の簡素化や助手の導入など、在宅活動と併行して業務が可能となる環境づくりも必要)
オーストラリアの薬剤師に学ぶ
OTC医薬品を用いた薬剤師による軽医療マネジメント
(大日本製薬 エクセレントファーマシー)
https://ds-pharma.jp/gakujutsu/contents/epharmacy/study/11.html
オーストラリアの経験から学ぶOTC医薬品販売
(Pharma Tribune 4(2) p12-15,2012)
http://www.medical-tribune.co.jp/pt/pdf/pt_20120403.pdf
2012年10月14日 21:40 投稿