前記事に続き、第10回日本セルフメディケーション学会のシンポジウム『諸外国から学ぶセルフメディケーション支援』の様子と感想をまとめたいと思います。
『米国のOTC医薬品を通して考える医療と薬剤師の役割』
陳 惠一(CJCファーマ(株) 代表取締役 元カイザー・パーマネンテ薬剤部マネージャー)
前2つの記事と比べボリュームがぐっと小さくなってしまうのですが、陳氏は米国の状況を紹介しながら、日本の今後の方向性についてお話をされています。(興味のある方は、クリニカルファーマシストの 2(3) p43-47,2010 に関連の執筆記事がありますのでそちらをご参考ください)
- 高齢化社会と税収入の減少で、日本でもセルフメディケーションに頼らなければいけない事態になる可能性はある
- また、財源不足から外来が包括化されたり、薬はOTCでいうことになることもありうるかもしれない
- 米国では処方せん医薬品とOTC医薬品の垣根は低く、病院の中でもOTCが使われることもある(医師がオーダーする)
- OTC医薬品は約800品目が成分ベースで10年以上かけて評価が行われており、フォーミュラリー(処方集)の中にも含まれている
- 米国の薬剤費は2兆円?に達しており、OTC医薬品1ドルに置き換えれば6ドルの医療費抑制効果につながるという
- 米国の薬局では調剤とOTC医薬品販売を行うのが一般的であり、リフィル導入(といっても相互作用の見落としなどがあれば、裁判沙汰になることもあり、現実は容易なものではない)と相まって、かかりつけ薬局化につながっている(とはいっても大手全国チェーンが独占ではないかと思うけど)
- 今後は日本でも医療費へのコスト意識が高まることは確実で、セルフメディケーションに個々の薬局がどう対応するかがカギとなる
参加しての感想
日本の医療制度や医療事情は海外とは異なるため、一概には比較できませんが、次のようなことを感じました。(あくまで現時点での私見です。前記事と一部重複があります。ご意見、私の不勉強な点がございましたら、コメント欄がツイッターでどうぞ)
- 日本ではセルフケアやセルフメディケーションの概念が生活者に正しく理解されていない
(セルフメディケーションは、自分でOTC医薬品を購入して軽い病気を治すことだけではない) - 一方で、セルフメディケーションを支援する側である地域薬局や地域薬剤師の役割は海外と比べると必ずしも明確化されていない
- 今後は、セルフケアやセルフメディケーション、地域包括ケアシステムの中で地域薬剤師が具体的にどのような支援が可能なのかを明確化し、これを生活者に広く理解してもらう必要がある
- また、セルフメデフィケーションにおいて必要・可能となりうる業務については、海外などの事例も参考にしながら、大学・関係団体が協力して指針としてまとめる必要がある
- セルフメディケーション推進による医療費の抑制効果はどの国でも数値化して、高齢化社会におけるセルフケア/セルフメデフィケーションや医療政策作りの根拠となってきる。
- 日本でも大学や業界団体が協力して、きちんとしたデータを示すことが必要である(在宅医療で飲み残しチェックで何百億の医療費削減につながるかもしれないが、地域薬局がセルフケア/セルフメディケーションを積極的に推進することでこれを上回る効果が出ないとも限らない)
- しかし、薬剤師がセルフケア支援のために生活者(消費者)との対面の時間を確保することは一部で難しい現状がある。
- セルフケア支援のためにこれらの時間をどう割くかは重要であり、薬歴管理や箱出し調剤なども含めた調剤業務の簡素化や助手の導入(全ての薬局に複数の薬剤師が配置できるわけではない)など、阻害となっている要因の検討や、専念できるためにはどのような環境づくりが必要かを真剣に考えるべきである。
- 英国のAilment Service(軽疾患スキーム)という仕組みは、医師が本来の診療に専念できる環境づくりのためにも、日本でも検討の余地があると思う。
- 今、求められているかかりつけ薬局づくりは、Ailment Service と リフィル調剤のような制度があればスムーズに広がると思う。
- 一方、かかりつけ薬局がすすまない背景には、処方薬の自己負担額の問題があると思う。
- どこでもらっても同じ金額になるように、定率負担→定額負担(1種類ごとの)として、金額によって医院(院内処方)や薬局選びにつながらないようにすべきである
- OTC医薬品の価格が高すぎるという問題もあるが、軽度の疾患についてはOTC購入するより、医者にかかって薬をもらう方がはるかに安いという現実は何らかの対応策を早急に検討すべきである
- スイッチOTCの選定は、生活者の視点に立って開発が行われるべきである。
- 関係団体がスイッチ要請することも必要かもしれないが、これまでの使用経験や生活者の要望があれば、製薬会社は自信を持ってスイッチ化を行うことは可能であり、厚労省もそういった視点での企業へのサポートが必要である。
- むしろ、関係団体は生活者の(スイッチ化)ニーズをきちんと集約して、生活者の立場に立って社会に広くアピールすべきである(OTC医薬品協会では、英文のものはWEBサイトに掲載しているけど→JSMI News Letter Number 77, March. 2011)
- セルフケア支援は、フローチャートによる対応だけでは現実的ではないケースが少なくなく、日頃から事例検討による学習を重ね、どんなケースにも対応できるよう日頃から心掛ける必要がある
- 諸外国に比べ、人口当たりの薬局数は平均を大きく上回っており(実数はコンビニより多いとの話も)、店舗販売業も加われば、明らかに医薬品供給点としては多すぎると考える必要がある
- 今となっては海外のように開局制限を行うことは困難であるが、医薬品供給点が多いことは価格競争につながり、他店との差別化や運営の効率化のためにOTC医薬品を扱わないことがますます加速する可能性がある。
- セルフケア支援のためには、一定種類数のOTC医薬品の取リ扱いは必要であり、薬局開設にあたっては必要とされる医薬品の取扱いの義務化(保健所ではなく職能団体がリーダーシップをとって)を検討する必要もある。
関連情報:
2012.10.14 英国のセルフケア支援とセルフメディケーション
2012.10.14 オーストラリアから学ぶセルフメディケーションに係る薬剤師の役割
2012.10.07 2012 Global Pharmacy Workforce Report(FIP)
2011.10.20 日本セルフメディケーション学会で話をしました
2008.04.05 薬剤師はさらなる役割を担うべき(英国)
2012年10月15日 00:43 投稿
m3.com に、当日の様子を伝えた薬局新聞配信の記事が掲載されています。(掲載は1週間程度。要会員登録)
諸外国の事例から日本らしいセルフメディケーション考える
(m3.con 一般医療ニュース/薬局新聞 10月34日配信)
http://www.m3.com/news/GENERAL/2012/10/24/160721/