TOPICS 2012.10.17 で紹介したとおり、エパデールのスイッチが2年越しで了承を得られました。開局薬剤師の新たな職能発揮の機会となる期待がある一方、実は多くの不安も感じています。
英国では、シンバスタチンのスイッチの方針が2003年11月に発表され、NICEのガイダンスでも購入できるとの記載がありますが、 TOPICS 2012.07.01 の記事とコメントによれば、実際には薬局での販売が盛り上がらず、先発品が市場から撤退するという事態に至っています。(調べたら、2010年9月で止めたらしい)
Heart drug could be available in high stret pharmacies
(MHRA 2003.11.17)
http://www.mhra.gov.uk/NewsCentre/Pressreleases/CON002042
(スイッチのアナウンス)
ARM 18: request to reclassify simvastatin 10mg
(MHRA 2003.11.17)
http://www.mhra.gov.uk/Publications/
Consultations/Medicinesconsultations/ARMs/CON007750
(スイッチにあたっては、事前にMHRAの考え方を示したうえで、多くの関係団体に意見を求め、回答があった。個人からの意見も含め全て公表されているが、だからといってスイッチ方針に左右されなかったと思う。→TOPICS 2005.07.04 日本でも、一般用医薬品部会の審議だけでなく、今後はこういった手法をとってもよいと思う。ちなみに、緊急避妊薬の審議・承認可否にあたっては事前にパブコメを行った→TOPICS 2011.02.23)
Statins for the prevention of cardiovascular event
(NICE technology appraisal guidance 2006.01.25)
http://publications.nice.org.uk/statins-for-the-prevention-of-cardiovascular-events-ta94/the-technology
(最後に記載があるが、この製品は販売が中止されている)
Patient information leaflet (PIL) : Zocor Heart-Pro
(MHRA 2009.10.27)
http://www.mhra.gov.uk/home/groups/pl-a/documents/regulatorynews/con060199.pdf
シンバスタチンのスイッチ品の効能は、reduce the risk of a first heart attack in people who have a moderate risk of coronary heart disease (risk of a first major coronary event in people at moderate (10 to 15%) 10-year risk of CHD)であり、今回の日本のエパデールのスイッチ品の効能とは異なりますが、今後の参考とすべく、これまでの経過について少し紹介したいと思います。
まず、OTCシンバスタチンが発売された際、英国王立薬剤師会では下記のようなガイダンスを作成しています。 これには、スイッチの経緯と意義、エビデンス、GPなどとの連携の必要性、ヘルスプロモーションについてのアドバイスの必要性なども記されています。(英国王立薬剤師会のHPにある情報なのですが、現在会員限定のページにあり見れません。ググったら、サウジアラビアの大学のWEBにコピーがありました)
Practice Guidance on the Sale of Over the Counter Simvastatin
(Royal Pharmaceutical Society of Great Britain 2004.7)
http://faculty.ksu.edu.sa/hisham/Documents/Files_For_MS_Students/47.pdf
OTC simvastatin practice guidance, concise version
(Royal Pharmaceutical Society of Great Britain 2004.7)
http://faculty.ksu.edu.sa/hisham/Documents/Files_For_MS_Students/48.pdf
一方、スイッチの際、英国医薬品庁やNHSなどが独自のQ&Aを出すなど、政府が後押しした経緯があります。
THE RECLASSIFICATION OF SIMVASTATIN 10MG (ZOCOR HEART-PRO) OVER THE COUNTER (OTC)
(MHRA Questions and Answers for patients)
http://www.mhra.gov.uk/home/groups/pl-a/documents/websiteresources/con1004224.pdf
Updating local policies for reducing the impact of cardiovascular disease Where does OTC simvastatin fit in?
(NHS National Prescribing Centre 2004.12)
http://www.npc.nhs.uk/resources/library_good_practice_guide_simvastatin.pdf
スイッチに対しては、さまざまな意見が当時出されました。その多くは、やはり懸念する声でした。
Controversies in Cardiovascular Medicine
Over-The-Counter Statins Are Worth Considering in Primary Prevention of Cardiovascular Disease
(Circulation. 2006; 114: 1310-1314)
http://circ.ahajournals.org/content/114/12/1310.full
Lifestyle or life-saving medicines? A primary healthcare professional and consumer opinion survey on over-the-counter statins.
(Ann Pharmacother. 2008 Mar;42(3):413-20)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18303145
General practitioners’ views and experiences of over-the-counter simvastatin in Scotland
(Br J Clin Pharmacol. 2010 September; 70(3): 356–359.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2949907/
一方、供給する側の薬局にも戸惑いがありました。
Community pharmacists’ views, attitudes and early experiences of over-the-counter simvastatin.
(Pharm World Sci. 2007 Aug;29(4):380-5)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17357811
(心血管リスクについてのアセスメントについては自信があるとしたものの、実際の販売にまでにはつながらなかった。その理由として、「価格」「マージン」「OTC用量でのエビデンスの不足」を挙げた)
Pharmacists’ perceived integration into practice of over-the-counter simvastatin five years post reclassification.
(Int J Clin Pharm. Online First 2012 Jun 28)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22740232
http://www.springerlink.com/content/x08047073×846g31/
(シンバスタチンのスイッチを支持した薬剤師は少数で、また実際に販売したのは5人に1人に留まった。その理由として、「エビデンスが不十分」「生活者のニーズの低さ」「小売価格への消費者の不満」「患者(使用者)の医療記録へのアクセスの困難さ」などを挙げた)
結果的に、 「シンバスタチンを定期的に取れば、1か月以内にコレステロール値が下がり、冠動脈のイベントリスクが10%軽減される」としたエビデンスなども示したうえで、鳴り物入りでスイッチさせたものの必ずしも本来の目的通りにいかなかったことが明らかになっています。
日本で今後OTCのエパデールの販売をあたっては、これまでの英国のOTCシンバスタチンの経験を是非参考にすべきではないかと思います。(OTCエパデールも同じような指摘や結果となる可能性がある)
まだ正式な承認もされておらず、また承認審査書が明らかになっていない段階では、今回のスイッチの経緯(特にエビデンスなど)や具体的な販売要件というのがわかりません(きっと立派なのがあると思うけど)が、もし次の事項についてまだ検討が行われていないのであれば、販売開始までに関係者がぜひ取り組んで頂きたいと思います。
- 今回のスイッチはどういう位置づけでおこなわれたか(生活者にどのような利益がもたらされるか、エビデンス、医療機関との連携など。厚労省の考えも示した方がいい)、また薬剤師の販売業務をどのような視点で行っていくべきかなどを、全ての現場の薬剤師に周知すること(製薬会社の説明とは別。各店舗での製品の取扱いにかかわらず、全薬局に徹底すること)
- 英国王立薬剤師会のように、上記のような内容も網羅した独自のガイダンスを必ず作り(チェーンドラッグストア協会などとの共同でもよい)、薬剤師であればだれでもアクセスできるようにしておくこと
- 患者生活者向け資材作成にあたっては、薬剤師会が関わり、共同で作ったことが生活者にもわかるようにすること
(可能であれば、関係学会の監修を受けてクレジットをいれることも検討する) - 販売価格を考慮すること
(ジェネリックも発売されており髙ければやっぱり医者でもらおうということになる。やはりニコチネルパッチなどを参考に、S600一包が薬価が87円(1日分261円)なので、せいぜい1日分350円~450円、14日分4800円~5800円くらいか。理想は4000円以下だけど) - 卸を通した供給の検討
(大正製薬が販売するとされているが、直販メーカーであり、取引がない場合には入手できない可能性がある。また、大正製薬は販売店の選別を行っており、結果的にIHADA(TOPICS 2012.08.13)のように量販店を念頭においたプロモーションが行われる可能性も懸念される) - 将来的には、店頭で血液チェックができる仕組をつくること
- OTCへのスイッチは生活者の視点も重視されるべきであり、現在非公開となっている一般用医薬品部会の審議を公開するなど、将来的には審議のあり方についても検討する必要がある
関連情報:TOPICS(リンク切れになっている記事もあります)
2005.07.04 英国のOTC事情(旧サイト)
2009.01.17 処方せん医薬品スイッチに対する英国医師の本音
2012.07.01 OTC シンバスタチンの販売に英国薬剤師は慎重?
2012.10.17 一般用医薬品部会、エパデールのスイッチを了承
関連記事:
ドラッグストア協会 エパデールスイッチは「育てる」
(RISFAX 2012.10.22)
http://www.risfax.co.jp/risfax/article.php?id=39609
参考:
NHS Evidennce で OTC simvastatin で検索
http://www.evidence.nhs.uk/search?q=OTC%20simvastatin
PUBMED で OTC simvastatin で検索
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=OTC%20simvastatin
2012年10月22日 11:59 投稿
メーカーも、薬剤師会も取り組みを始めていると聞いていますが、上記指摘の中で、裸の薬価をベースに売価を算定することについては、懸念を禁じえません。
薬局の店頭での薬剤師の関わりが報われるような価格設定を考慮して頂きたいと思います。 確かに、ロキソニンSと異なり、長期にわたる(最大3か月)が期待されることから、それを考慮した形での算定が元になるものと思われますが、如何でしょうか。
また、3カ月で医師受診が求められているとすると、医師による医療保険利用勧奨が起こることが懸念されます。(シンバスタチンでも、結局保険での償還を選択した例が少なくなかったのが、商品消滅の理由ともされています。)
コメントありがとうございます。
OTCの場合だと包装の問題や広告、さらにさまざまな販売のための資材を作る必要があるので、私も薬価ベースで販売価格を考えるべきではないとは思います。
しかし、漢方薬などでは箱ものの製品は1日分にすると大体350円~400円くらいで、高いものでも1日分が450円程度までです。
1度にもし10,000円を越える支払金額が必要となるとどうのでしょうか? やはり今の経済状況だとどれだけの人が購入するかなという気もします。(化粧品だったら買うかな?)
配合成分量や質などは比較にならないものの、それだったら、サプリやトクホでもいいのではないということにもなりかねません。
ニコチネルの例を出したのは、発売当時、ジェネリックが出ていないのにもかかわらず、薬価とあまり変わりない小売希望価格が設定されたからです。
ニコチネルパッチが31日先行発売(TOPICS 2008.05.29)
http://www.watarase.ne.jp/aponet/blog/080514.html
おそらく、当時もどのくらいの価格にすれば、生活者のアクセスが高まるかを検討したのではないかと考えています。
ちなみに、今は販売されていないシンバスタチンのOTCのZOCOR HEART- PROの価格は、発売当時一般的な店舗で28錠入り12.99ポンド(2004年8月のレートを調べたら1ポンド約200円。つまり2600円)です。
Over-the-counter heart care
(Telegraph 2004.08.17)
http://www.telegraph.co.uk/expat/4193309/Over-the-counter-heart-care.html
(記事の下の方に価格が出ています。Bootsでは9.99ポンドだと書いてあります。.
継続使用となると、やはりOTCエパデールの価格設定は重要だと思います。
関連記事です。
慶応大・望月教授 エパデール・スイッチOTC「医療機関との連携を」
(日刊薬業WEB フリーサイト 2012.10.22)
http://nk.jiho.jp/servlet/nk/gyosei/article/1226570471035.html?pageKind=outline
関連記事です
エパデール スイッチ化で要薬剤師薬時代の幕開
(m3.com / 薬局新聞 10月24日 配信 要会員登録、掲載は1週間くらいです)
http://www.m3.com/news/GENERAL/2012/10/24/160721/
う~ん最後まで読めないけど、タイトルを見ると微妙な内容みたい。
「エパデール」騒動、スイッチ推進に水
日医 薬剤師の業務拡大も警戒、「大きな問題」として反対論陣
(RISFAX 2012.10.25)
http://www.risfax.co.jp/risfax/article.php?id=39649
日薬はすぐにでも、会員はもちろんのこと社会に対して、今回のスイッチに関して薬剤師会として、こういうふうに考え、このようにしていきますという自らの立場をしっかりと示さないと、反撃にあいそう。
業界紙にしゃべっただけではダメ。おそらく日医の顔色をうかがっているのでしょう。
(8:10更新)
え~ 何を考えているんでしょうね。
厚労省 エパデールOTC、販売店を限定
(日刊薬業WEBフリーサイト 10月25日)
http://nk.jiho.jp/servlet/nk/gyosei/article/1226570529773.html?pageKind=outline
販売店を限定するって誰がどうやって決めるんですか?
おそらく地区限定じゃないかと思いますが、逆効果では。
もし可能な店舗だけでなんてことになったら、「うちは取り扱う必要はないな」という店舗を増やすだけになっていしまいますよ。
自己レスばかりですみません。
小売希望価格の件ですが、今日の日経で、「1日あたり78円医療用の方が安い」とう記事が出ていたので、おそらく税込5,000円でおつりがくる、14日分42包入4,750円と推測しました。(1日分にすると、339円なのでピッタリ。この通りならまず妥当な価格設定だと思います)
一方、昨日は日薬で定例記者会見が行われ、児玉会長がコメントしたそうです。
日薬・児玉会長 日医のエパデールスイッチ反対は「努力不足」
(RISFAX 2012.10.26)
http://www.risfax.co.jp/risfax/article.php?id=39657
まだ正式承認されていないからなのでしょうが、業界紙の記者相手だけでなく、承認了承に関するプレスリリースくらいどうして出せないのでしょうね?(せめて、正式承認された際はきちんと出して下さいね)
だから、厚労省にまずは限定販売なんて言われるんですよ。
同日発表した、「薬局は、既に全国ほぼ中学校区毎に約54,000 軒あるためインフラ整備は不要であり、しかも、専門家である薬剤師が常駐しています。また、医療提供施設として医療保険対応と未病対策としてのセルフメディケーション推進など、地域保健支援拠点としての両面を持っています。」とした。日薬の当面の課題も色あせますね。
日本薬剤師会の当面の課題
(日薬定例記者会見資料 2012.10.25)
http://www.nichiyaku.or.jp/action/pr/2012/10/121025_1.pdf
大正製薬だと株主品にするとか・・・・?
すみません別に何か情報があるわけではないです。
限定して販売するならアンケートはがきでもつけて、本当に販売の条件を満たしているのか検討して欲しいですね。
回収率とアンケート結果を厚労省が報告するとか。
例え中学校区毎にあっても、その何%が日薬の動きを知ってるのでしょう?
地元薬剤師会もそうですけど、何か組織として風通しが悪いと言うか、一部で決まってその他大勢は無関心。
日薬→都道府県薬剤師会→市町村薬剤師会など→一般会員って情報が流れていかないし、一般会員の意見は日薬へ伝える手段ってないですよね。
HPにさえ載せればいいのでしょうかね・・・・
何か空回りしてるような感じ。
当面の課題は、広く会員の意見に耳を傾ける事?(すみません)
いよいよ反撃ののろしをあげたようですね。
日医・鈴木常任理事 エパデール、スイッチ化了承は「暴挙」
(RISFAX 2012.10.29)
http://www.risfax.co.jp/risfax/article.php?id=39673
日医の一般向けのプレスリリースが出るまでに、日薬も早く、一般用医薬品部会の承認了承に従い、生活者のためにさまざまな準備(販売の手順や医療機関との連携の考え方)を進めていることをプレスリリースして、不安がないことをアピールした方がいいですよ。
(追記)
エパデールのスイッチ、「承認了承は無効」- 日医・鈴木常任理事
(CBニュース 2012.10.29)
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/38439.html
利益相反ってことになっちゃうんだ。
これまでの委員の発言はこちらで。
2011.04.27 2010.11.24 一般用医薬品部会議事録
2011.06.24 2011.2.24 一般用医薬品部会議事録