生保医療扶助、後発品の原則化などの検討が必要(財務省)

 生活保護の医療扶助については、適正化に向け後発医薬品の使用促進やレセプト点検などの取組が進められていますが、 22日開催された財務省の財政制度等審議会 財政制度分科会で、これらの取組みの実効性に対して疑問の声が上がっているという状況が報告されています。

「財政について聴く会」(財政制度等審議会 財政制度分科会)
(財務省 2012.10.22 開催)
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia241022.html

資料1:社会保障予算(生活保護、年金等)
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia241022/01.pdf

参考資料
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia241022/02.pdf

 財務省では資料1で、今年度全国の112自治体に行ったアンケート調査(平成24年度 財務省「生活保護の医療扶助費支給実態調査」、111自治体が回答)の結果を示し、「患者側、医療機関側のモラルハザードを防止し、制度の信頼性を確保する観点等からの一部自己負担の導入(翌月償還を含む)、後発医薬品の原則化」などの論点を示しています。

 本来であれは、この実態調査の全文が公表されるべきだと思うのですが、現時点ではWEBにはなく、資料1(p32-37)で概要のみが紹介されています。その中から抜粋します。、

  • 生活保護受給者に対する向精神薬(睡眠薬、抗うつ薬、抗不安薬など)の重複処方の状況について、現在進められている電子レセプトによるチェックによって、重複処方の件数に変化があったかを尋ねたところ、「特段の変化はない」との回答が約7割を占めた。
  • 平成23年度から実施されている電子レセプトを活用した、適正化すべき受診行動についての点検・分析によって、従来の紙レセプトによる点検・分析時に比べて生活保護受給者の受診行動が改善されたかを尋ねたところ、「特段の変化はない」との回答が約8割を占めた。
  • 生活保護受給者に理解を求めた上で、後発医薬品を一旦服用することを促す、との取組みによって、後発医薬品が存在する調剤についての医療扶助費請求金額に変化はあったかを尋ねたところ、「特段の変化はない」との回答が約10割(98%)を占めた。

 

「全診療科間の重複処方を抽出した適正受診指導の問題点や今後の課題(自由記載)」に対する回答事例

【医療機関の協力に関する回答】(自由記載回答があったもののうち34%(13件))

  • 福祉事務所から被保護者への指導のみでは限界があり、処方先の統一に向けた調整などに当たっては医療機関の協力が不可欠。
  • 非協力的な医療機関に対する対応策がない
  •  医療機関の協力が不可欠。本人の自己負担がないので医療機関も安易に受診させている(湿布等の大量投与も多い)。
  • 複数の医療機関で向精神薬が処方されている生活保護受給者であっても、主治医から「効能が違う」「適用量の範囲」との意見が出されると、なかなか医療機関を一本化することが困難。

【被保護者に関する回答】(自由記載回答があったもののうち26%(10件))

  • ケースワーカーから被保護者に適正受診指導を行っているが、被保護者の理解・協力を得ることは困難。
  • 自己負担とする等の措置がない限り、指導には限界があるように思われる。

【指導にあたる福祉事務所に関する回答】(自由記載回答があったもののうち24%(9件))

  • 重複処方の抽出件数が多いものの、被保護者が増加傾向にあるなど慢性的な人員不足の中なかで、適正受診の指導に時間が取れないのが実情。
  • レセプト到着は2か月遅れで、それから点検を開始するので指導は後手になる。
     

後発医薬品の使用促進策の問題点や今後の課題(自由記載)」に対する回答事例

【被保護者に関する回答】(自由記載回答があったもののうち40%(19件))

  • 生活保護受給者は医療費を支払う必要がなく、後発医薬品に変更しなくても本人の負担がないため、理解が得られにくい
  • 指定薬局から後発医薬品の切り替えを促してもらっても生活保護受給者は元々医療費の自己負担がないため断られるケースが多い。
  • 本人負担額がない医療費や薬代に関して、被保護者には費用の認識はない。後発医薬品のみを処方する方法に改めるべきである。
  • 生活保護受給者が後発医薬品を選択するインセンティブがない状態で、調剤薬局に漠然と変更の勧めをしてもらうことが困難。後発医薬品に関する受給者の認知度・理解度が低く、パンフレット等を利用して説明しても、実際には服用につながらないこともある。

【医療機関等の協力に関する回答】(自由記載回答があったもののうち30%(14件))

  • 後発医薬品の利用促進について、関係先の協力が得られない。
  • 処方側にとっては、先発医薬品の方が利益率が高いため、なかなかインセンティブが働かない
  • ケースワーカーが被保護者に対し後発医薬品の説明をしてもなかなか理解が得られない。被保護者に対し、医師、薬局からも説明するなど医療関係者の協力が必要

【使用促進にあたる福祉事務所に関する回答】(自由記載回答があったもののうち6%(3件))

  • 通常業務だけでも多忙な中、後発医薬品の使用促進の指導に時間が取れないのが実情。

 今回の独自の調査で財務省は現在の方法では医療扶助費の適正化は困難だとして、一部自己負担の導入や後発医薬品の原則化の検討が必要と判断したようです。各紙報道によれば委員から異論は出ず、今後厚労省などとの調整となりそうです。

 一方、財務省の資料を見て驚いたのは、全体の調剤件数に比べて生活保護受給者の割合が高い薬局が全国でかなり存在するという実態です。

【参考】全体の診療件数に比べて生活保護受給者の割合が高い医療機関数(資料1 31ページ)
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia241022/01.pdf#page=32

 上記によれば、100%が生活保護受給者という薬局が3施設、90~99%が24施設、51~89%が73施設もあったそうです。(社保支払基金から集計データなので、国保や後期高齢者のデータは反映されていないことに留意する必要があるが)

 生保患者を多く診ている医療機関の近くにあったり、依頼を多くうければこの比率は高くなるとは思いますが、90%以上になるような薬局はどのようなところにあるどのような薬局なのか見てみたいものです。

 今回の財務省の議論をうけ、三井厚労相は23日の閣議後の記者会見で、医療費の自己負担を求めることについては、「必要な受診を抑制してしまうおそれがある」と述べ、慎重な考えを示しています。(後発品については言及したのかな?)

関連情報:TOPICS
 2012.05.22 生保医療扶助における後発品使用に関する通知
 2012.03.14 生保医療扶助、一旦は後発医薬品の使用を求める
 2011.12.13 生保医療扶助、さらなる適正化に向け方策の検討が必要

参考:
読売新聞 10月23日
 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20121022-OYT1T01829.htm
NHK NEWS WEB 10月23日
 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20121023/k10015947581000.html
 


2012年10月23日 17:23 投稿

コメントが1つあります

  1. アポネット 小嶋

    閣議後の記者会見のやり取りです。

    三井大臣閣議後記者会見概要
    (H24.10.23(火) 10:53 ~ 11:06 省内会見室)
    http://www.mhlw.go.jp/stf/kaiken/daijin/2r9852000002mmxz.html

    後発品については次のようなやりとりがあったそうです。

    (記者)
     財政制度等審議会で昨日、生活保護費の見直しで後発品の原則化について、一旦服用するように促す取組というのを厚労省は今年度の事業から実施しているのですが、財務省はそれについて独自にそのアンケートを取りまして、あまり効果が上がっていないという結果が出たということで、そのことについて今後の後発品の生活保護受給者への取組についてどのような取組をしていきますか。

    (大臣)
     これについては、様々な意見があります。それで、いずれにしましても一般医療でも義務化したらどうだという話もありますが、しかし、生活保護受給者だけに義務付けるということは、私は困難だと思っています。そういうことを考えますと、これからもう少ししっかりとこの問題については色んな意見がございますから、私どもで検討させていただきたいと思います。

    (記者)
     今おっしゃった生活保護受給者だけにジェネリックを義務付けは難しいというお話でしたけれども、どういった理由でお考えでそうなったのか理由をもう少し詳しく教えていただけますか。

    (大臣)
     今申し上げましたように、一般の医療でも義務化されていないものを生活保護者だけに義務付けるというのは、バランスの面からいってもおかしいと思う。ジェネリックは確かに厚労省として推進していますが、義務付けするのと使ってもらうというのは、違うわけです。それは、なるべくいい物で安い物を使っていただきたいと思っています。義務付けは別の問題だと思っています。