ツイッターで話題となっているゾルピデム(マイスリー他)に関する論文です。関連論文もいろいろ調べて見ました。
Zolpidem is independently associated with increased risk of inpatient falls
(J Hosp Med Publihed Online 19 Nov 2012)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23165956
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jhm.1985/abstract
マイスリーは、転倒の独立した危険因子 ・・・ 即刻対処必要
(内科開業医のお勉強日記 2012.11.21)
http://kaigyoi.blogspot.jp/2012/11/blog-post_21.html#!/2012/11/blog-post_21.html
アブストラクトしかわからないので情報が限られますが、3次病院でICUに入っていない入院患者の電子医療記録の解析から明らかになったもので、ゾルピデムの処方を受けなかった人(11,358人)では転倒の記録があったのは0.71%だったのに対し、ゾルピデムの処方を受けた人で(4,962人)では3.04%に達し、有意差が認められたというものです。
確か同じような話があったと思い、PubMed やJ-stageで検索をかけると、関連の研究や報告がいくつもでてきました。
入院高齢者を対象とした、retrospective case control study
ゾルピデム: 調整オッズ比 2.59(95% CI 1.16-5.81 p=0.02)
カルシウム拮抗薬 : 調整オッズ比 2.45(95% CI 1.16-4.74 p=0.02)
Medication use and increased risk of falls in hospitalized elderly patients: a retrospective, case-control study.
(Drugs Aging. 2009;26(10):847-52. )
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19761277
高齢者を対象としたcase control study(アウトカムは大腿骨骨折)
ゾルピデム: 調整オッズ比 1.95(95% CI 1.09-3.51)
他のベンゾジアゼピン系 : 調整オッズ比 1.46(95% CI 1.21-1.76)
Zolpidem use and hip fractures in older people.
(J Am Geriatr Soc. 2001 Dec;49(12):1685-90.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11844004
合併症のある高齢者と若者で転倒と認知機能障害のリスクが高いとした
Influence of zolpidem and sleep inertia on balance and cognition during nighttime awakening: a randomized placebo-controlled trial.
(J Am Geriatr Soc. 2011 Jan;59(1):73-81.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21226678
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1532-5415.2010.03229.x/full
高齢入院患者の後向きコホート研究。怪我のリスクはアルプラゾラムやロラゼパムを上回り、ジアゼパムと同等
Risk of fractures requiring hospitalization after an initial prescription for zolpidem, alprazolam, lorazepam, or diazepam in older adults.
(J Am Geriatr Soc. 2011 Oct;59(10):1883-90.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22091502
一方、日本では健康成人を対象にした、平衡機能に及ぼす研究報告もあります。(これは結構興味深い)
睡眠導入薬服用後の静的平衡機能の研究
超短時間型と長時間型の睡眠導入薬の比較と安全な使用方法について
(Equilibrium Res Vol.63(4) 335-345, 2004)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jser1971/63/4/63_4_335/_pdf
健康成人32人を対象に、ゾルピデム、トリアゾラム、クアゼパム、プラセボを日にちを変えて服用してもらい、動的平衡機能検査(Mann検査、両脚直立検査)と眼球運動検査を実施。
両脚直立検査の結果は、ゾルピデムが最もふらつきが強く、服用2時間後に最もふらついた、(統計上は有意者認めず)。
Mann検査では、ゾルピデムが他の薬剤に比べふらつきが顕著であり、特に服用後1~2時間が強かった。統計上、ゾルピデムはすべてのパラメータでトリアゾラム、クアゼパムおよびコントロールと有意差(p<0 .01)を認めた。
眼球運動検査では、ゾルピデムのみ眼振の所見を認めた。
研究者らは、ゾルピデムは筋弛緩作用が弱いということで、ふらつきも弱いと予測したのと反対の結果が出て驚いています。
ゾルピデムは、トリアゾラムに代わる超短時間が睡眠導入薬として日本でも広く使われていますが、上記の通りであれば、服用して目がすぐに覚めてトイレにいったりするときや、服用してなかなか寝付かず、もう一度トイレに立ったりするする際に転倒を起こしてしまう可能性があるのではないかとも思いました。
眠れないということは本人にとってつらいことですが、眠剤の使用と睡眠のパターンを確認し、服用してもすぐに眠れない、よくトイレに起きるケースなどは十分注意する必要があるかもしれません。(ゾルピデムに限ったことではないけど)
それと、ゾルピデムは服用後の異常行動への留意が特に必要です。
関連情報:TOPICS
2008.03.17 眠剤服用後の異常行動に注意喚起(米FDA)
2012年11月21日 23:49 投稿