この話題はこれまでに何度も取り上げているので、改めて紹介するかどうか迷いましたが、ネット販売の問題にも関わることなので、BMJ 誌のオンライン版にこのほど掲載され、英国で結構話題になった次の論文を取り上げてみます。
Long term effect of reduced pack sizes of paracetamol on poisoning deaths and liver transplant activity in England and Wales: interrupted time series analyses
(BMJ Published Onine 7 Feb 2013)
http://www.bmj.com/content/346/bmj.f403
Smaller paracetamol packs may have reduced deaths
(NHS Choices 2013.02.08)
http://www.nhs.uk/news/2013/February/Pages/Smaller-paracetamol-packs-have-cut-deaths.aspx
英国では、パラセタモール(アセトアミノフェン)の多量服用による自殺が多いことから、 1998年9月に、これらの成分を含む鎮痛剤の一商品あたりの錠数を、薬局向けを最大32錠入りまで、一般小売店向け(英国では小包装のものは自由販売の品目がある)は、24錠入りから16錠入りに制限する法律が施行されているのですが、この研究は実際にどのくらいアセトアミノフェンの肝毒性による死亡(特に自殺)が減ったかというのをイングランドウェールズのデータを基に調べたものです。
結果は、肝毒性による死亡は11年間で43%減少、1年あたり121人死亡者数が減ったとし、包装制限の法律導入が過量服用による中毒死や肝移植を減らしたことが示唆されたとしています。
一方で、中毒死や肝移植が必要なケースを減らすために更なる対策が必要としたことから、この研究結果を取り上げた各紙の記事には、「不便になる」「一度にまとめて売ってくれる店がある」「必要な人は薬局をはしごして買うので、包装制限は意味はない」など批判のコメントが続出(日本で住んでいたときは、注意もなくたくさん買えた?というコメントもあったような)し、販売制限に対しての疑問の声が少なくありませんでした。
Fall in paracetamol deaths ‘linked to pack limits’
(BBC News 2013.02.08)
http://www.bbc.co.uk/news/health-21370910
Restrictions on paracetamol sales saved 600 people from overdosing since 1998
(Mail Online 2013 .02.08)
http://www.dailymail.co.uk/news/article-2275365/Restrictions-paracetamol-sales-saved-600-people-overdosing.html
確かにアセトアミノフェンは、用法・用量を守り、短期間の使用に留めれば有用で安全性の高い医薬品です
しかし、中には誤用や乱用、悪用(自殺目的など)による過量服用というケースも決して少なくはありません。
海外ではそれでも日本と比べると常用量は多いのですが、米国でも最近アセトアミノフェンの処方せんなしでの使用については、さまざまな検討が行われるなど、少なくとも米英ではOTCに含まれるアセトアミノフェンの過量服用によるリスクという認識だけは生活者には広がっているようです。
日本ではアセトアミノフェン単剤の鎮痛薬はタイレノール(といっても決して売れ筋ではない)くらいで、アセトアミノフェンが含まれたものはエテンザミドとの合剤の鎮痛薬や、ジヒドロコデインリン酸塩や抗ヒスタミン剤が配合された総合感冒薬がほとんどで、大包装(ノーシン100包、パブロンゴールド44包、210錠)のものも当たり前になっています。
手元にたくさんのストックがあれば、これらの乱用者にとってはますます乱用に拍車をかける可能性もありますし、総合感冒薬などの場合にはジヒドロコデインの依存の潜在的リスクも考慮する必要がありますが、果たして日本において生活者がこういったリスクをどれだけ理解しているかは日頃から疑問に思っています。(→TOPICS 2012.09.14、TOPICS 2012.07.30)
海外ではこういった潜在的リスクについてはこれまでも紹介したように、パッケージにわかるようにリスク表示をしたり、陳列方法などでも生活者に注意喚起がなされるようさまざまな取り組みがされていますが、日本での注意喚起は添付文書の一文にしかすぎません。
一般用医薬品というのは、常に想定しない使用方法についての対策が必要であり、販売時での一声は絶対欠かせないと思います。(使用目的や日常どの程度使用しているかの確認など)
いわゆる対面販売というのは、こういった潜在的なリスクを防いだり、減らしたりするためには不可欠なものであり、私は(ネット販売の)文字という情報だけで注意喚起が行えるかどうかは疑問です。
まちろん、添付文書以外の注意喚起がない我が国において、痛み止めや総合感冒薬の大包装がいわば野放し状態になっていることも大いに問題であり、海外からは奇異な目で見られている可能性があります。
日本ではOTC医薬品による過量服用による中毒事例というのはあまり紹介されていません(私が知らないだけかもしれないけど)が、ネット販売の検討にあたっては、こういった事例をきちんと把握し、どういった潜在的なリスクがあり、どういった方策(単に販売制限するだけではなく)が必要なのかをきちんと議論する必要があるのではないかと考えています。
関連情報:TOPICS
2012.09.14 日本人はOTCの副作用や依存性はあまり気にかけない?
2012.07.30 OTC薬の乱用・依存の実態(厚生労働科学研究)
2011.01.21 アセトアミノフェン製剤の安全対策
2008.10.11 風邪薬販売時に薬剤師からの情報提供は必要とされていない?
2012.06.30 OTC鎮痛薬は4日分までに制限すべき(ドイツ)
2011.01.14 アセトアミノフェン配合鎮痛剤は含量325mgに制限(米FDA)
2010.05.01 コデイン配合OTC鎮痛薬の販売規制が開始(豪州)
2009.09.04 ジヒドロコデイン配合OTC風邪薬,事実上使用禁止へ(英国)
2009.01.26 OTC鎮痛剤で依存が起こるか?(英国)
2005.12.04 アセトアミノフェンと肝不全(米国研究)
2013年02月10日 23:51 投稿
総論として、OTC医薬品の包装容量について考慮すべきとの意見に賛同します。
一方、現在の薬事法に基づく規制では、海外と異なり、量による規制の強弱は十分検討されていません。
また、海外でのアセトアミノフェンの用量は1回量が500mgないし1000mgです。日本では、1日量で900mg以下となっています。
先般、アイルランドに出張した際、TESCO(英国系スーパーマーケット)で、風薬や鎮痛剤が棚に並んでおり、試買しようとしたところ、アセトアミノフェン製剤は、1日に1個しか売れないと販売員から説明があり購入ができませんでした。 ともあれ、1個は買えて、1回分1000mgの製剤で、5回分1包装でした。 一方、帰路のロンドン空港のBootsでは、複数のアセトアミノフェン製剤を試買した際、薬剤師からアセトアミノフェンの重複服用回避について一言がありました。
対面販売の有用性の一端を示すものかと思いました。
英国王立薬剤師会(RPS)では、2つ以上のアセトアミノフェンの錠剤パックを売らないよう、法律できちんと規制すべきとした声明を出していますね。
Paracetamol research shows it’s time to change the law
(RPS 2013.02.08)
http://www.rpharms.com//what-s-happening-/news_show.asp?id=770
RPS calls for tighter legislation over paracetamol sales
(PJ Online 2013.02.08)
http://www.pjonline.com/news/rps_calls_for_tighter_legislation_over_paracetamol_sales
これは、ディスカウントを展開する会社(1ポンドストア?)が、RPSでの販売自粛の要請にもかかわらず、一般商店向け16錠入り包装を、3パックで1ポンドという方法で販売を続けているためです。
Are you being penny wise by shopping in pound shops?
(The Telegraph 2013.02.01)
http://www.telegraph.co.uk/finance/personalfinance/consumertips/household-bills/9842566/Are-you-being-penny-wise-by-shopping-in-pound-shops.html
Rutherglen shop under fire for “disgraceful” paracetamol promotion
(Rutherglen Reformer 2011.11.23)
http://www.rutherglenreformer.co.uk/rutherglen-news/rutherglen-local-news/2011/11/23/rutherglen-shop-under-fire-for-disgraceful-paracetamol-promotion-63227-29822373/
改めて考えると、パブロンゴールドなどの総合感冒薬の大包装が山積みで売られているのは、本当に英国の常識から見ると異質ですね。
ネット販売が解禁になれば、おそらくこういったものは安売り競争になることでしょう。
乱用者や依存者にとってはありがたいでしょうが。
それと、最近楽天SHOPのネット広告(行動ターゲティング)がはっきりいってうざい。
薬は必要な人が必要なだけ購入して使うものであり、ここまでのプロモーションが必要かと思う。
検討会では広告のあり方も考えて欲しい。