ヘルパーから見た要介護者の一般用医薬品の利用状況

 昨年の春から夏にかけての公表より遅れて厚生労働科学研究成果に順次掲載される前年度(2011年度)の厚生労働科学研究の報告書ですが、ここのところ私たちと関連深い「医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究」の報告書(全文)が相次いでアップされています。

 論文報告あれこれ2月分で概要版を紹介した、「OTC医薬品に関わる専門家教育と供給等に関する調査研究 」の全文が、18日にアップされたので内容を少し紹介したいと思います。

 報告書全文は、下記サイトから見ることができます。(下記検索画面で、OTC医薬品に関わるまたは201132078Aというキーワードを入れ、検索をかけて下さい)

  厚生労働科学研究成果データベース検索トップ
   http://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIST00.do

 この研究は、OTC医薬品の購入困難者(へき地・離島居住者、要介護者など)に対する円滑なOTC医薬品の供給体制の確立ならびに、OTC医薬品を合理的、適切に供給するためにどのようなスキルが必要か、またこのスキルを身に着けるためにはどのようなトレーニングや教育が必要なのかが検討されています。

 2011年度の研究では、

  1. ヘルパーから要介護者のOTC医薬品に関る問題点(購入や保管、使用など)と望ましいOTC医薬品の供給体制についてアンケート調査
  2. カナダにおける薬剤師教育の調査
  3. オーストラリア軽医療マネジメントトレーニングのプログラムの導入と評価
    (2011年11月に、上田薬剤師会が行ったワークショップの内容も紹介)

   オーストラリアの薬剤師に学ぶ
   OTC医薬品を用いた薬剤師による軽医療マネジメント
  (大日本製薬 エクセレントファーマシー)
   https://ds-pharma.jp/gakujutsu/contents/epharmacy/study/11.html

  オーストラリアの経験から学ぶOTC医薬品販売
  (Pharma Tribune 4(2) p12-15,2012)
   http://www.medical-tribune.co.jp/pt/pdf/pt_20120403.pdf

が行われていますが、この記事では一般用医薬品のインターネット販売等の新たなルールに関する検討会の資料として厚労省が紹介した、1の「OTC医薬品の購入困難者への供給状況調査」について紹介したいと思います。

 この調査は、全国の訪問介護事業所から、1都道府県たり40事業所を無作為で選び出し、全国1880事業所にアンケートを発送、事業所に所属するヘルパー1名を任意に示してもらい、記入してもらう形で行われました。(有効回答数404件、有効回答率21.8%。調査票はファイル2の真ん中あたりにあります)

 調査項目は、

  1. 訪問と一般用医薬品に係る問題点の状況
    ((ヘルパーから見て)購入困難な人がどれくらいいるか、使い方が不適切な人や保管が不適切な人がいるか、具体的にどのような事例がみられたかも記入)
  2. 一般用医薬品購入困難者はどのように対応しているか
    (購入が困難な場合は誰がどのように購入しているかなど)
  3. 一般用医薬品の購入が困難な人に対して、どのような対応が望ましいか
  4. 一般用医薬品の供給方法の際に、薬剤師等の専門家による説明はどの程度必要かと考えるか

といたってシンプルなものですが、その結果並びに、ヘルパーから見たさまざまな問題事例は非常に興味深いものがあります。

 まず、ヘルパーが担当している利用者のうち、

  • OTC医薬品の購入が困難であると判断された利用者の人数の割合は64.4%
  • OTC医薬品の使い方が不適切であると判断された利用者の人数の割合は53.7%
  • OTC医薬品の管理が不適切であると判断された利用者の人数の割合は39.1%

となったそうです。

 また、OTC医薬品の購入が困難とする利用者の対応としては、

  • 家族が薬局、ドラッグストア等に買いに行っているもの割合が51.0%
  • ヘルパーが薬局、ドラッグストア等にかいにっているものの割合は51.2%
    (但し人数は5人未満が大半でヘルパーの役割は相対的に低かった)

となったそうです。

 一方、一般用医薬品の購入が困難な人に対して、どのような対応が望ましいかについては、「薬局等の薬剤師等の専門家が配達する」が52.7%と最も多く、また一般用医薬品の供給方法の際に、薬剤師等専門家による説明はどの程度必要かについては、「薬の安全性の度合いに応じ、薬剤師等の説明が必要」とした意見が58.9%と最も多かったものの、「薬剤師等の説明は必ず行われるべき」とした意見も33.4%を占めています。

 研究者らは、OTC医薬品購入困難者に対する調査からはOTC医薬品の使用方法、管理内容が不適切と考えられるものが多く、OTC医薬品も含めた薬剤師による在宅あるいは居宅での管理指導の必要性が推察されたとしています。

 現在の薬事法(の解釈)では、ふだん使う機会が多い風邪薬や痛み止めは、第1類や第2類であり、配達して情報提供を行うことができませんが、不適切な使用や管理の具体的事例(これが本当にすごい)を見ると、専門家による適切な介入が必要なことを痛感させられます。

  • 食前、食後も関係なく頭痛薬など量を守らない
  • たくさん飲めば効くと思っている方おり、よく飲みすぎている
  • 頭痛、便秘、風邪気味、ちょっとしたことで薬に頼る
  • 配置薬について服薬が不適切である
  • 膝の痛み止めとして一般用医薬品を多量に服用。そのため、出血性胃潰瘍になった

 望ましいOTC医薬品供給に関する具体的意見としては、「ネット販売があると助かる」「一般用医薬品を使う人は少数」いう意見や配置薬の有用性を支持する声もある一方で、

  • 地元で一番近い薬局と提携し、注文できれば、そして配達可能であればなおありがたいかと思われます
  • 薬の取扱いは難しいと思います。やはり専門家が宅配すればいいのではないかと思う
  • 薬に依存している方が多いように感じますので、主治医と相談して購入できるよう訪問してくれる薬局からの購入が望ましいと思います
  • 高齢者の方は、いろいろな薬を飲まれているので、簡単に購入できない方が望ましいと思います
  • 薬店の薬剤師は、健康食品を薦めている方が多い
  • 選択すべき一般用医薬品が多すぎる。もっと薬剤師が絞り込んで良い。
  • 薬局によっては在庫にばらつきがあり、1か所の薬局で対応できない
  • 薬局によって薬剤師のレベルにばらつきがある。知りたい情報を得られないときがある。
  • 大きなスーパーや薬局では17時過ぎると薬剤師さんがいないことが多いので、店をオープンしている時間には、薬剤師は配置するようにしてほしい。
  • 医師から薬が処方されているにも関わらず、一般医薬品に頼る利用者や私用(使用)の上手くいっていないと思われる方が数多くいます。頭痛薬などを多飲しており、例えばドラッグストアにて頭痛薬を一度に10箱を買いものしてほしいとの訴えがあり、購入できるシステムに不安を日頃から思います。薬のわからない人が売っており、多くの量も買えており、このままでいいのか、売るのが商売でしょうがこれでいいのでしょうか
  • 詳しく説明できる薬剤師に対応してもらったことがない。頼りになる薬剤師が薬局にいる印象がない。本来、もっと在宅や施設などにも介入すべき存在だと感じる
  • 独居、高齢者宅更に、子どもたちにもかまってもらえない高齢者が増えている。病院に行きたくても行けない、薬がない、飲むことすら間違え、あるいは飲まないという状況の中で、定期的に訪問してくれる薬屋が絶対的に必要な時代と思う

 本当に、耳の痛い意見ばかりです。

 地域薬局の在宅活動が広がりを見せていますが、これら意見をに見ると、要介護者など、くすり特に一般用医薬品と日常どう関わってよいかについて理解が十分でない人に対し、薬剤師による積極的なサポートの必要性を感じるとともに、売る手側の論理でおこなわれている、現在の一般用医薬品の供給体制のあり方について疑問を投げかけられているとも言えるのではないでしょうか?

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2013年02月20日 01:22 投稿

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