米FDAのアナウンスです。この分野は弱いのですが、ちょっと気になったので学習メモとして記事にまとめました。
Magnesium Sulfate: Drug Safety Communication – Recommendation Against Prolonged Use in Pre-term Labor
(FDA Safety Infromation 2013.05.30)
http://www.fda.gov/Safety/MedWatch/SafetyInformation/
SafetyAlertsforHumanMedicalProducts/ucm354603.htm
FDA Recommends Against Prolonged Use of Magnesium Sulfate to Stop Pre-term Labor Due to Bone Changes in Exposed Babies
(FDA Drug Safety Communication 2013.05.30)
http://www.fda.gov/Drugs/DrugSafety/ucm353333.htm
http://www.fda.gov/downloads/Drugs/DrugSafety/UCM353335.pdf
日本語訳概要(医薬品安全性情報Vol.11 No.14)
http://www.nihs.go.jp/dig/sireport/weekly11/14130704.pdf#page=2
内容は、胎児のカルシウムレベルの低下と、骨形成の異常をもたらす可能性があるとして、切迫早産への硫酸マグネシウムの注射は5~7日を超えて連続使用しないよう注意喚起するとともに、Pregnancy Category(胎児危険度分類→ウィキペディア)をカテゴリーAからDに変更するというものです。
次に示したのが、FDAで引用している論文です。高マグネシウム血症が骨代謝に影響を与えるのが原因ではないかと推測されているようです。(古い論文が多いというのもひっかかるが、意外にも日本のものも複数含まれている)
Prolonged maternal magnesium administration and bone metabolism in neonates.
(Early Hum Dev. Published Online 12 Mar 2010)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20226604
(自治医大の報告。後ろ向き症例対照研究。潜在的な長期的な副作用や子宮内で胎児の骨代謝への影響については今後の研究で調査されるべきとした)
Skeletal demineralization and fractures caused by fetal magnesium toxicity.
(J Perinatol. 2006 Jun;26(6):371-4.)
http://www.nature.com/jp/journal/v26/n6/full/7211508a.html
Bone mineralization in newborns whose mothers received magnesium sulphate for tocolysis of premature labour.
(Pediatr Radiol. 2004 May;34(5):384-6.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14985884
Osteopenic effects of MgSO4 in multiple pregnancies.
(J Pediatr Endocrinol Metab. 2006 Oct;19(10):1225-30.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17172083
Adverse maternal and neonatal outcome of prolonged course of magnesium sulfate tocolysis.
(Acta Obstet Gynecol Scand. 2006;85(9):1099-103.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16929415
Effect of magnesium sulfate treatment on neonatal bone abnormalities.
(Gynecol Obstet Invest. 1997;44(2):82-8.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9286718
(鹿児島市立病院の報告。出生児の11.4%で骨異常が認められた)
Magnesium tocolysis and neonatal bone abnormalities: a controlled study.
(Obstet Gynecol. 1991 Oct;78(4):611-4.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1923163
Effects of magnesium sulfate treatment on perinatal calcium metabolism. II. Neonatal responses.
(Obstet Gynecol. 1980 Nov;56(5):595-600.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7432730
(48時間以内というのは、この論文から?)
Effects of long-term maternal intravenous magnesium sulfate therapy on neonatal calcium metabolism and bone mineral content
(Gynecol Obstet Invest. 1997;43(4):236-41.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9194621
日本では硫酸マグネシウムの注射液は2006年に、公知申請で、「切迫早産における子宮収縮の抑制」という効能で「マグセント注100mL」(ブドウ糖との配合剤)が薬価収載されています。(米国でも広く使用されているが、意外にもoff-label での使用。安全性と有効性が確立されていないことを意味しているとの説明も。適応症があるのは独・仏・英だけのようです)
また、日本の添付文書では「副作用等によりリトドリン塩酸塩の投与が制限される場合、又はリトドリン塩酸塩で収縮が抑制されない場合に投与すること」「本剤の投与は48時間を原則とし、継続して投与する場合は、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合に限って投与することとし、漫然とした投与は行わないこと」となっており、日本では今回の注意喚起を超える日数の投与がないものと思いましたが、承認審査書(リンク1)を見ると必ずしもそうではないようにも思いました。
2006年承認時の審査報告書(→リンク1.リンク2)、申請資料概要(→リンク)
さらに、 2012年8月の再審査報告書(→リンク)を見ると、承認後に行われた日本産婦人科学会による安全性に関する調査(有効性解析対象症例は1007例)によれば、投与期間が8日を超える症例が6割を超えており、今回の注意喚起に該当ケースが日本でも少なくないように思われました。
硫酸マグネシウムによる切迫早産対策を考える
(MT Pro 2011.03.24)
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtnews/2011/M44120501/
(早産児の脳障害抑制作用が期待され、むしろ長期維持療法に肯定的? スポンサー提供記事)
また、出生時に対して影響を及ぼすか否かを検討するために行われた「特定使用成績調査(児の追跡調査)」によれば、低カルシウム血症が11件認められたそうですが、骨形成や骨折についての記載はありませんでした。
なお、再審査報告書によれば、ドイツでは2010年に、医薬品医療機器庁(BfArM)から「流産傾向」「早産傾向」「胎児発育不全」の適応範囲の取り消しからの打診を受け、「流産傾向」と「胎児発育不全」については適応を取り下げることが行われたようです。
ググったところ、切迫早産にはニフェジピンなどのカルシウム拮抗薬の使用や抗生剤の予防的投与も行われているようです。
切迫早産の治療
(産婦人科専門医・周産期専門医からのメッセージ 2011.04.26-28-30)
http://ameblo.jp/sanfujin/entry-10816318496.html
http://ameblo.jp/sanfujin/entry-10816323282.html
http://ameblo.jp/sanfujin/entry-10816325142.html
切迫早産の診断・管理・治療に関する文献的考察
~Cochrane Reviewsを中心に~
(青森臨産婦誌 19(2) p91-98, 2004)
http://www.med.hirosaki-u.ac.jp/~obste/rinsanpu/JASOG/JASOG19_10.pdf
硫酸マグネシウムを使用する立場に立って
(日産婦誌 64(1) 21-25,2012)
http://www.jsog.or.jp/PDF/64/6401-021.pdf
(薬物療法先般に批判的だけど)
妊娠中毒症と切迫早産の胎児(たいじ)と母体を守る会(P-LAPの会)設立の趣旨
http://www.p-lap.org/kainituite/index.html
関連記事:
FDA Limits Magnesium to Prevent Preterm Labor
(Medpage TODAY 2013.05.30)
http://www.medpagetoday.com/OBGYN/Pregnancy/39486
7月8日 リンク追加
2013年06月03日 00:10 投稿
関連記事です。
硫酸Mgの胎児危険度分類をAからDに引き上げ
(MT Pro 2013.06.04)
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/1306/1306003.html