10日、以前紹介(TOPICS 2012.01.18)したノイラミニダーゼ阻害薬(タミフル、リレンザ)の効果についてのコクランのシスティマテイックレビューの更新版が発表されています。
コクラン共同計画がインフルエンザ治療薬タミフルの効果は限定的とのシステマティック・レビューを公開、使用指針の見直しを求めてBMJと共同声明を発表
(ワイリー・ヘルスサイエンスカフェ 2014.04.10)
http://www.wiley.co.jp/blog/health/?p=3852
Neuraminidase inhibitors for preventing and treating influenza in healthy adults and children
(The Cochrane Library Published Online 10 Apr 2014)
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/14651858.CD008965.pub4/abstract
(現在のところオープンアクセスになっています)
上記アブストラクト和訳
(『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No168 )
http://npojip.org/sokuho/no168-2.pdf
研究者らは、個人または家族でインフルエンザの発生を防止する予防薬剤として使用する場合、改めて予防への効果はわずかしかないことが示唆され、インフルエンザの流行に際して、予防薬剤としてこれら薬剤を使用することに裏づけはあまりないとした他、ノイラミニダーゼ阻害剤を備蓄することやWHO 必須薬リストへ含めることを支持しないと結論づけています。(上記より引用)
また、今回のレビュー公表に合わせて、コクランとBMJは共同で、各国政府および医療政策関係者に向けて、タミフルの使用指針を最新のエビデンスに基づいて見直すよう求める声明を発表しています。
Tamiflu & Relenza: how effective are they?
(BMJ and Cochrane Press Release 2014.04.10)
http://www.cochrane.org/features/tamiflu-relenza-how-effective-are-they
上記和訳
(『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No168 )
http://npojip.org/sokuho/no168-3.pdf
今回のレビューでは、雑誌記事に掲載されたデータではなく、英国、米国、欧州医薬品庁(EMA)、日本などでこれら薬剤が承認を取得する過程で作成された文書がレビューの対象となっているとのことで、この手法に対して、製薬会社から反発の声もあるようです。
BMJ 誌では、今回のコクランのレビューに関連して、レビューアーによる論文(コクランレビューの一部紹介)や関連記事・論説などを掲載しています。(すごい力の入れよう)
Cochrane review questions effectiveness of neuraminidase inhibitors
(BMJ Published Online 10 Apr 2014)
http://www.bmj.com/content/348/bmj.g2675
Oseltamivir for influenza in adults and children: systematic review of clinical study reports and summary of regulatory comments
(BMJ Published Online 10 Apr 2014)
http://www.bmj.com/content/348/bmj.g2545
Zanamivir for influenza in adults and children: systematic review of clinical study reports and summary of regulatory comments
(BMJ Published Online 10 Apr 2014)
http://www.bmj.com/content/348/bmj.g2547
Neuraminidase inhibitors for influenza
(BMJ Published Online 10 Apr 2014)
http://www.bmj.com/content/348/bmj.g2548
The missing data that cost $20bn
(BMJ Published Online 10 Apr 2014)
http://www.bmj.com/content/348/bmj.g2695
The Tamiflu trials
(BMJ Published Online 10 Apr 2014)
http://www.bmj.com/content/348/bmj.g2630
Oseltamivir: another case of regulatory failure?
(BMJ Published Online 10 Apr 2014)
http://www.bmj.com/content/348/bmj.g2591
Tug of war for antiviral drugs data
(BMJ Published Online 10 Apr 2014)
http://www.bmj.com/content/348/bmj.g2227
Tamiflu: “a nice little earner”
(BMJ Published Online 10 Apr 2014)
http://www.bmj.com/content/348/bmj.g2524
Google ニュースで記事をチェックすると、各国メディアが「お金の無駄」などの見出しで記事を配信しています。さて日本はどう報じるでしょうか。
関連情報:TOPICS
2014.01.06 タミフルの政府備蓄を疑問視(英国議会決算委員会)
2012.01.18 タミフルの有用性に疑問(コクランレビュー)
2009.12.09 タミフルの合併症の予防効果を疑問視(海外研究)
2009.07.31 子どもへのタミフル予防投与と有害事象の発現(英国報告)
(これ以外にも関連記事があります。サイト内検索でどうぞ)
関連記事:
タミフルの無効と害が証明される
–国際研究グループ(コクラン共同計画)の最新の結果で–
(『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No168 2014.04.10)
http://npojip.org/sokuho/140410.html
Tamiflu: Millions wasted on flu drug, claims major report
(BBC NEWS 2014.04.10)
http://www.bbc.com/news/health-26954482
Tamiflu: Government ‘must listen’ to findings
http://www.telegraph.co.uk/news/newsvideo/10757030/Tamiflu-Government-must-listen-to-findings.html
Roche challenges Tamiflu findings
(PMLiVE 2014.04.10)
http://www.pmlive.com/pharma_news/roche_challenges_tamiflu_findings_559611
Scientists say UK wasted £560m on flu drugs that are not proven
(Guardian 2014.04.10)
http://www.theguardian.com/world/2014/apr/10/uk-wasted-560m-stockpiling-flu-drugs
2014年04月10日 23:10 投稿
かねてから、英国保健省が行った抗インフルエンザウィルス薬備蓄に対し、手厳しい批判が家国議会で行われており、その延長線での論調とみることもできるかと思います。
感染症研究家の先生から伺ったところ、現在のインフルエンザワクチンは、予防薬というよりは、感染時の症状の軽減・症状からの離脱日数の減少に役立つというもので、抗ウィルス薬と同様の役割としていました。 それでも、費用対効果を考えると、インフルエンザワクチンのほうに軍配が上がりそうです。 また、日本での大量消費に非難もされていましたが、死亡(数、率)の減少に役立ったとする意見もあり、欧米の疾病対策部署では、その辺を評価しているようです。
まぁ、英国の保健医療従事者の常識としては、まずはアセトアミノフェンやイブプロフェンといった熱さましを飲んで、早めに休むことこそが合理的な風邪、インフルエンザ対策としているようです。
まいけるさんが指摘されているのは、Lancet Respiratory Medicine 誌に先月掲載された下記論文かと思います。(意外と日本でも紹介が少ない)
Effectiveness of neuraminidase inhibitors in reducing mortality in patients admitted to hospital with influenza A H1N1pdm09 virus infection: a meta-analysis of individual participant data
(Lancet Pespir Med Published Online 19 Mar 2014)
http://www.thelancet.com/journals/lanres/article/PIIS2213-2600(14)70041-4/abstract
上記論文を紹介したブログ記事です。
インフルエンザ入院患者におけるタミフルの生命予後改善効果について
(六号通り診療所所長のブログ 2014.03.25)
http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2014-03-25-1
インフルエンザ感染による入院患者では、できるだけ早く抗インフルエンザ薬を飲んだ方が良いですか?
(薬剤師の地域医療日誌 2014.04.12)
http://blog.livedoor.jp/ebm_info/archives/37108074.html
上記で指摘されていますが、この研究はあくまでも対象が入院している患者であり、プライマリケアで遭遇する多くの症例では、このような結果にならない可能性があり、ハイリスクではない患者さんについてはどのように考えるべきかは留意が必要のようです。(ちなみにこの論文は下の方にロシュ社がFundingしているとのクレジットがありますね)
さて、今回のシスティマティック・レビューでの結果は2年前にも指摘されたことであり、国内での報道は今回は限られたものとなりましたが、海外では詳しい解説記事が出ています。(レビューアーの浜氏での和訳が気になる方は、下記でご確認を)
システィマティック・レビューの解説記事
Effectiveness of Tamiflu and Relenza questioned
(NHS Choices 2014.04.10)
http://www.nhs.uk/news/2014/04April/Pages/questions-over-tamiflu-relenza-effectiveness.aspx
(特にレビュー結果に対してのコメントはなかった)
タミフルの有用性に関する解説記事(ツイートとコメントが多数)
What the Tamiflu saga tells us about drug trials and big pharma
(Guardian 2014.04.10)
http://www.theguardian.com/business/2014/apr/10/tamiflu-saga-drug-trials-big-pharma
英国王立薬剤師会の機関誌のニュース(一定期間を過ぎるとログイン必要)
Debate over access to trial data heats up after researchers find Tamiflu shows little benefit
(PJ Online 2014.04.10)
http://www.pjonline.com/news/debate_over_access_to_trial_data_heats_up_after_researchers_find_tamiflu_shows_little_benefit
各国の当局は今回のレビューや報道については特に反応がありませんが、米疾病対策センターは、これまでの勧告を変えないというステートメントを発表しています。
CDC Recommendations for Influenza Antiviral Medications Remain Unchanged
(CDC 2014.04.10)
http://www.cdc.gov/media/haveyouheard/stories/Influenza_antiviral2.html
国内では下記ブログで紹介があります
タミフルは有効性よりも安全性の懸念が大きい可能性があるとの研究結果
(くすりなひと 2014.04.11)
http://kusurinahito.futsuo-holiday.com/?eid=300