海外公的機関 医薬品安全性情報Vol.12 No.10 で、EMAのARBとACE阻害薬の2剤併用療法に関する情報を紹介しましたが、23日、CHMP(医薬品委員会)がPRAC(ファーマコビジランス・リスク評価委員会)の勧告を支持する見解を採択したことを明らかにしています。
Combined use of medicines affecting the renin-angiotensin system (RAS) to be restricted – CHMP endorses PRAC recommendation
(EMA 2014.05.23)(→リンク) (→リンク)
(PRACの勧告)
PRAC recommends against combined use of medicines affecting the renin-angiotensin (RAS) system
(EMA 2014.04.11)(→リンク)(→委員会議事録)(→日本語訳概要)
全ての患者に対し、ARB/ACE阻害薬とアリスキレンとの併用に加え、ARBとACE阻害薬との併用についても非推奨とし、特に糖尿病関連の腎臓疾患(糖尿病性腎症)がある患者に対しては、ARBとACE阻害薬の併用はすべきではないとしています。(血圧低下、高カリウム血症、腎機能低下などのリスク)
また、ARB/ACE阻害薬とアリスキレンとの併用は厳格に禁忌としています。(strictly contraindicated)
一方、心不全患者など、併用が不可欠であると考えられる場合(ACE阻害薬にカンデサルタンやバルサルタンの上乗せについては承認がある)は、専門医の監督下で、腎機能、電解質、血圧を緊密にモニターしながら実施すべきとしています。
製品情報( Summary of Product Characteristics)の改定案も示されています。
Renin-angiotensin-system (RAS)-acting agents Article-31 referral – Annex II
(EMA Published Online 23 May 2014)(→リンク)
ACE阻害薬については、Section 4.4 – Special warnings and precautions for use の項に下記文言が追記されるそうです。
- There is evidence that the concomitant use of ACE-inhibitors, angiotensin II receptor blockers or aliskiren increases the risk of hypotension, hyperkalaemia and decreased renal function (including acute renal failure). Dual blockade of RAAS through the combined use of ACE-inhibitors, angiotensin II receptor blockers or aliskiren is therefore not recommended
- If dual blockade therapy is considered absolutely necessary, this should only occur under specialist supervision and subject to frequent close monitoring of renal function, electrolytes and blood pressure.
- ACE-inhibitors and angiotensin II receptor blockers should not be used concomitantly in patients with diabetic nephropathy.”
日本でも、既に関係学会がARBとACE阻害薬の併用はGLで推奨しないなどの見解を示しています。
高血圧治療ガイドライン2014(日本高血圧学会)
http://www.jpnsh.jp/guideline.html
一般的にこの組み合わせの併用は推奨されない。併用する場合には少量の併用から開始し、注意深い観察が必要である。(49ページ)
CKD診療ガイド2012
http://www.jsn.or.jp/guideline/ckd2012.php
併用する場合には eGFRの低下や、血清K 上昇、および過剰降圧に十分注意する必要があり、両者の併用投与は原則として腎臓・高血圧専門医によってなされるべきである(66ページ)
近く発表される、日本の対応が注目されますね。(どこまで、例外を作るのだろう)
関連論文(根拠としたエンビデンス):
Telmisartan, ramipril, or both in patients at high risk for vascular events.
(NEJM 2008 Apr 10;358(15):1547-59.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18378520
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa0801317
Cardiorenal end points in a trial of aliskiren for type 2 diabetes.
(NEJM 2012 Dec 6;367(23):2204-13.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23121378
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1208799
Combined Angiotensin Inhibition for the Treatment of Diabetic Nephropathy
(NEJM Published Online 9 Nov 2013)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24206457
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1303154
上記解説
日経BP
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/nejm/201311/533786.html
MT Pro
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/doctoreye/dr131102.html
Efficacy and safety of dual blockade of the renin-angiotensin system: meta-analysis of randomised trials
(BMJ Published Online 28 Jan 2013)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3556933/
関連情報:TOPICS
2014.05.10 海外公的機関 医薬品安全性情報Vol.12 No.10
2014年05月25日 17:08 投稿
まもなく、PMDAにアップされると思いますが、日刊薬業さんが、日本の対応を速報しています。
「使用上の注意」の改訂について
(厚労省医薬食品局安全対策課長 2014.006.03/日刊薬業行政情報)
http://nk.jiho.jp/servlet/nk/release/pdf/1226660821361
ARBの場合、
[相互作用]の「併用注意」の項に
「アンジオテンシン変換酵素阻害剤 [臨床症状・措置方法:腎機能障害、高カリウム血症及び低血圧を起こすおそれがあるため、腎機能、血清カリウム値及び血圧を十分に観察すること。機序:危険因子:併用によりレニン-アンジオテンシン系阻害作用が増強される可能性がある。]」
を追記すること。
またも、現場での裁量に任せるという判断になりましたね。
欧州との対応の差をどう考えたらいいのでしょう。
武田さんが、さっそく添付文書改訂情報をアップしています。
「使用上の注意」改訂のお知らせ
(武田薬品工業 2014.06.11)
http://www.takedamed.com/content/medicine/newsdoc/140603-arb.pdf
(リンクすみません)
アンジオテンシンII受容体拮抗剤(ARB)とアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤の併用により、腎機能障害、高カリウム血症及び低血圧のリスクが高まることが報告されています。
レニン-アンジオテンシン(RA)系薬剤の併用療法と単剤療法の長期有効性及び安全性を比較検討した臨床試験(33試験)のメタアナリシスに基づいて、ARBとACE阻害剤の併用に関する注意事項を追記しました。
RA系薬剤(ARB、ACE阻害剤、及び直接的レニン阻害剤)のいずれか2つのクラスの併用療法をいずれかの単独療法と比較した各試験成績をまとめた本メタアナリシスにおいて、併用療法では単独療法と比べて腎機能障害、高カリウム血症及び低血圧のリスクが高まることが報告されています。
また、本メタアナリシスと別の研究では、腎症を伴う2型糖尿病患者を対象としてARBとACE阻害剤との併用療法とARB単独療法が比較検討された結果、併用療法において高カリウム血症及び急性腎障害のリスクが高まることが報告されています。
武田のが一番詳しいようです。ノバルティスも少し詳しい
使用上の注意改訂のお知らせ
(ノバルティスファーマ 2014.06.03)
http://product.novartis.co.jp/dio/os/os_dioetc_1406.pdf
ディオバン改訂添付文書
http://product.novartis.co.jp/dio/pi/pi_dio_1406.pdf
これじゃほとんど目立たないですね。EMAであれだけ注目されなのにね。
単なる併用注意じゃ、現場に認識がどこまで広がるでしょうかね?
リスクが高まるというのなら、「併用は慎重に行う」といった文言を加えることはできなかったのでしょうか? (厚労省の指示がないから無理だけど)
PMDAにアップされました。
使用上の注意改訂情報
(平成26年6月3日指示分)
http://www.info.pmda.go.jp/kaitei/kaitei20140603.html
アンジオテンシン変換酵素阻害剤及びアンジオテンシンII受容体拮抗剤含有製剤の「使用上の注意」の改訂について
http://www.info.pmda.go.jp/kaitei/file/20140603frepno1.pdf
アンジオテシ変換酵素阻害剤及びアンジオテンシンII受容体拮抗剤を併用した場合の有効性及び安全性の討を目的としたメタ解析において、両剤併用群では単剤投与と比較して腎機能障害、高カリウム血症、低血圧のリスクが有意に増加しとの文献が報告されたことから、専門委員の意見も踏まえた調査の結果、改訂することが適切と判断した。
「え、これだけ?!」という印象です。今回の改訂には、EMAでの評価は関係ないというスタンスのようですね。
もう少し議事録とか、出すことはできないのでしょうか?
それと専門委員って、どなたかやっているんでしょう? 相次いでいる文献や、海外の動きは当然把握しているはずなのに、現場への注意喚起としてはこれだけでは不十分ではないのでしょうか?
アリスキレンとARB/ACE阻害薬との併用とのときもそうですが、もし、現場への混乱を避けるための措置であれば、誰のための添付文書改訂なのかと思います。