すでにツイッターで各業界紙の報道を伝えてきましたが、厚労省はついに登録販売者の試験の受験資格に実務経験の要件を不要とするなどとする案をまとめ、9日より意見募集を開始しました。
薬事法施行規則等の一部を改正する省令(案)等に関する意見の募集について
(案の公示日2014年06月09日、意見・情報受付締切日 2014年07月08日)
改正の概要→概要
1.登録販売者試験の受験資格としての実務経験要件等の廃止
登録販売者試験の受験資格として定められている次に掲げる実務経験要件等を不要とする。(規則第159条の5関係)
① 旧大学令に基づく大学及び旧専門学校令に基づく専門学校において薬学に関する専門の課程を修了した者
② 平成18年3月31日以前に学校教育法に基づく大学(短期大学を除く。)に入学し、当該大学において薬学の正規の課程を修めて卒業した者
③ 平成18年4月1日以降に学校教育法に基づく大学に入学し、当該大学において薬学の正規の課程(同法第87条第2項に規定するものに限る。)を修めて卒業した者
④ 旧制中学若しくは高校又はこれと同等以上の学校を卒業した者であつて、1年以上薬局又は店舗販売業若しくは配置販売業において薬剤師又は登録販売者の管理及び指導の下に実務に従事した者
⑤ 4年以上薬局又は店舗販売業若しくは配置販売業において薬剤師又は登録販売者の管理及び指導の下に実務に従事した者
⑥ ①~⑤に掲げる者のほか、一般用医薬品の販売に従事しようとするに当たり①~⑤に掲げる者と同等以上の知識経験を有すると都道府県知事が認めた者
2.店舗管理者等の要件としての実務経験要件の設定
店舗販売業の店舗及び配置販売業の区域(以下「店舗等」という。)の管理者(以下「店舗管理者等」という。)の要件について、以下のとおり見直すこととする。(規則第140条及び第149条の2関係)
(1) 店舗管理者等の要件は、現在、以下とおり定められている。
① 要指導医薬品又は第1類医薬品を販売し、又は授与するする店舗等:薬剤師
② 第2類医薬品又は第3類医薬品を販売し、又は授与するする店舗等:薬剤師又は登録販売者
これについて、1の見直しに伴い、②の店舗等の店舗管理者等になることができる登録販売者を、過去5年間のうち薬局等において
(ⅰ)一般従事者として薬剤師又は登録販売者の管理及び指導の下に実務に従事した期間及び
(ⅱ)登録販売者として業務(店舗管理者又は区域管理者としての業務を含む。)
に従事した期間の合計が通算して2年以上である者に限ることとする。
(2)(1)①に関わらず、第1類医薬品を販売する店舗等で薬剤師を管理者とすることができない場合は、現在、
① 要指導医薬品又は第1類医薬品を販売する薬局
② 薬剤師が店舗管理者である要指導医薬品又は第1類医薬品を販売する店舗販売業
③ 薬剤師が区域管理者である第1類医薬品を販売する配置販売
のいずれかで登録販売者として業務に従事した期間が3年以上である者を店舗管理者等とすることできるとされているが、これを、過去5年間のうち当該期間及び第1類医薬品を販売する店舗の店舗管理者又は配置販売する区域の区域管理者であった期間が通算して3年以上である者と改める。
※ 要指導医薬品を販売する店舗等で、薬剤師を管理者とすることができない場合の経過措置についても同様の見直しを行う。
3.従事者の区別等
(1)1及び2の見直しに伴い、店舗管理者等になることができる登録販売者以外の登録販売者については、名札にその旨が容易に判別できるよう必要な標記をしなければならないこととする。(規則第15条、第147条の2及び第149条の6関係)
(2) また、この登録販売者については薬局等におて、薬剤師又は登録販売者(店舗管理者等になることができる登録販売者に限る。)の管理及び指導の下に実務従事させなければならないこととする。
4.実務・業務経験の証明及び記録
薬局開設者、店舗販売業者又は配置販売業者(以下「薬局開設者等」という。)は、その薬局等において、
① 一般従事者として薬剤師又は登録販売者の管理及び指導の下に実務に従事した者
② 登録販売者として業務(店舗管理者又は区域管理者としての業務を含む。)に従事した者
から、過去5年間においてその実務又は業務に従事したことの証明を求められたときは、速やかにその証明を行うとともに、証明に必要な記録を保存しなければならないこととする。
(規則第15条の8、第15条の9、第147条の2、第147条の9及び第147条の10関係)
5.薬局等の掲示・表示事項等
薬局開設者等が、掲示
・表示すべき事項又は配置の際に添付する文書に記載すべき事項として、以下の事項を追加する。
(別表第1の2から別表第1の4まで関係)
(掲示・表示事項等)
・薬局等に勤務する店舗管理者等となることができる登録販売者又はそれ以外の登録販売者の別
(表示事項(特定販売を行う場合のみ))
・現在勤務している店舗管理者等となることができる登録販売者又はそれ以外の登録販売者の別
6.経過措置
(1)この省令の施行の際現に、法第36条の8第2項の規定による販売従事登録を受けている登録販売者(以下「既存登録販売者」という。)については、この省令の施行日から5年を経過するまでの間は、店舗管理者等となることができる登録販売者とみなして、この省令による改正後の規則の規定を適用する。また、当該期間中は、既存登録販売者に係る2(2)及び4(②に係る部分に限る。)の適用については、なお従前の例による。
(2)旧薬種商の店舗において一般従事者として薬剤師又は登録販売者の管理及び指導の下に実務に従事した期間及び登録販売者として業務(店舗管理者又は区域管理者としての業務を含む。)に従事した期間については、2(1)の期間に通算できることとするなどの措置を講じる。
7.その他
1から6までのほか、所要の規定の整備を行う。
Ⅲ.施行日(予定)
平成27年4月1日
※ 今年度の登録販売者の試験は従前のとおり
簡単にいうと、登録販売者試験の受験資格は、学歴不問、実務経験は不要とする制度への改正を図るとともに、合格後は店舗に従事中の薬剤師又は登録販売者の管理・指導の下、名札で来店者が判別できれば、販売に従事することが可能になるというものです。(つまり実務経験は後付けとなり、一定期間従事すれば、管理者となることもできる)
はっきり言って、登録販売者制度の根幹にに関わる部分をパブリックコメントで、決めてしまうとする厚労省のやり方には憤りを感じます。
背景には、性善説で制度設計された実務経験という受験要件が、相次いだ偽装申告による不正受験で困難になり、他の薬事監視業務を考えると、もはやできないという厚労省側の事情があるようですが、今回のパブリックコメントでは、そういった改正の理由が一切触れられていません。
確かに、受験資格としての実務経験は当時も意見が割れれていました。
第3回登録販売者試験実施ガイドライン作成検討会議事録
(厚労省 2007.03.26)
https://twitter.com/kojima_aponet/status/472221936135589888
上記から各団体等の意見を抜粋します。
チェーンドラッグ協会:
受験資格のことでございますけれども、資格に関しましては、前に私は述べましたけれども、私どもの店頭においては各種各様の方がお見えになる。その中で一般用医薬品を販売していくということでございますので、そのバックグラウンドといたしましても、出産であったり介護であったり食事であったり運動であったり、いろいろな背景を背負った中で一般用医薬品をお求めになるということですので、これらをどう試験という形とすりあわせていくかというところでございますけれども、何らかの形で実務経験というようなものを加味するのはいかがかなというふうに考えております。要するにそういった制度をとったらいいのじゃないかなと思っています。
と言いますのは、例えば高卒であるとか18歳以上というふうな形になろうかと思いますが、先ほどもそういう提案がございますけれども、未成年の方が資格を得られるという形があり得ると思います。そうすると、その未成年の方もこの法律が進んでまいりますと、開設者、つまり責任者になっていくと。そうすると「未成年の方がいろいろな販売上起きてきた問題に関する責任というものを問えるような形になるのかどうか」というようなことも起きてきてまいりますので、このことに関しましても十分検討して、管理者になった場合でも、その責任が問われるような形でのものは、用意していく必要があるのではないかなというふうに考えております。
全国配置家庭薬協会:
業界に優秀な人材を求めるために、このような人たちに受験をしてもらうため、実務経験は不必要ではないかという考えでございます。多くの受験者が予想され、受験者が配置に従事するような業界の活性化が必要であると考えております。
全日本薬種商協会:、
薬は普通の商品とは違います。健康を扱うものです。やはりそれだけのまた経験を積むことは、経験を積むことによって倫理観も養われると思うのです。経験のない人に倫理観なんかありません。そういったことで、経験、倫理観を養ってほしいということです。
一方、慶応大の望月教授は、
(実務経験について、店頭の販売のお手伝いというふうな経験という考え方に対し)
いや、そこはすごく大事な部分だと思うのですが、無許可になってしまいますよね。ですから知識のない人たちがどういう形で実務経験を積んでいくかというところが、非常に難しいですし、その実務経験を要件として課さねばならない実務経験とすべきなのか。知識がなくて、ただそばについているというような。例えば薬剤師の場合は、きちんと4年生が終わる段階で共用試験というCBT、OSCEというのがあるのですね。それは知識レベルで実習をしても大丈夫かどうかという点、それら技術レベルで実習をするに相当する最低限のものを持っているかどうかという確認試験です。それが終わった後で実習というのをやっていくのですね。それもきちんとカリキュラムがあって、かなりきっちりチェックをして採点をされて成績がついていくという形になっているのです。そういう基本的な知識や技術の全くない素人の人たちを実務経験させるというのは、私は結構難しい部分があるのかなというふうに思う。
しかし最終的には、「役割をしっかりと果たすことができるようにするためには、あらかじめ、専門家である薬剤師又は登録販売者の管理・指導の下、受験資格として実務経験を積むことを通じて実践的な資質を身につけている必要がある。具体的には、医薬品の販売等の現場において、医薬品の取扱いを知ることや、購入者等からの要望を聞きそれを専門家に伝えて応答の仕方を知ることなどを通じて座学では習得しにくい知識を身につけ、かつ、習得した知識の実践への生かし方を学ぶことなどが考えられる。」として、受験資格として、1年間の実務経験を求めることが適当であるとした報告書がまとめられていることを考えると、今回、この制度の根幹に関わる部分の変更について、一方的に改正案を作り、アリバイ的なパブリックコメントで同意を求める手法には疑問を感じざるを得ません。
登録販売者試験実施ガイドライン 作成検討会報告書
(厚労省 2007.06.26)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/07/s0701-1a.html
また、去年、規制改革ホットラインに寄せられた要望に対し、厚労省は「受験資格から実務経験を撤廃することは困難と考えております。」と見解を示していました。
H25年度検討要請に対する所管省庁からの回答
(規制改革会議)
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/hotline/siryou2/item5.pdf
明らかにこれまでの方針の転換であり、改定の理由について示さないのでは納得がいくものではありません。
薬局新聞よれば、全日本医薬品登録販売者協会へ示した、今回の「制度の見直しの効果」には次のようなものがあるとのこと
- 医薬品販売に関する基本的知識があるものが、一定期間、指導者の下での勤務とすることで、安全性を確保。
- 実務経験証明が明確になり、都道府県の負担を軽減(監視業務等に力点を置くことが可能)
今回の制度改定の理由が単に、「確認業務が煩雑」「不正証明も問題」だけだとするなら、こんな不正が横行する制度を作ったのはいったい誰なのかと言いたいですね。
そうでなければ、官邸・政権与党から見直し要求の相当な圧力があったと言わざるを得ません。
いずれにせよ、改定理由を示さず、こういった形で制度の改正を決めるやり方には疑問を感じざるを得ません。
関連情報:TOPICS
2007.07.11 登録販売者の受験資格
参考:
登録販売者試験、実務経験廃止でパブコメ-不正防止で厚労省令改正へ
(医療介護CBニュース 2014.06.09)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140609-00000004-cbn-soci
http://www.cabrain.net/news/article.do?newsId=42948
登録販売者受験資格見直し‐実務経験を合格後の2年間に
~厚労省、不正防止で
(薬事日報 2014.05.30)
http://www.yakuji.co.jp/entry36486.html
http://www.s-mpro.com/news/detail/215/
薬局新聞5月28日、6月4日
19:00 更新
2014年06月09日 14:28 投稿
改正省令が7月31日の官報で公布され、2015年4月からの施行が決まりました。
登録販売者試験の受験資格、来年4月より実務経験や学歴は不問に
http://www.watarase.ne.jp/aponet/blog/140708.html
通常省令公布と同時に公表されるパブコメ結果は現時点ではまだアップされていません。(おそらくいろいろな意見が出ていると思う)
夜になってパブコメ結果がアップされました。
薬事法施行規則の一部を改正する省令(案)に関する意見の募集の結果について
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495140115&Mode=2
過去の大規模な不正受験は、企業ぐるみがほとんどです。高い人件費の薬剤師を削除し、登録販売者だけで販売が可能な23類のみの店舗に変更することによる人件費の削減。あるいは、薬剤師不在時の留守番としての登録販売者の雇用、これもまた 人件費の削減。今回の改正では、試験に合格しても企業は雇いません。即、戦力にならないからです。1人で販売不可能だからです。これは、登録を目指した方々にとっても負になる事態だと思います。合格しても、受け入れ先があるかどうか疑問です。今の企業には育てる余裕はないでしょう。