ラニナミビル(イナビル)の欧米での開発は困難?(Update2)

1日、ロイター配信などの記事が気になり調べてみました。(WEBニュース記事を基にまとめました。話題のメモとして、ご参考下さい。また、誤り等がありましたらご指摘下さい)

Biota’s lead drug fails mid-stage study, shares slump
(Reuter 2014.08.01)
http://www.reuters.com/article/2014/08/01/us-biota-pharma-study-idUSKBN0G13YP20140801

記事はラニナミビルオクタン酸エステル水和物(本邦:イナビル吸入粉末剤20mg 開発番号:CS-8958)の欧米で行われたフェーズ 2 で、有意差が得られず、臨床試験に失敗したというものです。

ラニナミビルというと、ご存じの通り第一三共が創製した長時間作用型ノイラミニダーゼ阻害剤で、同社では、欧米においてビオタ社(Biota Pharmaceuticals Inc)と導出活動中と伝えていました。

主要研究開発パイプライン (2014年7月現在)(第一三共)
http://www.daiichisankyo.co.jp/corporate/rd/pipeline/pdf/Pipeline_JP.pdf

今回の臨床試験の結果について、ビオタ社(http://www.biotapharma.com/)ではプレスリリースを行い、各紙もそれを紹介しています。

Biota Reports Top-Line Data From Its Phase 2 “IGLOO” Trial of Laninamivir Octanoate
(biota 2014.08.01)
https://globenewswire.com/news-release/2014/08/01/655382/10092476/en/Biota-Reports-Top-Line-Data-From-Its-Phase-2-IGLOO-Trial-of-Laninamivir-Octanoate.html
http://investors.biotapharma.com/releasedetail.cfm?ReleaseID=863626

臨床試験は、2013年6月~2014年4月に世界12か国639人に対象に行われた“IGLOO trial”で、投与3日後のウイルス排出や二次的最近感染症の発症率は統計学的に有意に減少させたものの、一次アウトカムである、インフルエンザの症状を緩和する時間がプラセボと比べて有意差が得られなかったというものです。

(研究プロトコル)
Efficacy and Safety Study of Laninamivir Octanoate TwinCaps® Dry Powder Inhaler in Adults With Influenza (Igloo)
http://www.clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT01793883

実は、biota 社によるラニナミビルの開発にあたっては、米国保健社会福祉省の生物医学先端研究開発局(Biomedical Advanced Research and Development Authority:BARDA)を介して、政府が5年間最大で2億3100万ドルの開発のための資金提供を行うという契約が、2011年3月に締結されていました。

しかし、今年5月にこの契約が突然解除、政府からの資金提供も打ち切りとなり、この時点で開発に暗雲が漂っていました。(その後同社では大規模なリストラ策も発表している)

Biota Provides Update on BARDA Contract for Laninamivir Octanoate
(Biota 2014.05.08)
https://globenewswire.com/news-release/2014/05/08/634478/10080750/en/Biota-Provides-Update-on-BARDA-Contract-for-Laninamivir-Octanoate.html
http://investors.biotapharma.com/releasedetail.cfm?ReleaseID=846423

上記プレスリリースでは、契約解除の理由はわからないとしていますが、下記記事によれば、BARDA関係者の話として、資金提供が停止された理由について、医薬品そのものについての安全性に懸念はないものの、臨床試験の方法や追加試験におけるコスト、最近のH7N9ウイルスに対する耐性の出現への懸念や、重症例や入院例への有用性?などを考慮した結果だとしています。

Feds kill Alpharetta drug firm’s contract for flu treatment
(Atlanta Journal-Constitution 2014.05.08)
https://www.ajc.com/business/feds-kill-alpharetta-drug-firm-contract-for-flu-treatment/lsYUVmxB24Ub50eo2JPxFP/
http://www.ajc.com/news/business/feds-kill-alpharetta-drug-firms-contract-for-flu-t/nfrZB/

(8/3追記)
メーカーも 2014 Global Healthcare Conference で上記についての理由をプレゼンしていました。(重症・入院患者向けの点滴製剤でないことも理由だったらしい) 

Expertise in Drug Discovery for Respiratory Viral Diseases
(Biota 2014.6)
http://files.shareholder.com/downloads/AMDA-1J2WSD/3371709202x0x759168/1b74f8d3-8671-4c4d-940c-0ab640dbf508/June%202014%20Corp%20Presentation%20Final.pdf%20b.pdf#page=12

インフルエンザ対策として新薬の登場が待たれている欧米において、今回なぜ、このような結果に至ったのか考えてみました。

  • パンデミックや重症例に対して、開発コストを考慮すると既存薬(タミフル・リレンザ)より必ずしも有用ではないと判断された
  • 既存薬を保護するため、ベンチャー企業?(提携する海外企業)の参入を阻止したいとする思惑があった
  • 臨床試験結果が示すように、効果(といってもそのアウトカムをどこに持っていくかで異なるが)そのものに疑問があった

個人的には、三番目の「効果そのものに疑問がある」ことが理由でなければと思います。

ちなみに、PMDA掲載の承認審査情報(→リンク)によれば、ラニナミビルは2013年7月の時点で海外では承認されておらず、国内を含むアジア地域は第一三共が開発を担当(つまり、国際共同試験といっても、日本・韓国・香港・台湾。特に研究の質を疑っているというわけではありませんが・・・)、欧米についてはbiota 社がようやくフェーズ2にこぎつけたという段階だったのですが、今回の臨床試験の失敗で、biota 社は単独での開発をすすめる予定はないとして、開発断念の方向に傾いているようです。

ラニナミビルについては、主に日本発の多くの研究発表がありますが、欧米での開発が現時点では困難になりつつなった今、これらの研究成果が国際的にどのような意味を持つものなのか、また、インフルエンザ治療薬のアウトカムは何なのかを考えさせられました。

そして、日本開発のインフルエンザ治療・予防薬のラニナミビルがローカルドラッグとなってしまわないか、気になるところです。

参考:
Poor phase 2 results lead Biota to suspend flu drug laninamivir
(CIDRAP 2014.08.01)
http://www.cidrap.umn.edu/news-perspective/2014/08/news-scan-aug-01-2014

Daiichi Sankyo, Biota’s laninamivir fails to meet goal of mid-stage influenza trial
(FirstWord Pharma 2014.08.01)
http://www.firstwordpharma.com/node/1228044#axzz3993xfCen

8月3日 16:45追記 8月4日 14:23コメント欄で追記


2014年08月02日 21:53 投稿

コメントが1つあります

  1. アポネット 小嶋

    MT Proさんが記事にしました。biota社のプレスリリースを詳しく伝えています。

    抗インフル薬イナビルの海外II相試験で臨床症状の有意な改善示せず/米Biota社が発表
    (MT Pro 2014.08.04)
    https://medical-tribune.co.jp/mtpronews/1408/1408005.html
    http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/1408/1408005.html

    第II相試験で有意差が出ないというのは正直驚きしました。

    そこで、すでにツイートしましたが、改めて、日本での承認の家庭はどうなっていたのか、改めて、日本での承認審査報告書と、審議が行われた医薬品第二部会の議事録を確認しました。

    薬事・食品衛生審議会 医薬品第二部会議事録
    (2010年7月29日 開催)
    http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000xvng.html
    (真ん中あたりから。下記審査報告書と合わせてご覧ください。ツイートでは報告書のリンク先が違っていました。申し訳ありませんでした)

    イナビル吸入粉末剤20mg
    (審査結果報告書 2010.08.03)
    http://www.pmda.go.jp/drugs/2010/P201000050/430574000_22200AMX00925_A100_1.pdf

    ・イナビルの国内での第II、第III相試験は、対照群はプラセボではなく、オセルタミビル
    ・プラセボを対照とした台湾での第II相試験では、投与群とプラセボ群との間に平熱に回復するまでの時間については有意差は認められなかった。副次評価項目であるインフルエンザ罹病時間についても有意差は認められなかったが投与群で短かった
    ・第III相国際共同試験(国内外127施設(日本103施設787例、台湾14施設188例、香港7施設7例、韓国3施設21例)となっているので、実際は約8割が日本人)ではインフルエンザ罹病時間の中央値は20mg投与群で85.8時間、40mg投与群で73.0時間、オセルタミビル投与群で73.6時間だったが、95%信頼区間の上限が非劣性限界値として事前に定めた18時間を下回り有効な治療薬であることが検証された
    ・また台湾人に限ると、20mgで119.3時間、40mgで88.6時間、オセルタミビルで86.9時間になった。この差については主に開始時インフルエンザ総症状スコアの違いに起因するものと考えると解釈された。

    これを見ただけでも、何となく、まだ日本しか承認されておらず、米国政府の支援が打ち切られた理由がわかるような気も。

    さらに、審議が行われた医薬品第二部会の議事録をみると、委員からの質問に対し、機構は明確に答えられていないんですよね。

    ————–
    (委員)
     一般にこのような機械を使って吸入した場合には、ステロイドの場合でもそうですが、気管に行くのは2割程度で大抵は口の中にあって、胃の中に入ってしまうと考えられていると思います。今回の場合は特に気管に吸入することによって、気管に収積をさせて有効性を高めようということですね。気管あるいは肺にどのぐらい行っているかというデータはあるのでしょうか。

    (審査第四部長)
     最初の質問の上気道や肺にどのぐらい行ったかというのは、多分そのデータは今はないと思います。

    (委員)
     一般的には上気道で増殖して症状が出るのがインフルエンザであって、下気道では増殖しないのです。ですが、これは肺で吸入して効くということは、上気道でどれだけ効いているかということが説明がつかないと思います。
     インフルエンザウイルスは下気道ではなくて、上気道で増えるわけで、上気道にどれだけ残るかが逆に問題なのです。そのデータがなくて、下気道、下気道と言ってしまうと、本当にこの薬剤はどこで効いているのですか。要するに肺で直接効いているのではなくて、そのほかのメカニズムで効いているということを考えないと説明がつかないのではないですか。
     インフルエンザの迅速診断は後鼻腔から取りますので、そこにウイルスがいるということを証明しているわけです。そこに薬が行ってもらわないと効かないのではないですか。

    (機構)
     薬剤の分布については、確かに先生が御指摘のとおり、どこに分布したかという具体的な実際のデータはありません。それは放射性ラベルをしない限り、検討は厳密には難しいと思います。倫理的にはそのような検討を行うことは非常に難しくて、今回の試験については、先ほど御説明しましたように、品質上の観点から管理するのと、後は臨床試験でタミフルと同等の有効性が検証できるかどうかで、そういう観点から保証せざるを得ないと理解しております。ですから、先生が御指摘のように、メカニズム的には十分な情報がない部分も確かに事実としてはあると思います。

    (委員)
     78ページの結果です。少児のA/H1とA/H3のデータですが、このデータからA/H3に効いていると読めますか。A/H1ですと40時間で、A/H3だと70時間ですね。しかも40mgの方が、さらに88時間と効果が伸びています。普通はドーズディペンデントで効果が現れなければいけないのが、こういうデータだとA/H3には効いていないと解釈されますがいかがですか。

    (機構)
     おっしゃるとおりでして、この点については審査報告書にも記載しておりますが、症例数が少ないとはいえ、御指摘いただいたように、対照群と比べて罹病時間が長い。あと用量関係性が認められていないということで、A/H3N2については有効性のエビデンスが十分ではない、と機構としても判断しております。
     ただ、全体としての評価になりますが、有効性は認められているということで、効能・効果としてはA型、B型とすることで致し方ないとは思うものの、A/H3N2については情報が限られていることは、情報提供資材にしっかりと明確に書きますということと、製造販売後の調査として、亜型別の有効性が見られるように調査するということを計画しています。

    ——

    議事録を見ると、他にも、あれっというところが散見されます。正直、こんな審議で通過して、後日行われた薬事分科会でも意見は出ないで承認されたことを考えると暗くなります。

    医薬品部会の議事録は忘れた半年くらいたってから出ますが、こういった質疑が明らかにされたら、本当にすんなり承認されたかどうか・・・・

    医薬品第二部会などは、企業の知的保護とかで非公開ですが、日本初の新薬については、米FDAの諮問委員会のように公開の場で行う必要があるかもしれませんね。せめて薬事分科会で議事録を示すとかなども考える必要もあるかもしれません。