少し前の話で、余裕がないのでツイートだけに留めようと思いましたが、結構反響が大きいので記事にしました。
反響となっているのは、日本アンチ・ドーピング機構(JADA)が7日発表した、バレー女子日本代表候補の今村優香選手に対するドーピング違反による資格停止処分です。
ドーピング防止規律パネル決定報告
(JADA 2014.07.23)
http://www.playtruejapan.org/downloads/disciplinary_panel/dopingcontravention140807.pdf
資格停止処分の理由は、競技外検査において禁止物質の「カンレノン」が検出されたためなのですが、調査の結果、医師が処方した皮膚病治療のための塗り薬を使用したことに起因するものである可能性が高いとしました。
調べたところ、カンレノンが成分(カンレノ酸カリウム)として含まれるのは本邦では注射薬だけで、国内で承認された薬を使用したとはまず考えにくいと思いました。
また、カンレノンはスピロノラクトンの代謝産物(インタビューフォームを見ると薬物動態の項で名前が出てくる)で、今回検出されたのは、おそらく、スピロノラクトンの代謝産物として検出されたのではないかと思いました。
一方、スピロノラクトンがにきびに効果があるかどうか調べたところ、内服については古くからその効果が認識され、オプションとして広く使われているようです。
Oral Spironolactone in Post-teenage Female Patients with Acne Vulgaris
(J Clin Aesthet Dermatol. 5(3) 37-50 2012)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3315877/
ググると国内の皮膚科でも、治療として行っているところが散見されます。(薬価が安いので、自費診療となっても負担は大きくない)
スピロノラクトン
(こころ皮膚科クリニック)
http://cocoro-hihuka.com/spironolactone.html
ニキビのホルモン治療(スピロノラクトン、アルダクトンA、アポラスノン)
(しまむら皮膚科クリニック)
http://www.shimuraskinclinic.jp/spironolactone.html
しかし、今回原因とされたのは、外用薬によるものとされており、スピロノラクトン外用薬は存在するのでしょうか?
調べたところ、5%配合された下記の商品がヒット、個人輸入でも取扱いが行われています。(どちらかといえば、男性の脱毛に対してですが)
Topical Spironolactone S5 Day Cream
http://www.hairlosstalk.com/shop/s5-cream.html
5%ゲルによる文献もヒットするのですが、いろいろ検索をすすめると、正式に承認された外用薬があるかどうかは現時点では確認はとれませんでした。
Comparison of the efficacy of 5% topicalspironolactone gel and placebo in the treatment of mild and moderate acne vulgaris: a randomized controlled trial.
(J Dermatolog Treat. 2012 Feb;23(1):21-5.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20964565
下記のような自家製剤も紹介されています。
Spironolactone, Niacinamide, and Cimetidine Acne Gel
(US Pharm. 2012;37(12):43-44.)
http://www.uspharmacist.com/content/d/contemporary_compounding/c/38028/
“spironolactone acne topical” でググるといろいろな情報がヒットします。
ここからは推測になるのですが、今村選手は
- 医師の勧めで、自費診療で未承認のスピロノラクトンが配合されたクリーム(ローション)を使用していた
- 使われたクリーム(ローション)は、輸入品(これも正式に認可されたものかどうかはわからない)あるいは、自家製剤で、本人には入っている成分名を伝えていなかった
- 選手本人は医師を信じて、成分名まで気にとめなかった
ということになるのではないでしょうか。
これまでのうっかりドーピングや成分不明の海外のサプリの誤用による違反と一緒ですが、今回のJADAの処分発表だけだと、誤解を招きかねず、もう少し踏み込んだ内容にしてもよかったのではないかと思いました。
利尿薬(スピロノラクトン→代謝物としてのカンレノン)を服用していないのに、処分が厳しすぎるというブログ記事が目立つ他、「まさかニキビの薬で、と思ったが、本人の自覚が足りなかった。ニキビに悩む高校生は多いし、これをいい教訓にしていきたい」とした強化事業本部長のコメント(朝日新聞。こういった内容で記事として伝えるのは好ましくない)などをみると、まだまだドーピングの問題について理解していない方が多いことを改めて感じました。
関連ブログ:
あまりにも不当かつ理不尽な一連のドーピング問題
(医療とバレーボールと 2014.08.08)
http://ameblo.jp/taqman/entry-11906774255.html
(医師の認識としては残念)
関連記事:(リンク切れたらすみません)
バレー今村、ニキビ薬でドーピング違反 3カ月資格停止
(朝日新聞 2014.08.07)
http://www.asahi.com/articles/ASG876227G87UTQP023.html
関連情報:TOPICS
2011.08.10 ラクビー元代表候補が市販塗り薬で2年間の資格停止処分に
2014年08月16日 12:30 投稿