いよいよ医薬分業における規制の見直しに関する規制改革会議(http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/meeting.html)の公開ディスカッションの開催が明日12日に迫りました。
フェンス問題や薬歴未記入などを背景に、医薬分業への激しいバッシングが続いていますが、個人的には戦後以降続く、不完全な医薬分業(任意分業)が今回の事態をもたらしたと思っています。(以下の記事はアポネットR研究会の見解ではなく、管理人の個人的見解です。)
世界的にみても日本の異常とも言える状況は、日医の歴史的に続く反対に加え、薬剤師(会)側も、この状況に対し、日薬や薬剤師たちが現状に甘んじ、疑問を投げかける声を挙げなかったことが大きいと思っています。
下記論文が、医薬分業と薬局をとりまく現状について実にわかりやすくまとめています。
医薬分業推進政策の評価と課題
(兵庫県立大学大学院経営研究科・商大ビジネスレビュー)
http://www.u-hyogo.ac.jp/mba/pdf/SBR/2-1/225.pdf
目にとまったところとしては、
- 株式会社化された営利目的の薬局では「あるべき薬局像」は達成することは困難(242ページ)
- 我が国の医療を崩壊に導いているのは株式会社化された調剤薬局が主たる原因
- 株式会社化された薬局の保険調剤部門は非営利化するか、出来なければ税率を重くし利益を出ない仕組みを考えることが必要(244ページ)
(若干、医薬分業のとらえ方には誤りがあり、全てについて同意はできませんが、今回のバッシングにつながった背景が理解できます)
関連のブログ記事にも目が留まるものがありました。
下記は、欧州の制度から、日本の医薬分業の問題点を記したものです
医薬分業と薬局の存在意義
(伸二のブログ 2015.03.09)
http://riehener.cocolog-nifty.com/blog/2015/03/post-f2cb.html
現場の薬剤師の方が、アップしたものとしては、
調剤薬局、薬剤師バッシングについて
(医療と薬の日記 2015.03.16)
http://blog.goo.ne.jp/chihayatadaaki/e/eb8b0ff3deafbd75c71e8369eeeeb045
今回のディスカッションでは、医薬分業における利便性や費用問題がテーマですが、都合のいい時だけ処方せんを発行する (自分のところにない薬だけを院外処方する)医療機関と、都合のいい場合だけそれだけを効率的に受ける“調剤薬局”の乱立、そして最近では強い立場を利用して、敷地内や近隣の土地などを高く売りつける自 治体など、医薬分業が本来あるべき姿からはずれて、経済的に利用されていることについても関係者は真剣に向き合うべきだと思います。
若い方や薬剤師ではない方は医薬分業の苦難の道のりについてはあまりご存知ではないかと思います。WEB上でみれるものとしては、下記総説にわかりやすくまとめられています。
日本における医薬分業の過去、現在、未来
(薬剤学 74(2) 102-105,2014)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpstj/74/2/74_102/_pdf
「医薬分業」早期実現をめざす
(薬剤学 74(2) 106-108,2014)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpstj/74/2/74_106/_pdf
戦後直後の状況については下記研究が興味深いです
占領期医療提供システム形成におけるGHQの方針と日本の選択
(日本医療経済学会会報 28(1), 1-25,2009)
http://ci.nii.ac.jp/els/110007356944.pdf?id=ART0009218926&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1426005821&cp=
(13ページに医薬分業を巡る攻防という項目がある。例外規定が設けられた経緯が詳しく記されている)
一方、すでに、紹介していますが、日本薬剤学会の永井恒司名誉会長が2012年、オランダのアムステルダムで行われたFIP(国際薬学連合)で、こういった日本の現状を紹介し、日本は先進国で医師が調剤できる稀少な国であるとプレゼンテーションを行っています。
日本の薬学の国際化-医師の調剤からの脱却
(FIP100 周年記念学術大会 2012.10.6)
http://www.apstj.jp/information/FIP%20Presentation.pdf
また、2012年のWorld Pharmacist Day(9月5日)に合わせて開催された、日本薬剤学会の国際標準医薬分業推進事業に関する委員会主催の医薬分業に関するシンポジウムへのFIP会長のMichel Buchmann氏のメッセージも、医薬分業が世界標準であることを示したものとして、薬剤師は元より、多くの方々に知ってもらいたいものです。
日本薬剤学会公開市民講演会
「国際標準医薬分業を推進する国際シンポジウム」によせて
国際薬学連合(FIP)会長 Michel Buchmann 氏
(和訳)
http://www.apstj.jp/information/copy_of_FIP%20President%20message.pdf
(原文)
http://www.apstj.jp/information/copy2_of_FIP%20President%20message.pdf
さて、前置きが長くなりましたが、すでにご存知かと思いますが、12日の資料(プレゼンのスライドなど)がアップされています。
公開ディスカッション(テーマ2:医薬分業における規制の見直し)
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/discussion/150312/gidai2/agenda.html
このなかで、厚労省が示した資料のあるページが目に留まりました。
医薬分業の課題と今後の方向性
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/discussion/150312/gidai2/item2-2-1.pdf#page=9
(課題)
- 医薬分業率は上昇しているものの、医療機関の近隣に多くの薬局(いわゆる門前薬局)が乱立し、患者は受診した医療機関ごとの門前薬局で調剤を受けることが多い。
- 調剤に偏重し、OTC医薬品や医療・衛生材料を取り扱わない薬局が多くなり、昔のように、住民が気軽にOTC医薬品の選択や健康に関する相談のために立ち寄るような存在となっていない。
(今後の方向性)
高齢化が進み、在宅医療を必要とする患者が増加し、また、高度な薬学的管理が必要な医薬品が
増える中で、
- 国民が医薬分業によるメリットを最大限享受できるよう、普段から気軽に相談などができる「かかりつけ薬局」を作ることのできる体制を構築していくことが重要。
- そのため、かかりつけ医との連携の上で、在宅医療も含め、患者に最適な薬物療法を提供するとともに、
-OTC・衛生材料等の提供と適正使用を推進し、健康・栄養などの生活習慣全般に関する相談等を気軽に受けられる薬局を増やしていく必要がある。(セルフメディケーションの推進)
-また、地域における総合的な医療・介護サービスを提供する一員として、患者ごとに最適な薬学的管理・指導を行うことが重要。(地域包括ケアの推進)
としたうえで、2014年に示された「薬局の求められる機能とあるべき姿」を示しています。
「薬局の求められる機能とあるべき姿」の公表について
(日本医療薬学会 2014.01.07)
http://www.jshp.or.jp/cont/14/0203-1.html
上記の報告書に至った背景や経緯が記された厚生労働科学研究も最近アップされています。(個人的には議論や分析は十分でないと思う)
薬剤師が担うチーム医療と地域医療の調査とアウトカムの評価研究
(2013年厚生労働科学研究)
http://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=201328068A
今回、厚労省が示した課題ですが、個人的には、「こんなことは10年以上前から言われていることじゃん。どうして今まで改善できなかったんですか?」とふと考えます。
また、「薬局の求められる機能とあるべき姿」についても、現場には目指そうと思ってもできない状況もあることを厚労省はどれだけ把握しているんだろうと思う事があります。
下記ブログ記事をみても、実現には大きな壁と現場の苦悩があることがうかがえます。
薬剤師の苦悩
(みゃんこが行く 2015.03.05)
http://myankoblog.seesaa.net/article/415073692.html
薬歴事件は、社会の薬剤師登用ビジネスの一端を表している一面だったと思う。高額の給与に目がくらんだ若者たちは翻弄され続けている。あれだけ勉強したその知識をぜひ生かしてほしいものだと思う。
ただ電子薬歴で ぽつぽつと定型文言を入力するだけなら既に意味のないものになってしまう。ただ書き込んで終わりではなく、ただ薬歴らしきものに仕上げるのではなく 薬剤師としてすべきことは何かを今回のことで分析してほしいものだと思っている。
多くの若い薬剤師が 日々それだけの業務を強いられ長時間業務をしていることにより、研鑽意識や研鑽の機会が失われていることは社会の損失である。若い薬剤師の教育で挽回していきたいものである
医療経済(RISFAX)掲載のオープン記事(おそらく期間限定です。リンク切れは了承)によれば、厚労省の一部で、海外ではほとんどの国で導入されている「調剤テクニシャン」の導入も検討されているとのこと。
薬歴未記載問題を気にする意外な人々
(医療経済 2015.03.01)
https://www.risfax.co.jp/iyaku-k/browse.php?mode=conts&iid=273&page=11
関係者は、是非これを機に、地域薬局と地域薬剤師は何を中心にまず取り組むべきか、それを阻むものは何かということも真剣に考えて欲しいと思います。(もちろん、薬歴やお薬手帳が不要というのではありませんが・・・・・)
2015年03月11日 02:01 投稿
やはり小嶋さんの纏めが一番良いですね。
拙文を取り上げて頂き、有難うございました。
ご指摘のように、若い薬剤師の方や薬剤師以外の方々(医師等の医療者、患者を含め)には、現在の歪みが俯瞰出来なくなっているケースが少なくないため、規制改革会議前の提示にと思い立ち、大急ぎで作成したものです。
元々、世間に向けて何かを発表できるような者ではありません。
やはり結論としては、目指すべき方向が見えるにも関わらず、それが進まない要因があること。方向性について各ステークホルダーが同意するとともに、誘導する政策へと落とし込むことに尽きると思います。これまでの経緯と社会のあり方を考慮すれば、薬剤師会は世論に向けての発信について必要性を迫られています。
そのように愚考しています。
ツイッター上でいろいろご意見、ご批判ありがとうございます。
やっぱり今回のディスカッションは、患者の利便性に名を借りた、病院の経営向上(当然家賃収入や売却益が入るでしょう)や、コンビニなどの異業種の参入のための足掛かりとしか私には見えません。
医療連携や薬薬連携などはどうするんだろう。
また病院に患者を集中させるつもりなのでしょうか?
もし、今回の規制緩和が無条件で認められたら、次は病院で処方された薬を、一応調剤機能を有した院内のコンビニで受付→薬は家の近くのコンビニで受け取れるなんて仕組みがつくられることも考えられなくはありません。(既に、一般用医薬品はインターネット薬局で注文し、専門家不在のコンビニで受け取れるというシステムが稼働しているからだ)
医師会の方も、そういったこともあるかもしれないということをよく考えていて欲しいですね。
きのうググっていたら少し古い論文(総説)がヒットしました。
医薬分業の問題点
(薬学雑誌 123(3) 121-132(2003))
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/123/3/123_3_121/_pdf
一昔前の論文ですが、今も変わっていないところも。
若い人はあまり知らないかもしれませんが、「第二薬局」という言葉がなつかしいです。
でも今やろうとしていることは、まさしく新たな「第二薬局」そのものではないでしょうか?
さきほどアップされたブログ記事です。(コピペすみません)
規制緩和と地域医療 人的資源を有効に活用したい
(みゃんこがゆく!! 2015.03.12)
http://myankoblog.seesaa.net/article/415464943.html
薬局が敷地内かどうかということよりも、患者の生活の中で、その薬物治療がうまく回るかどうかの視点が大事である。分業がどうかという議論もどう見ても患者視点がすべて入っているようにも思えない。
病院や診療所で処方箋をもらってまた別の薬局にいくという不便さばかりが強調されるが、一方で、複数受診の多さを考え、在宅医療の推進を考えれば、早くから地元=家の近くにかかりつけ薬局を探して自分にあう薬剤師をゲットしていた人と、ずっと病院ごとに薬を近くの門前薬局でもらい、ばらばらと薬を保管していた人では、在宅医療への導入のスムーズさや安心感には大きな違いがある。
医療における規制緩和は 地域医療への恩恵であってほしいものである。ビジネス視点ではなく、いかに地域完結型の医療が、在宅医療においても住民の参加のもとに行われるかに焦点を当ててほしいものである。
単純に 薬剤師とか薬局のあり方とか そうゆう視点の議論はむなしいばかりだ。
小嶋先生の公開討論までの事前提言、公開討論の大いなる参考材料になるものとして相応しいものでした。
ツイートを踏まえた、こういう草の根提言が大切です。
でも、討論するのは先の案内の面々・・・。
それを受けて判断するのは政府や厚労省・・・・・・。
利害、強者と弱者、国民コンセンサスなどなどが渦巻いた中で、その判断の前提に公開討論がありました。
規制改革会議が世論を巻き込んで、今まで起こしてきた規制緩和(経済成長一辺倒)が、本当に国民のためになってきたのか。
医薬分業議論もいいのですが、上述の検証も合わせてしなければならないと思います。
国民(患者)のための規制と緩和の適正バランスであって、取り巻く利害者のための規制と緩和になっては行けないのです。
公開討論の前後から、アポネットでいろいろと議論されていますが。
どうも、やはり、医薬分業の成り立ちから関わってきた医者の我が儘が、ずっと尾を引いているように思います。
病院内の保険薬局だって、結局は医者から出た話。
日本の不完全分業は医者のワガママです。
OTC薬や検査薬のスイッチ化が進まないのも、医者の我が儘が邪魔をしています。
国際的標準、国際的医療に成りきっていない。
日本の医者は欧米の医者に比べて、紳士的でない。
医療人たるものは公人的価値観を持って誠実で紳士的でなければならない。
海に囲まれた島国日本、そういう土壌では地続きの大陸と違って、国際的感覚が養われにくいのかもしれないが、その中でも日本特有の特権階級とされる医者の我が儘は目立っているようだ。
どうも、この先の医薬分業は医者のワガママで振り回されると思うのですが・・・。
誤解をしてもらいたくないが、医師の中でも誠実で自分のことを犠牲にして、患者のことを考える素晴らしい医者もいます。
ただ、日医など政府や行政と絡んでくる医者の職能集団となると、患者のことをそっちのけにした自分たちの利害を優先して、患者を置いてきぼりにしているように思う。
医療現場の医者とのギャップもあるとは信じているが・・・・。
医者の世界でもそれぞれの役割分担があり、違ってくるのも仕方ないと思われるが。
これは薬剤師にも言えることだが、日本社会では医者と薬剤師の社会的身分地位の差がありすぎる。社会的インパクトがはるかに違う・・・・。
医者にオールマイティ(医療において)にパワーを集中させないで、患者を中心に据えた医療制度、医療チームなどの見直しが必要かも・・・。
医薬分業は日本のこれからの医療制度にとって必要なものであり、それを歪めた形で世論誘導して、医者の社会的圧力をもって不完全な方向に進ませてはいけない。
経済成長一辺倒の偏った価値観の規制改革会議や、購読料だけではなくスポンサーや社会的強者の恩恵を受けなければやっていけないマスコミにも医薬分業の正当な認識を深めてもらって、世論に向けての発信時には大いに自覚を持ってもらいたいと思います。