患者のための薬局ビジョンが公表(Update2)

 厚労省は23日、注目の「患者のための薬局ビジョン」を公表しました。

「患者のための薬局ビジョン」~「門前」から「かかりつけ」、そして「地域」へ~ を策定しました
(厚労省 2015年10月23日)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000102179.html

 このビジョンは、 患者本位の医薬分業実現に向け て、 かりつけ薬剤師・薬局の今後の姿を明らかにするとともに、団塊世代が 後期高齢者(75 歳以上)になる 2025年、更に 10 年後の 2035年に向けて、 中長期的 視野に立って、現在の薬局をかかりつけ再編する道筋を提示する ものとしています。

 ツイッターで指摘があったのですが、厚労省の医薬分業の定義が次のように代わっている点が注目されます。

(平成23年版厚生労働白書→リンク
医薬分業とは、医師が患者に処方せんを交付し、薬局の薬剤師がその処方せんに基づき調剤をい、医師と薬剤師がそれぞれの専門分野で業務を分担し国民医療の質的向上を図るものである。

↓↓↓

(患者のための薬局ビジョン・平成26年版厚生労働白書など)
医薬分業とは、医師と薬剤師がそれぞれの専門分野で業務を分担し国民医療の質的向上を図るものであり、医師が患者に処方箋を交付し、薬局の薬剤師がその処方箋に基づき調剤を行うことで有効かつ安全な薬物療法の提供に資するものである

 このビジョンでは、様々な患者像からのかかりつけのニーズに応えられるよう、今後の地域包括ケアシステムの構築に合わせて、かかりつけ薬剤師・薬局として以下の機能

  1. 服薬情報の一元的・継続的な把握とそれに基づく薬学的管理・指導
  2. 24時間対応・在宅対応
  3. かかりつけ医を始めとした医療機関等との連携強化

を備えていくことが必要であるとしたうえで、患者等ののニーズに応じて次の2つの機能を強化・充実すべきだとしています。(ということはOTCはニーズがなければ置かなくてもいいってこと?)

  1. 健康サポート機能
  2. 高度薬学管理機能

 やはり規制改革会議(→リンク)や、健康情報拠点薬局(仮称)のあり方に関する検討会の議論(→リンク)と、とりまとめ(報告書)が色濃く反映されていますが、先の「健康サポート薬局」と今回の「患者のための薬局ビジョン」とはどのような関係になるのかよくわかりません。

健康サポート薬局のあり方について
(健康情報拠点薬局(仮称)のあり方に関する検討会 2015.09.24)
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/matome.pdf

6月18日に行われた「第2回健康情報拠点薬局(仮称)のあり方に関する検討会」での資料

↓↓↓

今回の示されたイメージ

  そして、このビジョンでは75歳以上人口の占める割合が18.1%に達する2025年までに、すべての薬局がかかりつけ薬局としての機能を持つことを目指すとしています。

 また、ビジョン実現のために次のような施策等を検討するとしています。

  • 薬局におけるタイムスタディ調査を実施し、調剤技術の進展、機械化の状況など、最新の状況に応じた薬剤師業務の実態を把握する。また、薬局の再編の状況や薬剤師業務の対人業務へのシフトの状況を踏まえつつ、薬剤師の将来需給見通しを適時作成する。
  • かかりつけ薬剤師・薬局の普及定着状況も見据えつつ、医薬品医療機器法に定める遵守事項その他の基準の見直しや、これからの患者本位の医薬分業を見据えた「かかりつけ薬剤師・薬局の運営ガイドライン(仮称)」の策定について検討する。
  • 紙のお薬手帳の一冊化・集約化を進めるとともに、電子版お薬手帳についても過去の服用歴を一覧できるようにするなど、服薬情報の一元的把握という本来の目的が果たされるよう機能の向上を図り、地域医療情報連携ネットワークの整備に併せて、その普及を進める。
  • かかりつけ薬局の機能強化に向け、「24時間対応や在宅対応等における地域の薬局間での連携体制構築のための取組」「健康サポート機能の更なる強化に向けた先進的な取組」など、地域におけるモデル的な取組を支援するほか、本ビジョン実現のためのロードマップや具体的な施策を講じる上での留意点等を検討する。
  • 健康サポート薬局に対する税制措置を検討する。

 いくつか感じたことを記しておきます

  • まず第一義は、必要な医薬品の供給だと思うのですが、割かれている部分はごくわずか。調剤や在宅などの部分については詳細が記されているが、OTCとか一般用医薬品、セルフメディケーション(の支援)といった文言はビジョンとしてはなく、健康サポート機能の項でわずかにふれている程度。(結局調剤中心の業務でがんじがらめになるような気がする)
  • 健康サポート薬局のあり方の時もそうだったが、本来なら、OTC・一般用医薬品とすべき部分をあえて、要指導医薬品等にしている。セルフメディケーションは薬剤師のいないドラッグストアで、薬局は地域包括ケアシステムの一員として調剤さえしていればよいとも思えてしまう。(ちなみに、現場の流通状況を厚労省の方はご存知なのだろうか? メーカー直販・取扱い卸限定などで、販売したくてもできない薬局も少なくないと思う。今回のエフコートも苦労した。何とか取扱いが可能になっても、詳しい情報は入手できないし、職能団体からの支援もない。これでは取扱いたくなくなるのも当然)
  • 「24時間調剤や在宅対応について、かかりつけ薬局単独での実施が困難な場合には、 地区の薬剤師会主導的役割を発揮するなどして、近隣の薬局と連携体制構築や、地区又は広域薬剤師会のバックアップにより輪番で対応することが考えられる」っていうけど、薬剤師会に入っていない薬局も多いし、チェーン薬局同士、チェーン薬局と個人薬局との連携が果たして可能なのでしょうか?
  • 電子版お薬手帳についてもふれていますが、既に患者囲いこみの手段として、さまざまなものが出てきている。国で予算を投じて一本化でもしてくれるのでしょうか?
  • 世界標準の医薬分業なのに、なぜ、このビジョンで「質についてモニタリングをします」と記す必要があるのだろうか? それならば、まず強制分業になっていない現状について、このビジョンで論じることをしなかったのでしょうか?

 一部の内容は、「健康サポート薬局のあり方について」(報告書)を参考にせよとしてますが、これはあくまで報告書であり、現時点でこれを引用するのはいかがなものでしょうか? 全体として調剤と在宅にだけ比重が置かれている今回のビジョンは本来の地域薬局や地域薬剤師の役割を矮小化しかねないようにも感じました。

 ちなみにニュージランドでは現在保健省が次のようなパブコメを実施しています。医療制度の違いがあるとはいえ、その差は歴然です。(セルフケアの支援と軽度疾患(minor ailments)への対応、トリアージなど、日本では医師会がすぐに噛みつきそうな内容も。海外ではこれらがもう普通の薬局の役割になりつつあることが見て取れる)

Draft Pharmacy Action Plan 2015–2020
(NZ Ministry of Health 2015.10.12)
http://www.health.govt.nz/publication/draft-pharmacy-action-plan-2015-2020
http://www.health.govt.nz/system/files/documents/publications/pharmacy-action-plan-2015-2020-consultation-document-oct15.pdf

 「地域包括ケアシステムの中での調剤薬局の役割」「地域包括ケアシステムにおける(調剤)薬局ビジョン」といったタイトルであれば、違和感がないのですが、読んでいても規制改革会議や医師会への反論を羅列しただけのようにしか思えてなりません。また、医師会への配慮が散見されます。また、セルフケア支援といった薬局の独自性というものをあまり感じないのは私だけでしょうか?

 本当にこれが、「患者のための薬局ビジョン」なのかというのが率直な印象です。(これじゃ「かかりつけ医のための調剤薬局ビジョン」だとある方がツイートしていた)

関連情報:TOPICS
2015.09.15 健康づくり支援薬局(仮称)のあり方について(報告書案)
2015.06.19 「かかりつけ薬局」=「健康情報拠点薬局」ではない
2015.05.27 「患者のための薬局ビジョン」策定の重み

10月24日2:40更新、25日15:20更新


2015年10月23日 23:26 投稿

コメントが4つあります

  1. もう、厚労省発表の薬局ビジョンの長文をだらだら読まされて、反吐が出る・・。
    結局、本質部分にメスを入れようとしていない。
    本質部分とは・・・。
    ・医師の過剰処方、重複処方
    ・医師と製薬メーカーの癒着とそれを応援する政府と厚労省
    ・皆保険を喰いものにしている医師と製薬メーカー
    ・上述を隠すために、薬局・薬剤師を国民の前に晒して生贄にしている。
     メディアなども、安易にそれに乗っかっている・・・。
    ・日本独特の不完全医薬分業
     医師に遠慮して、それを放置したまま、靴の上から痒いところを掻くまどろっこしさ
    ・もう、サポート薬局などごちゃごちゃう言わずに、医師にも身を切ってもらい、医師下 請けの調剤薬局と要指導薬を大量に解放したOTC薬剤師を主体とするOTC薬局を創る
    厚労省お得意の政策文章書きまくりで、煙に巻いて上述の本質部分にいつまでたっても、メスを入れて斬り込もうとしないことに、腹がたって仕方がない。
    書くだけ疲れる・・・。
    本質を書くことはシンプルだ・・・・。
    舐めているとしか考えられない・・・・。

  2. アポネット 小嶋

    そうなんですよね。

    ・残薬はなぜ起こるのか
    ・地域薬局がなぜOTCを扱わなくなったのか
    ・門前薬局はなぜここまで増えてしまったのか
    (未だ公的病院が行う門内薬局は黙認だし)
    ・世界標準の医薬分業が日本ではなぜ実現しないのか

    こういった疑問を十分検討・検証なしに、「かかりつけ薬局はこのくらいのことはなぜできないんだ」とばかりに示された今回のビジョンは、正直なところ一連のバッシングに対する一時しのぎ(弁明)のようにしか思えませんね。

    もちろん、今回示された内容自体には異論はありませんが、ビジョンという割には、調剤や在宅、地域包括ケアについては具体的に示している一方、地域薬局が果たすべきもう一つのメインの健康サポートについては具体性がない(具体例を盛り込まない)んですよね。(「健康サポート薬局のあり方について」(報告書)を見てねというのはちょっとおかしい)

    海外での地域薬局に関する将来ビジョンやアクションプランを見ると、軽度疾患への対応、セルフメディケーションや禁煙指導などについてはきちんと記されているんですよね。(予防接種やスクリーニングに言及してる国もある) 医師会に配慮してだと思うんですけど、結局はこれからも調剤と在宅を中心とする業務だけに翻弄されるんでしょうね。厚労省が求める「かかりつけ薬局」がこれでいいというのならかまわないんですけど。

    厚労省の方は、これまでの地域薬局や医薬分業に関する経緯や、現場をどれだけ見て、きいて今回のビジョンをつくったのかと思いましたね。

  3. 通りすがり

    突然のコメント失礼します。

    今回のビションは高らかに掲げていますが次元の低い話のように思います。

    ビションで転換させたい薬局は昔ながらのOTCもある薬局ではなくて、門前にプレハブ小屋みたいにある在庫も本当に少数しかおかない、いわゆる調剤小屋と揶揄されている薬局なのではないかと思います。

    調剤小屋をまずは在宅などもできるかかりつけ薬局へ転換その上で健康サポート薬局を上乗せさせる。

    大学生を社会人にするのではなく、幼稚園生を小学生にするところからまずは始めるようなビションなのではと思ってしまいました。

    自分は六年制になってからの卒業生なのですが、このビション最近の薬学部で理想の薬剤師として言われているまんまな気もします。在宅だとかそういう部分は高らかに言われるのですがセルフメディケーションに関しては好きな人が授業選択すれば良いみたいで五人くらいしか受けてなかった気もします。セルフメディケーションを進めるなら薬学部のカリキュラムでももう少し時間があっても良いのかなともおもいました。

    大学出てまだ年数も立っていなく浅いものの見方しかできないのにコメント失礼しました。

  4. 偶然サイトを見つけまして失礼します。

    厚労省の薬局ビジョン、、内容の如何思うところは色々同じ想いです。

    ただ、厚労省がこれを出したという事は今後はこのビジョンに従って点数配分政策を練ると言うことになるかと思うのでそれに従えないようだと批判が出るのでしょうが…現状どれだけの薬局が対応できるかかなり難しいと思いますね…

    ビジョンを受けてか分からないですが、一部報道も出始めた通り結局大手薬局や大手ドラッグストアは対応出来ても個人薬局だとなかなか厳しいところです。大手さんももう少し質を高めてもらえると良いのですが…(努力はしているのでしょうが)

    現状大手さんが増えたといってもまだまだ個人薬局は多いわけで方針転換するならば個人薬局も含めて転換可能でないとと思います。

    私が知る限り(あまり物事を知らないのでもっと良い例があるかもしれませんが)大手さん以外の取り組みでは、千葉県の八千代薬剤師会運営の薬局(24時間無休調剤、OTC、他薬局への紹介や処方箋送信サービス、個室、無菌設備、在宅などをやられている薬局です。)さんのスタイルが理想なんでしょうが薬剤師会規模では出来てもこの規模は零細一個人薬局では厳しい所があるので、一部共同も可という事でどこまで輪を広げられるかという所にかかっているのかもしれません。