解釈があいまいのためにいろいろと混乱が生じている「かかりつけ薬剤師」の要件ですが、医科の同様のものと比較してみました。(不足の部分がありましたら、ご指摘下さい)
地域包括診療加算 | 小児かかりつけ診療科 | かかりつけ薬剤師指導料 | |
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対象 | 診療所 | 小児科を標榜する診療所 | 個人 |
対象患者 | 下記のうち2疾患以上 ・高血圧症 ・脂質異常症 ・糖尿病 ・認知症 |
当該保険医療機関を4回以上受診(予防接種の実施等を目的とした保険外のものを含む。)した未就学児(3歳以上の患者にあっては、3歳未満から小児かかりつけ診療料を算定しているものに限る。)の患者 | 要件なし |
診療内容等 | 担当医を決め、 ・療養上の指導 ・他の医療機関での 受診状況等の把握 ・服薬管理 ・健康管理 ・介護保険に係る対応 ・在宅医療の提供 ・24時間の対応 等を実施 |
・乳幼児期に頻繁にみられる慢性疾患の管理・指導及び診療 ・必要に応じて専門的な医療を要する際の紹介 ・健康診査の受診状況及び受診結果を把握、発達段階に応じた助言・指導、保護者からの健康相談 ・予防接種の実施状況の把握と予防接種に関する指導やスケジュール管理・指導 ・電話等による緊急の相談等に対して、常時対応 |
・薬歴の一元的管理 ・24時間対応 ・処方医への情報提供 ・処方提案 ・患家を訪問して服用薬の整理等を実施 |
研修要件 | 下記を含む継続的に2年間で通算20時間以上の研修を修了(→26年改定Q&A)
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なし | 薬剤師認定制度認証機構が認証している研修認定制度等の研修認定を取得(内容は問わない) |
施設基準 | 以下のいずれか1つに該当
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・小児科外来診療料算定 ・時間外対応加算1又は2の届出を ・小児科又は小児外科を専任する常勤の医師が配置 ・以下の要件のうち3つ以上に該当
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なし |
その他 | 敷地内禁煙 | 勤務経験3年以上 地域活動の実績 |
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届け出書 | →リンク
研修受講した修了証の写しを添付 |
→リンク |
違い1:
かかりつけ薬剤師では、施設ではなく個人が対象となっています。つまり、医科のように一定の施設基準は必要なく、どの薬局でも算定が可能(但し、基準調剤加算算定にはかかりつけ薬剤師が必要)
違い2:
医科のかかりつけは対象患者が限られているのに対し、かかりつけ薬剤師の場合は誰に対してでも算定できる。つまり、風邪とかの軽度疾患でたまたま調剤してもらった薬局でも同意書をとれば、算定ができる仕組みです。同意書をもらう方も、「かかりつけ」の意味を考えれば、こういった患者に同意書を求めることはないだろうと思いたいのですが、会社の方針となるとどうでしょうか? 年齢によってかかりつけとなる診療科はさまざまですが、医科と同じように、まず制度導入当初は、慢性疾患で定期的に調剤を受けている患者さんとか、過去1年間に○○回以上調剤を受けている患者さんといった対象を制限してもよかったのではないかと思います。
違い3:
医科では通常の診療に加え、幅広い知識が求められるプラスαの内容があります。しかし、かかりつけ薬剤師ではこれまで行っていた内容がほとんどであり、「かかりつけ薬剤師」だから求められる新たな業務がない
違い4:
地域包括診療加算では、算定対象患者さんが限定されていることもあり、これらに関する必要な研修を義務付けられているが、かかりつけ薬剤師には具体的な必要な研修を求めていない。
上記、表にはありませんが、歯科(かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所の施設基準)でも下記のような研修要件があります(→リンク)
- 偶発症に対する緊急性の対応、医療事故及び感染症対策等の医療安全対策に係る研修
- 高齢者の心身の特性、口腔機能の管理及び 緊急時対応等に係る研修
かかりつけ薬剤師の要件には、患者が受診している全ての保険医療機関の情報を把握し、服用している処方薬をはじめ、要指導医薬品及び一般用医薬品(以下「要指導医薬品等」という。)並びに健康食品等について全て把握する というのがありますが、せめてこの分野に関する研修は個人的には必要だと思います。
即ち、健康サポート薬局で求められる、「健康サポート薬剤師」の研修要件です。
過渡的とはいえ、かかりつけ業務を行うために必要な具体的研修要件を求めない今回の制度設計では、単なる「担当薬剤師指導料」でしかありません。
違い5:
小児では、はっきりと地域活動への参加を求める事項がが含まれていますが、かかりつけ薬剤師の要件では多くの方が困惑するように実にあいまいです。
地域活動には、個人がボランティア的に行うものと、地域の一薬局ととして協力する活動と2通りあるのではないかと思います。前者のうち学校薬剤師になりたくてもなれないとの声もありますが、こういった活動は通常は勤務時間内や休日・夜間などに行うのが一般的です。個人でやりたいと思っても、日常業務に影響するとして協力して頂けない施設は当然あるわけで、むしろこの要件は基準調剤加算の要件に加えるべきであったと思います。
また、子育てや介護など家庭の事情で休日・夜間などにボランティア的に行うことができない方も少なくないと思います。勤務薬剤師が多いという、医科とは異なる状況下でこの項目を加えたことは大きな誤りだったと個人的には思います。(地元薬剤師会に入らない、地域活動に協力しない大型チェーン薬局を困らせようと考えたんだと思いますが)
一方、今後の疑義解釈で、薬局として取り組む地域活動も含めるという動きがあるようですが、私は制度上は不適切であると思います。繰り返しになりますが、基準調剤加算でこの項目は評価するようにすべきではないでしょうか。
ご存じのように、「かかりつけ薬剤師」という概念がクローズアップされたのは、規制改革会議や中医協での医薬分業バッシングのなかで、医師会委員などから「かかりつけ医」に対応する概念から求められたものですが、厚労省はこの「かかりつけ薬剤師」を医薬分業の正当化のための手段に使っているようにも感じられます。(だから、積極的にかかりつけ業務と呼ばれているものを飴とムチで算定を促している)
医薬分業の問題はこれまで何度も指摘しているように、世界からみれば日本の状況をみれば異常であり、それを正当化するために、準備不足の状態で、セルフメデフィケーションの支援など、本来すべき業務に優先することを求める今回の制度を導入したことには大きな疑問を感じています。
私は、「かかりつけ薬剤師」のあるべき姿・求められる知識は、健康サポート薬局で示された、「健康サポート薬剤師」であると思っています。(→TOPICS 2016.02.14 2016.02.15) 薬歴の一元管理・24時間対応という、従来の業務とほとんど変わらない内容を要件として規定した、調剤報酬上の「かかりつけ薬剤師」の要件には疑問を感じざるを得ません。
まずは、健康サポート薬局を整備し(いずれ基準調剤加算の施設要件となる)、必要な研修を受けた薬剤師のみが、かかりつけ薬剤師指導料を算定できる「かかりつけ薬剤師」ではないかと思っています。
「これを算定すれば減算分をカバーできるのでやりなさい。厚労省としても、医薬分業のメリットを証明するのに説明できるから」ともいえる今回の制度設計には、個人的には、本来の「かかりつけ薬剤師」の概念をも歪めるゆゆしき事態だと思っています。
関連情報:TOPICS
2016.02.14 健康サポート薬局・施行通知
2016.02.15 健康サポート薬局に係る研修実施要綱(通知)
2016年05月18日 01:35 投稿
概ね書かれていることに同意です。
かかりつけ薬剤師の要件である「地域活動に参画していること」というのが、私の場合、ボランティア的に参画していたため要件を満たすことができました。というのも、現在小学4年生・2年生・1歳児(もうすぐ2歳)の子育て中の私は、ボランティア精神だからこそ家族の負担が最小限になるような参画の仕方ができていました。確かに家族のためにボランティア活動ができないという方もいらっしゃると思います。が、この要件のために、地域活動がもはやボランティアではなく義務的になってしまうと、そこへ参加するため、家族の負担に申し訳ない気持ちが出てきます。従来は、今ならできるからやる。って感じで参画できてたのがボランティア精神だと思ってたのですが、今は何かしばられ感があって、ボランティア的な気分とは違ってる気がします。
東京財団というサイトに興味深い対談記事が出ていました。
〔対談〕医療統計の信頼性を考える(中)―かかりつけ医、地域医療構想の在り方を問う
(東京財団 2016.05.17)
http://www.tkfd.or.jp/research/heathcare/48n6tt
この財団の研究員の三原岳氏と日本総合研究所の西沢和彦氏との対談で、スクロールして真ん中あたりには、「かかりつけ薬剤師の展望と課題」という部分があります。
三原氏は、かかりつけ薬剤師(薬局)について、規制改革会議が医薬分業の見直しを提起したため、政治的な駆け引きの副産物として生まれたものだと指摘した上で、国や業界として「今までの取り組みがなぜダメだったのか」「どこが不十分だったのか」を検証する必要があるとし、「如何に加算を取るか」「如何に加算の基準を満たすか」という現場の状況を伝えています。
また、西沢氏は多剤投与について、患者が複数の医師に行くから発生すると指摘、医療の入口を1カ所に絞るとともに、電子カルテで情報を繋げれば解決でき、「かかりつけ薬剤師(薬局)」も本来、要らないものではないかとしています。
読んでみて、かかりつけ医制度の方向性が決まっていない状況で、「かかりつけ薬剤師」を制度化したのはどうなのかと思いました。
また、かかりつけ薬剤師の能力・研修というのはどういった分野でどこまで求められるのか、今回の要件の不備を改めて感じました。
地域包括ケアについても問題点を指摘しています。一部一面的な見方もありますが、是非、一読をお勧めします。
もうすでにお読みなったかとおもいますが、高橋秀和さんが関連記事をアップしています。
いろいろと考えさせられる指摘があります
「かかりつけ薬剤師」の理念を歪めてはいけません
(医療と薬の日記 2016.06.03)
http://blog.goo.ne.jp/chihayatadaaki/e/afe10c8afee7ebbea8b70c9054ba51cc
http://blogos.com/article/178149/
(BLOGOSはコメント(→リンク)にも注目して下さい)
一方、ダイヤモンド・オンラインにも記事がアップされています。
よく内情をわかりやすく記しており、反響も大きいようです。
医療費が100円高くなる「かかりつけ薬剤師」の説明不足
(ダイヤモンド・オンライン 2016.06.03)
http://diamond.jp/articles/-/92297
上記記事に関しては、間違った認識を広げかねないと指摘したブログ記事もアップされています。
かかりつけ薬剤師指導料と薬剤服用歴管理指導料
(ライター薬剤師の黒いブログ!! 2016.06.03)
http://tkcnr.jp/blog-entry-912.html
薬剤服用歴管理指導料=安いプラン
この認識を広げるのはまずいと思います。
第一に薬を安全に使用してもらうための管理料に安い方も高い方もありません。
これとかかりつけ薬剤師が割高なのとは意味合いが全然違います。
確かにそうだと思います。
ただ、ふと思ったのですが、安いプランであるところの「薬剤服用歴管理指導料」の要件について考えてみると、実は、2013年に改正され、2014年6月に施行された薬剤師法でこの多くが義務化されました。
薬剤師法第25条の2の改正について
(医薬品情報 2014.08.26)
http://www.drugsinfo.jp/2014/08/26-232700
これまで、中医協や規制改革会議などでバッシングの対象になっていた「薬剤服用歴管理指導料」のあり方についても、今後は検討が求められるかもしれません。(2014年は無理でも今回の2016年改定では、名称を変更した方がよかったかもしれない。調剤基本料の統合は望んでいませんが、2018年改定で「かかりつけ薬剤師指導料」にとって代わる可能性も否めません)
どうしても高齢者ばかりが掛かり付けの対象のようにされますが小児科門前だと毎週のように何か病気になるようなお子さんとかもいて親御さんから飲みあわせから飲ませ方までかなり相談を受けたりします。
そういった所の議論が少ないように感じます
また中医協の場でチェーン批判に転嫁しようとする動きがあったようで私もチェーンの所属ですがうちは薬剤師から見て必要な場合だけ案内するようにというお達しが出ている位でチェーンのくせにと言ってはなんですが同意件数は少ないです
すぐチェーンは悪だという論調に持って行くのはチェーンの中でも真面目にやっている薬剤師のやる気を削ぐことにつながりかねません
問題は不真面目にやっている薬剤師であって公の場でチェーンに所属しているから悪だという批判は本当にいかがなものかと
(大病院に所属している医師は悪くて開業している医者は素晴らしいのか?一概には言えないでしょう)
確かにチェーンのみがかかりつけの同意をとっているというわけではありません.経営者によると思います.
某県薬剤師会では会営薬局職員に対し,期限をきってかかりつけ薬剤師を「算定」するよう業務命令を出しました.職員がこの制度の問題点を指摘しても全く聞く耳をもちません.
フィーがつく以前よりある程度薬剤師を固定して対応していたときは,生産性が悪いといった評価だったのに,フィーがつくととたんに算定しろというのでは,患者のためというよりもお金のためと思われてもしかたがないと思います.