災害時に対応できる OTC 医薬品集のあり方についての検討を行ってきた、日本医薬品情報学会(http://www.jasdi.jp/)の課題研究班(代表研究者:鹿村恵明氏)は、このほど、「災害時に有効活用できるOTC医薬品(第1版)」としてまとめ、医薬品情報学でその概要を明らかにしています。
災害時に対応できる OTC 医薬品集のあり方についての検討
(日本医薬品情報学会・採択課題要旨)
http://www.jasdi.jp/mujzqel5c-197/
災害時に有効活用できるOTC医薬品
– 災害時に対応できるOTC薬品集のあり方についての検討-
(日本医薬品情報学会・平成26年度課題研究)
(医薬品情報学 18(4) 242-250,2016 Published Online 17 Mar 2017)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjdi/18/4/18_242/_article/-char/ja/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjdi/18/4/18_242/_pdf
このリストは、
- OTC医薬品で対処できる範囲である軽度の体調不良の人を対象
- 可能な限り医療用医薬品の代替ができる
ことを基本方針として、研究班のメンバーで検討を重ねてまとめたもので、「肛門用薬」「女性用薬」「耳鼻科用薬」「泌尿生殖器用薬」などは、基本方針に沿わないとして対象から除外されいます。
おそらく同学会より医薬品集としてHPにアップされると思いますが、内容確認を兼ねて、まとめてみました。
小児使用の可否や、災害時のインフラなどの状況も考慮し、概ね妥当なリストだと思いますが、初めて聞く商品もあり、意外でした。
災害時対応OTC医薬品の商品名と医薬品分類一覧
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjdi/18/4/18_242/_pdf#page=4
薬効分類 | 区分 | 商品名 | 成分名 (○○塩などは一部省略しています) |
小児 | 剤形 | メーカー |
---|---|---|---|---|---|---|
感冒薬 | 指2 | 新ルルAゴールドDX | クレマスチン ブロムヘキシン トラネキサム酸 アセトアミノフェン dl-メチルエフェドリン ジヒドロコデイン など |
可 | 錠 | 第一三共HC |
指2 | ベンザブロックLプラス | イブプロフェン プソイドエフェドリン d-クロルフェニラミンマレイン酸塩 ジヒドロコデイン など |
カプレット | 武田 | ||
2 | ニッドこどもかぜ薬顆粒 | アセトアミノフェン クロルフェニラミンマレイン酸塩 チペピジンヒベンズ酸塩 など |
可 | 顆粒 | 協和薬品工業
(チェーンPB) |
|
指2 | キッズバファリンかぜシロップP
キッズバファリンかぜシロップS |
アセトアミノフェン dl-メチルエフェドリン デキストロメトルファン グアイフェネシン ジフェンヒドラミン塩酸塩 |
可 | シロップ | ライオン | |
解熱鎮痛薬 | 1 | ロキソニンS | ロキソプロフェン | 錠 | 第一三共HC | |
指2 | フェリア | イププロフェン(150mg/包) | 細粒 | 武田 | ||
2 | タイレノールA | アセトアミノフェン(300mg/錠) | 錠 | 武田 | ||
2 | 小児用バファリンチュアブル | アセトアミノフェン(50mg/錠) | 可 | チュアブル | ライオン | |
指2 | バファリンA | アスピリン (330mg/錠) 合成ヒドロタルサイト |
錠 | ライオン | ||
鎮咳去痰薬 | 指2 | アストフィリンS | ジプロフィリン dl-メチルエフェドリン ノスカピン ジフェンヒドラミン |
錠 | エーザイ | |
1 | アネトンせき止め顆粒 | コデインリン酸塩 dl-メチルエフェドリン テオフィリン (40mg/包) グアヤコールスルホン酸カリウム クロルフェニラミンマレイン酸塩 |
可 | 顆粒 | 武田(J&J) | |
指2 | コフトせき止め | dl-メチルエフェドリン塩酸塩 d-クロルフェニラミンマレイン酸塩 |
可 | 錠 | 日本臓器 | |
2 | クールワン去たんソフトカプセル (ストナ去痰カプセルと同じ) |
L-カルボシステイン(125mg/C) ブロムヘキシン塩酸塩(2mg/C) |
可 | カプセル | 杏林 (佐藤) |
|
含嗽剤 | 3 | 浅田飴AZうがい薬 | アズレンスルホン酸ナトリウム | 可 | 液 | 浅田飴 |
3 | 明治うがい薬 | ポビドンヨード | 可 | 液 | 明治 | |
口腔咽喉薬 | 部外 | 明治Gトローチ | セチルピリジニウム グリチルリチン酸二カリウム キキョウエキス |
可 | トローチ | 明治 |
睡眠鎮静薬 | 指2 | ウット | ブロモバレリル尿素 アリルイソプロピルアセチル尿素 ジフェンヒドラミン塩酸塩 |
錠 | 伊丹 | |
指2 | グ・スリーP | ジフェンヒドラミン塩酸塩 (50mg/錠) |
錠 | 第一三共HC | ||
アレルギー用薬 | 2 | アレグラFX | フェキソフェナジン | 錠 | 久光 | |
2 | ビエロップQQ | クロルフェニラミンマレイン酸塩 フェニレフリン塩酸塩 ベラドンナ総アルカロイド など |
可 | 錠 | 浅田飴 | |
胃腸薬 | 1 | ガスター10S | ファモチジン | 口腔内崩壊錠 | 第一三共HC | |
2 | 第一三共胃腸薬〔細粒〕a | 消化酵素、制酸剤、生薬末 など | 可 | 細粒 | 第一三共HC | |
2 | ブスコパンA錠 | ブチルスコポラミン | 錠 | エスエス | ||
止瀉薬
(整腸剤) |
指2 | トメダインコーワフィルム | ロペラミド(0.5mg/枚) | フィルム | 興和 | |
2 | 小中学生用ストッパ下痢止めEX | ロートエキス タンニン酸ベルベリン |
可 | チュアブル | ライオン | |
部外 | 新ビオフェルミンS細粒 | コンク・ビフィズス菌末 | 可 | 細粒 | 武田 | |
瀉下薬
(下剤) |
指2 | ラクトールS | ビサコジル(5mg/錠) センノシド(13.3mg/錠) |
可 | 錠 | カイゲン |
3 | スラーリア便秘薬 | 酸化マグネシウム’ (333mg/日) |
可 | 錠 | ロート | |
3 | カンテン末 かんてんぱぱの寒天粉末 | 日局 カンテン末 (2000mg/包) |
可 | 末 | 協和 | |
2 | イチジク浣腸30 | グリセリン | 液 | イチジク製薬 | ||
滋養強壮薬 | 3 | アリナミンA5 | フルスルチアミン ピリドキシン シアノコバラミン |
可 | 錠 | 武田 |
鎮痛・鎮痒・収れん・消炎薬 | 2 | ボルタレンACゲル | ジクロフェナクナトリウム | ゲル | GSK | |
2 | ゼノールエクサムSX | フェルビナク、メントール | 可 | チック | 大鵬 | |
3 | 新レスタミンコーワ軟膏 | ジフェンヒドラミン塩酸塩 | 可 | 軟膏 | 興和 | |
2 | キンカン | アンモニア水、 l-メントール、 d-カンフル、 サリチル酸、トウガラシチンキ | 可 | 液 | キンカン | |
化膿性疾患用薬 | 指2 | クロマイ-P軟膏AS | クロラムフェニコール フラジオマイシン硫酸塩 プレドニゾロン |
可 | 軟膏 | 第一三共HC |
指2 | フルコートf | フルオシノロンアセトニド フラジオマイシン硫酸塩 |
可 | 可 | 田辺三菱 | |
殺菌消毒薬 | 3 | マキロンs | ベンゼトニウム塩化物 アラントイン クロルフェニラミンマレイン酸塩 |
可 | 液 | 第一三共HC |
3 | ウエルセプト (速乾性擦性手指膚消毒剤) |
エタノール | 可 | 液 | 丸石 | |
3 | 消毒用エタノール | エタノール | 可 | 液 | 各社 | |
皮膚軟化薬 | 3 | パスタロンSEクリーム | 尿素(10%) グリチルリチン酸二カリウム トコフェロール酢酸エステル |
可 | クリーム | 佐藤 |
しもやけ・あかぎれ用薬 | 3 | 白色ワセリン | 白色ワセリン | 可 | 軟膏 | 各社 |
その他の外皮用薬 | 3 | コロスキン | ピロキシリン、d-カンフル | 可 | 外用液 | 東京甲字社 |
一般点眼薬 | 3 | サンテドウプラスEアルファ | シアノコバラミン 酢酸d-α-トコフェロール ネオスチグミンメチル硫酸塩 クロルフェニラミンマレイン酸塩 グリチルリチン酸二カリウム |
可 | 点眼液 | 参天 |
抗菌性点眼薬 | 2 | 抗菌アイリスα (1回使い切りタイプ) |
スルファメトキサゾールナトリウム グリチルリチン酸二カリウ コンドロイチン硫酸ナトリウム アミノエチルスルホン酸(タウリン) |
可 | 点眼液 | 大正製薬 |
2 | ロート抗菌目薬EX | スルファメトキサゾールナトリウム グリチルリチン酸二カリウム クロルフェニラミンマレイン酸塩 酢酸d-α-トコフェロール |
可 | 点眼液 | ロート | |
アレルギー用点眼薬 | 2 | ザジテンAL点眼薬 | ケトチフェンフマル酸塩 | 可 | 点眼液 | GSK |
1 | ロートアルガードプレテクト | トラニラスト | 可 | 点眼液 | GSK | |
人工涙液・コンタクトレンズ装着液 | 3 | ティアーレW (1回使い切りタイプ) |
塩化ナトリウム、塩化カリウム、ヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース) | 可 | 点眼液 | オフテクス |
口内炎用薬 | 指2 | ケナログA口腔用軟膏 | トリアムシノロンアセトニド | 可 | 軟膏 | ブリストル |
漢方・生薬製剤 | 2 | 松浦の芍薬甘草湯ゼリー | 芍薬甘草湯 | 内服ゼリー | 松浦 | |
2 | 紫雲膏 | 紫雲膏 | 可 | 軟膏 | 各社 | |
2 | カコナール葛根湯顆粒F | 葛根湯 | 可 | 顆粒 | 第一三共HC | |
公衆衛生用薬 | 2 | クレゾール石ケン液 | クレゾール | 外用液 | 各社 | |
部外 | キンチョール | |||||
部外 | アース渦巻香 |
なお研究班では、被災の現場に薬剤師がいるとは限らないとして、被災者自身でもある程度自己判断ができるようにするため、ピクトグラムや実物写真を備えた「災害時対応OTC医薬品情報提供カード」も作成しています。
災害時対応OTC医薬品情報提供カード例(ドメダインコーワフィルム)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjdi/18/4/18_242/_pdf#page=7
リストを見ての感想ですが、配合成分や剤形などが特に考慮され、あまり聞き慣れない商品が少なくないことです。
例えば、ニッドこどもかぜ薬顆粒は、とてもよい配合の組み合わせだと思いますが、メインのルートはチェーンのPBであり、供出が可能となるかは疑問のあるところです。(一方で、大正製薬やエスエス製薬、佐藤製薬などの直販メーカー品は避けられている?)
(総合)感冒薬は万能さが必要なのでこの品目でよいと思いますが、コデインが入っているので便秘発現には考慮が必要だと思います。
解熱鎮痛剤としては、アセトアミノフェン単剤のシロップがあればいいのですが、現在OTCで販売されていないので、アセトアミノフェンとジフェンヒドラミン塩酸塩のみが配合された、「キッズバファリンかぜシロップ」の選択があってもよかったのではないかと思います。
鎮咳去痰薬の 「クールワン去たんソフトカプセル」の製造者は佐藤製薬で、同成分が含まれる「ストナ去痰カプセルと同じストナ去痰カプセル」と中身は同じだと思われます。
今回点鼻薬は対象薬から外れていますが、花粉症のシーズンなど、内服が使えない方もいることを考慮し、ステロイド配合の点鼻薬の選択も考慮する必要があるかもしれません。
ウットは、しばしば乱用が問題とる商品で、きちんとした管理下におかないとトラブルの原因となる可能性があります。
アレグラFXなどで代用(効能効果にはない)が検討されているいるのだと思いますが、クロルフェニラミン単味の抗ヒスタミン剤(+ビタミン剤)の「アレルギール錠」なども選択されてもよかったのではないかと思います。
下剤については、室温での保管が可能な「ツージーQ」(ビサコジル)、「ウィズワン坐剤」(炭酸水素ナトリウム+無水リン酸二水素ナトリウム)の選択があってもよかったかもしれません。
また下剤で選択されている、「カンテン末 かんてんぱぱの寒天粉末」というのは初めて聞いたのですが、発売当時は注目を集めていたのですね。
寒天粉末用いた初の便秘薬発売
(薬事日報 2007.03.14)
http://www.yakuji.co.jp/entry2504.html
また、ステロイドを含まない抗生剤だけの外用薬も選択されてもよかったのではないでしょうか。
点眼薬については、1回使いきりのタイプのものが選択されています。被災地では有用だと思いますが、販売会社が限られているのが難があります。
紫雲膏は傷ややけどにも使え、有用だと思います。
ところでこういったリストは。TOPICS 2011.04.07で紹介しましたように、2005年8月のハリケーンカトリーナで救援活動を行った薬剤師が、被災地での薬剤師の活動の在り方やOTC医薬品の活用について論文として発表しています。
The nontraditional role of pharmacists after hurricane Katrina: process description and lessons learned.
(Public Health Rep. 2009 Mar–Apr; 124(2): 217–223.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2646478/
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2646478/pdf/phr124000217.pdf
このリストでは、避難所で有用とされるOTC医薬品として、アセトアミノフェンとイブプロフェン、デキストロメトルファン、ジフェンヒドラミンなどの単味製品をあげた他、クロトリマゾールなどの抗真菌外用薬やコンタクトレンズ関連製品や耳栓?なども必要だとしています。
研究班では除外の対象となってしまいましたが、「ラミシールATクリーム」などの、抗真菌剤単味のものであれば、いろいろな用途に使用でき、選択の対象として検討されるべきだと思います。
また、被災地ではトイレの問題から、排便をがまんし、痔症状を発症または悪化させる例があるという声があったように記憶しています。どの適度の必要性があるかはわかりませんが、選択の対象としてもよかったかもしれません。(避難生活が長引く場合での医薬品のニーズは異なる)
今回のリストではあまり考慮されなかったようですが、自由に被災者が使用できることも考慮し、乱用や誤用(特に小さな子ども)のリスクも検討されるべきでしょう。
最後に、このリストは、平時でも夜間などに必要とされる品目であることにかわりありません。健康サポート薬局を目指す薬局におかれては是非参考にされることを望みます。
関連情報:TOPICS
2011.04.07 災害時におけるOTC医薬品の役割
2011.09.06 東日本大震災とくすり(日本社会薬学会シンポ)
2017年03月20日 17:09 投稿