BZ系薬剤への注意喚起、十分な対策となっているだろうか?(Update)

 厚労省は21日、3月17日に開催された医薬品安全対策部会(資料は近くアップされる)での了承を受け、催眠鎮静薬、抗不安薬及び抗てんかん薬について、添付文書の改訂の指示を行い、現場への周知を求める通知を行っています。

PMDA 使用上の注意改訂情報(平成29年3月21日指示分)
http://www.pmda.go.jp/safety/info-services/drugs/calling-attention/revision-of-precautions/0318.html

催眠鎮静薬、抗不安薬及び抗てんかん薬の「使用上の注意」改訂の周知について(依頼)
(厚生労働省医薬・生活衛生局安全対策課長・通知 2017.03.21)
http://www.pmda.go.jp/files/000217230.pdf

今回の改訂では、

[重要な基本的注意]の項に

連用により薬物依存を生じることがあるので、漫然とした継続投与による長期使用を避けること。本剤の投与を継続する場合には、治療上の必要性を十分に検討すること。

[副作用]の「重大な副作用」の項に

薬物依存:
  連用により薬物依存を生じることがあるので、観察を十分に行い、用量及び使用期間に注意し慎重に投与すること。特にアルコール中毒、薬物依存の傾向又は既往歴のある患者、重篤な神経症患者に対しては、注意すること。
  また、連用中における投与量の急激な減少ないし投与の中止により、不安、不眠、痙攣、悪心、幻覚、妄想、興奮、錯乱又は抑うつ状態等の離脱症状があらわれることがあるので、投与を中止する場合には、徐々に減量するなど慎重に行うこと。なお、高齢者、虚弱者の場合は特に注意すること。

がそれぞれ追記されます。

 また、通知では

今般の「使用上の注意」の改訂は、主に以下の点について注意喚起を行うことを目的としております。

  • 承認用量の範囲内においても、連用により薬物依存が生じることがあるので
    ①用量及び使用期間に注意し、慎重に投与すること。
    ②催眠鎮静薬又は抗不安薬として使用する場合には、漫然とした継続投与 による長期使用を避けること。投与を継続する場合には、治療上の必要性を検討すること
  • 承認用量の範囲内においても、連用中における投与量の急激な減少又は投与の中止により、原疾患の悪化や離脱症状があらわれることがあるので、 投与を中止する場合には、徐々に減量するなど慎重に行うこと。
  • ベンゾジアゼピン受容体作動薬については、統合失調症患者や高齢者に限らず、刺激興奮、錯乱等があらわれることがあるので、観察を十分に行う こと。

つきましては、貴管下の医療機関及び薬局に今般の「使用上の注意」改訂を周知いただきますようご協力をお願いいたします

と現場に求めています

 今回の改訂に際しては、PMDAではこれら薬剤のレビューを行っています。(どうしてこの程度のことが今までできなかったんだろう)

調査結果報告書(2017.02.28)
http://www.pmda.go.jp/files/000217061.pdf

 注目は、3ページに記載されている海外の状況です。下記にその部分を抜粋するとともに、一次資料や関連情報を紹介します。

1.英国

 1980 年代からBZ の長期使用による薬物依存や離脱症状のリスクが懸念されてきた。医薬品・医療製品規制庁(MHRA)の医薬品安全性委員会は、1988 年に重度の不安に対しBZ は短期間での使用(2~4 週までに留める)と限定した.

Benzodiazepines, Dependence and Withdrawal Symptoms
(MHRA Current Problems in Pharmacovigilance: Number 21 (pages 1-4) January 1988)
http://webarchive.nationalarchives.gov.uk/20141205150130/http://www.mhra.gov.uk/home/groups/pl-p/documents/websiteresources/con2024428.pdf

 2011 年7 月には、漸減期間を含め処方期間は最長で4週までと改めて注意喚起している。

Addiction to benzodiazepines and codeine
(MHRA 2011.07.06)
https://www.gov.uk/drug-safety-update/addiction-to-benzodiazepines-and-codeine

 上記注意喚起は、下記の報告書などを踏まえて行われた

Addiction to medicine: an investigation into the configuration and commissioning of treatment services to support those who develop problems with prescription-only or over-the-counter medicine.
(National Treatment Agency for Substance Misuse, May 2011)
http://www.nta.nhs.uk/uploads/addictiontomedicinesmay2011a.pdf

The changing use of prescribed benzodiazepines and z-drugs and of over-the-counter codeine-containing products in England: a structured review of published English and international evidence and available data to inform consideration of the extent of dependence and harm.
(The National Addiction Centre, King’s College London, and School of Social and Community Medicine, University of Bristol, 2011.) →こちらで一応見れる(かなり詳しい)

※英国の状況は下記でも詳しい(いずれも、(OTC)コデインと同列に扱っている点は日本も留意すべき)

An Inquiry into Physical Dependence and Addiction to Prescription and Over-the-Counter Medication
(All-Party Parliamentary Drugs Misuse Group 2009 : 英国の議員連盟がまとめた報告書)
http://www.codeinefree.me.uk/img/APPDMGPOMOTCRptFinal.pdf

 具体的な対策も進んでいて、2007年にはclinical managementに関するガイドラインが、2013年には処方薬やOTC医薬品の依存へのサポートに関する、NHSや地域機関に対するガイダンスなどが保健省などか公表。(関連記事→TOPICS 2013.06.30

Drug misuse and dependence – UK guidelines on clinical management
http://www.nta.nhs.uk/uploads/clinical_guidelines_2007.pdf

New commissioning guidance for addiction to medicines~
New guidance states NHS and local authorities are to provide support for people addicted to prescription or over-the-counter medicines.
Public Health England 2013.06.28)
https://www.gov.uk/government/news/new-commissioning-guidance-for-addiction-to-medicines
http://www.nta.nhs.uk/uploads/pheatmcommissioningguide.pdf

2.フランス

 2012年9月、国立医薬品・医療製品安全庁(ANSM)より、BZ 誤用の低減のためのアクションプランが発表されており、不眠治療に対しては4週まで、不安治療に対しては12 週までという継続処方期間の制限を課している。

Plan d’actions de l’ANSM visant à réduire le mésusage des benzodiazépines – Point d’information
(ANSM 2012.09.25)
http://ansm.sante.fr/S-informer/Points-d-information-Points-d-information/Plan-d-actions-de-l-ANSM-visant-a-reduire-le-mesusage-des-benzodiazepines-Point-d-information

Etat des lieux de la consommation des benzodiazépines en France – Rapport d’expertise
(AFSSAPS 2012.01.16)
http://ansm.sante.fr/content/download/38059/500324/version/2/file/Afssaps_Rapport-Benzodiazepines_Janvier_2012.pdf
(BZ系の使用状況に関する報告書。ANSMは以前はAFSSAPS と呼ばれていた)

3.カナダ

 1982 年、保健省がBZ の使用に関する書籍を発表しており、その中でBZ の抗不安作用に関して、投与開始2~4 週以降は効果が期待できないため、1~2 週間の投与期間が推奨されている。一方、BZ の依存性に関しては多数の研究結果から、ジアゼパムでは投与開始2 週間~4 ヵ月で依存が形成されると推測されている

Authority of The Minister of National Health and Welfare, The Effects of Tranquillization: Benzodiazepine Use in Canada, 1982
http://www.benzo.org.uk/hcb/
http://www.benzo.org.uk/hcb/hcb1.htm
(benzo.org.uk がテキストにしています)

4.デンマーク

 2007年、国家保健委員会より依存性薬物の処方に関するガイダンスが発表されており、BZ の処方は、不眠治療に対しては1~2 週間、不安治療に対しては4 週間の投与期間とすることが推奨されている5

Vejledning om ordination af afhængighedsskabende lægemidler og om
substitutionsbehandling af personer med opioidafhængighed
(デンマーク国家保健委員会 2007.06.08)
http://www.sst.dk/~/media/25238D57969D4D219056E55ACDA17A60.ashx

 つまり、欧州ではすでに、ベンゾジアゼピン系やゾルピデムなどのZ薬の長期処方は、転倒や骨折、交通事故、認知障害などと関連があり、長期の使用は禁断症状と潜在的な依存性とも関連づけられるとして、欧州ではこれら薬剤について、長期処方はやめる方向になっています。

 下記論文では、各国では国をあげて処方と消費の面から長期使用を控える Anti-BZD campaigns も展開されていることが紹介しています(償還の制限など)。

Contribution of prolonged-release melatonin and anti-benzodiazepine campaigns to the reduction of benzodiazepine and z-drugs consumption in nine European countries.
Eur J Clin Pharmacol. Published Online 2012 Nov 1. )
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3610030/

 海外の取組を見るについて、日本の対策は不十分だと思います。

 なぜなら、まず、きちんとしたBZ系などに対する依存や乱用に関する実態調査が行われていない点です。
 
去年公表されたNDBオープンデータの状況(TOPICS 2016.10.12)から、いかにこれらの薬剤が多く使われていることは明らかになっているのにかかわらずからです。

 はっきり言って、今回の添付文書改訂はだけでは不十分だと思います。

 医療関係者だけでなく、依存のリスクについての、きちんと患者向けの情報発信をも行うべきです

 また、医療関係者向けにもきちんとした情報を提供すべきです。

 英国医薬品庁(MHRA)では、WEB上でベンゾジアゼピン系薬剤の学習ツールの提供していることを以前紹介しました。(TOPICS 2013.03.14 記事でのリンクは一部切れています)

Benzodiazepines learning module
(MHRA)
http://www.mhra.gov.uk/benzodiazepines-learning-module/CON234573

 このサイトは、バラバラになっている、ベンゾジアゼピン系薬剤に関する情報を整理するだけではなく、現場の医療専門職がどのような点に留意したらよいかを整理してあり、有用な情報です。

 日本だったら、民間が提供しそうなサイトですが、英国ではこれを医薬品公的機関が提供することで、適正な処方と副作用発現への意識を高めるということになるのでしょう。

 さて、BZ系などを販売するメーカーは今回の改訂についての情報を、処方医にどのように情報提供を行うでしょうか? DMだけでなく、きちんと伝えてもらいたいものです。

 一方で、薬局も依存性のリスクについても触れることとが求められることになるでしょう。 どのように伝えるかはこれからの課題です

詳しいことを知りたい人への情報サイト:
benzo.org.uk (http://www.benzo.org.uk/
Benzo Case Japan (http://www.benzo-case-japan.com/index-japanese.php
ベンゾジアゼピンの長期的影響(ウィキペディア)→リンク (多くの報告書や文献にリンクがある)

関連情報:TOPICS
  2013.06.20 不正使用や依存の可能性がある医薬品のリスト(英国)
  2013.06.13 睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン
  2013.03.14 Benzodiazepines learning module(英MHRA)(リンク切れがあります)

3月22日 0:25追記


2017年03月21日 23:36 投稿

コメントが2つあります

  1. アポネット 小嶋

    PMDAから医薬品適正使用のお願いが発出されています。(2年半ぶり)

    医薬品適正使用のお願い(PMDA)
    http://www.pmda.go.jp/safety/info-services/drugs/calling-attention/properly-use-alert/0002.html

    ベンゾジアゼピン受容体作動薬の依存性について
    (PMDAからの医薬品適正使用のお願い No.11 2017.3)
    http://www.pmda.go.jp/files/000217046.pdf

    ベンゾジアゼピン受容体作動薬には、承認用量の範囲内でも長期間服用するうちに身体依存が形成されることで、減量や中止時に様々な離脱症状があらわれる特徴があるとして、次のような点に注意するよう呼びかけています。

    ベンゾジアゼピン受容体作動薬を催眠鎮静薬及び抗不安薬として使用する場合は、以下の点にご注意ください

    ◎漫然とした継続投与による長期使用を避けてください
     ・承認用量の範囲内でも長期間服用するうちに依存が形成されることがあります
     ・投与を継続する場合には、治療上の必要性を検討してください
    ◎用量を遵守し、類似薬の重複処方がないことを確認してください
     ・長期投与、高用量投与、多剤併用により依存形成のリスクが高まります
     ・他の医療機関から類似薬が処方されていないか確認してください
    ◎投与中止時は、漸減、隔日投与等にて慎重に減薬・中止を行ってください
     ・急に中止すると原疾患の悪化に加え、重篤な離脱症状があらわれます
     ・患者さんに、自己判断で中止しないよう指導してください

  2. アポネット 小嶋

    仏ANSMが、最近のベンゾジアゼピン系の使用状況についての報告書を公表しています

    Etat des lieux de la consommation des benzodiazépines – Point d’Information
    (ANSM 2017.04.05)
    http://ansm.sante.fr/S-informer/Actualite/Points-d-information-Points-d-information/Etat-des-lieux-de-la-consommation-des-benzodiazepines-Point-d-Information

    適正使用を呼びかけるなら、日本でもこういったデータをまとめて、問題点を明らかにする必要があると思います。