既に報じられていますが、17日、第1回 高齢者医薬品適正使用検討会が開催されています。
第1回 高齢者医薬品適正使用検討会
(厚労省 2017.04.17開催)
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000162483.html
この検討会は、3月30日に開催された、第1回厚生科学審議会 医薬品医療機器制度部会で「医薬品の安全対策の近年の制度改正と現状」(→リンク)の中の高齢者における医薬品安全対策の推進のため、検討会が設置されたものです。
第1回医薬品医療機器制度部会
(厚労省 2017.03.30開催)
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000159749.html
検討会資料にもありますが、厚労省については次のような認識で検討会の立ち上げに至ったとしています。
【現状】
高齢化の急速な進展により、高齢者への薬物療法に伴う問題が顕在化
- 腎/肝機能の低下、体成分組成の変化による薬物動態の変化
- 合併症による多剤投与(ポリファーマシー)の増加
- 多剤投与(ポリファーマシー)による副作用の増強、薬物間相互作用の発現(精神、麻薬等)
- 医薬品の情報提供は単品単位で行われ、複数薬剤を包括した注意喚起が行われていない
- 飲み忘れ等、服薬管理の必要性が高い患者の存在 等
【必要な対策】
- 高齢者の薬物療法に関する安全対策の充実
- 高齢者の薬物療法に関する専門性の強化と多職種連携
- 高齢者の薬物療法の安全性確保のため、医薬品の安全性情報の提供のあり方等の安全対策を推進するに当たって必要な事項を検討
資料1:高齢者医薬品適正使用検討会・開催趣旨及び検討課題について
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000162473.pdf
検討会では、上記厚労省の趣旨説明のあと、2名によるプレゼンが行われています。
(資料2)高齢者の適正な薬物療法~ポリファーマシーを中心に~(平井みどり氏)
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000162474.pdf
(資料3)高齢者の安全な薬物療法ガイドライン(秋下雅弘氏)
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000162475.pdf
お二人とも、PIM(Potentially Inappropriate Medications)として、Beers criteria や STOPP、日本老年医学会の慎重投与薬のリストなどを取り上げ、高齢者の多剤処方(polypharmacy)対策の必要性を述べたそうです。
この問題は、海外ではもう20年前から取り上げられており、本サイトでも度々取り上げてきました。(→TOPICS 2015.04.25)
海外の状況:
Explicit and implicit checklists and possible tools supporting the execution of a medication review
(PCNE Working Conference 2015 ワークショップ スライド)
http://www.pcne.org/upload/files/100_2015_Workshop_1_Intro-2.pdf
- Beers criteria
(米 updated 1997, 2003, 2012,2015)→TOPICS 2012.03.21
(Update 2015)→J Am Geriatr Soc Published Onine 8 Oct 2015 - STOPP (Screening Tool of Older Person‘s potentially inappropriate Prescriptions)
(アイルランド updated 2008 2014)→Age Ageing Published Online 16 Oct 2014 - START (Screening Tool to Alert doctors to the Right Treatment)
(アイルランド updated 2008 2014) →Age Ageing Published Online 16 Oct 2014 - PRISCUS list
(独 2010)→TOPICS 2008.29 Priscus-Liste (ドイツ版 Beersリスト) - The EU(7)-PIM list
(欧州7か国の専門家)→Eur J Clin Pharmacol.Published Online 14 May 2015 - Explicit criteria for determining potentially inappropriate medication use by the elderly.
(米 1997)→ Arch Intern Med. 1997;157(14):1531-1536. - Defining inappropriate practices in prescribing for elderly people: a national consensus panel
(加 1997)→CMAJ 1997; 156: 385–91. - Potentially inappropriate medications in the elderly: a French consensus panel list
(仏 2007)→Eur J Clin Pharmacol 2007; 63: 725–31. - MAI (medication appropriateness index)
(米1992)→J Clin Epidemiol. 1992 Oct;45(10):1045-51. PasQ - Australian prescribing indicators tool
(豪2008)→BMJ Open. Published online 15 Sep 2012.
今後このテーマを検討するとなると、検討課題は広範囲に及びます。きちんとまとまり、実効のある対策となるのかどうか心配もするところです。
高齢者の安全対策に関して
今後の議論の方向性として考えうる論点(案)
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000162477.pdf
- エビデンスの収集
- 薬剤の高齢者の薬物動態等の情報
- 多剤服用の実態と副作用の関係、データベース研究 - 対策が必要な疾患領域: 糖尿病、循環器(血栓、心疾患)、認知症、不眠等
- 多職種、多様な医療現場、専門領域以外も含めた対処に役立つ対策、ガイドライン等
- 多様な現場の状況を踏まえた多剤複合的な安全性情報提供
- 多職種連携の下での患者の状態に関する情報収集、管理、共有及び処方のあり方
- 現場での安全性と適正使用の意識の向上
今後は、6月、7月に検討会を開催し、夏頃を目途に 検討課題の整理と検討の方向性に関する取りまとめ(中間とりまとめ)を行い、必要に応じてWGも設置するようです。(→資料5)
個人的には以前から言われていたことについて、厚労省もなぜこの時期にという思いますが、下記のツイートが示すように、私ももしかすると裏の目的があるのではないかと思っています。
厚労省の高齢者医薬品適正使用検討会が初会合。がん免疫療法を含む併用療法、抗体薬などアルツハイマー型認知症治療薬などの開発状況や、超高齢化問題を踏まえると、安全対策の推進もありますが、医療財政逼迫に備えた薬剤費抑制策の色彩が濃いとみています。
— 国際医薬品情報 (@IPI_editors) 2017年4月17日
というのは、委員に中医協委員もつとめた、印南一路氏(慶應義塾大学総合政策学部教授)が構成員(座長)として加わっているからです。
おそらく、医療費適正化という側面からの検討も行われるのではないかと思います。
以下、プレゼンなどで紹介された資料
Preventable medical injuries in older patients.
(Arch Intern Med. 2000 Oct 9;160(18):2717-28.)
http://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/485472
大学病院老年科における薬物有害作用の実態調査
(日本老年医学会雑誌 Vol. 41 (2004) No. 3 P 303-306)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics1964/41/3/41_3_303/_article/-char/ja/
高齢者の安全な薬物療法ガイドライン〜 第48回日本老年医学会学術集会記録
(日本老年医学会雑誌 Vol.44 (2007), No.1 31-34)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/44/1/44_1_31/_pdf
Risk of Dementia in Patients with Insomnia and Long-term Use of Hypnotics: A Population-based Retrospective Cohort Study
(PLoS One. Published Online 2012 Nov 7)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3492301/
Emergency Hospitalizations for Adverse Drug Events in Older Americans
(NEJM 2011; 365:2002-2012)
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMsa1103053
高齢者の薬物治療の安全性に関する研究
(H25厚生労働科学研究)
http://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=201310012A
(H26厚生労働科学研究)
https://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=201417008A
高齢者等における薬物動態を踏まえた用法用量設定手法の検討に関する研究
(H27厚生労働科学研究)
https://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=201523019A
医療機関および薬剤師における副作用等報告制度の認識と実践の実態把握とその推進に関する研究
(H26厚生労働科学研究)
https://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=201451004A
STOPP基準を用いて高齢者のポリファシーに対する薬剤師による介入
(医療薬学 Vol. 42 (2016) No. 2 P 78-86)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjphcs/42/2/42_78/_article/-char/ja/
Polypharmacy as a risk for fall occurrence in geriatric outpatients.
(Geriatr Gerontol Int. Epub 2011 Dec 23.)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22212467
Cumulative Use of Strong Anticholinergic Medications and Incident Dementia
(JAMA Intern Med.2015 Mar;175(3):401-7.)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4358759/
かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第2版)
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000140619.pdf
睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン
http://www.jssr.jp/data/pdf/suiminyaku-guideline.pdf
パンフレット「高齢者が気を付けたい 多すぎる薬と副作用」
http://www.jsgp.or.jp/pdf/too_much_medicines_and_side_effects.pdf
だから、強制力と現場への徹底と患者への啓発がなければ、GLだけ作ったって意味ないって。
BZだって注意喚起でおしまいでしょ。何も変わっていないじゃないか。【NHKニュース】
高齢者への薬の過剰な処方減らすガイドライン作成へhttps://t.co/xLhsdszjiL— 小嶋 慎二@アポネット (@kojima_aponet) 2017年4月17日
なぜ今になって問題視?
委員の秋下雅弘東京大教授は、薬が6種類以上になると副作用が明らかに増え、転倒などにより要介護と認定されるリスクが2・4倍高まると説明
【東京新聞】
高齢者の適正な薬服用へ指針 飲み合わせと副作用調査、厚労省https://t.co/XixOwQGpod— 小嶋 慎二@アポネット (@kojima_aponet) 2017年4月17日
何だかなあ
飲み忘れたり、勝手に服用を中止して薬が余る残薬の問題が指摘されており、処方する薬を減らす方法や、薬局による服薬指導の方法なども検討する方針だ。
【日本経済新聞】
高齢者の服薬に指針 厚労省、副作用対策へ検討開始https://t.co/FUhxgfmOnn— 小嶋 慎二@アポネット (@kojima_aponet) 2017年4月17日
高齢者の多剤投与対策の議論始める 厚労省検討会が初会合、2018年度末に対策を提言へ【高齢者医薬品適正使用検討会】 https://t.co/5Ts5StIfjo pic.twitter.com/AkIdetVKY9
— 日本医事新報編集局 (@jmedj_news) 2017年4月19日
関連情報:TOPICS
2015.04.06 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015(案)と関連情報
2017年04月20日 01:10 投稿