抗微生物薬適正使用の手引き 第一版(厚労省)

 6月1日、度々紹介していた抗微生物薬適正使用の手引き(第一版)の正式版が「薬剤耐性(AMR)対策について」のページにアップされました。
 
 ファイルをみたところ、フッターの(案)を消し忘れているので、再掲載され、アドレスが変わる可能性があります

【厚労省】
薬剤耐性(AMR)対策について
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120172.html

抗微生物薬適正使用の手引き 第一版
(厚生労働省健康局結核感染症課)
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000166612.pdf

 この手引きは、厚生科学審議会の下、薬剤耐性(AMR)アクションプランに定められた対策のうち、厚生労働省が所管する専門的・技術的事項について調査審議を行う小委員会が設置、さらに、抗微生物薬の適正使用(AMS)等に係る専門的・技術的事項について調査審議を行う作業部会がたたき台を作り、上部の委員会の了承を受けて作成されたものです。正式版ができるまでのたたき台・手引き案やこれまでの審議の議事録は下記をご参考下さい。

厚生科学審議会 (感染症部会)
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-kousei.html?tid=127717

厚生科学審議会 (薬剤耐性(AMR)に関する小委員会)
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-kousei.html?tid=401608

1.はじめに
(1) 策定の経緯
(2) 策定の目的
(3) 手引きの対象
(4) 想定する患者群
(5) 科学的根拠の採用方針

2.総論
(1) 抗微生物薬適正使用とは
(2) 抗微生物薬使用の適応病態
(3) 抗微生物薬の不適正使用とは
(4) その他(手指衛生 (手洗い)、ワクチン接種、咳エチケット、うがい)

3.急性気道感染症
(1) 急性気道感染症とは
(2) 急性気道感染症の疫学
(3) 急性気道感染症の診断方法および鑑別疾患
(4) 治療方法
(5) 患者・家族への説明

4.急性下痢症
(1) 急性下痢症とは
(2) 急性下痢症の疫学
(3) 急性下痢症の診断方法及び鑑別疾患
(4) 治療方法
(5) 患者・家族への説明

5.参考資料
(1) 抗微生物薬適正使用を皆さんに理解していただくために(Q&A)
(2) 抗菌薬の延期処方とは
(3) 急性気道感染症及び急性下痢症の診療に係るチェックシート

6.引用文献

 「はじめに」で、『主に外来診療を行う医療従事者(特に診察や処方、保健指導を行う医師)を対象として作成しており、入院診療に関する抗微生物薬の適正使用を網羅した内容とはしていない。」と、手引きの対象を示したうえで、

  • 外来診療で各医療従事者が主に抗微生物薬の必要な状況と必要でない状況を判別できるよう支援することを念頭に置いた内容とした。
  • 推奨事項の内容は、抗微生物薬の適正使用の概念の普及、推進を遂行するために欠かせない、処方を行わない医療従事者や患者も対象とした内容としていることから、すべての医療従事者や患者にご一読頂きたい。

としており、現場(地域薬局)の薬剤師も、この手引きに注目する必要があります。

 注目点は、患者・家族への説明例が示されている点で、薬剤師から患者への説明例も示されています。

【薬剤師から患者への説明例:抗菌薬が出ていない場合の対応例】

 あなたの「風邪」には、医師による診察の結果、今のところ抗生物質(抗菌薬)は必要ないようです。むしろ、抗生物質の服用により、下痢等の副作用を生じることがあり、現時点では抗生物質の服用はお勧めできません。代わりに、症状を和らげるようなお薬が医師より処方されているのでお渡しします。
 ただし、色々な病気の最初の症状が「風邪」のように見えることがあります。
 3 日以上たっても症状が良くなってこない、あるいはだんだん悪くなってくるような場合や、食事や水分がとれなくなった場合は、もう一度医療機関を受診するようにしてください。

【薬剤師から患者への説明例:急性下痢の場合】

 医師による診察の結果、今のところ、胃腸炎による下痢の可能性が高いとのことです。これらの急性の下痢に対しては、抗生物質(抗菌薬)はほとんど効果がありません。むしろ、抗生物質の服用により、下痢を長引かせる可能性もあり、現時点では抗生物質の服用はお勧めできません。
 脱水にならないように水分をしっかりとることが一番大事です。少量、こまめな水分摂取を心がけてください。単なる水やお茶よりも糖分と塩分が入っているもののほうがよいです。
 便に血が混じったり、お腹がとても痛くなったり、高熱が出たり、水分も取れない
状況が続く際は再度医師を受診して下さい。

今後、概要をまとめたコンパクト版なども作成されるようです。この手引がどのように活用され、どの程 度認知・強制力を持つようになるか注目です。

関連情報:TOPICS
  2017.03.07 抗微生物薬適正使用の手引き第一版完成まであと一歩
  2017.02.22 抗微生物薬適正使用の手引き第一版(仮称)たたき台
  2016.11.13 薬剤耐性(AMR)対策推進月間だけど


2017年06月01日 21:41 投稿

コメントが2つあります

  1. アポネット 小嶋

    6月1日、第5回国際的に脅威となる感染症対策推進チームが開催され、薬剤耐性(AMR)対策アクションプランに基づく施策のフォローアップの内容が示されています。

    第5回国際的に脅威となる感染症対策推進チーム
    (2017.06.01 開催)
    http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kokusai_kansen/taisaku/dai5/index.html

    資料によれば、今後、AMR臨床リファレンスセンター(平成29年4月1日設置)」において、地区別、対象職種別の研修・講習会等の開催やe- learning教材がされる他、関係学会・関係団体の関係者や専門家が参画する「感染症教育コンソーシアム(仮称)」 を平成29年度中が設置・開催、医療者向けのガイドライン(案) や患者・施設入所者等への啓発素材をが作成されうそうです。

    また、国内外の副作用等報告や薬剤耐性菌の発現状況等に基づき、適宜添付文書の改訂要否を検討する。「抗微生物薬適正使用の手引き」に基づき、適正使用に関する添付文書の改訂の要否を検討する。(外来での処方規制なんかできるのかなあ?)

    また「抗微生物薬適正使用の手引き」については、専門家の先生方のご支援を仰ぎながら、第二版、第三版と作成していくとともに、白衣のポケットに入るサイズの手引きのダイジェスト版の発行が検討されているそうです。

    感染症エクスプレス@厚労省(2017.06.09)
    http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000116724.html

  2. アポネット 小嶋

    9月29日にダイジェスト版公開されました。

    抗微生物薬適正使用の手引き
    第一版・ダイジェスト
    http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/tebiki_1.pdf

    20万部を印刷し、9月下旬から順次、全国の自治体・関係団体などに配布する予定だそうです。(プレスリリース→リンク

    かきのような対応が多くの施設で実践されれば、国民にも薬剤耐性が認知されると思うんですけどね。

    患者・家族への説明
    肯定的な説明を行うことが患者の満足度を損なわずに抗菌薬処方を減らし、良好な医師-患者関係の維持・確立にもつながる。

    【患者への説明で重要な要素】
    1) 情報の収集
    ・ 患者の心配事や期待することを引き出す。
    ・ 抗菌薬についての意見を積極的に尋ねる。

    2) 適切な情報の提供
    ・ 重要な情報を提供する。
    −急性気管支炎の場合咳は4週間程度、下痢は1週間程度続くことがある。
    −急性気道感染症、急性下痢症の大部分は自然軽快する。
    −身体が病原体に対して戦うが、良くなるまでには時間がかかる。
    ・ 抗菌薬に関する正しい情報を提供する。
    ・ 十分な栄養、水分をとり、ゆっくり休むことが大切である。
    「ウイルス性の場合は対症療法が中心であり、完治までに時間がかかる。」
    「抗菌薬は効果なし。休養が重要。」
    「抗菌薬の使用は腸内の善玉菌を殺す可能性あり。」
    「糖分、塩分の入った水分補給が重要。」
    「感染防止拡大のため手洗いを徹底し、家族とタオルを共有しない。」 など

    3) まとめ
    ・ これまでのやりとりをまとめて、情報の理解を確認する。
    ・ 注意するべき症状や、どのような時に再受診するべきかについての具体的な指示を行う。
    「3日以上経過しても改善しない場合は再受診。」
    「日常生活に支障が出るほど悪化した場合や血性下痢になった場合は再受診。」
    など