地域薬局からの副作用報告のハードルを上げていいのか?

 10日、医薬関係者による副作用報告を行う際の留意事項をまとめた「医薬関係者の副作用報告ガイダンス骨子」について、各都道府県の薬務に対し事務連絡という形で周知が行われています。

平成28年度厚生労働行政推進調査事業補助金(厚生労働科学特別研究事業)
「薬局・薬剤部の機能を活用した副作用報告の推進に関する研究」結果について(情報提供)
(厚生労働省医薬・生活衛生局総務課、医薬・生活衛生局安全対策課事務連絡
2017.07.10)
http://www.pmda.go.jp/files/000218919.pdf

薬局・薬剤部の機能を活用した副作用報告の推進に関する研究
(H28厚生労働科学特別研究)
http://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=201605027A

(概要)
医薬関係者による副作用報告の推進に向けた取組について
(第2回厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会資料3-2)
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/iyakuhinniryoukikiseidobukai23-2.pdf

 この「医薬関係者の副作用報告ガイダンス骨子」は、上記厚生労働科学特別研究がまとめた案(関連研究はいずれも安全使用についてのとりくみについてのもの。副作用報告ガイダンスの必要性をあまり感じられない)を6月22日に開催された第2回厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会(→資料リンク)、に提示し、ここでの議論を経て最終骨子とまとめたものです。

医薬関係者の副作用報告ガイダンス骨子(部会に提示されたもの・原案になる)
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/iyakuhinniryoukikiseidobukai2sannkou7_1.pdf

 事務連絡として周知されたものと比較すると、最後の部分を見ると、地域薬局からの副作用報告のハードルをむしろ上げる内容に改められており、現場の状況をどれだけ理解しているのかと思いました。

【薬局の対応について】

(中略)

制度部会で提示された原案 事務連絡での内容
治療を要するものその他、軽微とはいえない副作用が疑われる事例(上記の【速やかに報告する副作用】を参照)の発生があれば、薬剤との因果関係が必ずしも明確でない場合や、既知の副作用であっても、必要性があれば、医薬品・医療機器等安全性情報報告制度の報告様式を用いて当局(PMDA)に報告することを検討する。

 

 

  • 医療機関側で副作用報告を当局(PMDA)に行うとした場合、薬剤師は調剤し交付した薬剤名(他院で処方されたもの(他院へも情報提供を行うことが望ましい。)、他薬局で調剤されたものを含む。)や患者の服薬状況について知り得た情報を医療機関側に提供する。(【医療機関の対応について】を参照。)
  • また、トレーシング・レポート等で連絡した医療機関に協力を仰ぎ、医師による副作用の診断、患者の転帰、検査値等の副作用を疑う状態に関する情報等を共有する中で、薬局から副作用報告を当局(PMDA)に行うとした場合、当該医療機関との連名で提出することを検討
トレーシング・レポート等で連絡した処方した医療機関と協力し、治療を要するものその他、軽微とはいえない副作用が疑われる事例(上記の【速やかに報告する副作用】を参照)の発生があれば、薬剤との因果関係が必ずしも明確でない場合や、既知の副作用であっても、必要性があれば、医薬品・医療機器等安全性情報報告制度の報告様式を用いて当局(PMDA)に報告することを検討する。(【医療機関の対応について】を参照。)

 

  • 医療機関側で副作用報告を当局(PMDA)に行うとした場合、薬剤師は調剤し交付した薬剤名(他院で処方されたもの(他院へも情報提供を行うことが望ましい。)、他薬局で調剤されたものを含む。)や患者の服薬状況について知り得た情報を医療機関側に提供する。
  • 医師による副作用の診断、患者の転帰、検査値等の副作用を疑う状態に関する情報等を共有する中で、薬局から副作用報告を当局(PMDA)に行うこととした場合、提出に際し、処方した医療機関は連名として記入する。

 骨子原案の「検討」という部分は理解できなくはないのですが、もし今後、右欄の事務連絡の内容の通りにしなければならなくなると、副作用報告を行うたびにいちいち、処方元に確認を取る必要がでてきます。

 処方医に連絡をとって、もし、「それは副作用ではないでしょう」と言われれば、報告はできないことになります。患者直接報告は独自にできるのに、なぜ地域薬局の薬剤師はいわば処方医にお伺いを立てなければいけないのかと疑問に思いました。

 今回文言が変わった経緯は、制度部会での医師会委員の発言の影響のようです。(議事録は現時点ではアップされていません)

 どうでしょう、これで、地域薬局からの副作用報告が積極的に行われるでしょうか? 私には、薬局からの副作用報告を減らしたいとしか思えません。そして何よりも、委員の一声で重要な部分の文言が変わり、パブリックコメントも行わず従えというのは疑問に思います。

 また、この厚生労働科学研究自体も、安全使用の事例集としては参考になりますが、なぜ、こういった副作用報告ガイダンス案(特に地域薬局の部分)が出てきたのかその過程にも理解に苦しみます。

 おそらく、正確な副作用情報を集めるための方策の一つなのでしょうが、今回のガイダンスづくりは経緯も含め、何のために行ったのかと思います。

 健康サポート薬局もそうですが、現状を十分把握されていると思えない、厚生労働科学研究のみでの政策決定はもう少し考えて欲しいと思いました。

ツイートいくつかとりあげさせて頂きました


2017年07月12日 14:48 投稿

コメントが3つあります

  1. アポネット 小嶋

    12日の薬局新聞で、医薬品医療機器制度部会での日医中川氏の発言が掲載されていました。(必見です)

    【薬局新聞 2017.7.12】
    薬局・薬剤師の副作用報告に医師構成員が反発
     →リンク

    日薬委員や厚労省の事務局も一応反論していますが、副作用報告制度をいわば反故にして、この意見を丸のみにした制度部会はいったい何なのかと思いました。

    日薬もこういった発言に対して、定例記者会見できちんと言及しないといけないと思います。

    こういう発言を取り入れるくらいなら、そもそも、連携を中心としたガイダンスなるものを作ったこと自体疑問に感じてきました。

    そして、厚生労働科学研究自体もこのガイダンス作成ありきで行われたように思われてきました。

    誰のためのガイダンスなんでしょうね?

  2. アポネット 小嶋

    この問題を取り上げた記事です

    いすれもこのときの発言を記した議事録が注目されるところでしたが、ようやくアップされています。

    【厚労省】
    第2回厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会
    委員:
    http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/sryouiyaku1.pdf
    資料:
    http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000168825.html
    議事録:
    http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000174825.html

    薬局新聞で報じられた部分は、どうも下記の部分のようです。(報道よりトーンが弱められている)

    ○佐藤安全対策課長
    今の医療機関、薬局からの副作用報告の現状で申し上げますと、大体、病院から来るのが全体の8割でございます。薬局から単独で来るものが全体の1割。残りの1割がその他のところから来ているものという形になってございます。

    ○中川委員
    それは、薬局から単独で来るのが1割ですか。

    ○佐藤安全対策課長
    大体、単独で来ております。

    ○中川委員
    その単独で来た1割の例は、医療機関との情報交換はどうなっているのですか。

    ○佐藤安全対策課長
    それはいろいろなケースがございまして、医療機関とよく相談をされて来ているケースもございますし、薬局から第一報という形で来ているものもございます。

    ○中川委員
    第一報というのは、どうもそれは納得がいかない。なぜ第一報なのですか。副作用だったら、まず副作用に対する患者さんの治療が第一でしょう。緊急的に第一報とは、悪い言葉で誤用を恐れずに言うとちくりですよ。できるだけ早く薬局から第一報とは、どうも嫌な表現です。そんなことをしたら医療提供体制、地域包括ケアシステムをゆがめますよ。多職種協働の信頼関係も。何でそんな水を差すことを言うのですか。

    「単独で副作用報告をすることは、言うなれば密告であり、チクリだ。医薬分業に影を落とす」とした薬局新聞の記事は誤りだったんでしょうかね?

    それにしても、副作用報告制度というのを本当に分かっているのかというやりとりも。

    ○中川委員
    薬剤師が単独で副作用であるとか、副作用の疑いだと言うのは診断ですから、そうなると、患者さんから見たら、処方箋を出した医療機関の責任ということにもつながるのです。それで、処方医療機関との連名を検討ではなくて、必ず連名で報告するとしてください。ここは非常に大事です。

    ○佐藤安全対策課長
    これは今の薬事法の制度の中で、先ほど申し上げましたように、疑いの段階でも、できるだけ早いシグナルを現場から出していただくことを趣旨としておりますので、できれば、中川先生がおっしゃいますように、診断情報をきちんと一緒に検討した上で出していただくのが望ましい方向だと思っておりますけれども、できるだけ早く情報をいただくという観点においては、単独で出していただくようなケースもあるだろうと。それについては制度的には否定できないということで、ここは検討していただくという趣旨で書かせていただいているところでございます。

    ○中川委員
    それは違います。もし速やかにというのが大事だと言うのだったら、一番先に処方した医療機関に連絡するのが当たり前でしょう。その医療機関は、ほかの患者さんに薬をまた処方するのですよ。違いますか。
     必ず連名で。医療機関に連絡するのがどれだけ時間がかかるのですか。まずは処方箋を出した医療機関に連絡するのが一番最初でしょう。そして、その医療機関にすぐ受診をしてもらうのですよ。この副作用報告は一刻を争うわけではないでしょう。

    まあこういったやりとりで、他の委員はいわば恫喝されたんでしょうね。

    そして、文言が変えられた件ですが、

    ○中川委員
    それはわかりますけれども、そうではない薬局から単独というのは、先ほど言いましたけれども、どうしても通報に見えるのです。これはやはり穏やかではないです。その辺のところ、最後の○は「連名を検討」ではなくて「連名を前提」とか、表現をもう少し丁寧にしてください。

    ○佐藤安全対策課長
    中川先生に、今、御指摘いただいた、この概要のその2の紙が、少し説明不足な感じがいたしますので、例えば、この○の4つ目の部分でございますけれども、もともとガイダンスでは処方した医療機関と薬局がきちんと情報共有をすることが大事な趣旨として書かれておりますので、そういう情報共有を行った結果、薬局から副作用報告を行うこととした場合、薬局単独ではなくて処方医療機関との連名を検討することという形にさせていただければ、先生が御指摘いただいたような趣旨で理解できるのではないかと思います。

    ○中川委員
    もう一回、言ってください。

    ○佐藤安全対策課長
    上記の情報共有の結果、薬局から副作用報告を行うこととした場合、薬局単独ではなく、処方医療機関との連名を検討すること。

    あれ、この場では「連名として記入する」という文言ではなかったんですね。ということは医師会に対する忖度ですか。

    議事録を見て思ったことは、議題はてんこ盛りなのに、事務局の報告ばかりで、これに医師会の委員がいちゃもんをつけて、他の委員は大体だんまり。しかも最後は忖度までも。

    今後、この厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会で薬事に関する物事が決められると思うと非常に恐ろしく感じました。

  3. アポネット 小嶋

    関連記事です

    議事録って何なんでしょうね