薬機法改正に思うこと~地域薬局業務への理解が得られるだろうか?

3月19日に薬機法の改正案が示されました。今後衆参の厚生労働委員会で法案が審議され、会期内に法案が可決されることになりそうです。この間のツイートなどを元に、今後の課題を整理しました。

(関連記事)
医薬品医療機器法(薬機法)改正案は誰のため?
http://www.watarase.ne.jp/aponet/blog/190301.html

今回の改正案は、厚生科学審議会での議論を経て、審議会のとりまとめを元にまとめられたものですが、現場に直接関わることとして特に下記の3点が注目されています

  • 服用期間を通じて、必要な服薬状況の把握や薬学的知見に基づく指導を実施することを薬剤師の実施すべき事項として法律に規定する
  • 患者の服薬状況等の情報や実施した指導等の内容等について、薬剤師が調剤録に記録することを義務づけることについて法律に規定する
  • 特定の機能を有する薬局を法令上明確にするとともに、患者の選択に資するよう当該機能を有す る薬局であることの名称の表示を可能する。

厚生科学審議会 (医薬品医療機器制度部会)
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-kousei_430263.html

薬機法等制度改正に関するとりまとめ
(2018.12.25医薬品医療機器制度部会)
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000463479.pdf

今回、こういったことがとりまとめに盛り込まれたのは、医師会委員の執拗とも言える発言から、「医薬分業の見直し論」が制度部会内で渦巻き、そのメリットを患者・生活者にどのように示すかということで盛り込まれたと私は考えています。

しかし、どうでしょう、これを実施して、目に見える形での医薬分業への理解、いわゆる「棚から出して数えるだけでお金をもらっている」といったバッシングに答え、薬剤師の価値は実感し得ることにつながるでしょうか?

個人的には、これまでの薬局不信を生んだ背景には、

「どこの薬局でも処方箋を断らないで済む仕組み作り」
「生活者に必要なOTCを供給する制度面も含めた仕組み作り」
「患者・生活者と対話できる余裕」

がなかったためではないかと考えています。

しかし制度部会では、こういった基本的な問題への検証が行われないまま、薬局の現場を十分把握せずにまとめられた、「薬局の求められる機能とあるべき姿」(→リンク)と、これを元に厚労省がまとめた「患者のための薬局ビジョン」(→関連記事)を根拠に、「病院薬剤師と同じ業務を行うべき」「医薬連携・薬薬連携」という視点のみで、現場の業務実態からかけ離れたあるべき論が展開されました。

即ち、患者の視点にたった問題が必ずしも検討されていないということです。

薬局のあり方についてはこれまでも、社会薬学系の研究者らがさまざまな指摘を行っています。しかし、今回の制度部会では医師会委員らに忖度し、短時間でとりまとめることを急ぎ、全く取り上げる気はなかったようです。

例えば、北薬大(現在は昭和大)の岸本らは、院外処方に反対する要因として、手間の発生や費用負担が高くなることなどの他

・医薬品の在庫の不備
・物販への不愉快
・調剤報酬のわかりにくさ

などを挙げています。果たして、今回の薬機法改正でこれらの問題が解決しているとは言いがたいと思います。

国民の院外処方賛否に関する評価の視点─混合研究法を用いて─
(社会薬学 36(2) p78-87,2018)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsp/36/2/36_78/_article/-char/ja

また、日大の中島らは、かかりつけ薬剤師制度について、

必要性を感じる割合は高くなく、禁煙や栄養指導、福祉相談、病気予防など、今後「かかりつけ薬局」が目指す取り組みについても、便利だと感じるが、実際は利用しないという意見が多く見られたと指摘。十分にサービスの内容や患者の必要性や利用可能性が認知されないまま制度が一人歩きしている状態が続けば、医薬分業のようなバッシングの対象になってしまう可能性が否めない

と警鐘しています。

かかりつけ薬局が取り組むサービスに対する住民の意識とニーズに関する研究
(社会薬学 37(1) p8-18,2018)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsp/37/1/37_9/_article/-char/ja

必要な医薬品の供給のあり方もほとんど議論されませんでした。

  • 卸も効率化で営業所に在庫を置かない、診療があるにも関わらず、土曜日の配送を行わないところも出てきていて、患者さんにも待ってもらえない場合がある
  • 抗がん剤など処方箋発行元の確認や講習を受けるなどしないと出庫ができない品目が増えている
  • 指導医薬品や第一類医薬品は供給ルートが限られ、取り扱うことが難しい場合がある。また、売れないと販売を一方的に中止したり。スイッチや製造承認が得られているにもかかわらず商品化されないで放置されている
  • 入院とか(その後治療方針変更で、処方変更になる)で、処方日数がハンパな日数になるため、超高価な抗がん剤などの不動となり、小規模薬局にとっては大きなロスとなる。また個別指導の対象となるレセプトの平均点アップにつながり、処方箋応需拒否の原因となる

対人業務を議論することも結構ですが、前提となるもモノの確保があってのことであり、こういった現場の実態が全く話題にすら上らなかったのは残念でなりません。

一方機能分類については、患者さんにわかりやすいようにという意味合いの他に、拠点的な薬局が必要という意味合いもあるようです。

しかし、地域薬局は薬剤師会などの組織に入らない薬局もあり、一致団結し、薬局間の協力関係があるわけではありません。しかも、今回の地域連携や高機能を標榜する薬局は組織に属さない薬局が少なくなく、地域で拠点的な薬局になり得るかは大いに疑問です。

そして、今回の取りまとめで何よりも問題なのは、現場の業務実態が制度部会で示されなかったことです。

医師の働き方改革の検討会では、医療を取り巻く現状や業務実態に合わせた本来業務の在り方が議論されているのに、制度部会の方は、一部委員の主観による理想論だけで決められてしまいました。

医薬分業のメリットを示すために、次から次へ特に保険調剤業務に関する義務事項(疑義照会、処方医への種々の報告書など)を増やされ、以前より患者や生活者との薬局現場での対話の機会が失われているような気がするのは私だけではないと思います。

特に今回の目玉の服用後のフォローなどは、医療者の視点ばかりで、薬剤服用歴管理指導の根拠や個別指導の根拠など、調剤報酬を正当化させるために過ぎないではないかと思わざるを得ません。

そして、これにより地域薬局・薬剤師の本来業務というのもどんどんできなくなると思います。

さて法案については、前記事で紹介したとおりですが、細かな要件などの詳細は今後省令で一方的に案が示され、形だけのパブリックコメントを行い、私たちに法律に従わせることになりそうです。

前記事で紹介した下記の薬局機能についての要件案は、議員(政党)には、説明したそうですが、私たちにはきちんと伝えられていません。こういったやり方で良いのでしょうが?

名称 定 義 要 件
地域連携薬局 入退院時の医療機関等との情報連携や在宅医療等に、地域の薬局と連携しながら一元的。継続的に対応できる薬局

(患者のための薬局ビジョンの「かかりつけ薬剤師・薬局機能」に相当)

患者に配慮した構造設備
・プライバシーに配慮した構造設備(パーティシ∃ンなど)

医療提供施設との情報共有
・入院時の持参薬情報の医療機関への提供
・医師、看護師、ケアマネージヤー等との打合せ(退院時カンフアレンス等)への参加

業務を行う体制 
・福祉、介護等を含む地域包括ケアに関する研修(既存の健康サポート薬局の研修制度を活用可能)を受けた薬剤師の配置
・夜間・休日の対応を含めた地域の調剤応需体制の構築・参画

在宅医療への対応
・麻薬調剤、無菌調剤を含む在宅医療に必要な薬剤の調剤
・在宅への訪問

専門医療機関連携薬局 がん等の専門的な薬学管理に他医療提供施設と連携して対応できる薬局

(患者のための薬局ビジョンの「高度薬学管理機能」に相当)

患者に配慮した構造設備
・プライバシーに配慮した構造設備(パーティシ∃ン、個室その他相談ができるスペース)

医療提供施設との情報共有
地域連携薬局と同様の要件に加え、
・専門医療機関の医師、薬剤師等との治療方針等の共有
・専門医療機関等との合同研修の実施
・患者が利用する地域連携薬局等との服薬情報の共有

○業務を行う体制 
・学会認定等の専門性が高い薬剤師の配置

今後、厚生労働委員会で質疑が行われることになりますが、議員さんには是非、下記の点を質問してもらいたいものです。そうでないと、厚労省の担当者と一部の人の主観のみで決められることになるでしょう。

1.調剤後のフォローとして、薬機法第9条の三の5で、「その調剤した薬剤を購入し、又は譲り受けた者の当該薬剤の使用の状況を継続的かつ的確に把握させるとともに、必要な情報を提供させ、又は必要な薬学的知見に基づく指導を行わせなければならない」としているが、「使用の状況を継続的かつ的確に把握」とは具体的にどのようなことか?

「必要に応じて」ということになるようですが、服用薬が1~2種類の人や、風邪など短期処方の人までに必要かどうかは議論があるところです。また今でも、「医者のところで話したのになせ同じことを話す必要があるのか」という患者さんは少なからずいます。もちろん退院直後で介入が必須の方はいますが、果たして、こういった新しい業務を患者さんがどれだけ受け入れるのかはきちんと議論されるべきです。

短期処方や、自己管理が出来ている患者さんまで、「フォロー義務違反」というのもどうなのでしょうか、なぜ、そこまで入院患者と同じことを求めるのでしょうか。また、記録のための指導になり、患者さんから「点数のためですか」とバッシングされるということにはならないでしょうか?

2.病院薬剤師も調剤後のフォロー(特に院内調剤の外来患者)は求められるのか

薬剤師法第25条の2(情報の提供及び指導)に下記項目が新設されます。

薬剤師は、前項に定める場合のほか、調剤した薬剤の適正な使用のため必要があると認める場合には、患者の当該薬剤の使用の状況を継続的かつ的確に把握するとともに、患者又は現にその看護に当たつている者に対し、必要な情報を提供し、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならない。

当然、病院薬剤師にも該当することになります。病棟業務を行っている施設はともかく、外来患者の院内処方を行っている施設にも適用するのかどうか?

3.薬剤師なしで外来調剤を行っている施設(診療所)は、薬機法や薬剤師法の適用を受けないのか?

これは、きちんと質して欲しいです。

4.調剤録への指導内容の記載義務が求められることになるのか?

継続的な管理によって得られた患者情報や服薬指導の内容などを調剤録にも記載するという報道があるが、現状、薬歴があり、記載義務の必要性はどれだけあるのか、現場への負担増につながらないのか。(薬剤服用歴管理指導の算定要件になろうものなら、混乱必至)

「薬歴」は療担規則は医療保険、「調剤録」は別ってことなんでしょうが、薬剤師法に盛り込んだら、病院薬剤師も該当ということにもなります。

5.今回の薬機法改正にあわせ、「処方箋40枚につき薬剤師1人を薬局に置く省令を見直す」「薬剤師以外が行う調剤業務についての業務の検討」との報道があるが、どのような視点で検討されるのか?

6.高度機能薬局は、かかりつけ薬局・薬歴の一元化に逆行するものではないか?

7.高度機能薬局は、今後敷地内薬局がその役割を担う可能性が高いと考えるが、「病院の前の光景を変える」とした当時の厚労大臣の約束をどう考えるか?


2019年03月25日 01:54 投稿

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