8月18日、英MHRAは誤用や過剰摂取による死亡例を含む重篤な報告があるとして、刺激性下剤(stimulant laxatives)の販売規制を行うと発表しました。
【MHRA Press Release 2020.08.18】
New restrictions introduced on sales of stimulant laxatives to counter risks from overuse
https://www.gov.uk/government/news/new-restrictions-introduced-on-sales-of-stimulant-laxatives-to-counter-risks-from-overuse
Restrictions on laxative sales in the UK to stop misuse
(BBC NEWS 2020.08.18)
https://www.bbc.com/news/health-53809514
規制の詳細は、同日公表された Drug Safety Update で示されています。
【Drug Safety Update 2020.08.18】
Stimulant laxatives (bisacodyl, senna and sennosides, sodium picosulfate) available over-the-counter: new measures to support safe use
https://www.gov.uk/drug-safety-update/stimulant-laxatives-bisacodyl-senna-and-sennosides-sodium-picosulfate-available-over-the-counter-new-measures-to-support-safe-use
上記をみてもわかるように、規制の対象となっているのは、日本でも市販薬としても買えることのできる、ビサコジル、センナ/センノシド、ピコスルファート成分を含むもので、OTCの業界団体が見解とともに、今後の措置についてわかりやすく示しています。Drug Safety Update との情報とともに下記にまとめてみました。
PAGB responds to MHRA review of stimulant laxatives
(PAGB 2020.08.18)
https://www.pagb.co.uk/latest-news/pagb-stimulant-laxatives-review/
- 包装に、‘overuse can be harmful’(使いすぎは有害となる可能性があります)という警告文が明記されます。
- 18歳以上の人たちについては、薬局、スーパーマーケット、その他の一般の小売店から刺激性下剤を購入することができます。
- 薬剤師の監督の下で販売されている場合は最大100錠包装ものが利用可能になります。
- 一般小売店で購入できるのもの(GSL)は、標準容量タイプで20錠、大容量タイプで10錠、液剤で100mLまでに制限されます。
- 但し、 12歳から18歳への刺激性下剤への販売は、薬剤師の監督の下でのみ許可されます。
- 12歳未満の子供が使用するための刺激性下剤を購入することは許可されません。今後はGPなどの処方者からのアドバイスがある場合のみ利用できるようになります。
- これらの製品についての教育情報が薬剤師に送信され、薬剤師がこれらの製品とその供給に関する最新情報を入手できるようになります。
MHRAでは、2018年9月に摂食障害の人の間で濫用されている懸念があるとして、販売規制のためのレビューを行っていることを発表していました.
Laxative sales may be restricted under government review
(BBC NEWS 2018.09.24)
https://www.bbc.com/news/health-45624471
今回、そのレビュー結果もAssessment Report として公表しています。
【MHRA UK Public Assessment Report 18 August 2020】
Research and analysis:Over-the-counter stimulant laxatives: benefit-risk review
https://www.gov.uk/government/publications/public-assessment-report-of-over-the-counter-stimulant-laxatives-benefit-risk-review/over-the-counter-stimulant-laxatives-benefit-risk-review
ご存じと思いますが、刺激性下剤の濫用のどこが危険かというと、血清カリウムの低下をもたらし、心臓血管系に悪影響を及ぼし、生命を脅かす結果をもたらす可能性がある点にあります。特に摂食障害の人が濫用して命を落とすことは広く知られています。
摂食障害の慈善団体Beatによる2012年の調査によれば、日常生活の一部として下剤を使用していた摂食障害の158人のうち、84%がOTCを購入したことがわかりました。また2014年の調査では、67%がアディクションや依存につながったとしました。
症例報告に基づいたこういったレビューも最近発表されていました。血清カリウムの低下をもたらす薬剤との併用にも注目が必要です。
Adverse drug event of hypokalaemia-induced cardiotoxicity secondary to the use of laxatives: A systematic review of case reports
(J Clin Pharm Ther. 2020 Jul 16)
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jcpt.13204
販売規制の議論は以前からあり、既に対応を取っている国もあります
Over-the-Counter and Out-of-Control: Legal Strategies to Protect Youths From Abusing Products for Weight Control
(Am J Public Health. 2013 February; 103(2): 220–225.)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3558759/
ビサコジルの海外のスイッチ状況→AESGP
医薬品の濫用は、下剤の他にせき止めなどで広く知られています。
Over-the-counter medicine abuse – a review of the literature
(J Subst Use. 2013 Apr; 18(2): 82–107.)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3603170/
しかし日本では、適正に使用されれば、特段の対策は必要ではないとの立場を取っていて、単に販売法のあり方など、現場に責任を押しつける感が否めません。日本も、英国のように、包装への警告文の表示義務など、一歩踏み込んだ対策に取り組む必要があるのではないでしょうか。
今回の発表を受け、英国王立薬剤師会では、ケーススタディなどを記した薬局向けガイドを作成しています。(残念ながら、読むにはログインが必要)
そして、「刺激性下剤は、正しく服用しないと患者にとって非常に危険です。私たちの新しいガイダンスとMHRAとの連携は、患者の安全を改善し、これらの製品を購入したい人々に最善のケアを提供することで、地域の薬剤師とそのチームをサポートするのに役立ちます」としたコメントは発表しています。
New guide on supply of stimulant laxatives
(RPS 2020.08.18)
https://www.rpharms.com/about-us/news/details/New-guide-on-supply-of-stimulant-laxatives-
2020年08月19日 23:30 投稿