9月1日の改正薬機法施行に向けて行われていた、薬機法改正に伴う政令案、省令案についてのパブリックコメント(→TOPICS 2020.06.16)の結果が8月31日に公表されています。
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律の施行に伴う関係省令の整備等に関する省令(案)に対して寄せられた御意見について
(結果の公示日 2020年08月31日)
453件の意見が寄せられたそうです。
結局必要性の判断の基準は示されませんでした。日薬の手引きを参考に対応することになりそうです。
院内調剤も地域薬局と同様に、必要に応じた継続的服薬指導が義務化されるとの見解が示されました。忙しい院内調剤にさらにフォローが義務づけられるとなると、業務負担が増えることは明白です。日病薬の反応が注目です。おそらく、他人事と思っていたのでしょうから。
調剤録への服薬指導の要点に記載する件は薬歴で足りることになりそうです。一方、院内調剤については調剤録の法律上の規定がないとして適用されないとのことです。
一方、私の質問の「薬剤師を配置しないで外来調剤を行っている施設(診療所)は、今回の改正薬機法や薬剤師法の適用を受けないのか?」には答えて頂けませんでした。
また、「薬剤の適正な使用を確保することが可能であると認められる方法」とは具体的に何かについてはパブコメ結果では示されませんでした。
以下、薬局や薬剤師関連の寄せられた意見と厚労省の考え方を抜粋します
意見公募の結果
https://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000205895
寄せられた意見 | 厚労省の考え方 |
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個人情報の扱いにも配慮しつつ、薬局開設者は、薬剤師に、患者の連絡先についても記録さ せるべきと考える。 |
省令上、薬局開設者は、薬剤師に、継続的服薬指導のために必要があると認めるときは、調剤した薬剤又は医薬品を購入した者等の連絡先を確認させることとしています。 |
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このあと、こういった考え方を整理し、改正及び制定の趣旨、内容等をまとめた、施行通知が発出されるものと思われます。
さて、服用後の継続的なフォローやフィードバックというと、同じようなものとして英国の Medicine Use Reviews(MURs)があります
2012年に札幌開催の日本薬学会で赤沢らが発表のスライドが参考になります
英国における薬局薬剤師の高度業務から学ぶブラウンバッグ運動の新しい方向性(スライドp3-10)
http://u-lab.my-pharm.ac.jp/~pharmepi/2012.akazawa.pdf
日本でも紹介され、注目を集めている このMURsですが、スライドにもあるように、この時点で対象患者の絞り込みが行われています。
そしてその後、この事業についてのレビューが行われ、2006年12月には費用効果がないとして見直しを求める報告書が出されています
‘No evidence MURs are clinical or cost effective’
(C+D記事 2017.01.04 キャッシュ)
こちらがNHSまとめた MURsについての報告書です(p6-12)
A rapid review of evidence regarding clinical services commissioned from community pharmacies.
(2016.12.01)
https://www.england.nhs.uk/commissioning/wp-content/uploads/sites/12/2016/12/rapid-evdnc-rev-dec-16.pdf
こういった状況から、2019年5月にはMURsの廃止を示唆する記事が掲載。MURsを実施すること自体についても現場での負担が大きいとの声があることがうかがえます。
Where next for MURs: redesign, refine or scrap?
(C+D 2019.05.09記事 キャッシュ)
そして、2019年8月に段階的な廃止が発表。今年度は100件のレビューに算定制限されています。(新規処方者への New Medicines Service は存続)
Everything you need to know about the 5-year pharmacy funding deal
(C+D 2019.08.02記事 キャッシュ)
英国ではこれを機に、GPに薬剤師を配置する一方、店頭でのMinor Ailment への取り組みへの対応が視されるようになっています。
例えば、スコットランドでは、Minor Ailment Services に代わって、7月29日から、軽度疾患へのアドバイス、医薬品の提供、GPへの紹介などが主なサービスの、NHS Pharmacy First の取り組みが始まっています。(→論文・報告あれこれ 2020年8月)
一方同じようなものとして、カナダオンタリオ州のMedsCheckというのがあります。
こちらも2016年に見直しが行われているのですが、やはり現場への負担が大きいことがうかがえます。
Impact of the 2016 Policy Change on the Delivery of MedsCheck Services in Ontario: An Interrupted Time-Series Analysis
(Pharmacy. 2019 Sep; 7(3): 115.)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6789745/
また、豪州のHome Medicine Reviews は、対象は限定、必要性をGPが判断、薬剤師は認定制になっています。
Home Medicine Reviews
(Health Direct)
https://www.healthdirect.gov.au/home-medicines-review
Primary health care policy and vision for community pharmacy and pharmacists in Australia
(Pharm Pract 2020 May 15)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7243858/
つまり、日本のように研修なしに誰でも自己判断で好きなように行うという制度ではありません。
こういうのをみると、服用後の継続的なフォローやフィードバックの費用効果はどうなのかと個人的には考えます。そして何よりも今まで以上に業務負荷が高まることです。
新規処方や処方変更時、対象疾患を限定するとかの条件をつけてもよかったのではないでしょうか?
おそらく高齢者を中止に継続的フォローの主力は電話になると思いますが、今日の社会状況を考えれば、その電話を取ってくれる保証はありません。
そして、必要な人にフォローやフィードバックを行うことは重要だと思いますが、今回の薬機法改正で調剤で利用する患者さんへの対応ばかりを重視し、生活者のファーストアクセスの場としての薬局の第一義の役割が軽視される懸念がどうしてもあります。
海外の状況をみると、ほとんどの国では今、地域薬局は「ファーストアクセスの場として何ができるか」という方向に向かっています。
生活者の健康増進や予防接種を含めた予防啓発、セルフケアの支援などといった公衆衛生(public health)での役割です。
一方日本では、これからの地域薬剤師は、在宅業務を行ったり、専門知識を身につけて病院薬剤師との連携を行うことで、地域薬局での調剤のメリットを示そうとしていますが、海外では在宅患者へのフォローは訪問看護師やナースプラクショナーがいますし、癌など専門知識が求められるものは病院薬剤師がフォローまでやっているはずです。
今の日本の方向性は明らかにガラパゴスです。
今回の薬機法改正は、今の業務(特に保険調剤業務)の効率化や見直しを行わないままに、病気がある方への在宅や薬薬連携にだけ注力することを求めています。
健康サポート薬局といいながら、リアル店舗でのセルフケアの支援や生活者への支援ということは今回の法改正はほとんど重要視されませんでした。なぜなのでしょう?
地域薬局を身近なものするには、日本でこれから行おうとしている薬薬連携や地域連携ではなく、Public に対するPublic health service です。緊急避妊薬の販売など若い頃からこういった形で地域薬局を利用する仕組みをきちんと作れば将来にわたって、身近な地域薬剤師に相談するのではないでしょうか。
今回の薬機法改正は病気がある方への在宅や薬薬連携にだけ注力させるものです。健康サポート薬局といいながら、リアル店舗でのこういった生活者への支援策ってのはほとんど考えていないのではないでしょうか。これでは、地域薬局が身近な存在になるのは難しいと思います。
この間の日薬の対応も疑問が残ります。
省令や施行通知、パブコメ結果も出ていないのにこれを先に提示するのはおかしいと思いました。職能団体は、省令や施行通知をみて現場の声を聞き、意見をすることを行うことが先ではないのでしょうか?
「薬剤使用期間中の患者フォローアップの手引き」について
https://www.nichiyaku.or.jp/pharmacy-info/other/follow-up.html
また、報道によれば、制度部会の委員でもあった大阪府薬の乾会長は「どのような状態の患者をどうフォローするかは、薬剤師の判断で決めることができる。すなわち、薬剤師が継続的な管理が必要がないと判断する根拠があれば、それが認められる」としていますが、どこまでこういったあいまいな状況で今回の法改正に忖度をし続けるのでしょうか?
患者のためになる医薬分業の実現目指して-乾英夫大阪府薬新会長に聞く
(医薬通信社 2020.07.13)
患者のためになる医薬分業の実現といいながら、実態は調剤報酬を守るためには何でもしますとしか聞こえてなりません。おそらく次回調剤報酬改定時には、今回の法改正を根拠に、薬剤服用歴管理指導料の算定要件にこの服用後のフォローが何らかの要件に加わることとなるでしょう。
制度部会の議事録を見て頂ければわかりますが、今回のフォローの話はもともと、病院薬剤師は入院患者にきちんと服薬期間中のフォローをして仕事をしているけど、薬局の薬剤師はそれをやっていないから法制化してやらせようという話にすぎません。同じく「専門薬局」の要望も、制度部会委員の体験だけで出てきた話です(最近ではさらに、卒後研修が必要という話につながっている)。これらはみな制度部会の一部の人たちの主観だけで私たちに押しつけてきたのです。
振り返るに、この30年のターニングポイントは、登録販売者制度の導入でOTCの販売の場で薬剤師の存在を必要とさせなくなったこと、そして医療機関目線で策定された「薬局の求められる機能とあるべき姿」のとりまとめと、「患者のための薬局ビジョン」がバイブルのように使われていることに尽きると考えています。
これから日本の地域薬局(業務)はどうなっていくのだろうかと日々自問自答しています。きっと若い方たちがその答を出してくれるのだろうと。
8月31日9時40分更新
2020年08月31日 00:22 投稿
省令が8月31日の官報(号外第179号 35p~)で告示されています(30日間は無料閲覧可)
現在確認中ですが、お薬手帳の所持勧奨と、薬歴及び薬歴に記載すべき内容が法令化されています。
【厚労省】
令和元年の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)等の一部改正について概要資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000179749_00001.html
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律の施行に伴う関係省令の整備等に関する省令の公布について(令和2年8月31日付薬生発第20号厚生労働省医薬・生活衛生局長通知)(下記官報の新旧対照表もあります)
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000665696.pdf
【インターネット版官報】
令和2年8月31日(号外 第179号)
https://kanpou.npb.go.jp/20200831/20200831g00179/20200831g001790000f.html
【法令等データサービス 2020.08.31掲載】(掲載は期間限定です)
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律の施行に伴う関係省令の整備等に関する省令(令和2年8月31日厚生労働省令第155号)
https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/hourei/H200831I0020.pdf
9月4日 厚労省へのリンク追加
薬局・薬剤師関連の主な新設部分を書き出しました
第十五条の十二
薬局開設者は、法第九条の二の規定により、調剤された薬剤につき、次に掲げる方法により、その薬局において薬剤の販売又は授与に従事する薬剤師に販売させ、又は授与させなければならない。
三(新設)
法第九条の三第五項の規定による情報の提供又は指導のため必要があると認めるときは、当該薬剤を購入し、又は譲り受けようとする者の連絡先を確認した後に、当該薬剤を販売し、又は授与させること。
第十五条の十三
三(新設)
当該薬剤を使用しようとする者が患者の薬剤服用歴その他の情報を一元的かつ経時的に管理できる手帳(別表第一を除き、以下単に「手帳」という。)を所持しない場合はその所持を勧奨し、当該者が手帳を所持する場合は、必要に応じ、当該手帳を活用した情報の提供及び指導を行わせること。
第十五条の十四の二(新設)
法第九条の三第五項の厚生労働省令で定める場合は、当該薬剤の適正な使用のため、情報の提供又は指導を行う必要があるとその薬局において薬剤の販売又は授与に従事する薬剤師が認める場合とする。
2 前項に該当する場合、薬局開設者は、次に掲げる事項のうち、その薬局において薬剤の販売又は授与に従事する薬剤師が必要と認めるものについて、当該薬剤師に把握させなければならない。
一 第十五条の十三第五項第一号から第九号までに掲げる事項
二 当該薬剤の服薬状況
三 当該薬剤を使用する者の服薬中の体調の変化四その他法第九条の三第五項の規定による情報の提供又は指導を行うために把握が必要な事項
3薬局開設者は、法第九条の三第五項の規定による情報の提供又は指導を、次に掲げる方法により、その薬局において薬剤の販売又は授与に従事する薬剤師に行わせなければならない。
一 当該薬剤の使用に当たり保健衛生上の危害の発生を防止するために必要な事項について説明を行わせること。
二 当該薬剤の用法、用量、使用上の注意、当該薬剤との併用を避けるべき医薬品その他の当該薬剤の適正な使用のために必要な情報を、当該薬剤を購入し、又は譲り受けた者の状況に応じて個別に提供させ、又は必要な指導を行わせること。
三 当該薬剤を使用しようとする者が手帳を所持する場合は、必要に応じ、当該手帳を活用した情報の提供又は指導を行わせること。
四 当該情報の提供又は指導を行った薬剤師の氏名を伝えさせること。
第十五条の十四の三(新設)
法第九条の三第六項の規定により、薬局開設者が、その薬局において薬剤の販売又は授与に従事する薬剤師に記録させなければならない事項は、次のとおりとする。
一 法第九条の三第一項、第四項又は第五項の規定による情報の提供及び指導を行つた年月日
二 前号の情報の提供及び指導の内容の要点
三 第一号の情報の提供及び指導を行つた薬剤師の氏名
四 第一号の情報の提供及び指導を受けた者の氏名及び年齢
2 薬局開設者は、前項の記録を、その記載の日から三年間、保存しなければならない。
9月1日に、施行規則が出されませんでした。31日に発出されたこの留意事項を踏まえて、自己判断でやれってことのようです。
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律の一部の施行に当たっての留意事項について(薬局・薬剤師関係)
(厚生労働省医薬・生活衛生局総務課長 令和2年8月31日 薬生総発0831第6号)
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000665800.pdf
① 患者等に一律に実施するものではなく、薬剤師が、患者の服用している薬剤の特性や患者の服薬状況等に応じてその必要性を個別に判断した上で適切な方法で実施するものであること。
② 電話や情報通信機器を用いた方法により実施して差し支えないが、患者等に電子メールを一律に一斉送信すること等のみをもって対応することは、継続的服薬指導等の義務を果たしたことにはならない。個々の患者の状況等に応じて対応するものであること。
もともとは厚労省が2018年7月5日開催の第4回医薬品医療機器制度部会で
薬剤師は、患者の状況に応じて、調剤時のみならず、服薬期間を通して丁寧な患者の服薬状況の把握を行い、その結果をかかりつけ医と共有すること、必要に応じて処方提案を行うことなどにより、医薬品の有効かつ安全な使用のために、その専門性をより発揮すべきではないか。
といった論点を示して、委員たちが賛同。日薬は言われるがままに同意して作られた法案です。厚労省の対応はこれでいいのでしょうか?
なお、調剤録=薬歴 については下記のように記されています。
9月11日、省令及び、留意事項を踏まえた手引きの追補版がアップされました
薬剤使用期間中の患者フォローアップの手引き(第1.1版)
https://www.nichiyaku.or.jp/assets/uploads/pharmacy-info/followup_1.1.pdf