OTC類似薬や零売規制をめぐって、さまざまな意見が出ている今日ですが、3月13日に開催された参議院予算委員会公聴会で、日本総研の成瀬道紀氏がOTC類似薬の問題について意見を述べています。
後日、議事録が出ますが、文字おこしをしました。
私が考えていたことが多く語られており、こういった国会の公聴会で述べられたことは感慨深いです。
現在零売規制を盛り込んだ、薬機法改正が国会に提出されていますが、国会議員がこれを聞いてどう考えたか興味深いところです。
【参議院インターネット審議中継】(28:10あたりから)
予算委員会公聴会(2025年3月13日)
https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=8366
日本総合研究所の成瀬と申します。
発言の機会を頂き、ありがとうございます。
本日はOTC類似薬の問題について意見を述べさせていただきます。
既に通常国会に薬機法改正案が提出されていますが、以下の項目を削除すべきと考えています
「処方箋なしでの医療用医薬品の販売の原則禁止」という項目です
処方箋なしで薬局が医療用医薬品を販売することを零売と呼びますので、零売規制の法制化とも呼ばれている項目です
医療用医薬品は現在もほとんどが処方箋に基づき販売されていますが、法律すなわち薬機法上は現時点では処方箋を必要とされておらず、実際、零売を行っている薬局もあります。
他方、2005年から厚生労働省は、やむを得ない場合を除き、処方箋が必要であるとのいう趣旨の通知を発出しています。
法律と通知で整合性をとるという趣旨は理解できますが、私は改正されるべきでは薬機法ではなく、通知の方であると考えております。
このように考えるのは、以下のようなビジョンを持っており、その実現のために不可欠と考えるからです。
一つが、プライマリケアの中に薬剤師を位置付けることです。
もう一つが、医療保険財政の持続可能性の確保です。
OTC類似薬をめぐる昨今の報道を見ますと、医療保険財政の方が注目されていますが、私はプライマリケアの中に薬剤師を位置付けることこそ、より重視しなければならないと思っています。
それを実現することによって、医療の質を高めつつ、医療保険財政を改善させることもできると考えています。
尚、プライマリケアとは何でも相談できる身近な医療を指し、診療所や薬局、海外ではナースプラクティショナーなどが担い手として期待されています。
我が国の薬剤師を取り巻く状況は極めて深刻であります。
簡単に言えば、高度専門職を大量に養成しながら、本来の役割を担わせず、単調な業務に長時間従事させ、その割高なコストを国民が負担するという構図となっています。
我が国の人口当たりの薬剤師数は国際的に突出しています。
こんなに多くの薬剤師がいるのに、本来の役割を担えていないとはどういうことか、ご説明いたします。
海外の薬局は処方箋調剤に留まらず、セルフメディケーションの支援やワクチン接種を始めとした予防に取り組み、患者が何か健康に気になることがあったら最初に相談に行く地域の健康づくりの拠点となっています。
これに対し、我が国の薬局は約6万件ある薬局の9割が門前薬局である。
近接する医療機関の発行した処方箋の調剤に特化しています。
この処方箋調剤という業務の中で、処方箋に書かれた薬を取り出して袋に詰めるようないわゆる対物業務の部分は、海外では以前から調剤補助員、あるいはテクニシャンと呼ばれる別の職種が担ってきた業務です。
薬剤師の本来の業務ではありません。
しかも、こうした業務は、近年急速に機械化がすすめられています。
我が国では、こうした業務を薬剤師がやり続けているために、人数はたくさんいるのに、他の本来的な業務に時間を割けない上、多大がコストが生じています。
我が国では、調剤に関する技術料が年間約2兆円と、これと薬価差益の数千億円が薬局の調剤にかかるコストとなりますが、これをイギリスやドイツと比べると、対GDP比で見て、約3倍の規模となっています。
これを税や保険料を通じて国民が負担しているということになります。
こうした状況になったのは、背景を理解するには、我が国の医薬分業と、薬学部教育の歴史を抑えておく必要があります。
欧米では何百年も医薬分業が根付いていたのに対し、我が国で医薬分業が本格的に進んだのは1970年代以降で、50年程度のことです。
我が国で医薬分業が推進した狙いは、薬漬け医療の是正がありました。
院内処方だと、薬を出せば出すほど、医療機関の収益が大きくなるものですから、薬漬け医療といった状況が社会問題となり、そこで医療機関は処方箋を出し、薬局で調剤するようになれば、薬漬け医療が是正されると考えられたわけです。
この目的に照らすと、調剤を医療機関から切り離しさえすればよいわけですから、極論すると、調剤するのは誰でもよいということになります。
他方、我が国の薬学部教育は伝統的に研究が重視され、医療者として、薬剤師を育ててきませんでした。
明治維新後は輸入薬の鑑定、第一次世界大戦でドイツからの医薬品の輸入が途絶えると医薬品の国産化、さらに第二次世界大戦後は国内での医薬品開発大きな課題であり、これを支える研究の人材の育成が重視されました。
私自身も薬学部を卒業し、薬剤師の免許も持っていますが、研究が中心で、医療者としての教育は受けていません。
しかし、薬学部教育で医療者として薬剤師を育てないのはおかしいということになり、2006年度入学生から薬学部教育は、従来の4年制から6年制に変更され、臨床教育が大幅に強化されました。
このように、せっかく薬学部教育が変わり、薬剤師を医療者として養成するようになったのに、卒業生が社会に出て薬剤師となった時に担う役割は従来と変わらず、本来の役割を担えないという状況は、人的資源の甚大な損失と考えます。
それでは肝心のOTC類似薬の議論に入ります
我が国の処方箋の要否を決める基準はタブルスタンダードとなっています。
薬機法でリスクの高い医薬品を処方箋医薬品と定め、処方箋が必須とされています。
諸外国では、処方箋医薬品以外はOTC医薬品であり、処方箋は不要です。
ところが、我が国はリスクの低い医薬品であっても、メーカーが医療用医薬品として申請して承認されれば、医療用医薬品となり、先ほどご説明した厚生労働省の通知により原則処方箋が必要とされています。
処方箋医薬品以外の医療用医薬品は、約7000品目ありますが、本日はこれをOTC類似薬と定義してお話します。
漢方薬、胃腸薬、湿布、アレルギー用薬などをイメージしていただければと思います。
金額では約1兆円となります。
この医療用医薬品という区分は、我が国独自の区分であり、医療の中で使われることを目的にした医薬品であるから、処方箋なしで薬剤師が販売するべきではないと言われています。
要は、薬剤師は医療の担い手ではないという発想のもとに創設された区分でございます。
実際、医療用医薬品という区分が創設されたのは1967年ですが、当時はドラッグストアによる医薬品の乱売などもあり、医療の担い手と言えないような薬剤師が販売していた実態があったのも事実だと思います。
しかし、薬学部教育が6年制となって約20年経とうとしており、状況は大きく変化しています。
私はもう諸外国と同様に、処方箋医薬品以外は処方箋なしで薬剤師が販売できるようにすべきタイミングにあると考えます。
OTC医薬品が販売できれば、OTC類似薬を販売できなくても良いのではないかと考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、以下に述べますように、OTC類似薬はOTC医薬品より優れている傾向がありますから、OTC類似薬を処方箋なしで販売できないことは、結果として、薬剤師の職能を制限し、セルフメディケーションに取り組みたい患者に不利益を与えます。
一つ目は、OTC類似薬はOTC医薬品より価格が低い傾向があります。
OTC類似薬は医療用医薬品であり、ジェネリック医薬品メーカーが大量生産して規模の利益が得られる他、OTC医薬品は、一般的にテレビコマーシャルに多額の広告宣伝費をかけ、価格が高めになっております。
二つ目は、OTC医薬品は有効成分を複数含む配合剤が多いの対し、医療用医薬品であるOTC類似薬は有効成分が一つの単味剤がほとんどです。
プロである薬剤師としては、単味剤の方が患者の症状にあった成分を選べるという特長があります。
三つ目は、OTC類似薬はOTC医薬品より有効成分の含有量が多い傾向があります。
これはOTC医薬品は独自の承認基準があり、有効成分の含有量を少なく設定しているためです。
当然、有効成分の含有量が多い方が効果は高くなると考えられます。
四つ目は、OTC類似薬はOTC医薬品より有効成分のレパートリーが広いです。
とりわけ、我が国では、セルフメディケーションの普及は低調のため、リスクの低い有効成分であっても採算が見込めず、OTC医薬品が開発されていないものや、いったん開発されても市場から撤退したため、OTC医薬品が存在しない有効成分も多々あります。
OTC類似薬をめぐっては、保険給付の是非と、処方箋の要否が混同して議論されがちであるため、ここで整理しておきたいと思います。
この二つは所管法も本来の基準も異なり別々と考えることができます。
まず保険給付の是非については、健康保険法の所管で、本来的判断基準は医療へのアクセスです。
OTC類似薬は一般に安価で、保険請求(設計?)をされなくても購入できないということは少なく、かつ軽症患者が使うことが多いため、仮に服用しなくても健康に重大な影響を及ぼすことは少ないと考えられます。
このため、原則として、OTC類似薬に保険給付は不要と考えられます。
但し、重症な患者が使う場合や、低所得者のことなどもありますので、医療へのアクセスの観点から、保険給付が必要なケースを例外的に定める必要があると思います。
次に処方箋の要否については、所管法は薬機法で本来的判断基準はリスクの高低です。
OTC類似薬はリスクが低いとされている医薬品ですから、本来処方箋は不要です。
OTC類似薬を処方箋不要としても患者に不利益はありません。
医療機関で処方してもらっても良いし、直接薬局で購入しても良い状態となり、患者にとっては選択肢が増えることとなります。
現在、OTC類似薬の保険適用除外が国会の内外で議論されますが、これから本格的に保険適用除外を検討していくタイミングで処方箋要とする法改正は行うのは明らかに非合理であると考えられます。
なぜなら、保険適用外で処方箋が必要という状態は、患者にとって最も負担の大きい状態であるためです。
そうなると、薬が全額自己負担である上に、薬を入手するためには時間をかけて医療機関を受診し、その費用も3割負担しなければならないということになります。
よって、冒頭で述べたように、薬機法改正案から、零売規制の法制化の項目を削除すべきと考えます。
本日は、薬機法改正案の一部の項目の削除という一見細かいお話をメインにしましたが、今、我が国の薬剤師が明治以降の歴史を乗り越え、本来の職能を発揮できるようになるか否かの岐路に立っていると考えます。
委員の先生方には、本件事案の重要性を十分にご認識頂き、国民の利益にかなう判断をお願いし、私の発言を終えます。
ご清聴ありがとうございました。