スタチンが新規の糖尿病発症リスクを増加する可能性があるとして、海外の当局が注意喚起をおこなったという話題は以前紹介しましたが、関連性を示唆する新たな研究が British Journal of Clinical Pharmacology 誌のオンライン版に掲載されています。(薬剤師関連のstudyについて、一部については下記のスタイルで紹介しています。記述法などに誤りがございましたらご指摘下さい。)
研究の目的 | 新規発症の糖尿病が、スタチンのタイプ、用量、使用期間によって異なるかどうか |
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研究の方法 | A retrospective cohort study |
どんな患者が研究の対象? | アイルランドの薬局患者データベース(Irish Health Services Executive Primary Care Reimbursement Services national pharmacy claims database)の2001年1月からの2007年12月31日までの患者データのうち、スタチンの投与を受けていた232,628人の患者データ |
何を指標? | 1日常用量を基準(=1DDS)に総累積投与量 (1日あたり、アトルバスタチン10mg=プラバスタチン20mg=ロスバスタチン10mg=シンバスタチン15mg=フラバスタチン40mg を1DDDとした) |
何と比較? | スタチンを受けていなかった患者996,043人のデータ |
アウトカム | スタチン使用開始後の糖尿病の薬物治療の有無 |
わかったこと | スタチンの使用で新規糖尿病の発症リスクが18%増加 (HR=1.18 [95% CI 1.15, 1.22]).) タイプ別では ロスバスタチン(HR=1.41[1.31,1.52]) アトルバスタチン(HR=1.23[1.19,1.27]) シンバスタチン(HR=1.15[1.05,1.25]) また累積投与量が多いと、発症リスクも有意に増加した |
コ メ ン ト | 今年1月発表の閉経後の女性を対象とした研究でのHR1.48よりは、リスク増が少なくなっていますがが、、この研究はすべての住民を対象とした患者データベースを用いており、また累積投与量との関連を詳しくを調べている点で興味深いものとなっています。心血管病リスクがない人に、スタチン使用の必要性について改めて考えさせられます。 |
論 文 名 | Statins and Risk of Treated Incident Diabetes in a Primary Care Population |
掲載雑誌 | Br J Clin Pharmacol Pulished Online 30 JUL 2012 |
リ ン ク | http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1365-2125.2012.04403.x/abstract |
関連情報:TOPICS
2012.02.09 スタチンと高血糖、認知機能障害について注意喚起(米FDA)
2012.01.14 スタチンと高血糖・糖尿病のリスク(英医薬品庁)
2012.01.11 スタチンと糖尿病発症リスク他(EMA・PhVWP)
論文紹介記事:今のところなし
2012年08月01日 00:26 投稿
LANCET 誌に、ロスバスタチン(クレストール)の臨床試験であるJUPITARを解析した研究結果が発表され、一つ以上の糖尿病のリスク要因をを持つ人ではリスク増があることがわかり話題になっています。(リスク要因がない人では、糖尿病のリスク増が認められなかった)
Cardiovascular benefits and diabetes risks of statin therapy in primary prevention:an analysis from the JUPITER trial
(Lancet Volume 380, Issue 9841, Pages 565 – 571, 11 August 2012)
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(12)61190-8/abstract
Statin Benefits Offset Diabetes Risk
(MedPage TODAY 2012.08.09)
http://www.medpagetoday.com/Cardiology/Dyslipidemia/34133
Statins’ Heart Benefits Outweigh Diabetes Risk: Study
(Health DAY 2012.08.09)
http://consumer.healthday.com/Article.asp?AID=667536
全体では HR 1.25(95% CI 1.05 to 1.49)
一つ以上のリスク要因がある HR 1.28(95% CI 1.07 to 1.54)
リスク要因なし HR 0.99(95% CI 0.45 to 2.21)
研究者は、それでも、新規糖尿病発症のリスクが心臓血管病リスクを下回るとして、心臓血管病の一時予防のためのベネフィットはあるとしています。
健康な人は、心臓血管病予防のために飲んだ方がよいともとれるし、糖尿病より心臓血管病のリスクの方が心配ともとれるし・・・・
ちなみに、日本ではまだこの点について添付文書に記載がないんだけど、こういうことは書きたくないのかなあ?
LANCET 関連 のブログ記事です
スタチンと糖尿病発症リスクという問題に思うこと。
(地域医療の見え方 2012.08.11)
http://syuichiao.blogspot.jp/2012/08/blog-post_11.html
Lancet 論文についての解説記事が出ています。
Do heart benefits of statins outweigh diabetes risk?
(NHS Choices 2012.08.10)
http://www.nhs.uk/news/2012/08august/Pages/Do-heart-benefits-of-statins-outweigh-diabetes-risk.aspx