英国のセルフケア支援とセルフメディケーション

 13日、日本セルフメデフィケーション学会(http://www.self-medication.ne.jp/event/01/annual_meeting/)の第10回学会に参加してきました。これまで本サイトで紹介してきたことを整理でき、大変勉強になりました。

第10回セルフメディケーション学会
http://www.self-medication.ne.jp/event/2012/04/10.php
http://www.self-medication.ne.jp/2012/gaku2012.pdf

 会場の地下1階マルチメディア講堂はかなり席が埋まり、関心の高さがうかがわれました。

 今回はこのうちのシンポジウム『諸外国から学ぶセルフメディケーション支援』の様子を順番に紹介したいと思います。

『英国のセルフケア支援とセルフメディケーション』 松原なぎさ氏(松原薬局ストア 薬剤師)

 Pharma Tribune 誌などで英国における薬局事情を紹介されている松原さんのお話は一番興味を持って伺いました。

 内容は、おおまかに英国におけるセルフケアの考え方や重視される背景、セルフケア支援の現状、P-medicine (薬局医薬品)などの特長などでした。

 いつものように忘れないように私の感想も含めて、講演の内容をメモとしてまとめてみました。(調べたら、英国逆さメガネの5,6,7に関連記事がある。一部そちらも参考。関連サイトは最後にまとめてあります)

  • WHOの定義では、self medication はself care の一部とされている
  • 英国ではGPへのアクセスが悪いこともあり、セルフケアが重視されいるが、セルフケアが充実すれば、GPへの受診が40%↓、救急外来への受診も50%↓となり、年間20億ポンドに相当する受診コストの一部を削減できることも背景にある。
  • また処方に至る91%は軽度の疾患(minor ailment)である(検索資料より)
  • 英国での医療コストは、救急車を呼ぶと455ポンド(約59,200円)、救急外来への受診111ポンド(14,400円)、GPへの受診32ポンド、NHS Direct への電話相談16ポンド、NHS Choices へのクリック(→リンク)なら0.46ポンドかかるが、セルフケアであれば0~3.5ポンドで済む
  • 英国保健省では、セルフケアの位置づけを示すものとして2005年の白書で、ピラミッド型の図形を示して、その頂き付近のごく僅かな部分を占める患者への専門的ケア(professional care、脳外科手術など)と、その他の大部分を占めるセルフケア(self care、歯磨きなど)とを色分けして、ヘルスケアシステム全体に占めるセルフケアの大きさを強調している(検索資料より)
  • 地域薬局とNHS は、community pharmacy contract という 地域薬局サービス契約が結ばれているが、そのなかのセルフケア支援は必須のサービスとして提供される必要がある(当然、必要なOTC医薬品を取り扱う必要がある)
  • 薬剤師は、次の3つのレベルのセルフケアへのサポートを提供することができる
     Proactive self care(予防的セルフケア)
      ~薬剤師による健康増進
     Facilitated self care(促進的セルフケア)
      ~薬剤師による助言に沿って軽度の病気のための医薬品を購入、使用する
     More supported self care(より持続的セルフケア)
      ~医薬品マネジメントなど、長期にわたる健康管理のためのセルフケアに対するサポート

The Role of the Pharmacist in Self-Care and Self-Medication
(WHO 1998)
http://apps.who.int/medicinedocs/en/d/Jwhozip32e/3.3.html

Self care – A real choice: Self care support – A practical option
(英国保健省 2005.01.12)
http://www.dh.gov.uk/en/Publicationsandstatistics/
Publications/PublicationsPolicyAndGuidance/DH_4100717

地域包括ケアシステムにおける自助・互助の課題
(保険医療科学 61(2) p113-118,2012)
http://www.niph.go.jp/journal/data/61-2/201261020006.pdf

The self care challenge: a strategy for pharmacists in England
(Royal Pharmaceutical Society of Great Britain 2006.03)
http://faculty.ksu.edu.sa/hisham/Documents/Files_For_MS_Students/42.pdf

Self Care Campaign
http://www.selfcarecampaign.org/

self care campaign white paper
(英国保健省 2010.03.16)
http://www.selfcarecampaign.org/uploads/
20100316_self_care_campaign_white_paper.pdf

Research(PAGB)
http://www.pagb.co.uk/publications/research.html

Minor ailment workload in General Practice
(summary 2008)
http://www.pagb.co.uk/publications/pdfs/AndyTismanarticle.pdf

The Pharmacy Contract
(PSNC:Pharmaceutical Services Negotiating Committee)
http://www.psnc.org.uk/pages/introduction.html

Essential Service: Support for Self Care(PSNC)
http://www.psnc.org.uk/pages/essential_service_support_for_self_care.html

  • 一方、GPによる診療はNICEのガイドラインに基づいた標準化された医療と投薬が行われる。このため、健康なインフルエンザや水ぼうそうなどでは抗ウイルス薬の投与が行われることは少ない(それならばわざわざ、GPに行かずに薬局で相談するという人もいるかも)
  • また、GPによる診察費は無料で、薬剤負担金は1薬剤につき7.65ポンド(約1000円)となっているが、9割は何らかの理由で無料となることから、アスピリン程度の薬を入手するために受診する人もいる(どこかの国と同じようだ)
  • こういった理由でGPへの受診する人を減らすことを目的に、NHSの一部の地域では、Minor Ailment Service(軽疾患スキーム)という仕組みを設けて、あらかじめ定められた処方リスト(Pharmacists Formulary)の中から選んで、供給できるようになっている。(薬局での相談した場合の薬剤費も免除される場合もあるが、サービスを受ける薬局を選んで登録する必要がある=つまりかかりつけ薬局を決める必要があるということらしい
  • あたまじらみ、便秘などさまざまなものがあるが、コンサルティングルームが必要とされるものもあるという

GP Patient Survey Results – National Reports and Data
http://www.gp-patient.co.uk/results/

The GP Patient Survey: Year 2011/2012
Summary Report
http://www.gp-patient.co.uk/results/download/_y6q2/Y6W2_Summary.pdf

A Guide For General Practices
http://www.gp-patient.co.uk/download/GP_Handbook.pdf

プライマリ・ケアで変わる日本の医療:質と財政の両立の鍵
(独立行政法人 経済産業研究所 BBLセミナー 2012年9月13日)
http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/12191301_sawa.pdf

Minor Ailment Service
(Community Pharmacy Scotland)
http://www.communitypharmacyscotland.org.uk/nhs_care_services/
minor_ailment_service/minor_ailment_service.asp

Pharmacists Formulary For Minor Ailments Scheme
http://www.communitypharmacy.scot.nhs.uk/
documents/nhs_boards/borders/MAS%20Formulary%20Complete.pdf

 Minor Ailment Service(MAS)については、厚生労働科学研究 「諸外国におけるセルフメディケーション・OTC販売に関与する専門家の役割及びトレーニングの状況調査に関する研究」(ファイル3)でも詳しく紹介されている(下記検索画面で、セルフメディケーションまたは201034082Aというキーワードを入れ、検索をかけて、3つ目のPDFをクリックして下さい)

厚生労働科学研究成果データベース検索トップ
http://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIST00.do

  • 英国では、日本では処方せん医薬品となっているものや未承認のものまでスイッチされている(P medicine、薬局医薬品)
  • また、PGD(Patient Group Direction、患者グループ指示)という仕組みにより、大手チェーン薬局などを中心に、フィナステリドやシルデナフィルなどの処方せん医薬品(POM:Presctiption Only Medicine)の供給がプロトコルに従って、処方せんなしでの供給も行われている。
  • しかし、一部のGPからはPOMからのPへのスイッチ「に対して不安視する声は少なくない。
  • 学習には、community Pharmacy(これかなあ→Google Books)というテキストが使用され。医師・薬剤師の見解が載っているのが特長

Promoting Responsible Consumer Health POM – P Switches
(PAGB Update 2012.04.26)
http://www.pagb.co.uk/regulatory/pdfs/pomtoplist.pdf

Legal status and reclassification(英国医薬品庁:MHRA)
http://www.mhra.gov.uk/Howweregulate/Medicines/
Licensingofmedicines/Legalstatusandreclassification/

Lists of substances(MHRA)
http://www.mhra.gov.uk/Howweregulate/Medicines/
Licensingofmedicines/Legalstatusandreclassification/Listsofsubstances/

最近の話題:TOPICS
  2008.12.05 英国におけるスイッチOTC25年の歩み
  2010.04.01 OTCタムスロシンの販売が開始(英国)
  2009.01.22 OTC抗肥満薬を欧州委員会が承認
  2008.11.08 アジスロマイシンのOTCが発売(英国)
  2006.05.19 スマトリプタンがOTCにスイッチ(英国)
  2005.11.03 OTCとして供給される緊急避妊薬(英国)
  2009.01.17 処方せん医薬品スイッチに対する英国医師の本音
  2012.07.01 OTC シンバスタチンの販売に英国薬剤師は慎重?
           (やっぱり販売不振だったらしい」)

 <PGDについては>
  2008.03.16 処方せん薬の試験販売と医師への紹介率(英国)
  2009.06.19 バイアグラの処方せんなしでの販売拡大へ(英国)

 <その他試行事業>
  2008.12.10 ピルのOTC化に向けて、試験販売が開始へ(英国)
  2009.12.12 ピルの処方せんなしでの試験販売始まる(英国)
  2010.11.02 ティーン女子への処方せんなしでのピルの供給(英国)
  2012.05.01 13歳からピルを処方せんなしで薬局で販売すべき(英国)

講演を聞いてみて(資料を確認して)の感想
  • 英国政府の方針で軽度の疾患については、処方せん医薬品のスイッチや軽疾患スキームをすすめるなどして、必要な医薬品へのアクセスを改善し、しいては医師の本来の診療活動に専念できるようにしていることがうかがえる。
  • また日本では、セルフメデフィケーションやセルフケア、地域包括ケアシステムにおける薬剤師や地域薬局の役割が十分議論・明確化されていないような気がする。
  • 一方、日本でも軽疾患スキームやリフィル調剤を導入すれば、かかりつけ薬局が推進されるように思われる。

関連情報:TOPICS 2008.04.05 薬剤師はさらなる役割を担うべき(英国)


2012年10月14日 15:58 投稿

コメントが1つあります

  1.  的確なご紹介に感謝します。 残念ながら、参加できなかっただけにあり難いと思います。
     英国で進んでいる背景が、具体的な数値等を含め紹介されたことは有意義だったと思います。 スイッチが進む背景としては、コミュニティ単位で医療費の枠組みがあり、高価な薬物を無造作に使うとたちまち予算が足りなくなるという現実的な抑制がかかっていることは、我が国との大きな違いかと思います。
     医師(GP)が、当事者として、適切な医療(費)資源の配分を心がけなければならないのが英国、一方、日本はそのような配慮をを行う当事者が不在のことが多いということがいえるのではないでしょうか? しかし、医療保険の破たんが迫ってくれば、そのような事にも配慮が必要になるものと思われます。