11日、政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)の会合が開かれ、「新しい情報通信技術戦略」が決定されています。今回のIT戦略には、調剤情報も含む診療履歴データ網の整備も含まれており、近い将来おくすり手帳も電子化されるかもしれません。
第53回高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部議事次第
(2010年5月11日)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/dai53/gijisidai.html
今回決定されたIT戦略は、市民レベルでの知識・情報の共有が行われ、新たな「知識情報社会」への転換が実現し、国民の暮らしの質を飛躍的に向上させることができる「新たな国民主権の社会」を確立し、非連続な飛躍を支えるため、「国民本位の電子行政」「地域の絆の再生」「新市場の創出と国際展開」の三つに重点が置かれているのが特徴です。
このうちの「地域の絆の再生」の項では、 2020 年までに情報通信技術を活用することにより、すべての国民が地域を問わず、質の高い医療サービスを受けることを可能にすることや、高齢者などすべての国民が、情報通信技術を活用した在宅医療・介護や見守りを受けることを可能にすることを掲げています。
新たな情報通信技術戦略(案)(平成22 年5 月)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/dai53/siryou.pdf
特に私たちと関連が深い「医療分野の取組」としては次のような戦略が示されています。
【重点施策】
全国どこでも過去の診療情報に基づいた医療を受けられるとともに、個人が健康管理に取り組める環境を実現するため、国民が自らの医療・健康情報を電子的に管理・活用するための全国レベルの情報提供サービスを創出する。このため、第一段階として、個人が自らに対する調剤情報等を電子的に管理する仕組みを実現する。また、匿名化されたレセプト情報等を一元的なデータベースとして集約し、広く医療の標準化・効率化及びサービスの向上に活用可能とする仕組みを構築する。
【具体的取組】
企画委員会の下にタスクフォースを設置した上で、関係省庁が連携して以下の施策に取り組む。
1.「どこでもMY病院」構想の実現
全国どこでも自らの医療・健康情報を電子的に管理・活用することを可能にする「どこでもMY病院」構想を実現することとし、遅くとも2013 年までにその一部サービス(調剤情報管理等)を開始する。
このため、2010 年度中に、診療明細書及び調剤情報の電子化方策や、「どこでもMY病院」構想を実現する上での運営主体、診療情報・健康情報等の帰属・取扱い等について結論を得る。また、本構想の実現に当たり、救急医療体制の強化にも資するよう検討する。【内閣官房、総務省、厚生労働省、経済産業省等】
2.シームレスな地域連携医療の実現
遅くとも2015 年までに地域医療支援病院を中心とし、生活習慣病などを対象として、情報通信技術を活用した地域連携クリティカルパスや医療から介護まで健康に関わる施設間でのシームレスなデータ共用を可能にする体制を各地に構築するため、2010 年度中に、具体的な方針を固める。
また、医療情報システム等の普及と標準化の推進を行うとともに、死因究明に精通した医師が少ない中で、地域連携により死亡時画像診断(Ai)による死因究明を推進する。
さらに、医師不足地域等における患者の利便性を向上させるため、処方せんの電送交付をはじめ、遠隔医療の実施可能範囲の明確化及び遠隔医療に対する診療報酬等の適切な活用など、遠隔医療の普及方策を検討する。【内閣官房、総務省、厚生労働省、経済産業省等】
3.レセプト情報等の活用による医療の効率化
匿名化されたレセプト情報等をデータベースとして、厚生労働省で集約することを一層推進し、2011 年度早期にレセプト情報(診療群分類に係るコーディングデータを含む)、特定健診情報、特定保健指導情報を外部に提供するため、2010 年度中に有識者からなる検討体制を構し、データ活用のためのルール等について結論を得る。【内閣官房、総務省、厚生労働省、経済産業省】
4.医療情報データベースの活用による医薬品等安全対策の推進
医薬品等をより、安全・安心に利用できる社会を構築することを目指し、医薬品の副作用情報等をリアルタイムでモニターし、安全対策の充実・強化を図ることができるよう、レセプト情報や電子カルテ情報のデータベースを活用できる体制の整備を行う。【内閣官房、厚生労働省】
今後、政府は5月中にも、この戦略に基づいた取り組みスケジュールを策定するとのことですが、11日の日本経済新聞によれば、財源の手当が問題と指摘しており、スケジュール通りにいくかどうかはわかりませんが、今回の戦略通りにすすめば、現在の「おくすり手帳」は電子化されるとともに、電子処方もそう遠くない時期に実現するかもしれません。
一方で、今後はITを活用した医療連携が進むこともまちがいありません。今から、地域連携クリティカルパスや、地域の医療・福祉のネットワークなどに積極的に関わっていかないと、地域薬局がこういったネットワークからはずされたり、電子処方が実現しても診療情報は閲覧できなく可能性もあり、将来を見越した取り組みをすぐにすすめることが求められます。
なお、このIT戦略の素案に対し、日薬はパブコメで、
「現在の関係法令等では、処方箋の発行に際し、処方箋を特定の薬局に誘導することが禁じられているとともに、全国どこの薬局でも、処方箋を応需しなければならないとされているため、全ての薬局で電子交付された処方せんを応需できる体制が必要となる。実施に際しては、現行の関係法令に照らし合わせ、問題が生じないよう十分に留意するとともに、過去に三か年緊急プランに示した「ブロードバンドインフラ整備」の実施や、処方箋を電子交付する医療機関、処方箋の電子交付を受ける患者、電子交付された処方箋を応需する薬局の3者すべてに、過度な負担が生じないよう国の責任において十分な対策を講じていただきたい。」
とした要望を行っています。
関連情報:
2009.06.04 ITを活用した地域医療情報ネットワーク(山形県)
2008.08.08 処方せん電子化は実現するか?
2007.03.15 厚労省、健康保険証のICカード化を検討(旧サイト)
2010.01.15 地域連携クリティカルパス「東京都医療連携手帳」
2009.03.18 「地域連携パス」における地域薬局の役割
2009.07.15 薬局の役割が明記された糖尿病地域連携パス(石川県)
参考:IT PRO 5月11日
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20100511/347917/
2010年05月11日 23:36 投稿
6月18日に閣議決定された「新成長戦略」の成長戦略実行計画(工程表)で、2013年度までに実施すべき事項として「個人に向けた診療明細書・調剤情報の提供開始」が盛り込まれました。(下記ファイルp81下の方)
新成長戦略 ~「元気な日本」復活のシナリオ~
(2010年6月18日閣議決定)
http://www.kantei.go.jp/jp/sinseichousenryaku/sinseichou01.pdf
6月22日、政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)の会合が開かれ、「新たな情報通信技術戦略」についての工程表が示されています。
第54回高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(2010.6.22)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/dai54/gijisidai.html
資料1:新たな情報通信技術戦略 工程表(案)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/dai54/siryou1.pdf
上記で特に注目されるのは、『「どこでもMY病院」構想の実現』と『シームレスな地域連携医療』の実現についての工程表が示されているp22-26の部分です。
m3.com の医療維新の記事によれば、「おくすり手帳」の電子化は、国がデータベースを用意して患者がそこから取り出すというものではなく、患者自身が受け取った電子化された診療明細書や調剤薬の情報を、患者自身がデータベースに登録し、それを利用するという形で実現をすすめるというもののようです。つまりデータベースは民間が運営するというものを想定しているようです。
そういえば、これを先取りしたサービスを民間が相次いで始めていますね。
一方、『シームレスな地域連携医療』の実現の「遠隔医療の推進」で、「処方せんの電磁的な交付について検討」が記されています。
処方せんの電子化も遠隔医療の推進では不可欠の事項であることから、2011年度中にはある程度の仕組みができあがるようです。
こういったITの本格的な整備と活用がすすんだら、門前薬局の存在意義はいよいよなくなるかもしれませんね。
あまりにもタイミングがいいのですが、22日のRISFAX HEADLINEの見出し『「リフィル処方」と「箱出し調剤」が目玉』(記事は見ていませんが)をみると、そんなことをますます予感させられます。
こういったITの活用によって、薬局業務は大きく変わります。
調剤実務はおそらく簡素化され(テクニシャンも導入されるかも)、くすり情報も電子化・共有され、現在の薬歴に基づいた業務から、新たな業務の確立というのが求められるような気がしてなりません。
日薬は既に検討していると思いたいですが、こういったIT活用を踏まえた、薬局の将来像をまとめて提示すべきです。でないと、こういったIT化で行われる医療や福祉との連携から外され、せっかく6年制の教育を受けた薬剤師の活躍の場がなくなってまうことでしょう。