11日は、個人的に微力ながらお手伝いしている、ボランティアグループ「あしかが子育て応援ネット」(http://ak-ouen.net/)主催の食物アレルギーのフォーラムに参加してきました。
食物アレルギーフォーラム in あしかが 2013 を開催しました
(あしかが子育て応援ネット 2013.08.11)
http://ak-ouen.net/130811
レポートは昨年も、TOPICS 2012.08.20 で記事にさせていただきましたが、今年は「練習用エピペントレーナー」による体験もしてきたので、昨年の記事に加筆させていただく形で記事にさせて頂きました。(当然今年、話されていない部分もあります)
すでに自治体によっては、食物アレルギーを持つお子さんに対するきめ細かい対応が行われているところもあるかと思いますが、地元足利でも一昨年7月に「学校給食食物アレルギー対策委員会」が設置され、昨年4月には食物アレルギーの児童・生徒への市内における学校給食における具体的な対応法をまとめた対応マニュアルが作成されています。(ググると同様のマニュアルやガイドラインはけっこうある)
学校給食食物アレルギー対応マニュアルの策定(足利市)
http://www.city.ashikaga.tochigi.jp/page/arerugitaioumanyuarusakutei.html
このフォーラムでは、足利市教育委員会学校管理課給食担当職員の方と、足利市学校給食食物アレルギー相談医の小児科医、食物アレルギーを持つお子さんの保護者の3人から、食物アレルギーについての正しい知識の他、足利市の取組などについてお話を頂きました。
特に食物アレルギーの子をもつ保護者の方から、本人や家族がどのような点に日頃困っているのかなどの話をうかがうことができ、たいへん勉強になりました。周りへの働きかけなど日頃のご苦労などの話をうかがい、食物アレルギーについて正しい理解を深める必要性を改めて感じました。
下記は、フォーラムで気づいた点をまとめたものです。(知らなかった。勉強不足の点がいっぱい)
- 「食物アレルギー診療ガイドライン2012」で、定義が「食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が惹起される現象」に改められた。
(以前の定義は「原因食物を摂取した後に免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状(皮膚、粘膜、消化器、呼吸器、アナフィラキシー反応など)が起る現象」 茶のしずく問題があるように、口からの接種だけでなく、皮膚からも取り込みもある) - 牛乳を飲むと下痢をするのは、乳糖を体質的に消化できない「食物不耐症」であり、食物アレルギーではない
(但し、乳糖の精製過程で牛乳成分が混入することがあり、この場合は食物アレルギーとなる) - 果物などを食べると口の中が腫れたり、かゆくなる、鮮度落ちた青魚によるじんましんなどは、食物に含まれているヒスタミンやセロトニン、サリチル酸化合物などの化学物質(薬理活性物質)が原因となってアレルギー様の症状を起こすもので、これも食物アレルギーではない
- 食物アレルギーは、乳児では100人中10人くらいいるが、幼児で100人中6人、学童~成人は100人中3人と少なくなっていく
(乳児期に発症した食物アレルギーであっても、年齢とともに耐性を獲得していく) - アレルギーを起こしやすい物質は、乳幼児期と学童~成人期では異なる。乳幼児では鶏卵・乳製品・小麦・イクラなどの魚の卵であるのに対し、学童期~成人期にはこれらには年齢とともに耐性を獲得し、甲殻類(エビ・カニ)、そば、果物類が上位を占めるようになる
(休日に家族で回転ずしに行った際、きれいな「いくら」幼児が興味を示し、初めて口にして病院にかけこむという事例が少なくないとのこと。初めて口にするものは医療機関が開いている平日昼間が望まれる) - 鶏卵がダメでも魚の卵は大丈夫といったように交差抗原性というものが存在する
- 食物アレルギーの診断で、問診は一番重要
(食材・調理方法・摂取した量・食べてから発症するまでの時間・再現性はあるかどうか・症状の特徴は?(携帯やデジカメでの撮影を推奨)) - 皮膚テストで使われるキットは海外製のため、食材によっては日本にないものもある。(洋ナシはあってもナシはない)
- 血液検査は、集団生活が開始される時期(3歳)や環境が変わるとき(入・進学時。学校の対応もある)に行うとよい。但し、体調の状態にも左右されるので注意が必要。
(IgE抗体は皮膚の状態にも左右されるので、スキンケア(清潔・保湿・紫外線防御)を普段から行っておくことが重要) - 卵白、牛乳、小麦については、アレルゲンごとの血液中の特異的IgE 抗体の量(測定値)をわかりやすいように0〜6 にクラス分けした「イムノキャップ」の測定値と症状誘発の可能性をグラフにしたプロバビリティカーブである程度発症のリスクが推定できる。
(低ければ、除去解除の目安となるが、カーブができているものは小麦・卵・牛乳などに限られる) - 食物アレルギーの原因食物の確定、耐性獲得の診断、除去解除の目安には食物経口負荷試験(いわゆる実食)必要であるが、まれにリスク(アナフィラキシー)も存在するので必要に応じて医療体制がととのったところで行うことが望ましい。
(経口免疫療法は、現時点では専門医により研究的に行われている段階であり、一般診療の場において行うことは推奨されていない。) - 食物アレルギーの発症予防のために妊娠中および授乳中に母親が食物除去を行うことはどこの国でもガイドラインで推奨されていない
- 軽度の症状には抗ヒスタミン剤やステロイドでの対応も可能(インタール内服は以前は行われいたが・・・・・)だが、息苦しさや声のかすれなどのアナフィラキシー症状(正確には、呼吸器に限らず、かゆみなどの皮膚症状や血圧低下などの循環器症状など、複数の臓器に重い症状が現れるものをアナフィラキシーという)が出現した時は迷わずエピペンを使用すべき
- 使用のタイミングについては、あらかじめ、親、施設(小学校・保育所など)、主治医、(+本人)と決めておく方が望ましい
- 日本小児アレルギー学会が使用のタイミングとなる13の症状を公表(→リンク)しているが、これにこだわることはない。
(少し難解な表現も。グレード3にある、くしゃみや鼻症状の発現時も考慮する必要も) - エピペンは、今起きているアナフィラキシーの対処するものであり、遅発性のアレルギー(これはステロイドが有効)が発現するリスクもあるので、必ず使用したエピペンをもって医療機関をすぐに受診すること
- エピペンは登録医制が引かれているが、登録医(登録医療機関)は公表されていないので、直接医師に相談するしかないとのこと(ハチ毒の関係で意外と皮膚科医には登録医がいるらしい)
- 学校での対応は医師の診断が必須だが、(学校)生活管理指導表が診断書に代わるらしい
今回は、「練習用エピペントレーナー」が参加者に配られ、私も体験することができました。(大きめの講演会が開かれる場合には、ファイザー社がトレーナーを貸与してくれるとのこと)
エピペンの使用方法は、メーカービデオ(→リンク)では、振り下ろして注射する方法を紹介していますが、振り下ろす方法だと、失敗する場合もあるので、あらかじめ打つ場所に持っていて、皮膚にエピペンを当ててから注入ボタンを押す方がよいようです。(よほど厚いものでなければ、服の上からでもOK。消毒は大丈夫?との質問も出ましたが、米国などでは予防接種やインスリンの注射の際に日本のように消毒する習慣はないとのこと)
厚労省が作成した下記ビデオでは、利き手でしっかり持って、安全キャップは利き手ではない方で外すことや、患児に意識がなくても、必ず患児を抑えて声掛けが必要などのポイントをわかりやすく説明しています。
MHLWchannel 保育所におけるアレルギー対応ガイドライン(2/2) 7分11秒あたりから
今回のフォーラムでも紹介されましたが、昨年5月に改訂版がつくられた下記資料が最近の情報も網羅した、もっともわかりやすく詳しい内容となっています。(茶のしずく石鹸の問題や災害時の対応にも触れています。一読をお勧め。冊子版も希望があればもらえるようです)
ぜん息予防のための
よくわかる食物アレルギーの基礎知識2012年改訂版【PDF12.3MB】
(大気環境・ぜん息などの情報館 独立行政法人 環境再生保全機構)
http://www.erca.go.jp/yobou/archives/3716
http://www.erca.go.jp/yobou/images/uploads/kanjazensoku/ap039.pdf
また、書籍版しか入手できないとのお話だった、日本小児アレルギー学会が2012年にまとめたガイドラインのにダイジェスト版がつい最近、同学会HPにアップされていました。
今日の講演で言及した、「プロバビリティカーブ」の考え方などが示されています
食物アレルギー診療ガイドライン2012ダイジェスト版
http://www.jspaci.jp/jpgfa2012/
それと、事前に施設内での役割分担をあらかじめ決めておくことも推奨していました。
これは、第一発見者は状態の変化などをきちんと、把握し、今後の対応に備えることに集中することが重要であるためです。(家族への連絡や救急車の手配などは他の職員が行う。東京都が最近まとめた「食物アレルギー緊急時対応マニュアル」でも記載がある)
食物アレルギー緊急時対応マニュアル
(東京都 2013.07)
http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2013/07/DATA/20n7o400.pdf
その他には、下記のような資料があります。小児科医の講演でも紹介されていました。
食物アレルギーの診療の手引き2011【PDF:1.6MB】
(リウマチ・アレルギー情報センター)
http://www.allergy.go.jp/allergy/guideline/05/05_2011.pdf
食物アレルギーの栄養指導の手引き2011【PDF:4.8MB】
(リマウチ・アレルギー情報センター)
http://www.allergy.go.jp/allergy/guideline/06/06_2011.pdf
保育所におけるアレルギー対応ガイドライン
(厚生労働省 2011.3)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/pdf/hoiku03.pdf
保育所におけるアレルギー対応ガイドラインQ&A(2012.3 Update)
(保育所におけるアレルギー対応ガイドライン作成検討会)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/pdf/hoiku04.pdf
学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン(2008.3)【PDF:17.5MB】
(学校保健 電子図書館)
http://www.gakkohoken.jp/book/bo0001.html
http://www.gakkohoken.jp/book/pdf/0100.pdf
食物アレルギー(保育園・幼稚園・学校における食物アレルギー日常生活・緊急時対応ガイドブック)
(東京都2010.3)
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kankyo/kankyo_eisei/allergy/allergy/to_public/guidebook
余談ですが、スコットランドではつい最近、食物アレルギーのアナフィラキシーに地域薬局が対応するという試行事業(?)が始まったそうです。
Anaphylaxis Campaign
(Community Pharmacy Scotland)
http://www.communitypharmacyscotland.org.uk/news,-policy-and-publications/news/latest-news/anaphylaxis-campaign/
Pharmacies to offer allergic reaction treatment
(The Scotsman 2013.08.09)
http://www.scotsman.com/news/health/pharmacies-to-offer-allergic-reaction-treatment-1-3038842
Allergy MP Jo Swinson backs anaphylaxis treatment scheme
(BBC NEWS 2013.08.09)
http://www.bbc.co.uk/news/uk-scotland-glasgow-west-23632366
Swinson backs allergy help campaign
(The Glasgow South and Eastwood Extra 2013.08.09)
http://www.glasgowsouthandeastwoodextra.co.uk/news/scottish-headlines/swinson-backs-allergy-help-campaign-1-3038144
薬局の適正配置が行われていない日本ではちょっと無理な話ですが、実際間に合うかなとも思います。
関連情報:TOPICS
2012.08.20 食物アレルギーフォーラム IN あしかが
2013.08.11 食物アレルギー診療ガイドライン2012ダイジェスト版
2013.07.25 エピペン使用のタイミング(日本小児アレルギー学会)
2013.07.26 食物アレルギー緊急時対応マニュアル(東京都)
2012.10.02 保育所におけるアレルギー対応ガイドライン(動画)
2012.09.12 エピペンとAED、どこまで設置が必要か
第85回アポネットR研究会報告(食物アレルギーの病態と治療について)
2013年08月11日 23:46 投稿