WHO Pharmaceuticals Newsletter の最新号で、NSAIDsの使用による急性腎不全に関するシグナル検出(Signal、単に“シグナル”という場合もある)の報告が目に留まりました。
WHOでは、シグナル検出を、「それまで知られなかったか、もしくは不完全にしか立証されていなかった薬剤と有害事象との因果関係の可能性に関する、さらに検討が必要な情報」と定義していますが、シグナル検出はあくまでデータと議論による仮説であり、因果関係がはっきりと証明されたものではないという点には留意する必要があります。
Combined Ibuprofen and Metamizole treatment – Acute renal failure(SIGNAL)
(WHO Pharmaceuticals Newsletter No.2 May 2014)
http://www.who.int/medicines/publications/PharmNewsNo2_2014.pdf#page=13
タイトルの通り、イブプロフェンとメタミゾール(=スルピリン)との併用で、急性腎不全の発症リスクが高まるかもしれないというもので、おそらくこれまでになかった指摘ではないかと思います。
WHO-UMC(Uppsala Monitoring Centre)メンバーの106か国からの自発報告を集積したデータベースVigibase には、2013年5月までにイブプロフェンとスルピリンの併用使用との関連が疑われる24の急性腎不全の報告があったそうです。(スペイン13、独6、スイス4、日本1、16~87歳の平均48歳)
NSAIDsによる急性腎不全の有害事象はよく知られるところですが、上記の報告例の中には、一方を服用中、さらにもう一方を追加した場合に発現し、死亡例や未回復例もあったそうです。
本邦でも、スルピリンの添付文書を見ると重大な副作用の項に「急性腎不全」があり、いくつかの文献報告もありますが、レビューアーは追加併用することで腎不全が発現したとの報告に着目し、併用した場合、何らかの相互作用が生じ、急性腎不全発現(するリスクが高まる)と結論付けたようです。
スルピリンはピリンアレルギーの問題もあり、以前ほどは使われなくなっていますが、イブプロフェン(ブルフェン)を定期で使用し、解熱目的でスルピリンを追加するというケースも現場ではあるかと思います。
またスルピリンではありませんが、同じピラゾロン系ではイソプロピルアンチピリンを含む医薬品(SG配合顆粒、クリアミン配合錠、プレコール持続性カプセル、セデスハイなど)が数多くあり、イブプロフェン(ナロン、イブ、その他総合感冒薬)とこれらが配合された医薬品の併用には留意する必要があるかもしれません。
関連情報:
治療薬(痛みと鎮痛の基礎知識)
http://www.shiga-med.ac.jp/~koyama/analgesia/analg-nsaids.html
日化辞Web:JSTの有機化合物辞書DB「日本化学物質辞書」
http://nikkajiweb.jst.go.jp/nikkaji_web/pages/top.jsp?CONTENT=syosai&SN=J3.529G
(スルピリンには多くの別名がある)
Metamizole(Wikipedia)
http://en.wikipedia.org/wiki/Metamizole
(ドイツでは、シクロスポリン、クロルプロマジン、メトトレキサートとの相互作用の記載有)
2014年06月01日 15:57 投稿