新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会報告書

 この間、時々ツイートで紹介していた「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」が、これまでの討議をまとめた報告書をまとめ、6日公表しています。

【厚労省】
新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-isei.html?tid=384675
(自由で活発な発言を確保するという観点から、非公開で行われ(構成員や参考人のプレゼン資料は公開)、議事録ではなく議事要旨という形で意見が公表)

新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会 報告書
(厚労省 2017.04.06)
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000160954.html
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000161081.pdf

 この検討会は、「我が国の医療を取り巻く環境は、今後、多死社会の到来、ICTやAIの発展、地域包括ケアの推進、地域医療構想を踏まえた病床機能の分化など大きく変化することから、医師、看護職員等の確保に当たっては、こうした変化を踏まえ、医療従事者の新しい働き方の検討を行い、今後求められる医療従事者像を明らかにしていく必要がある。」とした観点から、望ましい医療従事者の働き方等の在り方について、下記のようなことが検討されました。

(1)我が国の医療を取り巻く状況の変化を踏まえた新たな医療の在り方
例)
・多死社会の到来による看取りニーズの増大
・病床機能の分化・連携、療養病床の見直し
・在宅医療・介護、地域包括ケアの推進
・総合診療専門医・かかりつけ医の普及
・医療ICT等インフラ整備やAI等によるイノベーション
・医療従事者間、介護従事者との役割分担、業務負担の軽減働き方改革

(2)新たな医療の在り方を踏まえた医師・ 看護師等の働き方及び確保の在り方

 検討会の名称をみると、医師や看護師の働き方についてだけに思われがちですが、報告書では項目5の「ビジョンの方向性と具体的方策」なかで、タスク・シフティング/タスク・シェアリングの推進の一環として、薬剤師の役割や働き方が明文化されていたことは注目に値します。

 以下、この部分を抜粋します。

薬剤師の生産性と付加価値の向上
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000161081.pdf#page=39

医療従事者の生産性と付加価値を向上させる上では、薬剤師の専門性や知見は極めて重要であり、これまで以上にその能力を発揮することが期待される。

薬剤師の本質がもっぱら調剤業務のみに止まることなく、6年間の教育を経て培われた専門的知見を生かし、人材不足に対応しうる効率的で生産性の高い業務にシフトしていくべきである。このため、調剤を主体とした業務構造を変革し、専門職として処方内容を分析し患者や他職種に助言する機能や、薬物療法のプロトコルを策定する機能を強化すべきである。これらを通じ、薬剤業務のプロフェッショナルとして、積極的にチー ム医療の一員としてのプレゼンスを発揮すべきである。

現在、病院においては、薬剤師の病棟配置や他職種との連携などを通じたチー ム医療が進められているが、病棟での持参薬管理や服薬管理にとどまらず、医師に対して、治療効果や副作用のモニタリングのための検査の実施を含めた薬物療法の提案を行うことにより、薬物療法の有効性・安全性をさらに向上させていくことが期待される。

さらに、外来診療の場面においても、医師の診察の前に、薬剤師が残薬を含めた服薬状況や、副作用の発現状況等について、薬学的な観点から確認を行うことで、医師の負担軽減につながることが期待される。

また、薬局においては、「かかりつけ薬剤師・薬局」の推進等の取組みが進められているが、今後の地域における薬局や薬剤師の機能は、患者・住民とのコミュニケー ションの側面を中心に、大きく変容することが期待される。このため、時間的・物理的余裕を創出するために、調剤業務の効率化を推進すべきである。

調剤業務のうち、機械化、オートメーション化できる部分については、効率化を進めるとともに、処方箋40枚につき薬剤師1名の配置等、処方せんの枚数に応じた薬剤師の配置基準は、実態及び今後の効率化の可能性を踏まえて見直すべきである。その際、欧米では既に主流となっている「箱出し調剤」の有用性を検証し、移行していくべきである。

また、かかりつけ薬剤師については、薬剤師の多様な働き方を確保するため、実質的に常勤の薬剤師に限定されることのないよう、要件の見直しを図っていくことが求められる。それらの取組みを通じて、薬剤師が地域包括ケアの重要な役割を担い得る存在として、より高度で幅広い活動を行う専門職に脱皮していくことが必要である。例えば、保険者が行う糖尿病性腎症の重症化予防プログラムにおけるかかりつけ薬剤師による指導の役割などは、持てる能力を発揮する好例であると考えられる。

このほか、同じ薬剤処方であれば再度の診察・処方せん交付は不要とあらかじめ医師から指示されている場合には、医師との連携の下、薬剤師等によるリフィル処方への対応を可能とし、長期に有効な処方せんが一度出されれば、これを提示することで何度も薬を受け取ることができるよう検討すべきである。また、ICT を活用した服薬指導により、在宅患者の利便を高めるとともに、服薬アドヒアランスの向上にも取り組んでいくべきである。

さらに、プライマリ・ケアに関しては、薬剤師の役割も重要であることから、必要な知見や能力を育むための教育を充実・強化することが必要である。地域包括ケアを推進していく中で、薬物療法を安全かつ有効に継続するため、病院薬剤師と薬局薬剤師との連携(薬薬連携)を進めることにより、入院医療から、在宅医療や外来化学療法への移行等に当たっての患者情報の共有を、ICTの利活用を含めて推進することが必要である。

 また最後の部分のプライマリ・ケアについては、「地域を支えるプライマリ・ケアの構築~保健医療の基盤としてのプライマリ・ケアの確立」で、次のように記されています

プライマリ・ケアの機能の一環として、住民への予防・健康リテラシー や医療コスト意識の涵養を図るべきである。軽度な疾患であり自己管理や休息が主な治療となる場合には、検査や処方を目的に受診しなくてもよいと伝えることや、健康づくりや疾病・介護予防、セルフ・メディケー ション等を日々 の生活の中で行うよう促すことなどは、こうした機能が担う重要な役割である。一定の所得がある者に対して限度額まで薬剤処方を医療保険の対象から外し、スイッチOTC医薬品の普及を促進することなども、こうした機能強化の後押しとなる。

 実はこの検討会、構成員に薬剤師はいません。それにもかかわらず今まで言われていたことが今回の報告書で明文化された意味は大きいと思います。

 個人的に注目しているのは、リフィルなど在宅患者への利便向上や、プライマリケアやセルフ・メディケー ションの支援などの役割を示している点です。

 地域薬局の業務というと在宅業務に注目が置かれがちですが、今後どのような役割や業務があるのかを改めて考える必要があるかもしれません。

 また、この報告書では、

女性医師は医療界の貴重な人的資産であるとの視点から、医療界全体が「男性文化」から転換し、性別に依らないキャリア形成・働き方を支援すべきときである。その際、男女ともに価値観や生活環境は千差万別であることを踏まえて、単純なロー ルモデルや成功体験を掲げるにとどまることなく、個人の価値観や生活実態にきめ細かく対応できる環境整備が重要である。

として、医療従事者の業務負担軽減や、育児・介護等へのきめ細かな配慮を求めていることも注目に値します。女性の比率が高い薬剤師の世界でも同様のことが言え、独自の薬剤師の働き方ビジョンというのも検討する必要があるかもしれません。

 さて、この提言が今後どうなるかというと、報告書の最後の方で、

単なる将来の青写真に止めてはならない。社会的・経済的・技術的変化の速度の速さを踏まえれば、今後5~ 10 年程度を基本軸として、すぐに着手できるものは直ちに具体化を進め、さらなる議論が必要なものは順次実現に移すこととすべきである。

また、できる限り早期に、現場で懸命に取り組む医療従事者に未来展望を拓くメッセージとして広く伝えることが必要である。このため、この内容を速やかに、未来を担う医師たちに広く、分かりやすく伝えるとともに、関係審議会等でこの提言に基づいた検討が行われ、実現の見通しが明らかにされるべきである。特に、実現に向けては、厚生労働省内に「ビジョン実行推進本部(仮称)」を設置し、5~ 10 年程度の政策工程表を作成した上で、内閣としての政府方針に位置付け、進捗管理を行うよう求める。

すぐには実現が困難な提言や日本で全国展開するには実例の蓄積が必要な提言については、国家戦略特区の枠組み等を用いつつ、厚生労働省が主体となって着実に取組みが進むようにすべきである。また、他省庁の取組みが必要なものについては、厚生労働大臣主導で所管省庁に積極的に働きかけを行うべきである。

であるとしています。

 報告書全体をみると、中医協で医師会の委員がこれまでもことごとく反対してきた項目が並んでいます。今後中医協の場で取り上げられるでしょうから、医師会の委員が果たしてどういう反応をするが注目です。

 当然のごとく、医師会は即日で警戒のコメントを発表しています。

「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会報告書」に対する日医の見解について
(日本医師会プレスリリース 2016.04.06)
http://www.med.or.jp/nichiionline/article/005040.html

本報告書に示す、医療従事者の業務の生産性向上、従事者間の業務分担と協働の最適化の重要性は当然ですが、その具体策として示される、診療看護師(仮称)やフィジシャン・アシスタントの活用を含むタスク・シフティング、タスク・シェアリングについては、医療安全や医療の質の向上の視点に立ち十分かつ慎重に議論することが必要と考えます。

その他、これまでの関連ツイート


2017年04月07日 00:45 投稿

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