本サイトでも度々紹介している緊急避妊薬ですが、いよいよ日本でも発売されるようです。有効性や安全性の問題だけではなく、社会的な影響もあることから、幅広い意見を集めるため、薬事・食品衛生審議会での審議での審議に先だってパブリックコメントが10日、開始されています。
「ノルレボ錠0.75mg」の医薬品製造販売承認について
(案の公示日 2010年11月10日、意見・情報受付締切日 2010年12月09日)
ノルレボ錠は、成分が「レボノルゲストレル」で、効能効果は「緊急避妊」、用法用量は「性交後72時間以内にノボノルゲストレルとして1.5mgを1回経口投与する」となる予定です。
パブコメの概要説明によれば、ノルレボ錠の効能・効果については、「本剤は、コンドームの装着不備、低用量経口避妊薬の飲み忘れなど、避妊措置に失敗した又は避妊措置が十分ではなかった場合に、妊娠を回避するために性交後に服用する緊急避妊薬である」として、「通常の経口避妊薬のように計画的に妊娠を回避するものではない」とした補足がなされています。
また、審査報告書によれば、ノルレボ錠は1999年にフランスで承認を取得したのを皮切りに、2010 年4 月現在、緊急避妊を目的として、欧州、アジア、アフリカ等の海外48 ヵ国で承認を取得し、45 ヵ国で販売されている他、レボノルゲストレル を1.5mg 含有する製剤が41 ヵ国で承認、37 カ国で販売されており、一部はEU を中心とする約30 ヵ国で医師の処方を必要としない一般用医薬品としても販売されているそうです。(TOPICS 2009.02.01)
さらに、米国においても、緊急避妊を目的として、本剤と同一有効成分を含有する製剤(レボノルゲストレル0.75mg 錠及び1.5mg 錠)が一般用医薬品(=PlanB)として承認・販売されています。
一方、ノルレボ錠の適正使用を図るために、関連学会等に適正使用のための協力依頼を行う他、医師を始めとした薬剤師、看護師等の医療関係者、本剤を服用する服用者に対し、情報提供資材や企業ホームページを用いて情報提供及び働きかけを行い、服用者に対しては、本剤の緊急避妊後の適切な避妊法の啓発も行う予定だそうです。(市販後調査も大変そう)
日本では処方せんなしでの販売はおそらく10年以上先の話でしょうが、海外の動向やアクセスの面を考えれば、そんなに遠い先にはならない可能性もあります。私たちもこれを機に、緊急避妊に対する正しい情報を収集する必要があるでしょう。
関連情報:TOPICS
2010.05.26 若者の緊急避妊薬へのアクセスを容易にすべき(英国)
2009.04.23 OTC緊急避妊薬の販売可能年齢引き下げへ(米国)
2009.02.01 欧米におけるスイッチOTCの状況
2008.09.25 3分の1の薬局がOTC販売時に適切な対応を行っていない(英国)
2008.05.16 緊急避妊薬の分類が変更へ(カナダ)
2008.04.23 緊急避妊薬は薬局で簡単に購入できるようにすべき(カナダ)
2006.09.16 若者の保健問題と緊急避妊薬(英国)(旧サイト)
2006.08.25 FDAが緊急避妊薬のOTC化を条件付で承認
2006.08.02 FDAが緊急避妊薬のOTC化を検討(旧サイト)
2005.11.03 OTCとして供給される緊急避妊薬(英国)
2005.07.04 緊急避妊薬の調剤拒否にゆれる米国薬剤師
2010年11月10日 01:07 投稿
関連ブログです
緊急避妊用ピルの承認について、パブリックコメントを!!
(おばさんドクターのひとりごと 11月10日)
http://plaza.rakuten.co.jp/obasan2dr/diary/201011100000/
上記ブログの関連ページです
緊急避妊Q&A(社団法人 日本家族計画協会)
http://www.jfpa.or.jp/cat5/index06.html
第4回 「男女の生活と意識に関する調査」結果の概要
(社団法人 日本家族計画協会 家族と健康第659号 2009.2.1)
http://www.jfpa.or.jp/02-kikanshi1/659.html
Wikipedia に各国の承認状況がアップされています。
Emergency contraceptive availability by country(Wikipedia)
http://en.wikipedia.org/wiki/Emergency_contraceptive_availability_by_country
本サイトの情報(2008年12月公表のOTC Ingredient Table などを参考)と合わせて整理すると以下の通りになります。(誤りがあったらご指摘下さい)
オーストリア:処方せん医薬品
ベルギー:2001年OTC化
デンマーク:処方せん医薬品
フィンランド:2002年にOTC化(16歳以上の女性)
フランス:1999年OTCとして承認、高校看護師による供給も可能
ドイツ:処方せん医薬品
スイス:処方せん医薬品?
ギリシャ:処方せん医薬品
イタリア:処方せん医薬品
オランダ:2005年OTC化、ドラッグストアでも入手可(セルフセレクション)
ポルトガル:処方せん医薬品
スペイン:2009年OTC化
アイルランド:処方せん医薬品
英国:2001年OTC化(16歳以上の女性)
ノルウェー:2000年OTC化(セルフセレクション)
スウェーデン:2001年OTC化(セルフセレクション)
カナダ:2005年OTC化(2008年、一部の州でセルフセレクション可)
米国:1999年承認、2006年にOTC化(18歳以上の女性、2009年に17歳に引き下げ)
メキシコ:政府のbirth control programme として1999年にOTC化
アルゼンチン:処方せん医薬品
チリ:処方せん医薬品
インド:2005年OTC化(セルフセレクション)
中国:OTC医薬品
韓国:OTC医薬品
フィリピン:処方せん医薬品
シンガポール:処方せん医薬品
豪州:2002年承認、2004年OTC化(要薬剤師薬)
ニュージーランド:OTC医薬品
欧州を中心にまだ半分くらいの国で、OTC医薬品とはなっていませんが、これはカトリックの影響が大きいのではないかと思います。
これは、緊急避妊を堕胎とみなす考え方があるためで、ローマ法王もカトリック信者の薬剤師に対して、良心的な調剤拒否を呼びかけることもあります。(米国ではたびたび販売拒否(調剤拒否)が問題となっています)
一方で、地域薬局における緊急避妊薬供給についての実績づくり(処方せんによる調剤も含む)もすすんでおり、レビューもすでに2006年に発表されています。
Community pharmacy supply of emergency hormonal contraception: a structured literature review of international evidence
(Hum. Reprod. (2006) 21 (1): 272-284.)
http://humrep.oxfordjournals.org/content/21/1/272.full
http://humrep.oxfordjournals.org/content/21/1/272.full.pdf+html
本サイトへリンクされているブログ等での呼びかけにありますように、より安全な薬剤として承認は必須でしょうが、承認されてから誰がどのように供給するかという問題が出てくると思います。
産婦人科医と、研修を受けたそれ以外の診療科の医師に限定するというのが当面の対応だと思いますが、普及が進めば、やはりアクセスの問題が出てくると思います。
欧州などでは、処方せん医薬品の承認から2年後くらいにはスイッチされていますが、日本では制度上短期間でのスイッチは不可能です。
性暴力の被害者や若者の望まない妊娠などによる中絶を、社会がどうとらえ、対策をとっていくかが鍵となりますが、安易な利用とならないよう、性感染症の予防を含めた避妊についての情報提供も必要です。
なお、一部の国で性交後5日間効果があるとされる緊急避妊薬のellaOneが発売されていますが、成分はulipristal acetateで異なり、処方せん医薬品としてのみ使用されています。
英国での薬局における販売状況についての覆面調査の研究です。
Community pharmacists providing emergency contraception give little advice about future contraceptive use:a mystery shopper study
(contraception 2010,82(6).538-542)
http://www.contraceptionjournal.org/article/S0010-7824(10)00325-2/abstract
適切な販売が行われている一方、避妊に関する情報の提供は不十分とのことです。
パブコメの結果が2月23日に公表されています。結果は、下記記事から
TOPICS 2011.02.23 ノルレボ錠が正式承認、パブコメ結果も公表
また、OTCとして販売されている国のデータについては、下記記事で更新しました。
TOPICS 2011.02.22 海外におけるスイッチOTCの状況(Update)