英国議会の超党派による薬物濫用に関する委員会(APPG:All-Party Parliamentary Drugs Misuse Group)は21日、ベンゾジアゼピン系薬剤などの処方せん医薬品やコデインを含有するOTCによる依存についての懸念を記したレポートを公表しています。
DrugScope welcomes report on ‘neglected issue’ of prescription and over-the-counter medication dependency(DrugScope Press Rease 2009.1.21)
http://www.drugscope.org.uk/Media/Press+office/pressreleases/DS-response-APPG-inquiry
http://www.drugscope.org.uk/ourwork/pressoffice/pressreleases/DS-response-APPG-inquiry.htm
An Inquiry into Physical Dependence and Addiction to Prescription and Over-the-Counter Medication
(All-Party Parliamentary Drugs Misuse Group)
http://www.drugscope.org.uk/Resources/Drugscope/Documents/PDF/Appgotcreport.pdf
英国では、コデインは咳止め成分ではなく、アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの鎮痛作用を強化する目的で配合され、腰痛や歯痛などのさまざまな痛み緩和を効能としたOTCが複数販売されていますが、このレポートでは、国内外の文献や報道等を引用して、依存や不正使用といった問題やアセトアミノフェンによる肝障害、イブプロフェンによる潰瘍などのリスクが無視できないとして、次のような勧告を行っています。
- 医師や看護師、医学生は、処方せん薬やOTCによる身体的依存や嗜癖(addicition)による症状への理解を深めるトレーニングを行うべきである
- 医薬品庁(MHRA)と製薬会社は、コデイン含有のOTC薬について、患者向け説明書(PIL)と同様に外箱にも潜在的な依存の可能性があることを記すべきである
- MHRAは、パック・サイズを18までに制限し、薬剤師と相談したうえで買えるようにすべきである
- MHRA、保健省、英国王立薬剤師会などの関連機関は協力して詐欺的なオンライン薬局対策に取り組むべきである。また、薬剤師会が認証しているオンライン薬局についてもきちんと検証を行うべきである
一方、業界団体のPAGB(The Proprietary Association of Great Britain http://www.pagb.co.uk/)は21日、コデイン配合のOTCによる依存のケースは知られておらず、また不正使用はごくわずかにすぎないとして、APPGがまとめた報告はエビデンスが十分でなく、数値を大きく見積もっているとしたステートメントと独自のレポートを発表しています。
PAGB response to the APPG on Drug Misuse inquiry into the misuse of
prescription-only and OTC medicines
(PAGB press release 2009.1.21)
http://www.pagb.co.uk/pressarea/releases/APPGrelease21.1.09.pdf
QUICK FACTS Prepared by PAGB in response to the APPG recommendations
http://www.pagb.co.uk/pressarea/releases/CodeineAPPGquickfacts.pdf
PAGB written response to the APPG inquiry(独自のレポート)
http://www.pagb.co.uk/pressarea/releases/APPGresponse.pdf
英国では、コデインは20mg、ジヒドロコデイン10mgまで(おそらく1回量)OTCに配合可能ですが、PAGBでは用法・用量を守って使えば嗜癖の危険性はないと強調すると共に、「これら製品は薬局のみで入手できるものであり、このことはこれらが不正使用が疑われる場合には販売しないとした厳しいプロトコルに従い、薬剤師により販売されていることを意味する」として、現場での販売方法のあり方に疑問を投げかけています。
今回のレポートについて英国王立薬剤師会は、これらの不正使用への対応を行っているとしながらも、複数の薬局で繰り返し購入することは避けられず、関係当局などと協力して対策を検討したいとしたステートメントを発表しています。
RPSGB RESPONDS TO MPS’ INQUIRY CONCLUSION ON OVER THE COUNTER AND PRESCRIPTION ONLY MEDICINES(2009.1.21)
http://www.rpsgb.org/pdfs/pr090121.pdf
http://www.prnewswire.co.uk/cgi/news/release?id=246855
コデインがOTCとして販売されているのは、日本の他、ベルギー、デンマーク、フランス、アイルランド、オランダ、シンガポール、カナダ、ニュージーランド、豪州などですが、このコデイン含有のOTC鎮痛剤の濫用問題は、豪州でもたびたび報告(上記レポートの引用論文参考)されています。
日本では成分こそ違いますが、鎮痛剤+ジヒドロコデインという組合せは総合感冒薬に数多く存在します。鎮咳剤にはパックサイズの自主規制はありますが、総合感冒剤はそれこそ200錠(66回分)などもあります。
ちょっと頭が痛いので、○○総合感冒薬を常用し、それが依存につながるというケースは果たしてないのでしょうか? また、英国のように依存性の可能性を含めた十分な情報提供や、ジヒドロコデイン含有の総合感冒剤のパックサイズの制限を行う必要はないのでしょうか?
一方、ベンゾジアセピン系の処方のあり方について、急の中断が禁断症状を招く可能性があるとして、高度な不安感について2〜4週間の短期の処方に限られているはずであり、軽度の不安についての使用は適切でないとしたBNFや保健省の指針を守るよう求めています。
参考:
Restrictions urged on painkillers
(BBC NEWS 2009.1.21)
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/7840333.stm
Addiction over the counter: 30,000 hooked on everyday painkillers, say MPs
(MailOnline 2009.1.21)
http://www.dailymail.co.uk/health/article-1125050
/Addiction-counter-30-000-hooked-everyday-painkillers-say-MPs.html
1月26日 10:20更新
2009年01月26日 01:22 投稿
豪州の公的医薬品規制機関であるTGAは4月9日、今年2月に行われた医薬品分類に関する委員会(NDPSC:The National Drugs and Poisons Scheduling Committee)の資料を公表し、codeineを含むOTC鎮痛薬(Nurofen Plus、 Panadeine Plus)について、医薬品分類を現在のSchedule 2(薬局用薬)から、Schedule3(要薬剤師薬)に変更する、1回の販売量を5日分までなどとする勧告が行われたことを明らかにしています。(p21-p41)
NDPSC record of reasons, 55th meeting 17-18 February 2009(TGA)
http://www.tga.health.gov.au/ndpsc/record/rr200902.htm
公表資料ではこれらのOTC有害事象なども報告されており、THE AUSTRALIAN紙によれば、6月に予定されている次の委員会に向けて、今月末にもこの勧告についてパブリックコメントが開始されると伝えています。
Codeine drug use to face checks by pharmacists
(THE AUSTRALIAN 2009。4.9)<a http://www.theaustralian.news.com.au/story/0,25197,25311724-23289,00.html
一方、今回の勧告について、豪州薬剤師会(Pharmaceutical Society of Australia)や業界団体のASMI(The Australian Self-Medication Industry)は、消費者の利便性を損なうなどとしたステートメントを発表しています。
NDPSC CODEINE PROPOSALS PREMATURE
(Pharmaceutical Society of Australia NEWS RELEASE 2009.4.9)http://www.psa.org.au/site.php?id=3901
Caution urged over restrictions on medicines containing codeine
(The Australian Self-Medication Industry 2009.4.9)http://www.asmi.com.au/documents/media-releases/Codeine%20pack%20size%20restriction.pdf
関連資料(豪州の医薬品分類に関する資料です)
INTERIM GUIDELINES FOR THE NATIONAL DRUGS AND POISONS SCHEDULE COMMITTEE
http://www.tga.health.gov.au/ndpsc/ndpscg.pdf
なお今回の勧告では、ジヒドロコデインについては言及されていません。