21日、医療関係者・福祉・介護関係者および学校・保育所・幼稚園関係者などを対象とした地元医師会主催の講演会「新型インフルエンザ対策の問題点」が開催されました。私自身、新型インフルエンザの知識がまだまだ不十分なので、参加してきました。
講師は、 神奈川県警友会けいゆう病院小児科部長の菅谷憲夫先生で、内容は日本医事新報のN0.4409(2008年10月25日)p73-77 に掲載されたものをわかりやすく解説したものです。同様の講演は一般市民向けの講演会や各地医師会の学術講演としても行われているようです。
新型インフルエンザの誤解と対策の問題点(産科医療のこれから・ブログ)
http://obgy.typepad.jp/blog/2008/12/post-cf45.html
新型インフルエンザ対策の誤り(楽天星no1の日記 2009.1.31)
http://plaza.rakuten.co.jp/imagashoji/diary/200901310001
菅谷先生は、「日本の新型インフルエンザ対策は、水際作戦や封じ込めなどの予防対策に力点が置かれているが、パンデミックになれば小児の40〜50%、成人の10〜20%が発症することは間違いない」として、「予防対策もよいが、大きく遅れている爆発的に発生した場合の診療体制づくりが急務」などの、現在の新型インフルエンザ対策への疑問や問題点を提起されました。
以下講演の中で気になった点を紹介します。(聞き違いもあるかもしれませんので、さまざまなソースでご確認下さい)
- 今まで、新型インフルエンザの脅威というと、東南アジアなどで散発する致死率が高いH5N1型のヒトからヒトの感染が想定されていたが、近年の発症数の減少傾向などを考慮すると、H5N1型が新型インフルエンザの第一候補という可能性は低くなってきたというのが、最近の専門家のコンセンサスである。
- 過去の流行の傾向を疫学的に調べると、ヒトの間で猛威をふるうのは、H1型(1918年〜1920年代スペインかぜ、最近のソ連かぜ)、H2型(1957年〜60年代のアジアかぜ)、H3型(1968年〜現在の香港かぜ)の3型だけである。H5N1のヒトへの感染力は低いと考えられ、次に猛威をふるう(新型インフルエンザになりえる)のは、しばらく流行のないH2型ではないかという説もある。であるから、H5N1型が次の新型インフルエンザであるとしたメディアの報道は正確ではない。
- H5N1がヒトへ感染した新型となれば、重症化する可能性は大きいが、もしH2型であれば、高齢者などは免疫があり、また小児もそれほど多くの死亡者数は出ないだろう。猛威をうるうのはむしろ過去のアジアかぜに免疫のない1968年生まれ以降の大人になる可能性がある。
- 現在の日本の対策は、致死率の高いH5N1型を想定した対策に偏る傾向がある。近年訓練の様子が報道されている、防護服やゴーグルを身にまとった「発熱外来」という対策が自治体に求められているが、感染防止策としては必ずしも有用ではない。欧米の新型インフルエンザ対策は、手洗いなどの従来型のインフルエンザと同じであり、「発熱外来」という発想自体もない。
- 強毒型の鳥インフルエンザ(H5N1型)の症状として、サイトカインストームによる多臓器不全による死亡が広く知られているが、実際には肺炎球菌、連鎖球菌、ブドウ球菌などによる二次性細菌性肺炎による死亡例も多い。肺炎球菌ワクチンの接種や入院患者への適切な抗菌剤の投与、人工呼吸器の確保といった対策にも力を入れるべきである。
- 新型インフルエンザ患者が一人でも発生したら、学校の休校の措置をとるとした自治体もあると聞いているが、子どもが家にいれば親は仕事を休まざるを得ない。一般で16%労働力の減少、看護師など女性の従事者が多い医療職に至っては30%の労働力の減少が予想され、これが医療現場の混乱に拍車をかける可能性がある。
つまり、菅谷先生のお話だと、医療関係者は新型インフルエンザを過度に恐れる必要はなく、従来の感染症対策(手洗いは必要だが、N95マスクの着用は必ずしも必要ではない。もちろん通常の診察では、ガウンなどの専用の防護服やゴーグルなどは不要)で十分であり、多くの医療機関(薬局も当然含む)が患者を積極的に受け入れて欲しいとのことでした。
そして、現在も安全性についての議論がありますが、早い段階での抗ウイルス薬による治療開始(H5N1でなければ、従来の治療と同じように、投与すること自体が必ずしも必要ないとの考え方もできますが)や予防投与、重症者(二次性細菌性肺炎の併発患者)への具体的な対応が今求められているようです。
となると、パンデミック時に、患者さんがこっそり家にストックした抗ウイルス薬を服用することも予想されます。この点を菅谷先生に質問したところ、「医者としては、二次性細菌性肺炎の可能性もあるのでまず受診させるべきです」と答えましたが、パンデミック時に備蓄品を含めた抗ウイルス薬をいかに迅速かつ必要なところに的確に供給するかの具体的な検討も必要ではないかと考えます。(もちろん、通常の通院でで処方されている慢性疾患などの医薬品も同様です)
実際、米国ではFDAが抗ウイルス剤の家庭用ストック品の認可の是非(TOPICS 2008.10.28)の検討が行われている他、英国医薬品庁(MHRA)ではパンデミック時に処方せん医薬品の供給をどうするかといった意見募集が行われるなど、パンデミック時における医薬品の供給をどうするのかといったことが検討されています。日本でFAX処方せんでもOKとのガイドラインが出されているようですが、より具体策を早急に考える必要がありそうですね。
Public consultation (MLX 355): Proposals for changes to legislation and working procedures during an influenza pandemic(MHRA 2009.2.5)
新型インフルエンザ対策ガイドライン
(新型インフルエンザ及び鳥インフルエンザに関する関係省庁対策会議 2009年2月17日)
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/guide/090217keikaku.pdf
関連情報:TOPICS
2008.10.28 パンデミック対策に、抗ウイルス薬のスイッチを検討(米国)
未知なる脅威と危機管理戦略
(週間医学界新聞 第2812号 2009年1月5日)
http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02812_03
新型インフルエンザ対策関連情報(厚労省HP)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/index.html
新型インフルエンザの発生に備える
(2009年2月23日掲載 Youtube MHLWchannel)
http://www.youtube.com/watch?v=fh4SB_mcEo8&feature=channel_page
プレパンデミックワクチンは‘YES’か‘NO’か
(日経メディカルオンライン 2008年11月11日、要会員登録)
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/special/pandemic/topics/200811/508503.html
2月23日12:30 13:40リンク追加
2009年02月22日 18:21 投稿
恐れと不安から暴徒がタミフルや抗菌剤を欲しくて 薬局に襲いかかるかもしれないといった風評が OTC営業マンの間に広まってます。今のうちにインフルエンザの免疫を自分に作っておきたいなと、障害児の親御さんと話しました。病院では高濃度のウイルスや肺炎感染菌に曝されそうですし。弱者だからって、隔離された空気清浄された綺麗な空気の部屋で診察を受けられるわけじゃないから。かかりつけ医と電話で話して、薬局が薬を届ける。で、最初のうわさ話。障害児の予防用としてタミフルを自宅に確保しているそうです。既に。ちなみに ワクチン不適応者なので、運命を受け入れる覚悟を決めてます。