厚労省は28日、スイッチOTC化を推進する医療用医薬品の候補として日本薬学会が選定した10成分を公表しました。
医療用医薬品の有効成分のうち一般用医薬品としても利用可能と考えられる候補成分について(お知らせ)
(厚労省2011年4月28日)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001asyw.html
この10成分は、日本薬学会が転用が適当と考えられる候補成分について、OTCとなった場合の有効性や安全性、承認にあたっての条件などをまとめた「医療用医薬品の有効成分の一般用医薬品への転用に係る候補成分検討報告書」で選定された成分で、今後厚労省では7月26日を締め切りに、日本医学会及びその分科会110団体からスイッチが適当かどうかの意見を求め、これを参考に薬事・食品衛生審議会一般用医薬品部会において、OTCへの転用を推進する成分を決定します。
成分名 (医療用製品名) |
販売の条件・販売の意義 (販売時における薬剤師の関与のあり方) |
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想定される効能効果 (対象疾患の要件) |
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コレスチミド(経口) (コレバインミニ83%) |
何らかの脂質異常を有する人口は、潜在患者も入れると4,400万人とも言われ、エビデンスの定まっていない民間療法、サプリメントに頼るケースも少なくない。コレスチミドをはじめとする陰イオン交換樹脂製剤は高コレステロール血症の第一選択薬として長年使用されている。有効性と安全性の情報が集積された製剤であり、食事などの生活習慣の改善に努めてもなお境界領域にある高LDLコレステロール血症が改善されない場合に用いる一般用医薬品としての有用性が期待される。 近年、いわゆる特定保健用食品や栄養機能食品に関する情報(テレビコマーシャルを含む)が増加している。これらの情報には、過剰な誇大宣伝文句が散見される。医学・薬学の常識を有しない一般消費者はこれらの誇大宣伝に惑わされる可能性が高い。それより、作用機序・副作用など多くの情報が明らかにされている一般用医薬品を増加し、薬剤師の適切な指導の下で販売する方が安全面・効果面など優れた制度と言える。平成24年度には6年制を卒業する優秀な薬剤師も増加することになり、信頼性も増すことになろう。 禁忌対応の消費者に対しては販売を原則禁止が必要であり、他剤との併用による薬効減少が考えられることから、薬剤師は薬歴を把握し多剤を服用している消費者には販売しない措置が必要である。また食事や運動などの生活習慣の改善に対する助言、定期的な検診を受けることの必要性について指導する。 症状の把握や継続使用の可否、副作用の早期発見や他剤との併用による薬効変化に対処に関する(販売実践)ガイダンスが必要である。 |
境界領域の高LDL コレステロール血症 | |
アカルボース(経口) (グルコバイ錠 他) |
現在、一般用医薬品に耐糖能異常を改善する効能を持つものは無く、血糖値の高めの人を対象とした特定保健用食品が用いられたり、一部では効能が証明されていないいわゆる健康食品やサプリメントが用いられている。このため、定期健康診断等において耐糖能異常を指摘された人や血糖値に不安を持つ人が、せつな的にこれらの製品を使用し続けることとなり、治療の遅れによる重症化や不適切使用による健康被害の発現などが懸念される。 一般用医薬品として本成分が転用されることにより、限定された対象者に有益なセルフメディケーションの選択肢を提供することが可能となる。 安全性は既にこれまでの臨床で確認されており、単独使用における低血糖のリスクは低く、また、発現頻度の高い放屁、下痢等の副作用も継続服用により軽減する。本剤が一般用医薬品として転用されれば、臨床評価の定まった製品による糖尿病の初期ケアが可能となり、セルフメディケーションによる症状発現ならびに進展の予防はリスクを上回るものと考えられる。同時に、販売には薬剤師に関与させることにより、未治療者や糖尿病予備群の掘り起こしと受診勧奨等が行われ適正な健康管理に関するサポートが可能になるものと期待される。 症状や薬剤の必要性に関する的確な判断ならびに、食事、運動などの生活習慣の指導が必須であり、薬剤師の関与なくして販売してはならない。 症状の把握やセルフメディケーションの除外基準、さらには副作用の早期発見と対処に関する(販売実践)ガイダンスが必要 |
境界領域の食後過血糖の改善
※ インスリン分泌能の比較的保たれている食後過血糖状態(定期的健康診断等において血糖値が境界領域の患者)が対象となる。 |
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オメプラゾール(経口) (オメプラール錠、オメプラール錠 他) |
H2 阻害薬に比べてプロトンポンプ阻害薬はより短期間の使用で自覚症状の軽減等の有用性が期待され、服用者は痛み、不快感の消失で使用を中止するので不適切な長期使用はおこりにくいと考えられる。 また他薬との併用によって薬物相互作用がおこる頻度は、H2 阻害薬よりも低いと判断される。 胃がんを隠ぺいする可能性があり、また消化管出血が疑われる消費者に対しては禁忌であるなど、消費者の状態や現在の併用薬など薬歴を把握することが必要である。 また、服用開始3~4日後に本剤の有効性を評価し、継続服用の可否の判断が必要であることから、薬剤師に関与させることは必須である。 症状の把握や継続使用の可否、副作用の早期発見と対処に関する(販売実践)ガイダンスが必要である。 |
胸やけ、胃痛、胃部不快感等
※包装単位 |
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メペンゾラート臭化物(経口) (トランコロン錠 他) |
メペンゾラートは、下部消化管の運動・収縮の抑制に選択的に作用する抗コリン薬であり、過敏性腸症候群の治療薬として1967 年から現在に至る長期の使用実績がある。 現在、一般用医薬品に含有されている抗コリン薬には、臭化ブチルスコポラミン、ロートエキスなどが存在するが、その効能・効果は「胃痛、腹痛、さしこみ(疝痛、癪)、胃酸過多、胸やけ」であり、下部消化器に選択的な効能効果を有する成分は存在しない。メペンゾラートを一般用医薬品にスイッチすることにより、便通の異常を伴う下部消化管痛に対し、より安全かつ症状に応じたセルフメディケーションの選択が可能となる。 過敏性腸症候群の既往および症状(主訴)の確認および医療用医薬品及び一般用医薬品との相互作用の有無を確認し、受診勧奨、生活(食事)指導、医薬品の使用の選択を判断しなければならないことから薬剤師の関与は必要である。 症状の把握や継続使用の可否、副作用の早期発見と対処に関する(販売実践)ガイダンスが必要である。 |
便通異常(下痢、便秘)を伴う下部消化管の腹痛緩和※包装単位 (投与日数の制限) 10 回分 |
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ポリカルボフィルカルシウム (ポリフル、コロネル 他) |
過敏性腸症候群による突然の便通異常(下痢、便秘)は生活の質を著しく低下させる。症状の発現には、食事や睡眠、心理・社会的ストレス等が誘因になることも知られており、外的要因の影響により便通異常を繰り返す。ポリカルボフィルカルシウムは、医療の現場で第一選択薬として長年使用され、有効性と安全性の確認された製剤であり、診断の確定している事例の症状再発における一般用医薬品としての有用性が期待される。 薬局において薬剤師は、本剤が根治的療法ではないことを念頭に、過敏性腸症候群の増悪因子となりうる偏食、食事量のアンバランス、夜食、睡眠不足、心理社会的ストレス等に対する除去・調整を勧めることで適正な健康管理に関するサポートが可能になるものと期待される。 症状や薬剤の必要性に関する的確な判断ならびに、食事、運動などの生活習慣の指導が必須であり、薬剤師の関与なくして販売してはならない。 過敏性腸症候群の診断には、器質的障害のないことの確認ならびに、他の疾患との鑑別が重要であり、症状の把握、専門医への紹介等、適切な対応のための(販売実践)ガイダンスが必要である。 |
医師により、過敏性腸症候群と診断された便通異常(下痢、便秘)の再発
※包装単位 |
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プロピベリン塩酸塩(経口) (バップフォー錠 他) |
本剤に類似する医薬品として、2006 年に頻尿治療薬フラボキサート塩酸塩(ブラダロン)が一般用医薬品に転用され、すでにレディガードコーワとして販売に至っているが、本剤はフラボキサート塩酸塩に比べて、作用持続が長く、1日1回の投与で十分な効果が得られるという特徴があり、長時間の外出時における頻尿や切迫性尿失禁を抑制するという観点からは、購入者にとって利便性が高いのではないかと考えられる。 また、抗コリン作用により前立腺肥大に伴う排尿障害を悪化させるおそれがあるが、この問題は、購入者を女性に限定することにより回避できる。 状態の把握、漫然服用の防止、起こりうる重大な副作用の早期発見と対処に関する情報提供のために、販売時には薬剤師の関与が必要である。 症状の把握や継続使用の可否、副作用の早期発見と対処に関する(販売実践)ガイダンスが必要である。 |
女性における頻尿(排尿の回数が多い)、残尿感
※包装単位 |
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セルニチンポーレンエキス(経口) (セルニルトン錠) |
膀胱機能障害に基づく排尿異常の症状は日中の頻尿、就寝中の排尿、残尿感、尿失禁などがあり、生活の質(QOL)を著しく低下させる。排尿障害は加齢的な変化として現れ、特に65 歳以上の男性では有訴者率上位5 症状の中に頻尿間が入る。セルニチンポーレンエキスは植物由来成分を有効成分とし加齢による男性の排尿障害に対し効果が期待される。 セルニチンポーレンエキス(セルニルトン)は配合成分が植物由来であることから、現存する漢方成分の排尿障害改善薬に類似する。そして作用機序が抗コリン作用に由来しないことから、前立腺の肥大している可能性のある高齢男性にも使用でき、一般用医薬品へのスイッチ化の合理性が大きい。 前立腺肥大に起因する症状を緩和させる目的で使用するものであるが、長期に亘って漫然と使用される可能性を防止するため、継続使用の適否について薬剤師が相談応需することが必要である。前立腺肥大症の病態生理や病状に関する情報を得る。必要に応じ、International Prostatic Symptom Score(IPSS)を用いて病状を把握できるようにしておく。 状態の把握や継続使用の可否、副作用の早期発見と対処に関するガイダンスが必要である。 |
男性の加齢に伴う軽度の次の諸症状(排尿困難、頻尿、残尿及び残尿感、尿線細小)
※包装単位 |
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ピランテルパモ酸塩(経口) (コンバントリン) |
ピランテルパモ酸塩は、蟯虫駆除薬として長年の使用実績があり、有効性ならびに安全性の評価がされている。蟯虫駆除においては、保育園、小学校等で定期的な蟯虫検査において陽性となり感染を指摘された者、ならびに、その家族が集団で服用する必要がある。 一般用医薬品とすることで、これらの対象者の服用における利便性の向上が期待できる。現在はいったん医師の診察を受けて処方せんを発行してもらうことが必要なため患者やその家族には利便性の面で課題がある。 再分類されれば、利便性が増すと同時に、薬剤師による直接販売により安全性も担保できる。事実、平成17年以前は処方箋無しでも特段の支障は見当たらなかった。平成24年度には6年制を卒業する優秀な薬剤師も増加することになり、消費者に対する薬剤師の信頼性も増すと思われる。 |
蟯虫の駆除 | |
ヒアルロン酸ナトリウム (ヒアレインミニ) |
コンタクトレンズの使用や、パソコン、ゲームなどモニターを見る機会がきわめて多い現代社会では、涙の分泌量が減ったり、量は十分でも涙の組成が変化したりすることによって、目の表面を潤す力が低下した状態である目の乾きの症状を持つ人が増えている。 涙液を安定化させることで目の乾きを防ぐ効果のあるヒアルロン酸ナトリウム製剤が、一般用医薬品としての新たな選択肢の一つとして加わることは、日々多忙でかつ酷使する目のケアを滞りがちな一般国民のセルフメディケーションの一助として、利に叶うものであり、その有用性も高いのではないかと考えられる。 また、開封後の品質保全のために、通常の点眼薬に含有される防腐剤(ベンザルコニウム)によるアレルギー等を防止する観点からは、防腐剤フリーの1 回量包装である製剤(ヒアレインミニ)を、一般用医薬品に転用する意義は大きい。 重篤な他の疾患との区別をするためにも、薬剤師の関与が必要。 |
目の乾き、目の疲れなどの症状の改善。コンタクトレンズを装用している時の不快感の改善
※包装単位 |
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メナテトレノン (経口) (グラケーカプセル15mg) |
健康診断における骨密度測定が普及するに従い、一般国民の骨粗鬆症に対する認識は高まっている。軽度な腰痛程度では積極的に医療機関を受診する行動はとらないものの、高齢や閉経による骨量減尐は将来の骨粗鬆症や骨折のリスクを高める。他方で、予防を目的に消費者の自己判断によるサプリメント摂取機会は高まっており、本来治療的介入を必要とする骨粗鬆症患者の受診を遅らせることが懸念される。 このような現在の状況に対して、本剤を一般用医薬品に転用することにより、骨粗鬆症予備群が日常的に薬剤師に相談できる機会を提供し、骨折危険性を有する者を早期に発見して受診勧奨を行うことができる。これにより、低リスク者においては一般用医薬品による管理機会を提供するとともに、高リスク者への早期の受診勧奨を実施することで、骨粗鬆症に起因する骨折の予防を図ることができる。 高齢者における骨量低下には大きな個人差があるため、本剤を必要とするか否かについては、薬剤師に個別に対応させる必要がある。また、薬剤師による質問や相談対応により、骨粗鬆症が進展し骨折の高リスク者であると思われる場合は、早期の受診勧奨を実施させる必要がある。さらに、ワルファリン使用に関して毎回直接に確認し、もしワルファリン治療を受けている場合は販売してはならない。本剤使用中に、発疹、発赤、掻痒の訴えがあった場合には服用を中止するよう指導する。 |
閉経後女性および高齢者における骨量低下の抑制
※包装単位 |
こういったリストが公表されるのは2009年4月(TOPICS 2009.04.28)、2010年6月(TOPICS 2010.06.08)に続き3回目ですが、コレスチミド、アカルボース、オメプラゾール、ピランテルパモ酸塩、ヒアルロン酸ナトリウムについては、これまでに厚生労働省医薬食品局審査管理課長宛に医学関係学会から寄せられた転用についての意見(TOPICS 2011.04.11)に対して、対策(反論)を示したうえで、改めて評価を行っています。
今回の報告書でも、同様な作用が期待されている特定保健用食品が大手を振って販売されていることを指摘し、必要な医薬品をスイッチさせて、未治療の予備群の掘り起こし並びに医師への受診の橋渡し役を地域薬局が果たすべきとした提言には大いに同意します。また、6年制で学んだ薬剤師を活用するためにもスイッチが行われるべきです。
今回も医学会から反発の声があがることは間違い有りませんが、私は先日公表されたように医学会などから示された意見については、速やかに公表してもらいたいと思います。(できれば薬事・食品衛生審議会一般用医薬品部会で審議にかける前に)
資料:医療用医薬品の有効成分の一般用医薬品への転用に係る候補成分検討報告書
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001asyw-img/2r9852000001at0d.pdf
関連情報:TOPICS
2011.04.11 スイッチ成分として不適切だとするその理由は?
2010.06.08 厚労省、スイッチ候補19成分を公表
2009.04.28 厚労省、スイッチ候補18成分を公表
2011年04月28日 16:27 投稿