抗コリン作用薬の使用は認知知機能の低下と死亡率の増加を招くとした論文が J Am Geriatr Soc. 誌に掲載され、英国などで話題となっています。
Anticholinergic Medication Use and Cognitive Impairment in the Older Population:
The Medical Research Council Cognitive Function and Ageing Study
(J Am Geriatr Soc. published online 24 JUN 2011)
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1532-5415.2011.03491.x/abstract
以前から抗コリン作用薬の使用は認知機能の低下を招くとした指摘がありますが、今回の研究では累積・重複の使用によりどのような影響があるかを調べています。
この研究は13,400人の65歳以上の高齢者を対象に行った研究で、Mini-Mental State Examination (MMSE)という認知症のスクリーニング検査で2年後のスコアを抗コリン薬の使用の有無で比較したものです。
この研究における抗コリン作用薬は私たちが認識している分類ではなく、3ランクに分けられた”Drugs on the Anticholinergic Burden (ACB) scale”という方法でリスク区分され、今回の研究はScaleの合計点数でリスク比を調べているのが特徴で、降圧剤、緑内障、OTC配合成分など普段からよく使用されている成分がこの表に含まれることから、英国ではセンショーナルに伝えられています。
Drugs on the Anticholinergic Burden (ACB) scale
http://www.uea.ac.uk/mac/comm/media/
press/2011/June/Anticholinergics+study+drug+list
ACB Score 1 (mild) | ACB Score 2 (moderate) | ACB Score 3 (severe) |
---|---|---|
Alimemazine Alprazolam Alverine Atenolol Beclometasone dipropionate Bupropion hydrochloride Captopril Chlorthalidone Cimetidine hydrochloride Clorazepate Codeine Colchicine Dextropropoxyphene Diazepam Digoxin Dipyridamole Disopyramide phosphate Fentanyl FluvoxaminFurosemidee Haloperidol Hydralazine Hydrocortisone Isosorbide preparations Loperamide Metoprolol Morphine Nifedipine Prednisone/Prednisolone Quinidine Ranitidine Theophylline Timolol maleate Trazodone Triamterene Warfarin |
Amantadine Belladonna alkaloids Carbamazepine Cyclobenzaprine Cyproheptadine Loxapine Methotrimeprazine Molindone Oxcarbazepine Pethidine hydrochloride Pimozide |
Amitriptyline Amoxapine Atropine Benztropine Chlorpheniramine Chlorpromazine Clemastine Clozapine Darifenacin Desipramine Dicyclomine Diphenhydramine Doxepin Flavoxate Hydroxyzine Hyoscyamine Imipramine Meclizine Nortriptyline Orphenadrine Oxybutynin Paroxetine Perphenazine Procyclidine Promazine Promethazine Propentheline Pyrilamine Scopolamine Thioridazine (withdrawn) Tolterodine Trifluoperazine Trihexyphenidyl Trimipramine |
研究者は、
- 対象者の48%が上記薬剤の少なくとも1つを使用、また対象の4%では最も高いカテゴリーのものを使用していた。
- ACB Score が4以上の人は2年間に20%死亡、非使用群の死亡率7%より大きかった。
- 全体の死亡率の増加は26%だった。
- ACB Score が5以上の人はMMSEのスコアが4%低くなった。
- 増加のリスクは抗コリン薬の累積使用、ACB Score の強さと関連付けられる。
としています。
ACB Score 3 にはクロルフェニラミンなどの高ヒスタミン剤やパロキセチンなどが入っており、抗コリン作用というのを研究者らは広く考えています。
研究者らは、OTCとしても使用されているこれら成分のレビューを行うことや、これら抗コリン作用のある薬の多剤投与を避けるよう呼びかけています。
アブストラクトとプレスリリースのみでは、どのような方法で3分類としたのか、どのくらいの期間服用していたなどわからない点もあり、研究のエビデンスの髙さは何ともいえませんが、高齢者への抗コリン作用のある薬剤の処方は必要最小限とする必要があることだけは確かのようです。
関連情報:TOPICS 2006.02.02 抗コリン作用薬と高齢者の軽度認知障害(旧サイト)
参考:
Drug side effect linked with increased health risks for over 65s
(Eurek alert! 2011.6.23)
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2011-06/uoea-dse062311.php
Warning over combining common medicines for elderly
(BBC News 2011.06.24)
http://www.bbc.co.uk/news/health-13880553
2011年06月25日 00:21 投稿
NHS Choices で解説記事が出ています。調査結果が抗コリン作用薬自体が死亡リスクを増したということを必ずしも証明するというわけではないとして、各紙のセンセンショーナルな報道を批判しています。
Study looks at medication risk for elderly
(NHS Choices 2011.6.24)
http://www.nhs.uk/news/2011/06June/Pages/study-on-risk-combining-common-drugs.aspx
アブストラクト見てもわかるのですが、データは1991-3年と古いこと、実際に服用したかどうかまでは検証されていない、MMSEのスコアだけではアルツハイマとは関連付けられないなどと、この研究の問題点を指摘しています。