新型インフルエンザの学校での集団感染対策は各国で課題になっていますが，Eurosurveillance の最新号に，感染児童（生徒）が確認されたことにより英国内の小・中学校で実施されたタミフルの予防投与において，発現した有害事象の状況が報告されています。
Oseltamivir adherence and side effects among children in three London schools affected by influenza A(H1N1)v, May 2009 – an internet-based cross-sectional survey
（Eurosurveillance, Volume 14, Issue 30, 30 July 2009）
http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=19287
この調査は，クラスメートの感染に伴ってタミフルの予防投与が行われたロンドン市内の小学校1校の児童，中学校2校の生徒256人（小学生122人，中学生134人）を対象に行われた，両親・保護者へのインターネット調査で，103人（小学生43人，中学生60人から回答が得られています。
この103人中95人が予防目的での使用と推定され，うち85人（小学生31人，中学生54人）はタミフルを実際に服用（2/3が10日間服用）しています。以下は，この85人が訴えた自覚症状です。
| 合計 | 小学生 | 中学生 | |
|---|---|---|---|
| 何らかの有害事象 | 45人（53％） | 17人（55％） | 28人（52％） |
| 何らかの消化器症状 | 34人（40％） | 14人（45％） | 20人（37％） |
| 吐き気 | 24人（28％） | 9人（29％） | 15人（28％） |
| 胃痛・胃けいれん | 17人（20％） | 5人（16％） | 12人（22％） |
| 嘔吐 | 6人（7％） | 4人（13％） | 2人（4％） |
| 下痢 | 4人（5％） | - | 4人（7％） |
| 何らかの精神神経系症状 | 15人（18％） | 4人（13％） | 11人（20％） |
| 睡眠障害 | 10人（12％） | 2人（6％） | 8人（15％） |
| 悪夢 | 4人（5％） | 2人（6％） | 2人（4％） |
| 集中力の低下 | 2人（2％） | 1人（3％） | 1人（2％） |
| 奇妙な行動 | 2人（2％） | - | 2人（4％） |
| ぼーっとする，気分が落ち着かない | 1人（1％） | - | 1人（2％） |
| 発熱 | 5人（6％） | - | 5人（9％） |
| 皮膚の発疹 | 2人（2％） | - | 2人（4％） |
| その他の症状 | 13人（15％） | 3人（10％） | 10人（19％） |
上表のとおり，タミフルの予防投与を受けた85人中45人が何らかの症状を訴え，吐き気や胃痛などの消化器症状が多くを占めた他，小学生よりも中学生で精神神経系の症状を訴える生徒が多くなっています。（サンプル数は少なく，また回答をしていない人を含めると比率はもう少し低くなるとは思いますが，興味深いところです）
こういった症状の発現から，親・保護者からはタミフルの予防投与の有用性に対して懐疑的な意見が多く寄せられたほか，起こりうる副作用についての十分な情報が必要であるなどの意見が寄せられたそうです。
一方，Eurosurveillanceには，もう一つの調査結果も発表されています。この調査は，南西イングランドの中学校で266人に行われた予防投与での調査結果です。（246人が回答。回答は生徒が直接行う）
Compliance and side effects of prophylactic oseltamivir treatment in a school in South West England
（Eurosurveillance, Volume 14, Issue 30, 30 July 2009）
http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=19285
調査結果によれば，246人中190人（77％）が10日間きちんと服用したと答える一方，体の調子が悪くなったと感じる（24人），飲み忘れ（22人）などの理由により56人が10日間きちんと服用しなかったそうです。
また，気分が悪くなる（33.2％），頭痛がする（24.3％），胃が痛む（21.1％），だるい（17.0％）など，126人（50.8％）が体の不調を感じたそうです。，
調査方法やサンプル数が少ないといった問題はありますが，こどもへのタミフルの予防投与は，有害事象の発現が少なくないことを示唆したものとなっています。日本でも同様の調査が必要かもしれませんね。
そして，特に高学年（中高校生）への投与は，有害事象の発現の可能性を伝えるなど，十分留意することが必要のようです。もっとも日本では10代には原則投与禁止ですが。
参考：’Swine flu drug has side-effects’（AP 2009.07.31）
http://www.google.com/hostednews/ukpress/article/ALeqM5jckFPlEPR_4W1ShihbWDPBzqrPxw
2009年07月31日 18:16 投稿
NHS Choice に解説記事が掲載されています。(各紙へのリンクもあります)
Tamiflu side effects in children（NHS Choice 2009.7.31）
http://www.nhs.uk/news/2009/07July/Pages/Tamiflusideeffects.aspx
CNNも記事を配信しています。
Study: Tamiflu causes nausea and nightmares in children
（CNN 2009.7.31）
http://www.cnn.com/2009/HEALTH/07/31/tamiflu.side.effects/
日本語版8月2日
http://www.cnn.co.jp/science/CNN200908020018.html