ノルレボ錠、認知の課題は価格とアクセス+啓蒙(Update)

 14日のアポネットR研究会では、緊急避妊薬「ノルレボ錠」について学びました。当日は、女性ホルモンの話や低用量経口避妊薬の話にも及び、この分野への正しい知識の習得の必要性について痛感させられました。

 緊急避妊薬はWHOの必須医薬品であり、また多くの国でOTC医薬品としても販売されています。また、その有用性や安全性については多くのエビデンスがあります。

 承認に関する資料やWEBでも入手できる報告や論文などが充実しており、これを参考にするだけでもも、かなり理解を深めることができます。(ということで、学習メモは省略)

以下に、理解を深めるうえで有用な資料をまとめてみました。

資料名 概要
添付文書・インタビューフォーム・患者向医薬品ガイド(PMDA) PMDA掲載の基本的情報
(リンク切れする場合有)
「審査報告書」及び「審議結果報告書」
(PMDA 641KB)
PMDA掲載の基本的情報
申請資料概要(PMDA) PMDA掲載の基本的情報
再審査報告書(2016年06月24日)
(2017.01.25追記)
PMDA掲載の基本的情報
パブリックコメント結果(e-GOV) 承認審議に先立って行われたパブリックコメントの結果(→TOPICS 2011.02.23
Levonorgestrel for emergency contraception
(WHO Fact sheet 2005)
WHOの緊急避妊薬に対する見解Emergency contraception(WHO)に関する情報⇒リンク
Safety of levonorgestrel-alone emergency contraceptive pills
(WHO Fact sheet 2010)
Emergency contraception: dispelling the myths and misperceptions
(Bulletin of the World Health Organization 2010;88:243-243)
緊急避妊薬の国際的認知度について紹介。メディアの誤った報道に対しても注文。
Emergency contraception(Wikipedia) Wikipedia による解説記事
Emergency contraceptive availability by country(Wikipedia) Wikipedia がまとめた各国のアクセス(承認)状況
緊急避妊法の適正使用に関する指針
(日本産婦人科学会2011年2月)
緊急避妊薬を含む緊急避妊の適正な実施についての指針。
荒木重雄:これからの生殖医療における緊急避妊ピルの位置付け-何が問題なのか-
(国際医療技術研究所公開医学情報)
第61回 日本産科婦人科学会学術講演会(2009年4月3日)のまとめ
荒木重雄:緊急避妊ピルはわが国で受け入れられるのか
(国際医療技術研究所公開医学情報)
第49回 日本母性衛生学会ランチョンセミナー(2008年11月6日)のまとめ
梅澤彩:緊急避妊薬の承認とその一般用医薬品化に関する議論(1)
(国際公共政策研究  2004, 8(1), 191-205)
緊急避妊薬の歴史的変遷、各国の状況、OTC医薬品化にするための課題や提言など、示唆に富む内容。
梅澤彩:緊急避妊薬の承認とその一般用医薬品化に関する議論(2)・完
(国際公共政策研究 2004, 8(2), 191-205)
北村邦夫:緊急避妊法
(日産婦誌59巻9号)
ヤツベ法とレボノルゲストレルとの違いをわかりやすく説明
性犯罪被害者への支援に関連して
(日本産婦人科医会 記者懇談会資料 2011.06.08)(リンク切れ)
性犯罪者支援という側面からの発表資料。緊急避妊外来の概要も言及。
村上真弓:モーニングアフター・ピルのコマーシャル
(ジェトロ・海外研究員レポート 2009.10)
インドにおける避妊関連商品のコマーシャル事情
緊急避妊薬─その現状と課題 緊急避妊薬─その現状と課題 緊急避妊薬─その現状と課題
(新しい薬学をめざして 35, 108-110 (2006))
日本の薬剤師会や薬剤師が、望まない妊娠を緊急避難的に避けるこの医薬品のことに無関心であってならない

 講演を受けての感想ですが、次のようなものがあります。

1.入手価格が高すぎる

 ノルレボ錠は性被害を除き自費扱いですが、報道にある1回10,000円というのはあくまでも薬代だけで、これに受診時の問診検査等を加えると最低でも15,000円、中には25,000円とか30,000円という場合もあります。このため、値段を聞いてノルレボの使用を断念するケースもあるとのことです。

 ちなみに海外ではどうかというと、比較にはなりませんが、OTCとして薬局で入手した場合は次のようになっています。(医師の処方の下で入手した場合は不明の場合もあるが、未成年(16.7歳未満)の場合は無料などの国もある)

OTCでの
実勢価格
日本円換算
(2011.9.17レート)
備考
米国 35~60ドル 約2,700~4,600円 17歳以上
英国 25ポンド 約3,000円 16歳以上
豪州 25~45豪州ドル 約2,000~3,600円
カナダ 30カナダドル 約2,350円
NZ 35NZドル 約2,200円
フランス 4~10ユーロ 約420~1,050円 公定価格は7.58ユーロ(償還率65%)
アイルランド 45ユーロ 約4,800円
スウェーデン 159.5クローネ 約1,850円

 下記などを参考(公的なところが費用をきちんと示している)

How much do emergency contraceptive pills cost?
(Emergency Contraceptions)
http://ec.princeton.edu/questions/eccost.html

Emergency contraception – your guide
(The Family Planning Association UK)
http://www.fpa.org.uk/helpandadvice/contraception/emergencycontraception

“Emergency Contraception ”
(Family Planning Queensland 豪州)
http://www.fpq.com.au/publications/fsBrochures/Fs_Emergency.php

Emergency contraception (Young and Healthy カナダ)
http://www.youngandhealthy.ca/caah/Informations/Contraception
/t428c432s567x413/Emergency+Contraception.aspx

(2014.11.13追記)
欧州各国の状況です

Country-by-Country Information
(European Consortium for Emergency Contraception)
http://www.ec-ec.org/emergency-contraception-in-europe/country-by-country-information-2/

上記紹介記事

欧州諸国の緊急避妊薬事情
(すぐに必要な時がある。緊急避妊薬ノルレボを市販薬に! 2014.11.08)
http://ec-otc.blogspot.jp/2014/11/blog-post_8.html

 ノルレボ錠の価格の高さへの疑問は現場では少なくなく、利用者の経済事情などを考慮し、施設によっては従来までのヤツベ法(適応外の使用方法)を利用したり、レボノルゲストレル単剤を海外から輸入して使用しているケースもあるとのことです。(もちろんこれらは医師の責任の下で使用。仮にトラブルがあっても医薬品副作用基金からのサポートは受けられない)

 今回の価格設定については、「安易に利用させない」ために妥当との意見もあるようですが、ノルレボ錠による緊急避妊の認知(本当は普及という言葉を使いたい)を高めるには、やはり入手価格を国際的な水準にし、レボノルゲストレル単剤による対応の一般化をすすめていく必要性を感じました。

2.アクセスの問題

 ノルレボ錠が承認されたことで、一部の方々にはいざというときのための期待は大きいと思います。

 しかし、前述の価格の問題に加え、深夜や土曜・休日など、対応してくれる医療機関がどのくらいあるかです。

 ノルレボ錠を正式に承認した以上、公的な機関(私は、母子保健などを担当する行政でもよいと思う)などがアクセスに関する情報を発信することは必要だと思います。

 また時間外(休日・夜間)については、医療圏ごとに、時間外ならこの医療機関で対応が可能という体制もとる必要があるのではないでしょうか。(地域の基幹病院の救急外来で、緊急避妊を目的に来院した場合、現状では必ずしも対応しきれないケースもある。事故とか病気の人が当然優先されるので、初めから採用しないとする施設も存在する)

 現時点では、産婦人科医や講習を受けた施設のみに供給を限定するという仕組みもないとのこと。アクセスの悪さを逆手にとって、十分な理解がないままに積極的に処方を行う施設が出てこないかも気がかりです。(第二のリタリンになったら大変

3.緊急避妊と避妊についての啓蒙(啓発)

 日本産婦人科学会では、ガイドライン(→リンク)で3週間後に再受診をしてもらうなどして、確実な経口避妊薬の利用につなげることを推奨しているようですが、実際にはうまくいっていないようです。

 また、ガイドラインなどで適正使用を徹底が求められていますが、これを理解してもらうための医療職・利用者双方への情報の提供も必要です。

 そのためには、日本ではまだまだ一般的でない避妊や緊急避妊についての啓蒙(啓発)をもっとオープンに行うべきだ思います。(厚労省HPには避妊に関するページがない)

 性感染症予防の情報とセットにリーフレットやパンフレットを作り、若者が立ち寄るようなところに置く(ドラッグストアなども有用)などの取組も必要かと思います。

 緊急避妊薬は一部の施設では院外処方も行われているとのことです。私たちは先入観をもたず、緊急避妊に関する正しい知識習得の必要性を痛感させられます。

関連情報:TOPICS
  2011.02.23 緊急避妊薬・ノルレボ錠が正式承認、パブコメ結果も公表
  2011.02.22 海外におけるスイッチOTCの状況(Update)
  2011.04.03 薬局で緊急避妊薬を無料提供(英ウェールズ)
  2010.05.26 若者の緊急避妊薬へのアクセスを容易にすべき(英国)
  2008.05.16 緊急避妊薬の分類が変更へ(カナダ)
  2008.04.23 緊急避妊薬は薬局で簡単に購入できるようにすべき(カナダ)
  2006.08.25 FDAが緊急避妊薬のOTC化を条件付で承認
  2005.11.03 OTCとして供給される緊急避妊薬(英国)
  

2014.11.13 追記 2017.01.25更新


2011年09月17日 13:53 投稿

コメントが2つあります

  1. アポネット 小嶋

    北村邦夫氏が、産婦人科の約3000施設に問い合わせて、処方可能な施設が検索できるサイトを立ち上げたそうです。((地元は1施設しかなかった)

    緊急避妊薬処方施設検索
     http://www.jfpa-clinic.org/search/ec-search.php

    Dr.北村の「性」の診察室ブログ
     http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=54992

  2. アポネット 小嶋

    発売開始1年で、約5万の処方があったそうです。。

    緊急避妊薬処方5万件 承認から1年 徐々に普及
    (朝日新聞 2012.05.24)
    http://www.asahi.com/national/update/0524/TKY201205230935.html