第 3 章

選択の起点…人間だけの未来志向





 前のページの図でも、選択の重要性を示しましたが、人間だけが「明日の生き方」を模索、そして選択する動物だからです。その原点は上図のように、潜在意識の死の自覚と恐怖感情であり、まず(1)身の安全、(2)生活の安定、そして(3)心の安らぎ→安心、この3Aを追っての悪戦苦闘、これが人生というものです。
この未来志向すなわち未来心は思惑→模索であり、(A)想像、(B)空想、(C)幻想の三つに分けられます。
 想像とは、どうしたら暖衣、飽食で安全に生きられるか、そのイメージを頭の中に思い描くこと→これは政治・経済が狙う物的充足願望です。
 空想とは、もっと確実に、楽しく、力強く生きるには、どういう工夫を自分がすべきか、そのビジョンの創出…科学技術、文芸などの知的創造です。
 しかし冷酷な死は必ず来る→この有限で、淋しく、はかない一生…死哀を思うとき、無限で絶対的な心の安らぎと、安住の地を与えてくれる神仏や天国という−誰も実存の証明のしようもない−ユートピアを幻想する→これが神話、信仰、宗教の出発点で、生界を死界にまで延長しようとして建てた全国8万の神社、7万の仏閣や立派な教会は、そのユートピアの幻想的模形なのです。因果応報・勧善懲悪のために、地獄、極楽の存在を言いだしたのは古代中国の墨子でした。
 こういう未来心の原点は、生への物凄い執着心が呼び起こす好奇心=詮索する心であり、分析すれば探求心から夢見る心まで…となります。
 動物は絶対に冒険はしませんが、人間だけが命がけでする…。その心は→明治44年、南極探検に成功したアムンゼン(1871〜1928)の、出発に当たっての隊員募集広告に表れています。「生死の保証なし、金儲けにはならず。しかし前人未到の好奇心の満足は絶大。成功の暁には名誉を得べし。」と…。また人間だけが風光明媚な所へ観光に行き、家には美しい風景画を飾る…その心は→アップルトンの環境心理学の本には、「こういう所に住めば、長生きが出来る」という深層心理から…とあります。
 さて、こうした好奇心を刺激する要素は、図の左下の危機感から異性まで…。ここに重大な岐路→選択があり、自利=エゴに向ければ一切の悪業に、利他に向ければ人類文化の向上となる…。善といい、悪といい、共に死を知り恐れる弱者人間の叫びです。



第4章 運命と選択

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