日本人女性から見た日韓の経口避妊薬のアクセスの違いへの戸惑い(Update)

阪大と韓国延世大の共同研究

処方箋なしで経口避妊薬が入手できる韓国ですが、韓国に長期居住した日本人に日本との違いに感じたことをインタビューでまとめたもの

日本の課題が浮き彫りになっていて興味深い(Xに2024.10.18に投稿したものを再構成しました)

【Asian Bioeth Rev. 2024 Apr 11;16(4):711-737.】
Transnational Health and Self-care Experiences of Japanese Women who have taken Oral Contraceptives in South Korea, including Over-the-counter Access: Insights from Semi-structured Interviews
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11465023/

日本ではあらゆる種類の避妊薬に処方箋が必要だが、韓国ではすでに1968年から市販薬として認められている。

現在、第ニ世代と第三世代の避妊薬は韓国の薬局で容易に入手できるが、第四世代の避妊薬については、クリニックでの処方箋が必要になっている。

この研究は、韓国に少なくとも6か月間居住し、市販薬(OTC)で入手したものも含め経口避妊薬を使用したことのある11人の20~40代の日本人女性について、経口避妊薬の日刊でのアクセスの違いへの戸惑いや、健康やセルフケアの経験について下記の3つのカテゴリーと8つのテーマについて尋ねた。

韓国での市販薬としてのアクセスを含む、薬の入手と服用に関する経験と感じたこと

  • OTCピルへの便利なアクセスは日々の健康とセルフケアを支えているか
  • 友人、親戚、広告、インターネットを通じたピル使用の促進状況について
  • クリニック、薬局、インターネットそれぞれを通じて、ピルを入手する際の課題について

日本で実際にピルを使用している人のピルに対する個人的考えや社会の認識、日本におけるピルへのアクセスの違いについて

  • 費用、距離、心理的、社会的障壁などの敷居の高さが日本におけるピルへのアクセスを阻んでいないか
  • 治療目的か、避妊目的といった「コトバあそび感覚」で判断されている健康保険適用の判断について
  • 日本におけるピルに対する社会的認識と中絶問題との関連性について

国境を越えた健康とセルフケアの経験をした立場からのピルへのアクセス向上ために必要なこと

  • 日本人女性と「グローバル」という視点での韓国におけるピル使用の「オープン」な社会イメージについて
  • 両国の違いを経験した立場から、多様なアクセスと選択と権利を主張する意義について

インタビューの個別の意見は論文で是非確認してもらいたいが、全体として日本と比較した様々な不満や要望が列挙されていた。

以下インタビューから次のような点が示されている

現地の状況における市販の入手方法の利便性を強調し、手頃な価格と、どの薬局からでも錠剤をすぐに入手できる手軽さを指摘

避妊薬を日常生活に取り入れている多くの参加者にとって、これらの薬は「風邪薬」や「ビタミンサプリメント」などの一般的な医薬品と非常に馴染みがあり、類似していると認識されていた

地元の医療提供者とのコミュニケーションに困難を経験したが、現地の言語に堪能な友人に助けを求めたり、翻訳アプリケーションを積極的に利用したりすることでこれらの課題を克服

日本では処方箋を通じて避妊薬が常に入手できることが、避妊薬の患者・使用者中心のモデルにそぐわないと発言した人もいました。彼らは最近導入された遠隔医療サービスを前向きな進展と認めつつも、このアクセス性の向上が避妊薬を使用する個人に本当に利益をもたらすのか疑問視

参加者は帰国後、日本では医師の処方が必要なことからピルを継続服用するために、2つの明確な優先順位を示している。

1つ目の希望は、まずクリニックを受診し、保険診療を通じて医療保険の適用になるかどうかの判断をしてもらい、処方箋に基づくピルを入手することであった。

2番目の希望は、最初に処方されたピルで問題が生じないことを条件に、2周期目からは薬局でOTCとして避妊薬を入手することを可能にすることであった。

しかし、服薬が2周期目以降に進んだ人でも、不安を抱いたり、健康カウンセリングの必要性を認める参加者もいた。

「支援を必要としない人はどこの薬局でもOTC避妊薬を入手できるようにすべき」であると考える一方で、「このようなサポートを必要とする人は参加者は、クリニックで処方箋に基づいて避妊薬を入手すべきである」として、参加者らはこのアプローチが理想的なものだと考えた。

同時に、薬局そして薬剤師に対しては、調剤だけにとどまらず、効果的な服薬指導を行うべきとして、薬剤師としての職能の発揮を期待をしていた。

参加者からは、

私としては、韓国のように薬局で買えれば一番いいのですが、『早く下さい』と言って出されるだけではダメなんです。

韓国で一度だけでしたが、『服用は初めてですか?』とか『服用して、何か症状はありましたか?』とか聞かれたことがありました。

薬局でも買えるということは、そういうやりとりをすることで、お互いのためになると思います。

といった意見もあった。

また、参加者たちからは、避妊薬を入手するために、現地の薬局で薬をまとめて購入したり、現地の家族や知人を通じて海外発送を手配するなど、国境を越えた努力を続けていることも明らかになった。

このことは、避妊薬を入手するために国境を越えた代替策の必要性を示唆している。

これらの代替策は、処方箋に基づくアクセスが再び制限された場合のシナリオを想定し、参加者の選択と実際の戦略に基づいて次の6つのタイプに分類することができた。

  1. 現地の薬局でまとめ買いする
  2. 国際郵便を利用して、現地の家族や知人に薬を送ってもらったり、帰国時に持参したりする
  3. ECサイトの利用
  4. 医療機関を受診して処方してもらう
  5. 服用を完全に止める
  6. 電子商取引、市販薬、処方薬、中止を組み合わせたハイブリッドな方法で継続的に薬を服用する

このうち、参加者が使用期限に考慮したまとめ買いについては、避妊ピルとしての特性であるジャスト・イン・タイム購入ができるというコンセプトと似ている状況にあることが考慮されるべきであると考える。

一方で、オンラインプラットフォームを通じて経口避妊薬を入手した経験のある参加者は、利便性と手頃な価格に対する肯定的な感情と、配送の遅延や偽造薬の提供に対する懸念も抱いていた。

また日本に帰国後、海外で入手したOTCピルを使い切った後に経口避妊薬を新たに医療機関で処方してもらう際に、医師の攻撃的な態度や自身の健康上の懸念に対する不適切な対応もあったという。

研究者らは、彼女らの視点は個人を固定化し(社会的スティグマ)、「乱倫(promiscuous)」や「みだら(obscene)」といった曖昧な意見を超えて、ニュアンスのある視点を提供している。

彼女らの国境を越えた健康追求行動を強調し、日常生活における健康維持とセルフケアの不可欠な側面としてのピル服用へのアプローチのグローバル化が明らかになったとしている。

研究者らは、少数の個人の特定の健康状況に焦点を当てたものであり、限界があるとしたうえで、女性の健康に関連する世界的な問題について、更なる研究の必要があるとした。

そして、経口避妊薬へのアクセスを改善するために、臨床的側面からのアクセスの拡大と、OTC薬への移行を提案している。

診療科中心から患者中心のアクセスへの移行(モデル1)

ほとんどの場合、経口避妊薬は産婦人科クリニックでしか入手できない。

その理由としては、既存のシステムにおける避妊薬使用に伴う副作用リスクや乱用問題を管理することを目的とした、臨床現場におけるパターナリスティックなアプローチなどが理由として考えられる。

しかし、患者中心の視点に立つと、経口避妊薬の提供は、患者本人というよりも、産婦人科や内科などの既存の診療科の制度に主眼を置いて運用されていることがわかる。

医療におけるパターナリズムの特定の文化的および機能的側面を示す事例はいくつかあるが、本研究で知見はむしろ、医療パターナリズムに似た状況が、患者やエンドユーザーの医療アクセスに課題をもたらす可能性を示唆している。

産婦人科に限定されている現在のシステムを超えて経口避妊薬の提供範囲を拡大することが不可欠である。

患者が他の関連分野(皮膚科、小児科および思春期医学、家庭医学、精神医学など)の専門家から医学的アドバイスを求め、経口避妊薬の処方箋を受け取る方法を作成することは、経口避妊薬へのアクセスを制限する現在のパターナリズムシステムを解体し、患者の健康とケアの質を強化することになるだろう。

OTC 化を目指すアプローチ(モデル2)

処方箋医薬品から OTC への経口避妊薬の移行を検討する際には、これまでの多くの研究で見られるように、単に避妊薬として位置付けるだけでなく、多目的な観点からアプローチすることが重要である。

日本にはすでに要指導医薬品という保健政策リソースがあり、OTCへの完全移行前に検討可能な措置であることを考えると、このアプローチは政策実施の選択肢として検討に値する。

そのためには、マイナンバーカードやお薬手帳など、すでに利用されている電子健康情報ツールを、薬局での検診時などに利用拡大することが考えられる。

これらのツールは、薬剤師や関連専門家が患者の健康診断を行う際の助けとなり、それによって各個人に対する OTC 避妊薬の適切性を確保することができる。

また、患者や利用者に正確で便利なセルフケアリソースをほとんど、あるいは無料で提供することができ、患者の安全と相談の基準が向上する可能性があるかもしれない。

OTC業務の拡大には、非処方箋医薬品を販売する資格を持つ登録販売者の関与が考えられる。

日本の薬局やドラッグストアの日常的な状況では、薬剤師が深夜や週末に不在であることが一般的であるが、登録販売者は電子健康記録に基づいて患者/利用者に薬を提供できる。

これら2つの提案は、処方箋に制限された状況からの絶対的な移行としてではなく、研究参加者の認識や医療の多元性に基づく選択肢の多様化、あるいはハイブリッドなアクセスモデルとして捉えるべきである。

研究者らは日本の医療文化についても鋭く批判しています。

特別視せずに向き合うことができるようにしないといけないでしょう。

(本論文は解釈に難儀しました。誤り等がありましたらご指摘下さい)

2025年4月27日 21時01分更新


2025年04月27日 17:46 投稿

コメントが1つあります

  1. アポネット 小嶋

    元記事では触れませんでしたが、この後、なぜ韓国では経口避妊薬が処方箋なしで買えるようになったのかを調べたところ、歴史的な背景があることがわかりました。

    【家族関係学 2011年 30巻 p.167-178】
    韓国における「家族計画事業」と近代家族の成立 ―1960-70年代における「家族計画オモニ会」を中心に―
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjfr/30/0/30_167/_article/-char/ja

    1962年に全国183ヶ所の保健所内に家族計画相談所を開設し、家協を創設。

    そして、1964年に避妊方法として子宮内避妊器具(IUD)を導入。

    第2段階(1966-70)では、「家族計画要員」が中心的に活動し、事業の一環として1968年に経口避妊薬を導入し、避妊方法が多様化した。

    さらに、下記では

    >1960年代は避妊薬が無料で支給されるなど、避妊に関する知識・情報を普及させ、1970年代には自gy法の拡大として母子保健法を制定し条件付きではあるが、実質人工妊娠中絶を自由化したのである。(p154)

    【地域社会学年報 2003年 15巻 p.152-166】
    韓国社会における人口政策の成果と限界
    ──少子化と出生性比の不均衡──
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/jarcs/15/0/15_152/_pdf/-char/ja

    こちらでも当時の様子が記されています

    【お茶の水女子大学教育・研究成果コレクション(2012.03.30)】
    1960-70 年代の韓国における生殖統制技術の導入と浸透 : 担い手の女性たちへのインタビューから
    https://teapot.lib.ocha.ac.jp/records/33660

    また、現状でもさまざまな課題があるようです

    【The Korea Times 2012.05.13】
    Blind spots of OTC contraception(市販避妊薬の盲点)
    https://www.koreatimes.co.kr/lifestyle/others/20120513/blind-spots-of-otc-contraception

    韓国では、人口抑制策として1970年代から薬局に避妊薬が配布
    2008年に処方避妊薬が導入

    プライベートな相談の欠如が正しいピルの使用を阻んでいる

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