海外におけるデキストロメトルファンの規制状況メモ(未定稿)

デキストロメトルファンは多くの国でOTC化されている

若者の濫用は2000年代から急増、いくつかの国で濫用の懸念が指摘されたが、はっきりとした証拠がないことや、代替となる成分がないことから、フランスなどの事例を除いて、販売規制に踏み切る国は少ないようだ

一方で、若者の潜在的な濫用リスクから、米国などでは業界が中心となって啓発に取り組んでいる

OTC 処方箋医薬品 未承認
日本、スペイン(1982)、フィンランド(1983)、英国(1989)、クロアチア(2000)カナダ(2002)、スロベニア(2005)、スロバキア(2015)、豪州(包装制限)、オーストリア、ベルギー、中国、コロンビア、クロアチア、チェコ、デンマーク、エストニア(配合剤)、ハンガリー、アイルランド、イタリア、リトアニア、ポーランド、ポルトガル、マルタ、ルクセンブルク、オランダ、アイルランド、ブルガリア、ハンガリー(固形剤はRX)、ドイツ、メキシコ(包装制限)、NZ(包装制限)、フィリピン、シンガポール、米国 デンマーク、ルーマニア、スイス

※OTC→Rxに再分類
2017:フランス

 スウェーデン、ノルウェー、リトアニア、ギリシャ
 1.米国

米国では鎮咳薬として最も広く使用されていたcodeineに代わって、デキストロメトルファン(DXM)が普及し、90年代からOTCとして広く使われている

ところが2000年代頃から、DXMを含むカプセル剤(OTCなどから成分を抽出し、高含量の粉末をつめたもの)によると思われる健康被害が多発し、FDAは2005年5月20日に、TALK PAPERで、DXM濫用についての警告を発出した

【アポネットR研究会 2005.06.15】
デキストロメトルファンの濫用(米国)
http://www.watarase.ne.jp/aponet/topics/topics0506.html#05-06-08

【海外規制機関 医薬品安全性情報 Vol.3 No.11 2005.06.09】
FDA が dextromethorphan(DXM)の乱用に対して警告
https://www.nihs.go.jp/dig/sireport/weekly3/11050609.pdf#page=4

2006年には、乱用状況を示す医学雑誌で報告された。

【Arch Pediatr Adolesc Med. 2006 Dec;160(12):1217-22】
Dextromethorphan abuse in adolescence: an increasing trend: 1999-2004
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2257867/

この研究はカリフォルニア中毒センターに1999年から2004年まで寄せられた、動悸や不整脈、血圧上昇や精神症状などデキストロメトルファンが原因の中毒情報1382例(今回の研究では死亡例はなかったが、全国中毒センターでは7例あり)を解析したもので、この間に数は10倍、ティーンエイジャー(9歳から17歳)の使用に至っては15倍に達したという。またティーンエイジャーで75.4%を占め、多くは15、16歳だったという。

今回の発表を受け、大衆薬の業界団体のCHPA(Consumer Healthcare Products Association)は、濫用防止のためのサイト”Stopping Cough Medicine Abuse”を開設し、親への情報提供を通じて、家庭での薬物濫用の危険性について話をするよう呼びかけた。

【アポネットR研究会 2026.12.06】
急増するデキストロメトルファンの濫用(米国)
http://www.watarase.ne.jp/aponet/topics/topics0612.html#06-12-0

その後もデキストロメトルファン(DXM)含有OTC咳止め薬による濫用が後を絶たない米国では、2010年5月にFDAが、DXM濫用による潜在的リスクとベネフィットについての検討を行う諮問委員会(Drug Safety and Risk Management Advisory Committee Meeting)を9月14日に開催した。

【アポネットR研究会 2010.05.09】
デキストロメトルファン濫用問題で9月にFDA諮問委開催へ
http://www.watarase.ne.jp/aponet/blog/100505.html

諮問委員会に提出された資料によればDXMの米国における濫用は深刻で、DXMの不適切な使用による緊急治療室(ER)への受診は2004年の4,634件から、2007年には10,410件と急増しているほか、2004年から2008年までの5年間に濫用が原因のDXMによる有害事象の報告は230件に達し、うち98%の226件が重篤な事例で、このうちの102件が死亡例だったそうです。(年齢別では17歳~30歳の若者に集中)

こういったデータを踏まえ、14日の諮問委員会では次のような点が審議された

  • 濫用の可能性を示す証拠があるか
  • 濫用は特定の集団(年齢層)で確認されるか
  • CHPAが行う濫用防止の取り組みは効果をあげているか
  • さらなる対応は必要か
  • DXMをコントロールが必要な成分に指定し、処方せんによる販売のみとするか

 

【アポネットR研究会 2010.09.03】
デキストロメトルファン濫用による有害事象は少なくない(米国)
http://www.watarase.ne.jp/aponet/blog/100903.html

DXMに濫用の可能性を示す薬理学的・疫学的データがあることについては合意されたものの、濫用の広がりは限定的だとして、DXMをコントロールが必要な成分に再分類し、処方せんによる販売のみとすべきとしたFDAの提案は、評決の結果9対15で支持されなかった。

DXM製剤のOTCのシェアは約90%あったとされており、これがもし処方せん医薬品になった場合、セルフメデフィケーションにおける咳症状への対応に混乱をきたすことも懸念されていた。

一方で、これを機に国を挙げて、濫用防止の啓発活動が活発化、Stop Medicine Abuse で若者向けの情報提供が行われている。

Stop Medicine Abuse
https://stopmedicineabuse.org/

上記WEBサイトのトップページには、次のようなメッセージが記され、潜在的リスクがあることを知らしている

デキストロメトルファン(DXM)は、多くの市販の咳止め薬に含まれる安全で効果的な成分ですが、10代の若者の約32人に1人 が、ハイになるためにDXMを過剰に乱用していると報告されています

また、このサイトでは濫用を防ぐための保護者向けのリーフレットも掲載されている

(DXM 啓発リーフレット A Parent’s Guide)
PREVENTING TEEN OTC~Cough Medicine Abuse
https://stopmedicineabuse.org/wp-content/uploads/2022/06/A-Parents-Guide-to-Preventing-Teen-Cough-Medicine-Abuse-English.pdf

一方、CHPAもこの活動にサポートする一方で、デキストロメトルファン乱用に取り組む姿勢を示した動画をWEBで示した

【CHPA 2021.07.01】
CHPA Takes Action to Combat DXM Abuse
https://chpa.org/about-consumer-healthcare/videos/chpa-takes-action-combat-dxm-abuse

CHPA は、会員や州議会と連携して、十代の若者によるデキストロメトルファンの乱用と闘うために断固たる行動を行っている。

日本の業界団体も、適正に使われれば問題ないというだけでなく、市販薬の潜在的な濫用の存在を認めて、こういうキャンペーン活動を通じて国民に警鐘を鳴らすべきだと思う。

2.豪州

豪州では、2024年にSchedule の見直しが行われた

デキストロメトルファンについては、豪州国内で広く誤用・乱用されているという証拠は限られているとして、また処方箋なしで入手できる唯一の乾性咳止め薬であるとして、処方箋医薬品へのSchedule変更をしないと決定された (Schedule 2・Pharmacy Medicine 但し、一包装の上限は600mg)

Notice of interim decisions to amend (or not amend) the current Poisons Standard(2004.07.26)
https://www.tga.gov.au/sites/default/files/2024-07/public_notice_of_interim_decisions_-_acms44_accs38_joint_acms-accs36_-_march_2024.pdf

3.ニュージランド

2019年2月、濫用対策で、多くが処方箋医薬品となり、一部の包装についてのみ薬剤師の管理下でのみ販売ができる(Schedule 2 Restricted Medicines)ことに改められた。

【New Zealand Gazette 2019.02.25】
Classification of Medicines
https://gazette.govt.nz/notice/id/2019-go841?year=2019

【Prescriber Update 40(2): 35-36 2019.6】
Medicines classification update: November 2018
https://www.medsafe.govt.nz/profs/PUArticles/June2019/Medicines-classification-update-November-2018.htm

4.中国

ソーシャルメディアやグループチャットを通じて購入する傾向がある10代の若者の間では、DVMの乱用が依然として蔓延していた。

当局は2021年12月、この薬のステータスを処方薬にすることを調整、長期使用しても依存症や耐性にはつながらないとする医薬品情報ラベルの記述を削除、2022年12月にオンラインでの販売を禁止した。さらに、2023年2月にこの薬の製造を規制し、使用の監視を強化するための取り組みも開始した。

専門家から、過剰摂取は興奮、多幸感、幻覚を引き起こす可能性があるとして、その安全性について懸念を表明されたこともあり、カテゴリーII向精神薬に指定し、要処方箋薬へ 薬剤の管理も強化される 7月1日発効された。

【Ecns.cn 2024.05.08】
China tightens restrictions on controversial cough medicine
https://www.ecns.cn/news/2024-05-08/detail-iheafqys1340583.shtml

【Ecns.cn 2024.05.23】
Cough medicine use more restricted
https://www.ecns.cn/news/society/2024-05-23/detail-iheasacm9354283.shtml


2024年08月18日 11:54 投稿

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