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2007.09.13 PSA測定による前立腺がん住民検診は勧められない
私たちにもなじみが深い、前立腺特異抗原(PSA)測定による前立腺がん検診は、住民検診(対策型検診)として、現在70%の市町村が実施していますが、このほど厚労省の研究班は、このPSA検診について、「現時点で、集団検診として(市町村や職場で)実施することは勧められない」とするガイドライン案をまとめ、公表しています。
有効性評価に基づく前立腺がん検診ガイドライン・ドラフト
(科学的根拠に基づくがん検診 推進のページ)
http://canscreen.ncc.go.jp/guide_prostate.htm
このガイドライン案は、「有効性評価に基づくがん検診ガイドライン作成手順」に従い、各がん検診ごとに厚労省の研究班が作成をすすられているもので、すでに「胃がん」「大腸がん」「肺がん」の検診ガイドラインが作成され、科学的根拠に基づくがん検診推進のページにて公開されています。
PSA検査自体は、一般的な血液検査と同様であり、スクリーニング検査自体における不利益は存在しないとしながらも、PSA検査によって過剰診断がされている可能性があること、精密検査(生検)に伴う偶発症(血尿・血精液症・直腸出血)や、治療(前立腺全摘出術・放射線療法)に伴う合併症による不利益もあるとして、集団検診に不向きであるとの見解が示されています。
このガイドライン案は、9月10日に行われた公開フォーラムでの公表を経て、泌尿器科医らの意見を聞いて年内にまとめたいとしていますが、日本泌尿器科学会は「死亡率減少につながるとみられる重要な研究が欧米で進んでおり、結果をみて考えるべきだ」と反論、「50歳以上の男性を対象に、検診でがんを見つける利益と不利益を十分に説明したうえで希望者に検診を勧める」とする独自の指針を作ることを明らかにしています。
厚生労働省がん研究助成金「がん検診の適切な方法とその評価法の確立に関する研究」班「前立腺がん検診の有効性評価に関する検証」に対する泌尿器科学会の見解(泌尿器科学会ウェブサイト)
http://www.urol.or.jp/shimin/info.html
日本では、前立腺がん検診にPSA検査を導入している自治体が少なくありませんが、前立腺がん検診自体をおこなっているのは、調査した8カ国(アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、カナダ、オランダ、スウェーデン、フィンランド)のうちドイツだけで、また文献調査でもPSAによる前立腺がん検診を推奨しな国も少なくないようです。(ガイドライン案より)
諸外国のがん検診の制度等に関する調査結果(がん検診に関する検討会2007.6.26)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/06/dl/s0626-12n_01.pdf
がんの早期発見に検診を積極的にすすめることは確かに大切なこととは思いますが、診断確定のための精密検査や早期発見で簡単な手術であっても、排尿障害などの不都合が全くないわけではありません。本ガイドライン案でも、「対策型検診は、科学的根拠と不利益が常に配慮されるべきである」との記述がされています。今後の動向に注目したいと思います。
参考:朝日新聞(8月31日、9月11日)
http://www.asahi.com/health/news/TKY200708310371.html
http://www.asahi.com/life/update/0911/TKY200709110035.html
読売新聞(9月9日、9月11日)
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20070909-OYT8T00068.htm
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20070909-OYT8T00068.htm