人間の脳を上から見ますと、図のように、表面皮質にある脳梁という溝を堺に、右脳と左脳に分かれていて、この二つは下部で約4億本という神経線維で交叉連結され、それが分岐して前進に分布しています。その脳の下底の視床下部に、動物も人間も、三大本能の食欲、性欲、集団欲の発信起点となる神経細胞群と、それに接する脳下垂体に成長ホルモンを作る細胞があります。 例えばあなたが腹が減った時、ここからの発信は、まず右脳の表面皮質・前頭葉部の神経細胞群に伝えられ、飯を食べたいと思う感情を起こし、冷蔵庫を開けて見る…という動作をする…。次にここからの信号は左脳に伝えられて、母や姉に「早くご飯にして…力が出るスキ焼きが食べたいな」…と言葉で理屈を伝えるでしょう。 このように感情は右脳前頭葉、言葉や理屈は左脳前頭葉という現象を発見して、昭和56年にノーベル賞をもらったのは、カリフォルニア大学の心理学者、ロジャー・スペリーでした。さらに彼の実験結果を具体的現象としてまとめたのは、同じくノーベル賞学者のジョン・エクルズです。これを一層素人にも分かるように、私は上図に表しました。 左脳は言語脳とも呼ばれますが、犬、猫は話は出来ません。それは左脳・前頭葉が無いからで、これで脳の発達の順序が分かり、左脳の存在こそ、人間特有のものだということが分かります。 こういう構造を知ることは、親や先生の、子供たちへの「教え方」に重要な示唆を与えます。例えば教室での水泳術の講義は、「畳の上の水練と同じ耳学問」であって、子供たちの身にはつきません。理屈は後にして、先生が水に入って泳いで見せる…。子供たちは直接視覚を通して、先生の動作を総合的、直感的に右脳でとらえ、まず、もの真似で泳いで、自分の工夫も加えて、泳ぎ方を身につけて行く…。「学ぶ」はもともと「真似(まね)ぶ」からきた言葉です。スポーツは自分自身の発想も入る直接体験だから面白いので、教室での先生の下手な一方的な講義→耳からだけの間接体験授業の面白いはずはありません。 ですから、あなたの人生とは、右脳の「もっと、もっと、というアクセル願望」と、左脳の「ちょっと待ってというブレーキ意志力」、すなわち「欲望」と「辛抱」の間を揺れ動きながら、その選択に苦しむことといってよいでしょう。 |