第85回アポネットR研究会報告
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平成18年4月12日(水) 会場:足利プリオパレス
参加者:52名(薬剤師36名・医師12名・看護師6名)
1.製品情報
アレルギー疾患治療剤 『アレジオンドライシロップ1%』について
日本ベーリンガーインゲルハイム
2.学術講演
食物アレルギーの病態と
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1.食物アレルギーとは
食物アレルギーとは、食物がアレルゲンとなり免疫学的機序により蕁麻疹・アナフィラキシーなどの異常反応を引き起こすものをいい、次に上げる3つの型があります。
特徴 | 原因 | ||
---|---|---|---|
即時型 | 食事を摂取して2時間以内に発症 | I型アレルギー反応が関与 | 一番頻度が多い |
遅発型 | 食事を摂取して4時間以内に発症 | IgE抗体、好酸球などが主に関与 | |
遅延型 | 食事を摂取して48時間以上経ってから発症 | Tリンパ球が関与 | Th2の関与する遅延型反応については、1〜24時間に起こりうることが明らかになっている。 |
ただ下図のように、食べ物を摂取した後におこる下痢や嘔吐などの症状は、食物アレルギーだけではなく、サルモネラ菌や細菌毒素などによる毒性物質による反応もありますし、乳糖不耐症のように、免疫学的機序を伴わない場合でもおこります。(食物摂取による何らかの副反応:adverse food reactions)
日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会:食物アレルギー委員会報告 第2報 食物アレルギーの定義と分類について、日本小児アレルギー学会誌 第17巻第5号558-559:2003より一部改変
ですから、「いつ(○月○日△時○分」「どこで(家で?外食時?)」「何をたべたか?」「食べてからどのくらいで症状が起きたか?」「どんな症状?」「かぜや下痢など体調を崩していなかったか?など、詳しく問診して、きちんと鑑別することが必要です。
また、一度だけの反応ではっきりしない場合には、食物の種類、食べた時間などを記録してもらって(=食事日誌)、食物とアレルギー症状との関係調べることもあります。
●食事日誌
(アナフィラキシー対策フォーラムHP:アナフィラキシーに関する知識のターミナル)
http://www.anaphylaxis.jp/forum/allergy_food3.html
2.診断確定のための検査
1.IgE抗体の検査
I型アレルギーの原因となっているIgE抗体が血液中にどれだけあるかを調べます。
2.末梢血好塩基球からのヒスタミンリリース(遊離)検査
マスト細胞の変わりに好塩基球をターゲットに行うもので、アレルゲンを加えることにより、末梢血好塩基球からどれだけのヒスタミンが出てくるかを測定します。
3.皮膚テスト
皮膚に軽い傷をつけてアレルゲンエキスをしみこませ、IgE抗体と反応させます。するとマスト細胞からヒスタミンヤロイコトリエンが遊離されて、神経・血管が反応して、赤くなったり、腫れあがったりするので、これを測定します。
4.血液検査・皮膚テストの限界
血液検査や皮膚テストは、即時型アレルギー反応の指標にはなりますが、食物摂取によるアトピー性皮膚炎の悪化や、最近新生児に多い好酸球性胃腸炎などは、多くは即時型アレルギーが関与していなので、これらの検査だけで診断を確定するのは困難です。この場合にはやはり、次にあげる食物負荷試験が有効です。
5.食物負荷試験
疑いのある食品を、1/20から食べさせて、15分ごとに濃度を倍々にして、症状が発現するかどうかをみる試験で、単純負荷試験(検者も被験者も負荷する食品がわかっている)、単純盲検試験(被験者のみ負荷する食品がわからない)、二重盲検試験(検者・被験者とも何が負荷されているのかわからない状態で行う)の3つがあります。
3.食物アレルギーの症状
食物アレルギーは乳幼児期の5〜10%、学童期の1〜2%にみられます。下記のようなさまざまな症状が起きますが、このなかで一番怖いのがアナフィラキシーとよばれるものです。
1.皮膚症状
じんましん、掻痒、紅潮、血管性浮腫、湿疹、アトピー性皮膚炎の悪化
(痒み・じんましんは、小1児童で8割異常を占める一方、湿疹やアトピー性皮膚炎については、学童期では少ない)
2.消化器症状
口唇浮腫、口腔内浮腫、悪心、嘔吐、胃痛、腹痛、下痢、血便
3.呼吸器症状
咳嗽、喘鳴、鼻閉、鼻汁、くしゃみ
4.循環器系症状
血圧低下、アナフィラキシーショック、不整脈、食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FEIAn/FDEIA)
5.神経症状
頭痛
6.眼症状
充血、掻痒感、流涙、結膜浮腫
7.その他
咽頭掻痒感、咽頭違和感、口腔アレルギー症候群(OAS)
4.アナフィラキシー
1.アナフィラキシーとは
食物、薬物、蜂刺され、ラテックス(天然ゴム)、ワクチンや運動などが原因で誘発される全身性の急性のアレルギー反応で、医学的には、急性アレルギー反応がニ臓器以上にわたった場合をさします。アナフィラキシーの頻度は食物アレルギーの中で約12%です。症状としては、蕁麻疹、呼吸困難、腹痛、嘔吐、下痢、血圧低下に伴うショック等があげられます。
2.アナフィラキシー時の対応
(1)気道を確保する
嘔吐物をつまらせないように、顔を横にして寝かせて下さい。無理に吐かせることは危険なのでしないで下さい。
(2)アナフィラキシー時の内服薬を処方されている場合はこれを速やか内服させる
ステロイド剤(即時型にはあまり効かないが)、抗ヒスタミン剤、気管支拡張剤
(3)速やかに医療機関を受診する
(4)エピネフリン(エピペン)の使用
アナフィラキシーをおこしてから30分以内に対応をしないと、致死的になる場合があります。そういったときにエピネフリン(エピペン)による自己注射を行うことがあります。
米国では、アナフィラキシー患者の95%がエピペンを持っているといわれ、私もアナフィラキシーの既往がある患者には、使用法を十分に説明した上でなるべく処方しています。ただ、エピネフリンは使用するタイミングは個々により異なっているので、呼吸困難・意識低下を認めた場合に打つのが基本と考えています。
○エピペンについての情報は、メルク社の下記のサイトを参考にして下さい。
エピペンホームページ http://www.epipen.jp/index.html
5.新しいタイプの食物アレルギー
1.口腔アレルギー症候群(OAS:Oral allergy syndrome)
果物・野菜など、普段アレルギーを起こさないような食物を摂取後に発症する即時型アレルギー反応で、口腔・咽頭・消化管に症状が出るのが特徴です。これは、花粉症やラテックスアレルギーに合併することが知られていて、交差反応によるものではないかといわれています。全身症状に至るケースは少ないとされていますが、まれに全身性症状を起こすこともあります。
花粉抗原との関連が報告されている主な果物, 野菜
(近藤康人. 口腔アレルギー症候群. 小児科 vol.44 No.8. 2003; pp1184-1192を改変)
シラカンバ | バラ科(リンゴ・西洋ナシ・サクランボ・モモ・スモモ・アンズ・アーモンド)、セリ科(セロリ・ニンジン)、 ナス科(ジャガイモ・トマト)、マタタビ科(キウイ)、 カバノキ科(ヘーゼルナッツ)、 ウルシ科(マンゴー)、 シシトウガラシ等 |
スギ科 | ナス科(トマト) |
イネ科 | ウリ科(メロン・スイカ)、 ナス科(トマト・ジャガイモ)、マタタビ科(キウイ)、ミカン科(オレンジ)、マメ科(ピーナッツ)等 |
ブタクサ | ウリ科(メロン・スイカ・カンタロープ・ズッキーニ・キュウリ)、バショウ科(バナナ)等 |
ヨモギ | セリ科(セロリ・ニンジン)、ウルシ科(マンゴー)、 スパイス(フェンネル・クミン・コリアンダー)等 |
プラタナス | カバノキ科(ヘーゼルナッツ)、バラ科(リンゴ)、 レタス、 トウモロコシ、マメ科(ピーナツ・ ヒヨコ豆) |
○関連情報
ラテックスアレルギーと植物の生体防御蛋白質
http://dmd.nihs.go.jp/latex/
交叉抗原(共通抗原)
http://odevivi.com/allergy/alerugy/info/a-7d.htm
2.食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FEIAn/FDEIA)
原因食物を摂取後、運動をすることによって蕁麻疹や呼吸困難などのアナフィラキシーを起こす場合をいい、思春期以降の男性に多いといわれています。原因食物として頻度が高いものは小麦や魚介類ですが、発症するメカニズムはまだよくわかっていません。原因食物の摂取後4時間は、運動を控えるなど注意が必要です。
6.原因食物と対策
1.年齢別原因食物
乳幼児の食物アレルギーの主な原因は卵、牛乳、小麦が多く、また学童期になると、これらの割合が少なくなる一方で、そば、えびなど魚介類などが増えます。
2.対策
平成14年4月に食品衛生法関連法令が改正され、食物アレルギーの頻度が多いものと、重篤な症状を誘発する食品については、微量でも含有している場合でも、表示の明記が義務づけられました。ただ対象は容器包装された加工食品のみで、店頭販売品や外食は対象外になっています。
○省令で表示が義務付け(特定原材料)
小麦、そば、卵、乳、落花生の5品目
○通知で表示を奨励する品目(特定原材料に準ずるもの)
あわび、いか、いくら、えび、オレンジ、かに、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、さけ、さば、大豆、鶏肉、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチンの19品目
さらに詳しい情報は厚労省の下記のページを参照
遺伝子組換え食品及びアレルギー物質を含む食品に関する 表示の義務化について
http://www.mhlw.go.jp/topics/0103/tp0329-2.html
アレルギー物質を含む食品に関する表示について
http://www.mhlw.go.jp/topics/0103/tp0329-2b.html
7.食物アレルギーの治療
1.正確な診断を〜不適切な食事療法は危険
まずは、専門家による正確な診断が必要です。養育者は、養育者に食物アレルギーを心配して、対象となる食品の除去をしがちですが、専門家の下できちんと行わないと大変危険です。実際、重症アトピー性皮膚炎患者さんで、過度の食事制限を除去したために、低タンパク症を引き起こし、ショックや脳梗塞を引き起こした例や、ビタミンB1欠乏症で脚気心となり心不全を引き起こした例などの事例があります。
2.食物除去
正しい診断に基づいた必要最小限の原因食物の除去が原則ですが、乳児期に食べられないものでも、成長するにしたがって食べられるようになります。(但し、過去にアナフィラキシーを起こした食物については、食べられるようになるには時間がかかる)
ただこれにも食品によっても差があり、卵・牛乳でしたら3歳で約半数が食べられるようになりますが、ピーナッツでは2割程度、特に5歳以降のピーナッツ・貝については治りにくいと言われているので、完全除去が必要な場合には加工品も含めて除去する必要があります。
3.不完全除去
加熱処理をして抗原性を低くする(例:卵をゆで卵にする。牛乳・小麦・魚にはあまり効果はない。)、低アレルゲン食品を利用する、量を控えるなどの対応でも問題がない場合もあります。
8.食物アレルギーに対する薬物療法
1.予防として使う場合(クロモグリク酸ナトリウム:インタール内服用)
食物アレルギーが関与するアトピー性皮膚炎に対しては効果があるといわれているが、即時型(I型アレルギ)には効果が少ない
2.食物アレルギーの症状が起きてしまった場合
(1)抗ヒスタミン剤
蕁麻疹などの皮膚症状がある場合に使う。
(2)気管支拡張剤
呼吸困難などの気管支収縮病変を認めた時に使う。
(3)ステロイド
遅発性アレルギー反応に有効。即時型には効かない。
(4)エピネフリン
アナフィラキシーに対して唯一効果あり。
9.食物アレルギー患者の処方には注意が必要な薬剤
食物アレルギー患者さんには、次のような薬剤は処方しないようにしています
1.塩化リゾチーム製剤(ノイチーム・レフトーゼ)
対象:卵白アレルギー患者
2.タンナルビン・整腸剤(乳糖が入っているので考慮する)
対象:牛乳アレルギー患者
3.エスクレ
対象:ゼラチンアレルギー患者
4.その他
以前は、インフルエンザの予防接種は卵アレルギーの方には行いませんでしたが、最近は卵使用のタンパク含量が少ないものもあるので、皮膚テストを行った上で接種する場合も多い。
文責:小嶋慎二
関連リンク等を紹介します。
アナフィラキシー対策フォーラム<アナフィラキシーに関する知識のターミナル>
食物アレルギーの診療の手引き2005
(財団法人日本アレルギー協会HP(http://www.jaanet.org/)内)
http://www.jaanet.org/medical/images/food_alle_2005.pdf [PDF666KB]
食物アレルギーによるアナフィラキシー対応マニュアル(小・中学校編)
(小児アレルギー学会HP(http://www.iscb.net/JSPACI/)内)
http://www.iscb.net/JSPACI/i-download.html
学校の教職員向けにつくられたものですが、食物アレルギーについて原因や症状とその治療法がわかりやすくまとめられていて、大変参考になります。
リウマチ・アレルギー対策委員会報告書(厚労省2005年10月)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/10/s1031-6.html
リウマチ・アレルギー情報(厚労省)
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/index.html
食物アレルギーと上手につきあう「12のかぎ」(2001年3月)
(東京都福祉保健局健康安全室環境保健課)[PDF1047KB]
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kanho/allergy/lib/image/syoku12kagi.pdf
資料は古いですが、具体的な食事療法の実際がわかりやすくまとめれらています。