第75回アポネットR研究会報告
(潟~ック・アポネットR合同研修会)
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平成17年1月30日(水) 会場:鹿島中央薬局(足利市鹿島町)
参加者:32名(うち薬剤師28名)
当日は、まず、竃進の宮崎工先生から、電子薬歴を活用するにあたって必要な、POSやSOAPの概念と、保険薬局における医薬品の適正使用についてのお話を頂きました。そして、メインの講演として、日本薬剤師会副会長の漆畑稔先生から、今後の医療保険制度の改革の方向性と、これらに対する保険薬局のあるべき姿についてのお話を伺いました。
参加者は想定していたよりも少なめでしたが、普段なかなか聞けない話を聞くことができ、今後の業務の参考になりました。今回の企画・運営にご尽力頂いた、潟~ックと鹿島中央薬局の職員の方に、この場を借りてお礼を申し上げます。
会場の鹿島中央薬局 | 電子薬歴の説明を聞く参加者 |
当日は薬局内にイスを並べて行いました | 薬歴についてのお話を頂いた宮崎先生 |
講演1
保険薬局における、服薬指導と薬歴講 師:宮崎 工 先生(竃進) |
1.保険薬局における医療
近年医療をとりまく環境が目まぐるしく変わっている。保険薬局も例外ではなく、医薬品の適正使用という観点から、医療の中で大きな役割を担っている。
平成7年7月、医薬品適正使用推進方策検討委員会は、「医薬品適正使用推進方策検討委員会中間報告」の中で、医薬品の適正使用推進の各関係者がそれぞれの役割を果たすよう具体的な提言を行っている。
これを、私なりに解釈すると、外来診療における医薬品適正使用は、次のような一連のサイクルの実現によって可能となると考えている。
- 的確な診断に基づき、患者の症候にかなった最適な薬剤、剤形と適切な用法・用量が決定され、これに基づき調剤される
- 患者に薬剤についての説明が十分理解される
- 患者が正確に薬剤を使用する
- 患者の使用した薬剤の効果や副作用を評価する
- これらの情報により、処方にフィードバックされる
そして、これらを実際に可能とするには、薬剤師が患者との接遇を通じて、さまざまな情報を収集することが必要となってくる。「特別指導加算の算定要件」もあてはめて、これらをわかりやすく図式化すると、次のようになる。
2.服薬指導とPOS
先に述べた、適正使用のサイクルの実現を可能にするのが、POSとSOAPの概念である。
POSとは、Problem Oriented System(問題志向システム)の略語で、問題の原因を見つけ出して、それを解決する方法を探っていくという、問題解決過程のことをいう。これを、服薬指導の現場に置き換えると次のようになる。
↓ | 問題の発生・認知 | 正しく飲めない、正しく飲まない 今までとは異なる症状が現れた |
---|---|---|
原 因 を 探 る (情報の収集) |
病識・薬識の有無 剤形、用法が適正か 副作用の知識(症状・対処法も含め)の程度 併用薬・合併症の有無 食品・作業・生活様式等の状況 自己の経験や情報に左右されていないか ★患者の感情や気持ちにも考慮することが重要 |
|
その解決を目指す | 評価・判断(情報の分析・問題の明確化) プロブレムのリストアップ 計画の立案と実行 指導の見直し(オーディット) |
服薬指導におけるPOSでは、原因を一つづつ明確化・整理したプロブレムの設定と、特別指導加算を算定するための条件の一つにもなっている、指導内容・指導方針の見直し(オーディット)を定期的に行うことが重要である。
実際、プロブレムは一人の患者に一つの問題だけとは限られないのが普通であり、薬歴に記載の際は、リストアップにしたり、プロブレムごとにまとめて記載する必要がある。
一方、オーディットとは、問題及び原因の推移・変化を確認し、プロブレムのリストアップや患者への計画が適正なものだったかどうかを検討することである。そして、検討結果に基づき、不適切な部分の修正や、計画の調整や強化をしたうえで、問題解決まで計画を繰り返すといった対応策が行われる。
オーディットの結果 | 検討結果 | 対応策 | |
---|---|---|---|
終了 | 計画は完全に達成 | その状態を維持 | |
継続 | 反復 | 計画は部分的に達成 | 計画を調整・強化 |
計画の変更 | 状況は変化しない | 再分析し、計画の立て直す | |
原因の変更 | 状況が変化し、 新しいプロブレムが出現 |
最初からやり直す |
3.薬歴とSOAP&C
一方、SOAPとは、カルテなどを記録するのに決められた形式の1つで、内容をわかりやすく整理でき、問題と原因をはっきりさせやすいことから、薬歴作成にあたって、広く使われるようになっている。特に電子薬歴を導入する際には、よく理解しておいたほうがよい。
『S』 Subjecive |
主観的事実 | 患者(家族なども含む)が言ったこと |
---|---|---|
『O』 Objective |
客観的事実 | 相手を観察してわかったことや 検査データ・処方内容など、記録からわかること→問題 |
『A』 Assesment |
評価 | 『S』『O』に基づいて、考えたこと・判断したこと→原因 |
『P』 Plan |
計画 | 『A』に基づいて実行したこと→対処 |
さらに私は、これに加え、『C』(Check)が大切だと考えている。『C』(Check)は、引継ぎ事項のことで、『F』(Follow)、『Op』(Observation Plan)と表現されることもある。
医療の現場では、実際1回や2回指導だけでは問題が解決しないことが多い。抱えている問題は、継続的に指導することが必要であり、担当者が変わっても同じ対応ができるように、確実な引継ぎの実施、即ちの『C』は重要である。
以上の点を整理すると、POS、SOAP&Cを取り入れた患者指導の流れは、次の図に示すことができる。
本稿を作成するにあたり、じほう社の「薬剤師のためのPOS」(中木高夫著 1996年)を参照しました。
文責:小嶋慎二
講演2
これからの保険薬局の動向講 師:漆畑 稔 先生
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1.医療保険制度改革の中での、薬局・薬剤師の役割
平成15年8月、厚生労働省は「医療提供体制の改革のビジョン」を作成した。この中で、薬局・薬剤師にも積極的な役割が求められており、今後はこれに沿った改革が行われると思われる。
医療提供体制の改革のビジョン―「医療提供体制の改革に関する検討チーム」まとめ―
総論
1.患者の視点の尊重
(1)医療情報の提供の促進
(2)安全で安心できる医療の再構築
2.質の高い効率的な医療提供体制の構築
(1)医療機関の機能分化
(2)地域医療の確保
(3)医業経営の近代化・効率化
3.医療を担う人材の確保と質の向上
4.医療の基盤整備
★各項目ごとに、該当ページにリンクしてあります
参考:医療提供体制の改革の基本的方向-「医療提供体制の改革に関する検討チーム」中間まとめ-
(厚労省:平成14年8月)
1(1)の医療情報の提供というと、病気や診療に関する情報と考えられがちであるが、近年盛んに行われている病院機能評価も実は含まれている。先ごろ示された薬局機能評価の取り組みも、これらの流れを受けたものである。一部に、調剤報酬とリンクするとか、薬局のランク付けになるのではないかとの声もあるが、それらを想定して検討しているものではないと思っている。(薬局機能評価については、本サイトKeywords「薬局機能評価とは」のページをご覧下さい)
1(2)についてだが、今、医療過誤の約45%、間接的なものを含めると、全体の60%が医薬品にかかわるものと言われている。つまり医薬品の使用管理がきちんとできれば、医療過誤の半分は減らすことができるのである。そういう意味で薬剤師の果たすべき役割は大きい。今後は、医療法の中での薬局の位置づけが明確化され、さらに、医療安全対策に関する基準なども明記される可能性がある。
2についてだが、効率という視点で、いかに医療費を抑制する仕組みをつくるかが、今後検討されるだろう。さらに将来的には、こういった観点から、施設の人員数の配置基準さえも見直される可能性がある。
3についてだが、医師は、免許取得後2年間臨床研修することが義務付けられ、また歯科医師についても臨床研修の義務化が予定されている。薬剤師はようやく6年制になったばかりだが、医師・歯科医師と同様に、免許取得後の臨床研修も今後は求められることになるのではないだろうか。
さらに今後俎上にあがってくるのが、免許の更新制だろう。まだ具体的には議論されてはいないが、医師レベルでは、まず実務実績年間1000時間を超えたものに、5年ごとの免許更新を認めるという案も示されている。もし、こういったことが本当に実施されれば当然、看護師や薬剤師も同様の制度が導入されることとなるだろう。そうなると、きちんと実務に携わっていない、いわゆる「タンス薬剤師」の人たちは、今後免許を更新できなくなるかもしれない。
2.医療保険制度改革が保険薬局に及ぼす影響
医療制度改革と同様に、医療保険制度に関しても、保険者の統合・再編や新たな高齢者医療制度の創設などの改革が検討されている。さらに、医療費の適正化という観点から、レセプトの点検強化がされると共に、保険者と保険医療機関との直接契約も、今後は米国のように薬局レベルでも行われていく可能性がある。
さらに、医療制度改革における効率化という観点から、診療(調剤)報酬体系仕組みそのものを見直し、簡素化する方向性も示されている。具体的には、約8300ある診療報酬の項目を半数くらいに減らすという考えで、このとき除外の対象となるのが、現在実際に保険請求されていない項目となるであろう。また、この簡素化という観点から、今処方せんの受付状況によって異なる、調剤基本料の問題も今後は避けて通れないだろう。
すでに医科では、前回の診療報酬の改定において、ほとんど請求のなかった6項目が除外された。これは、調剤報酬にもいえることで、算定率が1%と低い調剤情報提供料や服薬情報提供料などは、こういった対象になるかもしれない。厚労省は、これらは患者に役立つ項目して点数をつけたのであるが、その算定状況をみれば、「薬剤師自身が必要性を感じていないのではないか」と見てしまうのである。我々がいくらがんばって実施しているといっても、保険請求の実績データで判断されてしまう。是非皆さんも、これらの業務に積極的に取り組んで、実績を示して欲しい。
3.現在の医薬分業の状況
最近の処方せん受取率の調査では、受取率は伸びたものの、件数は横ばい、処方せん枚数や調剤点数はむしろ減少に転じている。これに伴い、薬局経営収支の悪化も報告されるなど、今後は間違いなく、薬局間の競争が激化するであろう。
4.社会が保険薬局・薬剤師に求めるもの
医療関係者は、薬剤師が行う指導管理や情報提供の取り組みについては一定の評価をしているが、患者別・個別の情報提供が不十分ではないかとの指摘もある。例えば、副作用の情報提供などは、初回の調剤時の薬情で、長期服用した場合の副作用までも記してしまう一方で、初回投与に際して必ず伝えておくべき情報の提供がされないことがある。もっと、患者ごとの個別情報の強化をお願いしたい。
また、医師会からはもっと積極的な連携を求める声もある、例えば、薬局で患者のノンコンプライアンスの事実を知りながら、どうして教えてくれないのかという指摘だ。医師はフィードバックにより、処方に生かしたいという考えがあり、少しずつでよいから地域単位での取り組みを期待したい。
一方、患者意識調査などの結果を見ると、患者や国民からは薬局についての期待は大きい。どんなことを薬局で教えて欲しいかという問いに対し、「インフルエンザの流行状況は?」「こんな症状のときは、どこの病院どの診療科にかかったらよいか?」といった病気の情報の他、検診や予防接種など、健康や医療に関する情報を入手する場所として、薬局は期待されているのである。
今、一般用医薬品の規制緩和が進められているが、さらに現在では販売形態に着目にして、医薬品をリスクに応じて区分することが検討されている。近い将来、一般商店でも大衆薬が入手できることが可能になるかもしれない。最後に皆さんにお願いしたい。くすりについて、いつでも相談できる体制を整備して頂きたい。
文責:小嶋慎二
関連リンク等を紹介します。
株式会社ミックのホームページ
高園産業のホームページ
http://www.solno.co.jp/top/index.html
電子薬歴管理システムTerRaの紹介ページ
http://www.solno.co.jp/top/terra/index.html
医薬品適正使用推進方策検討委員会中間報告(ある薬局のサイトに掲載)
http://www.asahi-net.or.jp/~tw3s-kmr/tekisei.htm