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混合診療とは

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1.混合診療とは

現在の日本における保険制度では、平等な医療を提供するために、範囲外の診療費を徴収することを禁止している。このため、範囲外の診療費を徴収する場合には健康保険が適用されず、全額自己負担となる。即ち、保険診療と自由診療の併用は原則的に認められていない。

今日議論になっている「混合診療」とは、健康保険の範囲内の分は健康保険で賄い、範囲外の分を患者さんが医療機関に支払うというもので、規制改革・民間開放推進会議では、「患者本位の医療」を実現する観点から、通常の保険内診療分の保険による費用負担を認めるよう、次のような具体例をあげて、解禁することを強く求めている。

混合診療が容認されるべき具体例
    (規制改革・民間開放会議「中間とりまとめ」平成16年8月3日)
1.専門医の間で効果が認知されている新しい検査法、薬、治療法・ 有効性が認められる抗癌剤など医薬品の保険適応外の症例への使用
  • 保険未収載の確立された治療法の実施
  • 保険未収載(未承認)の医療材料の術中使用 等
2.一連の診療行為の中で行う予防的な処置、保険適用回数等に制限がある検査
  • 入院中患者が行う検査・検診(心臓病患者の希望する胃検診等)
  • 老齢者に対する肺炎球菌ワクチン予防接種(疾病治療時に患者が希望した場合)
  • 分娩前の脊椎二分症等予防のための葉酸服用(疾病で入院中の妊婦に対する予防的処置)
  • ピロリ菌の除菌(3クール目以降の除菌)
  • 腫瘍マーカー(月1回を超える腫瘍マーカー検査)
3.患者の価値観により左右される診療行為
  • 乳癌治療により摘出された乳房の再建術(同時手術/一連の手術の乳房再建部分)
  • 舌癌摘除後の形成術(同時手術/一連の手術の再建部分)
  • PPH法による痔治療[自動縫合機による直腸粘膜切除術] (早期退院/保険適用するまでの避難的な措置)
  • 子宮筋腫の動脈閉栓療法(早期退院/保険適用するまでの避難的な措置)
  • 盲腸ポート手術(保険適用するまでの避難的な措置)
4.診療行為に付帯するサービス
  • 外国人患者のための通訳(病院が用意した場合の通訳)
  • 国の基準を超える医師・看護師等の手厚い配置(基準を超える部分の人員サービス分)

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2.特定療養費制度

一方現在、高度先進医療(安全性・有効性が確立されているが、その実施については未だに一般に普及するには到っていない技術。97技術)、選定療養(差額ベットなど13項目。医薬品の治験や、薬事法承認後、薬価収載前の医薬品に係る診療、抗がん剤などいわゆる適応外の診療なども含まれる)ついては、特定療養費として保険診療と自由診療の併用を認める制度がある。

しかし、その適用範囲は、公的保険カバー範囲全体から見ると厳しく限定されており、ただ、高度先進医療については、人員面や体制、専門委員会の設置などの施設基準が厳しく、大学など125医療機関しか申請できず、また保険薬局についても、施設基準を満たす薬局のみしか、特定療養費を算定することができない。

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3.それぞれの主張

1.規制改革・民間開放推進会議

そもそも医療とは患者と医師の自由な契約に基づき提供されるものであり、その提供される医療の範囲と、保険給付の対象とされる医療の範囲とは別次元・独立の問題として捉えられるべきである。

現在保険対象となっていない高度先進医療を含む医療については、多様化する患者のニーズを具体的に把握し得るのは、現場の医師であり、医療機関であると考えられる。質の高いサービスを提供することができる一定水準以上の医療機関においては、十分な情報開示の原則の下で、患者の選択と当該医療機関の医学的判断による「混合診療」を解禁すべきである。

また、「診療行為に付帯するサービス」、「一連の診療行為の中で行う予防的措置」については、そもそも診療行為に当らないので、何ら保険診療との併用が禁じられないことを確認の上、直ちに解禁すべきである。

さらに、現在保険適用回数等に制限がある措置の「制限回数を超える部分」、及び乳癌摘出時の乳房再建術の同時手術など「患者の価値観により左右される診療行為」については、既に技術が確立されたものであり、保険外診療の内容、料金等に関する適切な情報に基づいて、患者の自発的な選択・合意があれば、患者と医師との自由な契約により、保険診療との併用を全面的に実施できることとすべきである。

現在、厚労省が個別に認める治療だけを対象とする特定療養費制度があるが、この制度では現場の医師にとって治療の選択肢が広がらない。また、現状では保険適用の制約が多すぎ、先進医療の進歩が遅れがちになっている。

2.日本医師会

日本医師会では、混合診療の導入によって「患者さんも医師も技術進歩と高い医療の質を求める。その結果、医療提供コストは増大し保険外診療の費用は増加する。また、患者さんは私的保険を通じた保障を求めるようになる」として、次のような見解を述べている

混合診療についての影響
  • 財政難を理由に最新の医療が健康保険に導入されなくなる
  • 費用が負担できる人しか必要な医療が受けられなくなる
  • 費用の負担できる人とできない人の間に不公平が生じる。命は平等であるべき
  • 医学医療の進歩の享受は国民皆保険によって国民全員が受けるべき
高度先進医療について
  • 健康保険で多くの人が受けれるようになれば数のメリットで費用は安くなる
  • 有効性が確立したら速やかに一般の治療と同じように通常の健康保険と同様に扱われるべき
  • 高度先進医療の認定も速やかにすべき
日本での未承認の抗がん剤を混合診療として用いることへの見解
  • 安全で有効なことが客観的に証明されるならば速やかに保険適用にすべき
  • 保険適用にするためのルールこそ規制緩和すべきである
  • 健康保険の適用の判断基準を明確にして審議や結果をオープンにすることが必要

3.厚生労働省

我が国の医療保険制度は、誰でも一定の負担でいつでもどこでも安心して医療が受けられることが原則である。混合診療が導入された場合には、

  • 患者の自己負担がさらに増大する可能性がある
  • 安全性や有効性が不明確な医療が保険診療の一環として提供されるおそれがある
  • 医療機関の質をどのように評価するのかという基準が明確でない

として、適正なルールの設定が不可欠という立場をとっている。

4.財務省

混合診療が導入されれば、保険外診療が増え、公的保険が担う役割が相対的に小さくなり(公的保険がカバーする範囲を根本的に見直すことができる)、医療費支出を抑制できる。

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4.動きだした、混合診療の導入

この間、全国紙・業界紙では、今後の動きを伝えている。厚生省のHPなどの情報を総合すると、現行制度の枠組みの中で、できるものから順次実施し、2005年の夏までを目途に、まず現在の特定療養費制度の対象を広げる。特に国内未承認薬に係る施策については、2005年3月末までに必要な措置を講じるという。

1.新たに、保険診療と保険外診療の併用が認められる「領域」を拡大する

現行の制度を拡充し、高度先進医療に加え、「体外衝撃波膵石破砕術」「腹腔鏡下小腸悪性腫瘍切除術」など約100の必ずしも高度ではない先進技術(中程度の医療技術)について、各技術の有効性・安全性、効率性等を確認の上、保険導入の前段階として保険診療との併用を認める。

これらは、医療技術ごとに一定水準の要件を設定し、該当する医療機関(中小規模の病院を含めた約2000の医療機関が該当)で実施できるようにする。これらについては、医療機関から実施の届出を受けてから、3ヵ月以内に厚労省が判定を下す。

これらの技術は、高度専心医療を含め、保険導入の手続きを透明化・迅速化する。

なお、中医協(中央社会保険医療協議会)の診療報酬基本問題小委員会による「特定療養費制度改革について」の報告書(12月3日)によれば、見直しの方向性として次のような点が挙げられている。

  1. 一定の先進性がある医療技術のうち、普及していないことや高度でないことを理由に保険診療になっていない技術を新分野として認める
  2. 高度先進医療の審査の迅速化を図り、認められた技術はすみやかに保険適用につなげる
  3. 医療機関の指定を簡素化
2.専門医の間で、効果が認知されている薬については混合診療を認める

海外で承認され、国内で未承認の抗がん剤などすべての薬について、治験の対象とするべきかどうかを検討する定期的な専門家会議を、厚労省の下に設置する。

患者から使用の要望の多い薬(欧米で承認された未承認薬については、自動的に検証の対象とする)は、この会議で、3ヶ月以内に治験の可否についての結論を出す。治験対象となれば、混合診療が認められる。

治験段階と承認後保険適用されるまでの薬を、混合診療の対象とするが、承認審査中は、「オキサリプラチン」など一部を除き、対象外とする。

なお、厚労省HPにて、12月15日に尾辻厚生労働大臣と村上規制改革担当大臣との間で交わされた合意事項、及び、厚労省の見解についての詳細が掲載されています。

いわゆる「混合診療問題」について
      http://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/12/h1216-1.html

国内未承認薬については、確実な治験の実施に繋げ、制度的に切れ目なく保険診療との併用が可能な体制を確立することとする。具体的には、1.確実な治験の実施、2.医師主導の治験の支援体制の整備、3.追加的治験の導入及び 4.制度的な保険診療との断絶の解消の措置を講じるとともに、薬事承認の優先審査等により迅速な保険導入を図る。

厚労省、平成16年12月16日、いわゆる「混合診療問題」について・資料2より引用
1.確実な治験実施
  • 未承認薬使用問題検討会議(仮称)を設置する。 
  • 学会・患者の要望を把握し、臨床上の必要性と使用の妥当性を科学的に検証する。
  • 年4回定期的に開催するとともに、必要に応じ随時開催する。最長でも3か月以内に結論を出す。
  • 欧米(米・英・独・仏)で新たに承認された薬は自動的に検証の対象とし、患者の要望に的確に対応する。
  • 「企業治験」と「医師治験」とに振り分け、確実な治験実施へ繋げる。
2.医師主導の治験の支援体制の整備
  • 治験導入時の医師への情報提供の充実、各種手続の簡素化による導入時の 手続の負担を軽減する。 
  • 医師が患者に薬剤料等の費用負担を求めることができることを明確化するとともに、保険給付を企業治験より拡大することにより、医師の負担を軽減する。
      *料金が不当に高くならないよう必要な措置を講じる。
  • 治験ネットワークの拡充する。
3.追加的治験の導入

治験開始後に、新たに治験参加を希望する患者に対応するため、追加的治験を導入し、当該患者を受け入れる仕組みを整備する。

4.保険診療との併用による切れ目のない対応

関連学会及び患者団体等から要望があり、医療上必要性が高いと認められる医薬品については、薬事法上の承認申請のための治験が終了した後も、主治医と製薬企業との適切な連携の下、承認後の使用実態を想定した新たな安全性確認試験を治験として実施する仕組みを創設することにより、制度的に保険診療との併用の断絶を解消する。

*これにより、審査中の医薬品についても混合診療が可能となる

3.制限回数を超える医療行為は、適切なルールの下に保険診療との併用を認める

現在、『ピロリ菌の除菌』、『腫瘍マーカー検査』等については、保険適用回数が制限されている。今後は適切なルールの下に、保険診療との併用を認める。但し、医学的な根拠が明確なものについては、保険導入を検討する。

4.2006年度の通常国会に健康保険法改正案を提出し、全体の枠組みを再編、現行の特定療養費制度は廃止する。
新しい名称 分類 具体例
現行制度 保険導入検討医療(仮称)

将来的に保険導入をめざす  医療技術
保険導入のための評価を行う
A類医療技術 高度先進医療 心臓移植手術
遺伝子診断
必ずしも高度ではない先進技術 体外衝撃波膵石破砕術
腹腔鏡下小腸悪性腫瘍切除術
乳がん摘出手術後の乳房再建
B類 医薬品等 国内未承認薬の使用
保険未収載の医療材料の術中使用
患者選択同意医療(仮称)
 患者の選択に委ねることが適当なサービス
 保険導入は前提としない
 快適性・利便性に係るに係るもの
 医療機関の選択に係るもの
ピロリ菌の一定回数以上の除去
一定回数以上の腫瘍マーカー検査
美容整形
健康診断
外国人患者のための通訳費
5.厚労省は、規制改革会議が示した個別の14技術は、これらによりほぼ対応が可能となる

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5.混合診療の現場薬剤師への影響

承認医薬品の使用が、大規模病院を中心に恒常化する可能性がある。一方で、国の承認を受けていないわけであるから、現場の薬剤師は、個々の医薬品に関する情報について、メーカーの情報だけではなく、独自に専門の医学関係の学会や、承認済みの諸外国から承認に関する入手し、理解する必要がある。

特に、抗がん剤など専門性が求められるものについては、薬の管理のみならず、交付や患者への説明など、現場の薬剤師も積極的に関わることが求められていく可能性が極めて高い。

実際、先頃厚労省が示した、「多発性骨髄腫に対するサリドマイドの適正使用ガイドライン」では、「サリドマイドの薬品管理は、個人輸入を行った担当医師及び責任医師の監督下でその特性を熟知した薬剤師を責任薬剤師に任命し、管理させることが必要である。医療機関の薬剤部門をサリドマイドの管理組織とし、責任薬剤師は管理基準に関する文書を作成して、遵守すべきである。」として、現場の薬剤師の果たすべき役割を明確化している。(関連記事はこちら

文献:1.いわゆる「混合診療」の解禁に関する厚生労働省に対する申し入れ:
       規制改革・民間開放推進会議、平成16年10月22日
     2.内閣府 規制改革・民間開放推進会議:会議情報(第2回官製市場民間開放委員会)
     3.第56回中央社会保険医療協議会 総会資料
     4.厚労省、平成16年12月16日、いわゆる「混合診療について」

(文責:小嶋慎二)

最終更新日 2004年12月17日

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