韓国・仁川でのアジア大会。“アジアのオリンピック”は、やはり4年に1回だ。しかもテレビではバレーボール女子やテニス・錦織の国際試合の放映も加わり、9月中旬以降の私は、寝不足の毎日が続いていた。特に日本がメダル獲得を重ねる水泳、体操、サッカー・フェンシング・バドミントン・陸上・レスリング競技などで興奮状態になったが今回、卓球女子団体が決勝戦に進出したので30日(火)の夜は、自身の事のようにさらに夢中になった。相手は世界で無敵を誇る中国であり、どこまで善戦できるかーと。結果は1-3だったがしかし、内容的にわずかながらも日本の“進歩”を感じる事ができたのは幸いだった。とにかく卓球を“国技”とした中国の壁は厚い。
昔、卓球王国日本を打倒するため研究開発された、中国式前陣速攻型の選手が今や世界の主流を占めている。ラケットは丸型でシェークハンドグリップ、両面に特殊ラバーが定着、台の近くでフォームは小さく、フォア・バックの両ハンドを駆使し、打点は高く、無駄な動きをせず、スピードと変化球で先手、先手と優位にゲームを主導する。身体能力に優れる一方頭脳も明晰だ。かつての日本型とヨーロッパ型の良い点をミックスさせながら独自のスタイルを確立したが、極めて合理的、理想的卓球を中国が成熟化させてきたと言えるだろう。私はここ40年以上にわたり男女とも、国際試合の大事な場面で中国が敗れたという記憶がない。
ふと、スポーツに国境はない事、また、国レベルで日中国交正常化に向けた“ピンポン外交”の実績が、歴史にしかと刻まれている事を思い起こす。そして―。
私は1978年(昭和53年)5月に予定する、足利市民体育館落成記念行事として「日中交歓卓球大会」の開催を提唱した。「君がいるからね」―と、当時の町田助役、長竹市長の承認を得る事ができた。「400万円以上の経費がかかりますが、200万円だけ市の一般会計で予算化をお願いします。あとの経費は私ども地元卓球連盟が入場券で必ず調達します」―と。実施に向けて半年間、信頼する仲間とともに日夜真剣に準備に取り組んだ事を覚えている。私は前年12月、日本卓球協会専務理事(早大OB)から中国卓球選手団がその頃訪日するとの情報を掴んでいたが、それまで北関東では未開催だったためか、成功は間違いなしと自信めいたものを密かに心に抱いていた。私は何としても実現したかったのだ。結果、入場券は開催10日前に完売、この足利大会は公式戦としてNHK総合テレビ(解説・元世界チャンピオン荻村伊智朗)で2時間の生中継、また、日本男子が5-4で珍しく勝利し、日本卓球界や足利市民の間でビッグニュースとなった。この直後の7月、町田助役を団長とする第1次日中友好足利市各界代表訪中団が北京を訪問した際、この時の中国選手団幹部がレセプションに同席し歓迎してくれた、と聞き及び嬉しかった。その後、足利は中国の済寧市(曲阜・孔子生誕地)と友好都市締結に至っている。
なお、日中交歓卓球大会の開催を契機に、日本体育協会並びに日本卓球協会と足利との信頼関係は深まり、翌々年の栃の葉国体(足利ではレスリング・ラグビー・卓球競技、炬火リレー、八木節等集団演技)は成功裏に終了する事ができたのである。
今回のアジア大会の観戦によって私は、過去の地方における“ピンポン外交”の一端を思い出す事ができた。当時は警察をはじめとする関係機関に対し、中国や日本選手団のメンバー・滞在スケジュール・ホテルの部屋割・関係者一覧表などを提出する等、緊張の連続の中で行われたものだった。これも私にとっては“人生の1ページ”と言える出来事だったかもしれない。
最近のアジア圏における我が国の政治面での国交関係は、残念ながら良好とは言えないようだ。私には解らない。日米関係を基軸とする日本ではあるが、中国、韓国、北朝鮮等との関係は一体どうなっていくのだろうか。
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